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     人は有能でありたいという欲望を持っている。

     もう少し正確に言えば、無能な自分と直面したくないと思っている。
     たとえば自尊感情が揺るがされる苦手分野から撤退を図る。

     だから、テストや練習問題で間違えたとき、人がとる典型的な行動は、できるだけ早くそれを忘れてしまおうとすることである。
     そうやって人は、なけなしの自尊心を守ろうとする。
     

     しかし、少年サッカーの指導者なら、ここはこう言うところだ。
    「敗戦から学ばない者は、次も勝てない」

     あと試合について具体的な気付きやプレイの反省を、サッカーノートに書くように言うだろう(このサッカーノートの習慣は、独学者には非常に参考になるので、いずれ取り上げたい)。


     負け試合を振り返ることや、負けにつながった致命的ミスを見直すことは、確かに苦痛を伴う。
     テストで間違えた問題を見直すことも同様だ。

     テストに対する不安や恐怖は、いろんな治療法が開発されるほどポピュラーだが(「テスト不安」や”test anxiety”で検索してみるといい)、この不安もまた、他の不安や恐怖と同様に、直面を避けることで増強する。

     最初はわずかなものでも、逃げ続けることで生き死ににかかわるほど増悪する。
     テスト不安・恐怖を減じるには、その不安・恐怖に直面して逃げずにいるしかない。



    テストのメタ認知

     メタ認知のスキルを高める目的で言えば、仮設-検証を繰り返すサイクルに、学力テストを取り込むのがよい。

    つまり
    (1) テスト前に「仮説」を立て
    (2) テストを受け
    (3) 採点後のテストを見直す→次のテスト前の「仮説」へ
    というサイクルだ。


    (1) テスト前に「仮説」を立てる

     実力が乏しいうちは、「自分がそのテストで何点とれるか」を予想してそれを書き留めておく。
     この段階から、次第に「どんな問題が出るか」を予測することへ進んでいく。
     テストを丸ごと予想できるようになるのは先のことになるが、部分的にでも「どんな問題が出るか」を考えることは、テストの点数を改善していく。
     これは、成績の良い人間は自然にやっていることだ。
     逆に、成績の悪い人間は自分に予想ができるなんて考えもしない(予想だろうと何だろうとテストのことを考えるなんて苦痛でたまらない)。
     ここは、その苦痛にしばらく浸る。ほどなく苦痛の度合いは下がってくる。慣れてくる。飽和してくる。

     ここまで来れば、次の(本来の)ステップへと進むことができる。
     つまりテスト内容についての予想を立てることだ。

     多くの場合、相手の立場に立って考えることができればできるだけ、物事をうまく進めることができる。

     テスト内容についての予想する、すなわちテスト問題を自作するスキルは、テストをリバース・エンジニアリングすることで養われる。

     個々の問題をどのように作るかという戦術レベルの課題のほかにも、テスト全体にどのような問題をどれくらいの配分で組み入れるか、それらをどう配置するか、という戦略レベルの決定も考えることができるようになる。
     例えば、中間テストと期末テストの点数で成績をつけなければならない立場に立って考えれば、誰もが100点を取れるテストや誰もが全然解けないテストを作ろうとしないことは明白である。
     ほとんど誰もが解ける問題から多くのものが解けない問題までが並べられるのも自明だろう。
     テスト範囲内で「ほとんど誰もが解ける問題」をつくるにはどうすればいいか?(範囲の最初の方で出てきた例題に似た問題だろうか?)
     どうやって多くのものが解けない問題をつくるか?(たとえば、それぞれのステップの解き方は分かっても、どうやって解けるステップに問題を分割するかに工夫がいる問題なら、テスト範囲からはみ出さず、難易をあげられないだろうか?)等々……。


    (2)仮説検証(そのもの)としてのテスト

     科学研究では検証の手続きを考え出し実施することは大いに手間がかかるが、学力テストでは、この部分はプロである出題者に丸投げできる。
     テスト問題の予想ができるようになると、テスト問題を作る労力がどれくらいかが分かる。
     テストは、かなりの労力がかかる作業を、出題者に下請けに出していることなのだ(下請けという言い方が悪いなら、出題者と分業しているといいなおそう)。


    (3)採点後のテストを吟味する

     採点されたテストが返ってきた。結構な間違いがあり、どこか見えないところにしまいこみたくなる気持ちをぐっと堪えて目を凝らそう。

     テストであなたが間違えた部分は、プロである出題者の知識と工夫、それとがっぷり四つに組んだあなたの知恵と努力、それらすべてによって生み出された合作である。(テストは、受験者と出題=採点者との間の分業である)
     一方的に提供される問題集よりも、あなたが書いたまとめノートよりも、より多くの労力が投下されており、加えてあなただけにチューニングできている逸品だ。
     学習者にとって、これを財産(学習資源)と呼ばなくて、何を呼ぶのか?

