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    子どもが分かっているとき/「穴埋め」させる

     どうすればいいか/なにをしてはいけないか、大人が思っているよりは、いくらか/ずいぶんと、子どもは分かっていることが多い。
     子どもからすると、分かっていることを言われるので、くさる。
     しかも大人は、必要以上のことをいろいろ言いがちだ。「××してはいけない」というかわりに、たとえば「××するような奴は……になるぞ」みたいなことを言ったりする。
     大人からすると、言っても聞かないから、もっとひどい言い方をしているのだ、ということになる。しかし、言い方をエスカレートしても、効き目はすぐになくなる。さらにもっとひどい言い方をしたくなる。

     「穴埋め」とは何か?

     人は、他人に言われたことよりも、自ら口に出したことにコントロールされる。
     「叱る」内容を、子ども自身に言わせる方法なんてあるのだろうか?
     
     手はいくつかある。
     「わざと間違える」というのがわかりやすいが、この方法はちょっと演技力がいる。

     当然あるべきものを欠けさせる方が、やりやすい。
     あるべきところにあるべきものがないと、人はつい補完したくなるものだ。

     「虫が入ってくるから、網戸をしめなさい」が10とすれば、5や3のことばで、あとは子どもに補完させるのだ。

     もちろん、子どもはあらゆることを知っている訳ではない(大人だってそうだ)。
     あえて教えていないことで、子どもが知っていることは結構あるが、それでも限界はある。

     大人が思っているより「少なめ」に言うことで、知っているかどうかは確かめられる。
     「子どもは知っている」ことを前提に対処することは、そちらへ子どもを引き上げる。

     知っていないことが分かれば、別の手を用いればいい。
     すぐにわかることだが、普段からきちんと説明されている子ほど、「穴埋め」の手は使える。


    1.一言のヒントを出す

     「虫が入ってくるから、網戸をしめなさい」というところを、「いつもいつも開けっ放しにして! 何度言ったらわかるの!」は、ことばは長いが情報としては少ない。「ひどい言い方」にするための「ころも」が多いからだ。
     
     「網戸、おねがい」だけで、情報としては十分だ。

     長いお小言は、怒りのボルテージを表すに必要だと大人は考えるけれど、怒っている程度なら、言葉にしなくてもだいたい分かる。
     くどくどと長く何度も説明することは不要であるばかりか、そうすることで、言わなくてもいい脅しや皮肉がどうしても入ってしまう。なぜなら、言わなくてもいいことで、文句を水増ししているのだから。
     そして、もうひとつ。たくさんまくしたてても、そんなに多くは覚え切れない。そうでなくても、子どもの注意を肝心なことから反らせてしまう。子どもの注意は、何をどうしたらいいか、ではなく、大人が激しく怒っていることの方に、引き寄せられるだろう。大人だってそうだが、注意という認知資源は有限なのだ。
     そこで学ぶのは、大人を怒らせないためにはどうすればいいか、であって(そのうちに、うるさい大人から離れるにはどうすればいいか、が加わる)、物事のルールや仕組みではない。
     
     一言ヒントを出したら、子どもの顔を見る。
     そして、しばらく待つ(大抵の場合、大人は急ぎすぎる。子どもを無知と扱うならなおさら、理解できるだけの時間は与えるべきだ)。

     子どもが「あっ」という顔をしたなら、気がついた証拠だ。
     分からないなら、次の手へ進む(「3.状況を描写する」へ)。
     気付いたみたいだけど、困った顔をして行動が起こらないなら、やるべきことはわかっても、どうやってすればいいか分からない可能性が大きい(「わかっていてもできないとき」へ)。

    例:
    ×「パジャマに着替えなさいって何回言ったの。テレビを見る前にパジャマに着替えるって約束したでしょ。それなのに、あなたたちは・・・・・・」

    ○「パジャマ。」

    ×「また、お弁当忘れて、そのまま学校に行こうとしてる。昨日も忘れて、ママが届けなければならなかったでしょ。もし頭が体にくっついてなかったら、自分の頭も忘れていくところじゃないの?」

