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     「アイデアの作り方」が気になるのは、普段とは違ったアプローチが必要になる時、つまり、いつものやり方では間に合わない時/行き詰った時だ。
     以下のリストは、そうした行き詰まりに突き当たった際に眺めてみる備忘録として作成した。

     同じアイデアを作るといっても、どの段階にいるかによって必要な手法は異なる。
     すでに方向性が決まっている場合や、まるで何も思いつかない場合、数だけはたくさん出たがどうやってまとめるのか途方にくれている場合など、一口に「アイデアの作り方」といっても、それを適用する場面もそれに使う手法もいろいろである。
     そんなわけで、段階順に整理したほうが、使いやすいリストになると考えた。

     以下ではアイデア作成プロセスの段階に応じて、アイデアの作り方を分類して配列した。
     大きくは、前半にアイデアを増やしていく拡散系ツールを置き、後半に増えた(増えすぎた)アイデアをまとめ/しぼりこんでいく収束系のツールを配置した。

    発散/収束過程


     拡散系ツールは、全く何も思い付いてない段階に用いるツール→少なくともテーマやモチーフは決まっている段階に用いるツール→少なすぎる手持ちのアイデアを元にもっと増やしたい段階に用いるツール、という順に並べた。こうしてできるアイデアのほとんどは使えないガラクタであるが、いつもの/いままでの考え方では間に合わない時/行き詰った状況を、いつもの/いままでとは違うやり方で乗り越えるためには、ときに膨大なガラクタから砂金を探すような迂回が必要になるからである(もっともそこまで追い込まれるのは、そう多くないだろうが)。
     収束系ツールは、多すぎる手持ちのアイデアを整理してまとめたいに用いるツール→段階複数のアイデアから一つを選びたい、一つにまとめたい段階、という順にした。アイデアづくり=発想法を問題解決の中に位置づけるなら、最後には実施可能な案に落としこむことになるからである。

     同じ分類の中では、シンプルなものを先にし、手の込んだものを後に回すようにした。

     収集したものの、複雑すぎて/洗練しすぎていて、簡潔に説明できないものを落としていったので、最終的には50あまりの発想法が残った。
    一覧をマインドマップにまとめたものが次の図である。

    howidea.png


    右上から時計回りに、

    ・全く何も思い付いてない段階: 0から1へ
    ・少なくともテーマやモチーフは決まっている段階: 1から複数へ
    ・少なすぎる手持ちのアイデアを元にもっと増やしたい段階: 複数から多へ
    ・多すぎる手持ちのアイデアを整理してまとめたい段階: 多から少へ
    ・複数のアイデアから一つを選びたい、一つにまとめたい段階: 少から1へ




    ■ゼロから1へ

     まだ何も手にしてない段階、どちらに向かっていいかも決まっていない状態では、たとえばオズボーン・チェックシートのようなアイデアを変形させて増殖させる手法は使いづらい。変形/増殖させようにも《元手》がないからだ。
     ここでは、まだ何も考えついていない状態から、アイデアを増やす《元手》を生み出す手法をまとめてみた。

    ◎ランダム発生器

     人為に頼れぬ場合にヒトが永年使ってきたやり方がある。無作為に訴え、ランダムに委ねることで「神意」を尋ねる手法だ。
     こうしたやり方が可能なのはヒトが、雨音にメロディを、システム・エラーに悪意を、焼いた骨のひび割れに神意を、夜空に散らばる星に神話の登場人物を、投影する/読み込む、度し難い生き物であるからである。
     デタラメの中にさえ、ヒトは何か意味あるものを読み込もうとする。
     出てきた結果がなんであれ、受け取ろうと意図するだけでいいのだから(あとはヒトの仕様である《ありもしない意味を読み込む/投影する回路》が作動してくれる)、まったく何も思いつかないなら、シャッフルしたカードをめくってみるといい。
     何か一つでも手にすることができれば、結局使いものにならないアイデアでも、1から多へと進むことができる。そうすれば中にはましなアイデアが見つかるかもしれない。
     では、最初の一撃をはじめよう。

    ◯おまかせ表示

    ウィキペディア/ウィクショナリーの「おまかせ表示」をクリックする
    あるいは以下のリンクをクリック



     ネットにつながっている環境なら、一番お手軽なのは、無作為に選択されたページを表示してくれるウィキペディアの「おまかせ表示」である。
     多国語も含めて単語が出てくるウィクショナリーの「おまかせ表示」もよい。個人的/経験的にはこちらの方がうまくいくことが多い。ウィキペディアだと長めの記事にあたってついつい読み込んでしまって脱線するというのが理由の一つである。