     テストを見直すといっても、次のような(実は最も多い)パターン=2つの「やり過ごし」に陥ってはならない。

    「これはケアレスミスだ(から次は気をつければいい)」

     ケアレスミスはランダムに生じるのではない。注意という資源は有限である。
     ケアレスミスは、注意の容量を超えた処理をしようとしたところに生じる
     自分のケアレスミスを分析することで、自分の注意の容量を知ることができるし、注意の容量を超える処理の場合、紙に書き出すなど外部記録をつかう方法を使うのはどんな場合かが判明する。

     「これはケアレスミスだ(から次は気をつければいい)」
    では、今後も繰り返し同様のケアレスミスを繰り返すことになるだろう。

    「これは勉強してないからできなくて当たり前」
     では、何をどれだけ勉強すればできたのか(その量を予想していたのか/また予想できたのか)を、具体的にしておかなくてはならない。

     すぐわかるように、テスト結果の吟味は、テストをリバース・エンジニアリングすることに、つまるところテスト問題を自作するスキルに直結している。


     こうしてテストをめぐる仮説ー検証のサイクルが完結する。

     このサイクルを一巡二巡していくうちに、テスト問題とテスト結果を予想する精度は上がり、必然的にテストの結果自体が改善されることになる。




    枝葉を払って要点を箇条書きにすれば、おおよそどれも次のようなことが書いてある。

    1 過去問を最初に見ろ
     1-1 出るところだけを勉強しろ
     1-2 問題集のように繰り返せ(後述)

    2 問題集で勉強しろ
     2-1 参考書は読むな、使うな
     2-2 辞書(辞書的参考書を含む)は引くな→辞書の要らない問題集を使え
     2-3 ノートにまとめるな
     2-4 暗記カードなんかつくるな

    3 問題集は繰り返せ
     3-1 最初は問題につづけて答えを見ろ
     3-2 答えを見た後は、何も見ずに解答を書け
     3-3 慣れてきたら少しは考えろ
     3-4 復習は問題を見て、すぐに答えが浮かぶか確かめろ
     3-5 どうしても頭に残らない問題は捨てろ
     3-6 正解率9割を超えるまで繰り返せ

    4 無駄なことはするな
     4-1 試験のレベルを超えたものに手を出すな
     4-2 自分のレベルを超えたものに手を出すな
     4-3 最初は自分で問題を解くな
     複数の選択肢から正解(もしくは間違い)を答えさせる問題は、入学試験から資格試験まで、いろんなところで出会います。

     十分に勉強できてない場合、いや全く勉強してない場合でも、なんとかする方法があります。

     ポイントは
    選択肢の中にかならず選ぶべき正解(間違い)がある
    ことに注目することです。
     問題を作る立場に立ってみると、
    選択肢問題を作ることとは、「ひとつの正解を、他のひっかかりそうな間違いで隠すこと」なのです。

     では、「ひっかかりそうな間違い」とは何でしょうか?

     なぜ「ひっかかりそう」になるのでしょうか? それは、(部分的に)正解と同じか似ているからです。

     今、仮に「ああああいいいいうううう」という正解があったとします。

     出題者はこの正解を隠すために、正解と部分的に異なる選択肢を用意します。例えばこんな風に
    「ああああええええうううう」……「いいいい」部分を取り替え
    「ああああいいいいおおおお」……「うううう」部分を取り替え
    「かかかかいいいいうううう」……「ああああ」部分を取り替え
    「ああああいいいいううううええええ」……「ええええ」部分を追加

     選択肢にすると、こんな感じです。
    1)「かかかかいいいいうううう」
    2)「ああああいいいいうううう」
    3)「ああああいいいいおおおお」
    4)「ああああいいいいううううええええ」
    5)「ああああええええうううう」