    ○「お弁当!」


    2.メモを貼る

     声の「一言のヒント」のかわりに、文字を読める歳の子どもにはメモで伝えるのも有りだ。
     メモの良いところは、書いたモノを振り返ってみることができること、そして書き直せることである。
     そのせいか、日頃、罵詈雑言を吐いている大人も、書くとなると、そこまでひどいことは書かない。
     そして、いったん書いてしまったら、メモは「言い合い」もしなければ、余計な「皮肉」も「怒鳴り声」も発しない。
     

    例:テレビに「宿題は終わった?」というメモを貼っておく。



    3.状況を描写する


     一言のヒントで足りなければ、情報を追加する。
     状況がどうなっているかを説明すれば、そしてその状況を理解できれば、どうすればいいのか子どもは分かっていることが多い。
     状況を説明しても、どうすればいいか分からないなら、次の手へ進む(「子どもが分かっていないとき/情報を与える」へ)。


    ×「トイレを出るときは電気を消しなさいって何度言ったの!?」

    ○「トイレの電気がついてるわよ」



    ×「お風呂の水が出しっ放しだ。なんて無責任なんだ。床が洪水になるぞ!」

    ○「お風呂の水があふれそうだよ」




    子どもが分かっていないとき/情報を与える


    4.ルールを教える

     どうすればいいのか、子どもが分かっていないならば、当然だが教えることが必要になる。

     たくさんの情報を一度に提示しても受け取れない。
     できるだけコンパクトに必要な情報だけを教えること。
     このためには、怒りをぶちまけるのとは、切り離した方がいい。

     恐れさしたり悲しくさせることは、学習を促進しない。
     (実は恐怖や不安が、学習を促進させる場面があるにはある。恐怖をもたらしたもの・状況を急速に学習し忘れないのは、もともと適応的である。だが、これは恐怖症を引き起すものでもある。また自分の知識や経験がまるで役に立たないという場面に追い込まれると、学ぼうという動機付けと集中力は高まる。少なくない集団で新参者が理不尽な目にあう風習が頑固に生き残っている理由のひとつがこれである。同じ原理がカルトでも用いられる)。


    ×「もう一度、壁に落書きしたら、お尻をぶつからね」

    ○「壁は落書きする場所じゃないよ。落書きは紙にするもんだよ」



    5.自分の気持ちを伝える

     どんなやり方でもそうだが、子どもは大人のやり方を真似し始める。
     自分の意に添わぬ行動に対して恐怖に訴えるやり方を大人がすれば、子どもだってそうするようになっても不思議はない。
     
     もちろん大人だって人間だ。怒りを感じることもあれば、どす黒い感情にまみれることだってある。

     「叱る」ことは多くの場合怒りを伴うが、「叱り」に怒りを抱き合わせるかわりに、自分の気持ちを表現する手もある。
     このやり方の良い点は、子どもに真似されてもかまわないところ、むしろ感情の表現の仕方、そしてお願いの仕方のよいモデルになるところである。

     気持ちの伝え方、お願いの仕方の基本は、「自分がどう感じているか話すこと」+「その理由を簡単に説明すること」である。
     ただ「~やって」というよりも、「~だから、~してほしい」と言った方が伝わり、相手がやってくれる確率が高まる。このことは子どもも大人も学ぶだけの価値がある。


    ×「また網戸を開けっぱなしにして。どうして怒らせるようなことばかりするの!?」

    ○「網戸を閉めて。開けっぱなしは困るわ。ハエとかが入ってくるでしょ」


     怒りを相手にぶつける人は、「この感情はおまえのせいだ/おまえによって引き起された」みたいなことをしばしばいう。「私は怒っている」ではなく、「怒らされた」という。
     見ていると、子どもも似たような言い方をする時がある。たとえば、
    「私(が)、お皿割っちゃった」ではなく「お皿が割れちゃった」というような。