    ◯タイトル・シャッフル

    (1)小説(短篇集だと効率がいい)や雑誌の記事のタイトルを集めて抜き出す。
    (2)集めたタイトルを分解する。たとえばタイトルを修飾語と名詞に分ける。
    (3)バラしたぞれぞれを(上の例なら修飾語と名詞のリストからひとつずつ取り出して)組み合わせる。
    (4)組み合わせの中に〈光るもの〉が見つかるまで(3)を繰り返す。



     星新一は、アイデア捻出の原則を異質なものの組み合わせだとした。その弟子である江坂遊は、星が膨大な知識を前提に頭のなかで行った組み合わせ作業を、次のようなプロセスで代替することの提案している。



    短篇集に収録されているタイトルは、たとえばNDL-OPACでタイトルを「短篇集」として検索し、結果をMARCタグ形式でダウンロードすれば、[50500]の行に格納されているから、これを収集してもいい。


    ◯Oblique Strategies

    以下のリンクをクリック
     https://www.oblique-strategies.com/



    単なるランダム発生器より、いくらかアイデアづくりに特化したツールに創造性デッキがある。
    以下の記事で、そのいくつかを紹介した。



    Oblique Strategiesは、音楽家ブライアン・イーノと画家ペーター・シュミットが作った、その中でもっとも有名なもの。
    副題には、Over one hundred worthwhile dilemmas(100を超える価値あるジレンマ)とあり、ある人はクリエーターのための公案、あるいは創造性と問題解決のための易(あるいは、おみくじ)である。
     ネットで試せるところだけでも相当な数があるが、上記のサイトがシンプル。


    ◯タロット

    以下のURLをクリック&リロード

    https://psychotoolbox.web.fc2.com/storytools/tarrot_no.php

    番号タイトル意味
    0(22,21)愚者夢想・愚行・極端・熱狂
    1魔術師意志・手腕・外交
    2女教皇秘密・神秘・英知
    3女帝実り・行動・月日の長さ・未知
    4皇帝統治・堅固さ・防御・同盟
    5教皇信条・社会性・恵みと有徳
    6恋人魅力・愛美
    7戦車援軍・摂理・勝利・復讐
    8 (11)力・勇気・寛大・名誉
    9隠者深慮・忠告を受ける・崩壊
    10運命の輪幸運・転機・向上
    11 (8)正義平等・正しさ・行政・正当な判決
    12吊された男英知・慎重・試練・直観
    13死神停止・損失・死と再生
    14節制調整・中庸・倹約・管理
    15悪魔暴力・激烈・宿命・黒魔術
    16悲嘆・災難・不名誉・転落
    17希望と吉兆・瞑想・霊感・放棄
    18隠れた敵・幻想・欺瞞・失敗
    19太陽物質的な幸福・幸運な結婚・満足
    20審判復活・位置の変化・更新・結果
    21(22)世界完成・約束された成功・旅



    starwars_tarot.jpg


     22枚の〈大アルカナ〉と呼ばれる宗教寓意画風のデザインを持つ絵札と,56枚の〈小アルカナ〉からなる一組78枚のカード。〈小アルカナ〉56枚は、のちにこれだけが独立して近代のトランプの前身となったという説もあるが、タロットのシンボリズムを論じる際に取り上げられるのは主に〈大アルカナ〉の方である。その22枚の絵札にはそれぞれ上のような数番号と名称がついている。
     多年にわたって神秘主義解釈が降り積もったことからも分かるように、〈大アルカナ〉のデザインは、曰く意味ありげで妄想喚起的であり、適当に並べるだけでお話の1つや2つでっちあげられそうな趣がある。

     上のリンクの仕掛けは、ランダムに選んだタロットをグレマスの行為者モデル(民話に共通する構造を取りだしたもの)に当てはめて並べるもの。
     画像の例は、ちょうどスター・ウォーズ(1977年:エピソード4/新たなる希望)になりそうな配列。

     田舎のあんちゃん(主人公:愚者:ルーク・スカイウォーカー)が、ベン・ケノービと名のる老人(送り手;隠者:オビ・ワン)によって使命をあたえられ、密輸船長(援助者;戦車:ハン・ソロたち)の協力を得て、敵(敵対者:死:ダース・ベイダー)の攻撃に犠牲を出すも、反乱軍の象徴である姫(対象/目標:星:レーア姫)を見事助け出し、反乱軍(受け手:世界)は勝利をおさめる。