     ここから「正解」を、選択するのではなく、「再生」することができます。
     今の選択肢づくりの逆回しをやるのです。

     正解に含まれる「部分」は、ひっかかりそうな選択肢を作るためにも、使用されます。
    つまり頻出する「部分」を、合成したモノが「正解」である(可能性が高い)、という訳です。

     それぞれの部分について、登場回数をカウントします。

    「ああああ」……2)と3)と4)と5)に登場……4回
    「いいいい」……1)と2)と3)と4)に登場……4回
    「うううう」……1)と2)と4)と5)に登場……4回
    「ええええ」……4)と5)に登場      ……2回
    「おおおお」……3)に登場         ……1回
    「かかかか」……1)に登場         ……1回

    テストでは、問題用紙の選択肢の部分に数字を書き込んでいきます。
         1   4   4
    1)「かかかかいいいいうううう」
         4   4   4
    2)「ああああいいいいうううう」
         4   4   1
    3)「ああああいいいいおおおお」
         4   4   4   1
    4)「ああああいいいいううううええええ」
         4   1   4
    5)「ああああええええうううう」


     登場回数の多い部分でできている2)が正解です。登場回数の平均をとって一番多いものです。
     付け加えがある4)は間違いです。

     ○と×の組み合わせを選ぶ問題、部分の数が等しい選択肢同士なら、単純に登場回数を足し合わせて多い方が正解です(平均を取る必要はありません)。


    (実例)

    平成21年度センター試験(国語)を例にとってみましょう。
    (問題)http://www.dnc.ac.jp/center_exam/21exam/mondai_pdf/21kokugo_q.pdf
    (解答)http://www.dnc.ac.jp/center_exam/21exam/seikai_pdf/21kokugo_a.pdf

    問2の選択肢のみ抜き出します。

    (1)「複数オニ」や「陣オニ」は、子どもたちがいくつもの役割を相互に演じ遊ぶ点で、従来の隠れん坊の枠を超えた、人生の行程が凝縮して経験される過酷な身体ゲームになってしまっているということ。
    (2)「複数オニ」や「陣オニ」は、オニに捕まった者も助かる契機が与えられている点で、従来の隠れん坊にはなかった、擬似的な死の世界から蘇生する象徴的意味を内包してしまっているということ。
    (3)「複数オニ」や「陣オニ」は、オニも隠れたものも仲間のもとに戻ることが想定されていない点で、従来の隠れん坊の本質であった、社会から離脱し復帰する要素を完全に欠いてしまっているということ。
    (4)「複数オニ」や「陣オニ」は、子どもたちの自由を制限するさまざまなルールが付加されている点で、従来の隠れん坊とは異質な、管理社会のコスモロジーに主導された遊びに変質してしまっているということ。
    (5)「複数オニ」や「陣オニ」は、隠れた者も途中でオニに転じることになっている点で、従来の隠れん坊の本義であった、相互の役割を守りつつ競い合う精神からは逸脱してしまっているということ。

    (解答の実例)
    選択肢はすべて、

    「複数オニ」や「陣オニ」は、(A)の点で、(B)になってしまっているということ。

    というフォーマットになっています。異なるのは(A)と(B)のところだけです。

    (A)はどんな点で違うのか、(B)は従来の隠れん坊に、何か別の要素が加わったならプラス、本来持っていたものが失われたならマイナス、としました。

       (A)                (B)     合計
    (1)いくつのも役割を演じる[1]     プラス [2] [3]
    (2)捕まったもの助かる[2]       プラス [2] [4]
    (3)オニも捕まったものももとに戻る[2] マイナス[3] [5]
    (4)自由を制限する[1]         マイナス[3] [4]
    (5)隠れたものもオニに[1]       マイナス[3] [4]

    (A)については、(2)と(3)に共通点がありますので、ここには2ポイントずつ配点し、残りの選択肢の(A)はすべて異なっているので1回しか登場しないため、それぞれ1ポイントずつの配点です。
    (B)についてはプラスが2回、マイナスが3回ですから、(1)と(2)には2ポイントを、(3)(4)(5)には3ポイントを配点します。
     集計すると、もっともポイントを集めた(他の選択肢と共通する部分を最も多く含んだ)選択肢3が正解ということになります。




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