    You(おまえ)ランゲージI(わたし)ランゲージ
    「おまえは最低だ」「僕は傷付いた。腹が立つ」
    「この映画どうだった?」「(私は)この映画、とてもいいと思ったわ」
    「お皿が割れちゃった」「私、お皿割っちゃった。ごめんなさい」
    「あなたは口が聞けないの?」「私、あなたにちゃんと言って欲しいの」


     「私(が)、お皿割っちゃった」と、お皿を割ったのは自分であると引き受けることなしに、「ごめんなさい」と言うことはできない。「お皿が割れちゃった」と言っている限り、その行為の主体も責任の宛先も、自分ではない、他の何かなのだから。

     「静かにしなさい。怖いおじちゃんに叱られるわよ!」
    と言う大人を子どもは信用しない。なにかインチキなことをやっているのは子どもにだって分かる。

     「私は~と感じる」という風に感情を表現することは、その感情が私のものであることを引き受けることだ。
     I(アイ)ランゲージ(「私」メッセージ)を使うことで、自分の考えや発言が、私のものであることを、自他共にはっきりさせることができる。
     自分の考え(主観)にすぎないものを、あたかも事実や真理であるかのように人に押し付けることができなくなる。

     このことは自分を押しの弱い交渉力の低い人間にしてしまうだろうか。否、むしろ自分の考えが何であり,どこまでが自分の主観にすぎないかをはっきりさせることで、事実や相手の考えを受け入れる余裕を作り出す。このことは交渉やより広く人間関係から余計な強がりをなくし、自由さを増す。

     I(アイ)ランゲージは、自分の考え/感情を相手にオープンにするものでもある。
     人間関係は相補的かつ互酬的であり、自分がオープンになった分だけ、相手もオープンになることができる。
     Youランゲージの「決め付け」や「断罪」や「宣告」に満ちた言葉や固い鎧をまとった攻撃的なスタンスから、鎧を脱ぎ捨て、くつろいだスタンスで相手に対することは、多くの場合人間関係を改善する。


    わかっていてもできないとき
    6.やり方を教える
    7.やってみせる
    8.いっしょにやってみる

    9.分割する
    a.子どもが手に負えないと感じるような課題をできるだけ小さく細分化する(年齢に応じて、親は課題を細かく分けるのに知恵を貸してやる)
    b.子どもは細かく分けた課題にひとつずつ取り組む。親はそれぞれの小さな課題を(a)はじめたとき、(b)終えたときに、褒めてやる。
    c.がみがみ言わなくても、やがて大きな課題がおわる。この時は、これまでよりも、もっと褒める(たとえば子どもが難しい課題をやり終えたことを、その場にいなかった人(もう一人の親や祖父母など)に伝えながら褒める、など)。
    d.次にやる時は、同じ課題が子どもにとっても、ずっとやりやすくなっている。

    たとえば「外出するために着替える」といった課題は、
    (1)パジャマを脱ぐ
    (2)パジャマをかごに入れる
    (3)パンツを履き替える
    (4)Tシャツを着る
    (5)ズボンをはく
    (6)片方の靴下をはく
    (7)もう片方の靴下をはく
    (8)片方の靴をはく
    (9)もう片方の靴をはく
    といった具合に(あるいはもっと)細かく分けることができる。

     子どもにとって、この方法の利点は、そのままでは難しい(何から手を付けていいかわからない)課題を、ずっとわかりやすいものに変えることができるところである。
     着替えは、子どもの協力なしには、親にとってもなかなかの難事業である。叱ったりなだめたりしながら、体や足を持ち上げたりおろしたり、ときには子どもが泣き叫ぶのを我慢しながら、ヘトヘトになりながら、やってあげなくてはならない場合もある。
     細分化して、そのひとつひとつを褒める方法は、一見まどろっこしく、実際いくらか余分な時間が必要であるが、たくさんの褒める機会を得られるし、次回からはずっとスムーズに子どもは、同じ課題ができるようになる。
     褒めるのに費やした時間は、必ず報われる。なによりもいつものように叱ったりなだめたりしなくて済む(それらはその場限りにしか役に立たない/その場でもどれだけ役に立っているかどうか怪しいものである)。
     この手法は、子どもがその時期時期でマスターしなければならない、さまざまな行動や課題に応用可能である。