    ◯易

    1.コイン3枚を同時に机の上に投げる
    2.コインの表を2、裏を3として合計する
    3.合計が奇数だったら陽爻、偶数だったら陰爻
      また6と9が出た時は変爻
    4.6回投げて、下から上へ陽爻/陰爻(それに変爻)の結果を記録する
      陽爻/陰爻の結果を下から上へ重ねたのが本卦
      変爻が出たところを陽爻なら陰爻に、陰爻なら陽爻に置き換えたのが之卦
    5.本卦、変爻、之卦を、易の本で調べる

    あるいはネット上なら次のサイトで
    http://www.ichingonline.net/index.php



     筮竹の代わりに硬貨を用いる擲銭法は案外古く、唐代にすでに行われていたものである。
     



    ◎世界というノイズ

    ◯カラーバス

    1.ひとつ色を決めて街へ出かける
    2.その色がついたものをひたすらメモする



     意識されない情報は、感覚器官から脳に届けられても、すぐに消え失せてしまう。逆に、意識することは、情報を引っ掛けるフィルターをおくことになる。
     ある色(たとえば赤)を持つものには様々なものがある。「赤という色」を決めて街を歩くと、相互に無関係な雑多なものが意識に引っかかることになる。
     カラーバスは、色を決めておくことで、望外なものを意識に引っかかるようにするテクニックである。自分の想像力の外にある多様な素材を集めるのに役立つ。ある色を意識して出歩くだけ、という簡単さがよい。


    ◯ニュースを見る

    考えが煮詰まったら、
    ・ニュース・サイトをブラウズする
    ・新聞の三面記事や地方欄を読む
    ・ニュース番組を見る/聞く



     ほとんどすべてのニュースは、直接的には、あなたに何の関係もない。
     したがって、あなたの考えの外から導入できるノイズとして使える。


    ◯全方位読書

    ・自分がいつもは逍遥(うろうろ)しない領域・分野の本を選ぶ

    ・読むものの選択にランダムネスを取り入れる
    (図書館の返却書棚から選ぶ/ランダムに辞書のページを選び芋づる式に調べる、等)

    ・精神に逆目を立ててくれるような、自分の苦手な分野、嫌いな作家の本を手に取る



     アイデアはどこから来るか分からない。だからアイデアを仕込むための読書は全方位的になる。
     
     ジェームス W.ヤング『アイデアのつくり方』に紹介された中で、もっとも無視されるアドバイスは「社会科学の本を読め」である。社会科学は世の常識をバラして組み立て直すので、アイデアの素材集めに適しているのだ。

     よく言われることだが、常識を超えるためには常識を知ることが必要だ。
     無勝手流の独創性は、大抵は、とっくの昔にやり尽くされたものの二番煎じにおわる。
     常識を得るための読書は広い範囲に渡る。

     とくに好きでもない書物、どうしても好きになれない作品は、あなたが何を書きたいのかを教えてくれる可能性が高い。
     「いやいやいや、そうじゃないだろ!」と思わず叫んだ箇所、どうしても納得できない部分に突き当たったなら、それこそがあなたが書きたいと思う何かであり、少なくともその方向を示す断片である。
     自分を広げる読書の中で、とくに自分が「否」と叫びたくなるものを読む中で、自分が本当は何を書きたいのかを発見する。



    ◎他人というノイズ

    ◯聞き耳立て

     街へ出掛け、人通りのあるところや人が集まる場所に腰掛け、他人同士のお喋りに耳を傾けてみる。



    ◯雑談

    考えが煮詰まったら、
     問題に関係がない人と、問題に関係がないことをしばらくお喋りしてみる。



    ◯インタビュー

    目下、取り組んでいる問題解決に役立ちそうな人にインタビューする





    ◎自分というノイズ


    ◯エジソン・ノート

    1.自分のアイデア、目に止まった他人のアイデアや気になった情報など、なんでもノートに記録しておく
    2.記録したノートを事あることに読み返す



     アイデアこそが資本だった発明王エジソンは、ダ・ヴィンチにならって膨大なノートをつけていた。
     ピンチに陥ると、エジソンはノートと相談した。新しいアイデアでうまくいった時も、エジソンはノートを見なおした。 
     考えだす端緒(きっかけ、呼び水)となる最初の一撃は、何もサイコロや無作為に開いた辞書のページでなくてもいい。自分のこれまでの思考やアイデアを書き残しておいたものがあれば、時に最上のスターターとなる。欲しいものが、今の自分の枠を超えたアイデアなら、書いた内容を忘れているような古いノートがいい。
     この方法の欠点は、一朝一夕にはいかないことだ。ノートの記録を続ける必要がある。
     しかし、これは長所でもある。あなたが何十年来のノートをつける習慣を持っているなら、それは簡単には覆せないアドバンテージになるからだ。