    10.完成から逆順で教える
     例えば歌を教えるとき、最初から順番に歌詞を教えると、歌い進むに従って次第に自信のないところに進んでいく。
     逆に歌い終わりのフィニッシュの部分を最初に教え、徐々に前に戻ると、歌い進むに従って自信の持てるところに進んでいくので歌声も元気良くなる。いわゆるバックワードチェイニング(ゴールに近いところから順番に指導する方法)。

     未知(知らないこと)は不安であり、既知(知っていること)は不安でない。
     少しでも触れたことがあると「あ、これ知ってる」と、第一印象で不安とならず、むしろ学ぶことの自信につながりやすい。
     わかることは喜びであり、学ぶという行動を強化する。
     子どもはわかる=喜びに引っ張られて、自ら興味を持ち、自ら学んでいく。


    11.ルールでサポートする

     リビングにお気に入りのおもちゃや本を持ってきては、そのまま放置しておく子がいる。
     毎回それを繰り返すので、その子のもってきたものでリビングはちらかる。
     大人は毎回「片付けなさい!」と喉にタコができるほど叱るが、事態は改善しない。
     考えてみるといい。大人だって、その子と同じやり方でちらかしている。そして、片付けなきゃいけないのは分かっているけど、何からすればいいのか、わからなくて(考えたくなくて)、片付けられない。

     


    好ましくない行動を減らす

    12.事前注意
     「してはいけない」と注意をするなら、できれば(やってはいけない)行動の最中ではなく、事後でもなく、事前にすべきだ。
     行動中や行動のすぐあとの注意は、(親本人は、罰を与えているつもりでも)子どもに「注目」という「ごほうび」をあたえることにもなる。そのため、その行動は注意にもかかわらず、持続することになる。親の方は「なんど注意しても聞かない」と思い込む。本当は、注意のタイミングが間違っているのだ。
     また予告することで、子どもは行動を切り替える準備をすることができる。数分後、同じような指示がまた出されるときには、ずっとそれを受け入れやすくなっている。
     罰が短い時間である方が、罰の原因と罰とをダイレクトに結びつけやすく、子どもは、原因と結果の関係を身を持って学び、またセルフ・コントロールの力を養う。

    「○○(望ましくない行動や許しがたい行動)をしたら、20分間ボールをとりあげるからね」とあらかじめ罰の内容を具体的に予告する。
     罰は子供が好きなもの、やりたいことを短時間取り上げるといったものがよい。罰を重くしても、また罰の期間を長くしても効果は変わらない。子供が自分の行動と結びつけてご褒美や罰を考えられるのはそんな長い時間ではないから。
     だからこそご褒美はすぐに与え、罰は短い時間のものを警告どおりすぐに与えるのがよい。


    13.別の行動を増やす(指示する、教える、強化する)
     あらかじめ、すべての問題行動について事前注意できるなら越したことはないが、大人は神様ではない。
     多くの場合、行動が起こった時に注意するしかないが、しかし禁止はなかなか守りにくい指示である。
     「おしゃべりをやめなさい」と注意された子どもは、その指示を守るためには「しゃべること」にずっと注意を払っていなければならない。
     いじわるな例だと「ピンクの象のことを考えないで」というのがある。思考抑止は大変難しい課題だ。大抵の人は、やめようと集中することで、ますます「ピンクの象」のことを考えてしまう。
     よいやり方は、問題の行動と両立しない行動をする/させることだ。
     「~しないで!」と否定的にいうよりも、そのかわりになる行動について「~してちょうだい」と指示する方が、大抵の場合うまくいく。
     たとえば「テーブルを(はさみで)傷つけないで!」のかわりに、「はさみをテーブルの上におきなさい」と言うことができる。
     望ましい行動の方を口にすれば、子どもはとにかく何をすればいいのか、正しく知ることができる。このことは、子どもに言葉にしたがう機会を与え、親には子どもをほめる機会を与える。
     なにが「両立しない行動」か、子どもは自分では気付きにくいから、大人の知恵と指示(教示)の見せどころである。
     おしゃべりをやめさせるのに、これまでに見た一番チャーミングな例は、「おかあさんにチューして」だった。


    14.注目を外す
     何故叱ったり罰を与えても,子供の「してほしくない行動」は減らないのだろうか。
     それは叱ること、説教すること、怒った理由を説明してやること等々が、図らずも「子供に注目を与える」というごほうびになってしまっているからである。
     多くの大人が誉めることに慣れていない。そして「しつけ」とは、叱ること、注意することだと考えている。その結果、子どもが悪いことをした時に(だけ/とりわけ)、全身全霊をもって大きな注目を与えることになる。「してほしくない行動」が減るはずがない。
     叱られて育った大人は、「叱らない」ことに耐えられない。子供が悪いことをしているのを「無視」するのは考える以上に苦痛を伴う。

     しかしここでいう「注目外し」は、無視でも、ましてや放置でもない。

     子ども(の存在)を「無視」するのではなく、子どもの「望ましくない行動」(だけ)から「注目を外す」のである。

     「注目外し」は、言い換えると、誉めるタイミングを待つことである。
     「望ましくない行動」を誉めてはならない。おもねってはならない。そして、「望ましくない行動」にだけ注目を注いではならない。それは「望ましくない行動」を増やすだけだ。
     子供が「望ましくない行動」をとったら、子供への注目をはずす。やり方を具体的に書こう。
    (a)体の向きごと子供からそらし(横を向くくらいがいい)、
    (b)何か別のことに注意を向ける
    (c)子供は注目を得ようと、ほとんどの場合、一旦は問題行動を激しくする(消去バースト)が、やがておさまる
    (d)問題行動がおさまった瞬間を捉えて(そのために、注意は払っていなくてはならない)、(例:それまで騒がしくしていた場合)「よく自分で静かになれたね」と機を逃さず誉める。
     子どもに背を向けながらも、子どもに注意を払っているので、彼が「望ましくない行動」をやめた瞬間や、もっと他の「望ましい行動」をはじめようとした瞬間をとらえて、誉めることができる。
     つまり「注目外し」は「誉める」こととペアになって初めて効果を生む。
     うまく誉めることができないなら(大人の多くがそうなのだが)、そちらの練習を先にやるべきだ。
     この方法は絶大な効果があることが実証されているが、叱られて育てられた大人は二重に難しい。まず叱ることを我慢できないし、ほめることも苦手だ(叱ることだってほんとは得意でないが)。しかし克服する価値は十分ある。

     
    15.部分を褒める
     「注目外し」は、よほどタフな精神の持ち主でもないと、いきなりは難しいかもしれない。
     背中を向けるくらいだったら(いや横を向くくらいでいい、でないと誉めるタイミングがつかみにくいから)、まだ誉めた方がマシだ、という人には、「部分誉め」がおすすめだ。これは、不慣れな大人にとって、誉める練習にもなる。

     ある行動に対して、部分点をみつけて褒めてやる。
     相手の行動については、それが完全でなくても、どこか良いところをみつけて、そこを褒める。
     大抵の場合、相手の行動のよい部分を見つけることができる。
     習慣づけて部分褒めをやっていると、次第に誉める部分を見つけるのがうまくなる。
     しかし最初は、ちょっとした機智や水平思考やリフレーミングが必要かもしれない。
     コツは、ディティールを無視して、おもいっきりシンプルに考えること。
     「帰りが遅かった」と考えるよりは、ただ「帰ってきた」
     「ドライブに行ったが相手の車は国産のボロ車だった」と考えるよりは「ドライブに誘われていった」
     「料理の味が薄い」と考えるよりは「手料理をつくってくれた」など。
     