    ◯何も考えない

    1.楽な姿勢で座り、目を閉じる
    2.何も考えまい、と努力する
    3.すると、いろいろ雑念が湧いてくる(メモと筆記具を近くに置いておこう)



     ジェームス W.ヤング『アイデアのつくり方』はアイデア作りの正攻法を教えてくれる。
     (1)問題についてのデータを集める (2)データを理解し咀嚼する (3)データを様々に組み合わせてみる
     こうして問題とデータにさんざんまみれてみた後に、問題とデータ、これまでの作業を一旦忘れてインスプレーションを待つところが肝要である。

     「自然は真空を嫌う」というが、精神もまた真空を嫌い、何かでそこを埋めようとする。だからこそ、インスピレーションの到来には、心を空けておくことが必要なのだ。
     人間の心は、時に逆説的に働く。賢くなろうとすると馬鹿になり、考えつこうと努めるほど何も浮かばなくなる。
     「何も考えまい」と努力すればするほど、いろいろと考えてしまうのだ。
     頭を空っぽにするなら、なんでもいい。散歩に出かけるのでも、洗い物をするのもいい。


    ◯ポアンカレの待ち方

    1.抱えている問題をすべて書き出す
    2.書きだした問題について、知っていることについてもすべて書き出す
    3.書きだした問題のうち、すぐ解けそうなものは解いてしまう
    4.解けずに残った問題(=難問)のうち、もっとも簡単なものを選び、散歩に出かける。もし何か思いついたらすぐに書き留められるようにメモと筆記具を忘れないこと。
    5.4をすべての問題が解けるまで繰り返す



     数学者アンリ・ポアンカレもまたインスピレーションの待ち方を知っていた一人である。
     彼は著書『科学と方法』の中で、無意識の重要性を強調し、突然訪れたかに見えるインスピレーションは、それに先行して無意識的な活動がなされて、それによって得られた結果が予期せぬときに意識に上ることによって生まれることを指摘している。
     そうしたインスピレーションは、旅中の忙しさにまぎれて数学の仕事のことは忘れていたが散歩に出かけるために乗合馬車に乗ろうとしてその踏み段に足を触れたときや、兵役に服して数学とは全く異なった仕事をしていたある日、大通りを横切っているとき、ポアンカレ自身にも訪れた。



    ◯能動的想像法

    1.紙を一枚用意して、縦線を引いて左右にわける
    2・左の欄の一番上に、「自分」もしくは、自分の名前を書く
    3・右の欄の一番上に、「X」もしくは、課題や悩みの名前を書く(見当がつかない場合は「X」でいく)
    4.自分から「X」に話し掛ける。そしてそのセリフを、左の欄に書く。
    5.それに対する「X」の応答を、右の欄に書く(返答がない場合は「………」と書く。最初のうちは、返答がないことは珍しくない)。
    6.「自分」と「X」の会話を、紙の下まで続けていく。



    元々は、フロイトとの決別後、ユングが自分の病的体験をいやすために用いた方法である。
    フォーカシングやゲシュタルト療法のエンプティ・チェアなどとも共通点がある。

    長くやると、とても疲れるので、会話の長さは「紙1枚分」や「ノート1ページ分」と決めておくこと。
    また、1日に1回だけにとどめておくこと。
    毎日決まった時間に決まった分量だけ、続けていくとよい。


    ◯親・大人・子供の紙上鼎談

    1.紙を一枚、用意して、縦線を2本引いて3列にわける
    2・左の欄の一番上に「親」、真ん中の欄の一番上に「大人」、右の欄の一番上に「子供」と書く
    3.それぞれの欄ごとに、以下の立場から意見を書いて、3人の間の会話をつづけていく
    ・「親」の立場からは、建前的な意見、公的な意見を書く
    ・「子供」の立場からは、自由(フリーダム)で手前勝手な意見を書く
    ・「大人」の立場からは、合理的な意見を書き、できれば「親」と「子供」の意見の調停につとめる
    4.紙の一番下まで、3人会話を続ける



     能動的想像法の紙上対話を、交流分析の3つの自我状態をつかってアレンジし、鼎談形式にしたもの。
     理想と現実や、ルールと欲望の間で煮詰まっているときなど、心の整理にも使える。