     あるいは、行為の結果は悪かったが、行為そのものや行為の意図は「よい」ことは多い。それをほめること。



    16.本気を示す

     最初はやさしく注意、それでも聞かないから次第にヒートアップという大人は少なくない。
     子どもには、そんなことはお見通しなので、まだまだ本気じゃないなと、ヒートアップするまでは言うことを聞かない。
     最初から本気で注意すべきだ。
     やると言ったことはやり通す。言うことを聞かないことを放置しない。
     それでも安く見られた大人の指示は通用しにくい。
     大人がルールを守らないだろうと子どもから疑いをもたれているとき、大人自身が失敗を恐れて子どもに対して必要な対応ができないとき、たとえばこんな手がある。
    (1)子どもと外出する。たとえば高価でない(理由は後述)食事をしにファミリーレストランへ、あるいは、いま特に必要でないもの買いにスーパーマーケットへ行く。
    (2)「食事中にいたずらしない」「買い物をしているときに、おねだりしない」というルールをあらかじめ、子どもと確認し、もしルールをやぶったら、すぐに家へ連れて帰ると警告しておく。
    (3)店に入ったら、すこしでもよい行動をしたら褒める(受け入れられる程度の行動であっても)。
    (4)反対に子どもがルールをやぶったら、食事/買い物を即座に中止し、「家に帰るわよ」と冷静に言い渡す。そして実際に店を出る。
    (5)子どもが「ごめんなさい」とあやまってきたら優しく受け止める。しかし抗議は取り合わない。そして実際に家に帰る。

     子どもに、大人は「言ったことは必ずやる」と信じさせるには、言葉でなく、実際にやるしかない。
     以後、子どもに対してルールや警告が効果的になる。
     こちらの方がより重要だが、大人の方も、たとえ人前であっても臆せず、子どもに対して必要な行動をとれるようになる。


    17.お好みタイム
     時間は希少である。うまく使うことはできても、増やすことはできない。
     だから時間のご褒美は、モノのご褒美よりも効果がある。
     
     たとえば1日20分間、なんでも好きなことができる時間を子どもに与える。
     この時間の間、大人の大嫌いな(そして子どもが大好きな)音楽を大音量でかけることもできるし、友達に電話で「長話」(たった20分だけど)することもできる。親はそれらに何の文句も注文もつけない。もちろん「お好みタイム」が終わった後、蒸し返すのもなしだ。

     無視しても、指示しても、「放置できない行動」を子どもがやめないときは、
    「すぐにやめなければ、今日の「お好みタイム」はなしよ」
    と言うことができる。


    好ましい行動を増やす

     ときどき「いくら言っても叱っても、勉強しないんです」という大人がいる。
     罰を与えることは、ある行動を減らすことには役立つことはあっても、行動を増やす方には、あまり役に立たない。
     それでも、子どもの方が親の意図を汲んでくれることはある(けっこうある)。
     しかしできないものが、叱るだけでできるようになる訳がない。
     逃げ場のない小さな子どものうちならまだしも、行動範囲が広がれば、親からできるだけ離れているように動機付けられるだけだ。


    *.望ましい行動をほめる

     これについては先述した14.注目を外す、15.部分誉めを参考のこと。

    18.誉めレコーディング
     いきなり誉めろ、と言われてもなかなか難しい。
     誉められた経験がないとやり方もタイミングもわからないし、褒める自信がない。
     誉めることが難しく感じるとき、誉める行動が見つからないと感じるとき、誉ることがテレくさくて抵抗があるとき等に、行動記録を使う。
     やり方は最初に決めたものを続ければなんでもいいが、
    (1)ノートに三列の表をつくる。
    (2)それぞれの列に時間,誉めた行動、それをどう誉めたかを書く。
    (3)1日1ページの記録をつける。
    (4)次第にページを埋める個数(ほめた数)が増えていくのがわかる。自分のトレーニングの進展と、子供の望ましい行動の増加がわかってモチベーションを高め、誉める習慣が身につく。
     家族のうち、すべての大人が記憶をつけるなら最高である。互いのノートを見せあい、自分が見逃していた望ましい行動や、自分でも参考にしたいよい誉め方などの情報を交換できる。
     

    19.カウント法
    (1)ポジティブな行動(a)喜びや満足をもたらす活動(b)将来ためになる活動などをリストアップし、その中で1個~数個を数える対象に決める(できれば親子で決めるのがよい)。

    (2)毎日いくつできたかを記録する。家族みんなが見えるところに、1個の場合はグラフにして、複数の場合は表にして張り出すのも良い。

    (3)得点計画表のように、一定の得点を超えたらもらえる「ごほうび」を決めるのも良い。なお「ごほうび」の力は、ごほうびそのものの価値よりの、(a)親子で話し合って決めること(b)約束すること、そして約束を守ること(c)ごほうびをあげるときに、心の底から褒めることによっている。

     行動を数えて、その結果を張り出すことは、パブリック・ポスティングという方法である。社会的生物である人間は、小さくとも、その成果が「公表」されることで大きな影響を受ける。
     またこの方法は、親子で数えることを通じて、子どもの行動(のよい面)に持続的に注意を払うことになっている。子どもには親からの肯定的な注目が自然に与えられ、親には子どもを褒める機会を与えられる。


    20.傾聴タイム

     誉めることが苦手でも、子どもに「心のご褒美」をあげることはできる。
     
     子どもの話をもっぱら「聴く」時間を作ることは、子どもに対してはご褒美になり、大人にとっては子どもに自分の気持ちを理解する機会を増やすことにもなる。

    (初級)
    (1)体と顔を相手(子ども)にむけ、相手(こども)の顔を見る。
    (2)こどもの言葉に静かに耳を傾ける。
    (3)相手が言い終わるのを待つ。
    (4)あいづちをうちながら聞く。

    (中級)
    (a)子どもが言ったことを、言葉で返す。
      (例)「そうか。○○(子どもの名前)は、~したんだ。」
    (b)(傾聴タイムのときは)子どもに指示やアドバイスをしない。
    (上級)
    (A)子どもの気持ちに名前をつけてやる。
      (例)「それは、がっかりしたね」「恥ずかしかっただろうね」
    (B)子どもの望みに、想像の中で、返す。
      (例)「お父さんも魔法でアイスクリームが好きなだけ出せたら、すごくうれしいと思うよ」
    できるだけ子どもからの話しかけがあったときに、上のパターンで返してみる。

    子どもが親の話を聞かないというけれど、親だって子どもの言うことを聞いていないことも多い。たとえば……

    子:ママ~疲れた。
    母:そんなはずないでしょ。今、昼寝したばかりじゃないの。
    子:(さらに大きな声で)でも、疲れた!
    母:疲れてるんじゃなくて、ちょっと眠いだけでしょ。早く洋服を着なさい。
    子:(泣き叫ぶ)疲れた~!!!

    子:ここ暑いよ。
    母:寒いでしょ。セーター着ておきなさい。
    子:あつい!
    母:セーター脱いじゃだめって言ってるでしょ。
    子:でも暑いの!!

     子どもの言葉が、出会い頭に大人の否定にあっている。
     いつもいつもこうだと(ある時期の親子の会話は大抵こんなものだ)、子は「親は自分の言うことを聞いてくれない」「大人は、子どもの感じ方、考え方を、頭っから信用していない」ということを学習する。そしてそれに応じた対応をする。子どもは親の話を聞かなくなるのは、当たり前である。
     逆に、自分の言葉(や気持ちや感じ方)が受け入れてもらえることを、親との会話を通じて学んでいくと、親との会話が楽しくなる。親から言葉や気持ちを返してもらうと、それが自分の言葉や気持ちを受け取り、理解する機会となる。自分の言葉や気持ちや考えを理解する機会が増えると、自分の気持ちや考えを通じて問題を解決する姿勢にもつながる。


    (関連記事)
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    (参考)
    親の手ーしつけ、子育てのワザ http://psychotoolbox.web.fc2.com/parent/