     
    ◯フォーカシング

    1.楽な姿勢で座り、目を閉じて、音に耳をすませる
    2.次の順番で、だんだんと自分の内側に意識を移していく
    (1)右足(右足の先)を感じる
    (2)左足(左足の先)を感じる
    (3)右手(右手の先)を感じる
    (4)左手(左手の先)を感じる
    (5)頭を感じる
    (6)両肩を感じる
    (7)おなか辺りに意識を集中する
    3.体の中の「何か」に名前をつける
    (1)体の中の他と違った感じに気づく。
    (2)その「何か」に名前をつける
    (3)その「何か」に声をかける、挨拶する
    (4)どうしても「何か」が感じられないなら先に名前をつけて呼びかける
    4.「何か」に質問する
    (1)取り組みたい課題がある場合は「◯◯さん、××のことなんだけど、どんなもんだろうね?」と言葉を使って質問できる。
    (2)取り組みたい課題がはっきりしない場合は「よく分からないんだけど、どういうことだろうね?」とでも問うてみる
    5.変化が起こるのを待つ
    6.変化に名前をつける



     フォーカシングは、ぶっちゃけて言えば、体内感覚を含む自分の中のノイズをテコにする方法である。
     些細な感覚を捕まえ、それにしっくりくる名前をつける、ことの繰り返しからできている。
     そこで使われる名前=言葉は「正しい」とは限らない。しかし、名付けることで少なくとも「前に」進むことができる


    ◯TAEマイセンテンスシート


     取り組もうとしている課題を以下のシートの①に書き、そうして課題についてどんな感じがするかを身体感覚として味わい、その感じを捕まえた上で、シートを埋めていく。

    mysentence.png



     このシートには、言葉にしがたいものを言語化するステップがいくつも組み込まれている。
     「この感じ」から生まれるつぶやきを書き出すこと、そこから短文を作り、あえて空白を空けてそこを埋めようとする言葉を召喚すること、言葉の辞書にある意味を超えた意味に注意を向けさせ、その言葉で本当に意味したかったことは何かを求めさせること、等など。
     
     用法としては、ヤング『アイデアのつくり方』のいうように、問題とデータにまみれた後や、長い時間考えてもうまくまとまらない時など、言葉にならないが何かもやもやしたものが自分の中に生まれてきた段階でステップに進むときなどにかなり役立つ。





    ◯KT法ーSA(状況分析)

    気になっていること重要性緊急性影響性順序課題予定
           
           
           
           


    1.「気になっていること」、「おかしいと感じていること」、「こうあって欲しいと思っていること」をおもいつくかぎり列挙していく。
    2.範囲の大きな関心事、複雑な関心事については、分解し、具体化/詳細化して、関心事の欄に書き足す。
    3.書きだした関心事のそれぞれについて、重要性、緊急性、影響性について高・中・低の3段階で評価していく。
    4.3の評価にもとづき、取り組む順序を決める
    5.まず分析が必要な課題か、それとも行動に取り組むべき課題かを決める。
    6.順序と課題にもとづき、具体的な予定(開始と締め切り)を決める。



     KT(ケプナー・トリゴー)法のSA(Situation Appraisal)は、状況を整理して課題を明確にするために行う、懸念・関心の棚卸しの方法である。
     絡みあう懸念・関心を明確化し、切り分け、評価し、順序付けし、必要ならKT法の他の分析手法(PA問題分析、DA決定分析、PPA潜在的問題分析)に橋渡しするハブの機能を担う。
     我々の心を悩ます懸念や、心を捉える関心は、複雑に絡み合って、輪郭もはっきりしないことが多い。
     直観のアラームが、何かが起こっていること、何かしなけばならなそうなことを知らせている。しかし、それが何なのかが明確化できないと、良くて条件反射的に目についた問題をモグラ叩きして回るか、悪くすると右往左往するかパニックに陥るしかない。
     KT-SAは、KT法だけでなく、自分のはっきりしない懸念/関心を他のあらゆる思考ツールへとつなげてくれるハブになり得る。
     これは、自分の直観のアラームを、思考資源(リソース)化するツールである。





    ■1から複数へ

    ◎列挙する

     列挙法は、2つの原理的な利点をもっている。
     一つは「問題は分割せよ」という分割統治法の原理。
     もう一つは列挙することで問題に取り組む観点のモレ・ダブリを避けるMECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive)の原理である。