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    わざと間違える

    について書くのを忘れていた。
    演技力が要るので上級編だが、原理は簡単なので紹介。「お風呂に入れる」を例にした。
    最後に、簡略版の例もつけてある。


    いうことをきかせようとすればするほど反抗してやらない場合、いうことをきかせようという努力が、かえって問題行動との間に悪循環ループを形成している(例えばやらない間は、親の注目を独占できる、など)。

    このループを切り替えるために、ループの回転に余分な力を加える。つまり、いつもの努力よりも、より大変でかつより無意味なことを「課題」にする。すると、「そんなバカバカしいことやるくらいなら」と、ループを抜けることができる。すなわち、症状がおさまる。

    たとえれば、馬を馬小屋に入れるのに、前へひっぱっても抵抗して入らない。逆に、しっぽを後ろに引っ張れば、いやがって前へ進み、すすんで馬小屋に入ることの応用。



    一言で言うと、大きく間違えて(ちょっと無理難題を押し付けて)、それよりは楽な(実はやってほしい)ことをさせる。


    (例)

    今日に限って、どうしてもお風呂に入りたがらないA君。

    なだめても、すかしても、まるでダメ。

    ここで「重すぎる課題」が登場です。

    パパ「Aくん、すっごく大事なお願いがあるんだけど聞いてくれる?」

    A君「・・・」

    パパ「お風呂よりずっと大切なことなんだ。Aくん、パパの一生のお願いだ(?)。虫歯になってくれ」

    A君「・・!」

    パパ「虫歯になったら、すごく痛いだろう。くるしいだろう。もうのたうち回るくらい痛いと思う。そんなことをAくんに頼むなんて、パパも本当はいやなんだ。でもしかたがないんだ。お願いだ。パパ、A君が虫歯になってくれたら、何でもする」

    A君「いやだよ。虫歯はいや」

    パパ「痛い痛い虫歯だよ。絶対にイヤかい?」

    A君「絶対にいや」

    パパ「・・・そこまでいうなら、しょうがない。虫歯はパパあきらめるよ。でも、虫歯の代わりといっちゃなんだが、パパ、Aくんに、すっごく汚くなってほしいんだ。みんなから、きたないきたない、くさいくさい、って言われるだろうけど」

    A君「・・・」

    パパ「ほんと、みんながきたないきたない、くさいくさい、って言うと思うけど、パパも正直、くさいなあ、あっちいってよ、って言うかもしれないけど、A君、お願いだから、きたなくなってくれないかな。汚くなるためには、とうぜんお風呂は禁止だな。もう絶対にお風呂にはいっちゃいけない。どんなに汚くなって、臭くなって、みんなに嫌われても、パパもママもA君をさわるのも嫌がっても、それでもお風呂に入っちゃダメだよ。だって、きたなくなるためには、それぐらいじゃなきゃ」

    A君「きたないの、いや。お風呂ダメもいや」

    パパ「じゃあ、せめて明日だけでも、すごく汚いA君でいてほしいなあ。みんなは臭がるだろうし、いやがるだろうけど、明日一日のことだよ。今日だけはお風呂に入ってほしくないんだ。このとおり、お願いだ」

    A君「いや。お風呂入る!今日もお風呂入る!」

    パパ「ど、どうしても、今日、お風呂に入るの?」

    A君「入る!」

    パパ「まさか、今すぐ入るつもりじゃないだろうな?」

    A君「今、入る!」

    風呂場へ走り去るA君。


    ここまで念入りにしつこくなくても(Noと答えさせるのを重ねているので「ノー・セット」という)、

    ・食事をしようとしない子に
    「ママが見ているときしか、食べちゃダメよ」
    と言って、子どもから目をそらす。
      →あわてて、子どもは食べ始める。

    ・なかなか帰りたがらない子どもに
    「ママ、帰るから絶対についてこないでね」
    と振り返らずスタスタ変える。
      →あわてて子どもはついてくる。

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