    ◯欠点列挙法

    1.検討するテーマやアイデアを一つ決める
    2.検討するテーマやアイデアについて、欠点/短所をできるだけ多く挙げていく
    3.列挙された欠点について重複を省き、主要なものを選び出す
    4.選び出された欠点について、改善法を考える



    ◯希望列挙法

    1.検討するテーマやアイデアを一つ決める
    2.検討するテーマやアイデアについて「こうだったらいいな」という希望点をできるだけ多く挙げていく
    3.列挙された希望点について重複を省き、主要なものを選び出す
    4.選び出された希望点について実現する方法を考える



    ◯属性列挙法

    1.改善すべきものを選ぶ
    2.改善すべきものの属性を列挙する
    この際、名詞的属性、形容詞的属性、動詞的属性という3分類が導きとなる
     名詞的属性……名詞によって表現される属性
      例:全体、部分、材料、製法など
     形容詞的属性……形容詞によって表現される属性
      例:性質(形状や軽重)、状態
     動詞的属性……動詞によって表現される属性
      例:機能
    3.ある程度、属性が列挙できたら、重複/類似している属性を一つにし、矛盾/対立する属性がある場合はどちらを選び、属性をまとめていく
    4.こうしてできた属性のリストを名詞的属性、形容詞的属性、動詞的属性という3分類に整理する
    5.完成した属性リストから、ひとつずつ属性を取り出し、属性ごとに改良したり変更したりして、改良のアイデアをつくる
    6.5でできたアイデアを組み合わせたり、追加してさらにアイデアを発展させる



     これらの列挙法は、元々は、製品(ハードウェア)の改良/改善などの技術的問題解決に用いられたものである。
     つまり「何でもいいから今までになかったものを」ではなく、満たすべき条件/要件に沿ったアイデアを求める方法である。
     



    ◎分析する

    ◯P.K.ディックの質問

    今あるアイデアについて「それは本当は何なのか?」と自問自答する



     ランダムに掴んだアイデアの種は、ほとんどの場合、どうしようもないどころか、なんの意味もないガラクタである。
     それでも繰り返すうちに、どこか光るもの、なにか引っかかるものが出てくる。
     フィリップ・K・ディックが繰り返した質問「それは本当は何なのか?」は、その《何か》をひっかけ引っ張りだす端緒となる。
     なんということはない言葉だが、思考する人は、ほとんど常にこの問を発し続け、答えを返し続けている。
    「それは本当は何なのか?」という問いは、思考の種が芽を出すように促す。
     もちろん思考の種とするのは、ランダムに選んだものであってもなくても構わない。


    ◯なぜなぜ分析

    今あるアイデアについて「それは何故か?」と自問自答することを5回繰り返す



     「なぜなぜ分析」の典拠は、トヨタ自工の元副社長大野耐一が著書『トヨタ生産方式』にある。
     
    「一つの事象に対して、五回の「なぜ」をぶつけてみたことはあるだろうか。」 更に、「五回の『なぜ』を自問自答することによって、ものごとの因果関係とか、その裏にひそむ本当の原因を突きとめることができる。」

     実を言うと、「なぜ?」を繰り返すことで、つかめるものは「真の原因」なるものではない。物事にはつねに複数の原因があり、そのひとつひとつも更に複数の原因があり、「なぜ?」を繰り返して掘り出されるのは無数に広がる遠因である。しかし我々の原因究明は普通拡散的とならず、半ば無意識に選択とふるい落としが行われ、ひとつかせいぜい数個の原因だけが追いかけられることになる。
     しかし繰り返し「何故」と問うことは無益ではない。少なくとも、表面的に現象を撫でていただけでは至れなかった領域にまで我々の思考を連れて行くことができる。


    ◯コンセプト・ファン

    1.紙の真ん中に最初の問題を書き、丸で囲む。
    2.そこから右側に放射線を描き、思いついた複数の解決策を線に沿って書く。
      この段階では解決策は実用的でもなければ、おもしろくもないものかもしれない。
    3.問題をより広い展望で捉え直すためにステップバックを行う。最初の問題について「その問題が生じたのはなぜか?」と問い、その原因や背景となっているより根源的な問題を、最初の問題の左側に書き、丸で囲む。
    4.ステップバックした問題から、右側に放射線を描き、思いついた複数の解決策を線に沿って書く。
    5.必要なだけ、3と4を繰り返す。一歩ずつより奥の問題へと視点を移し、その視点からの解決策を探っていく。



     「なぜ?」と問うことは、その始原や背景に立ち戻ることだ。《一つ手前》から考え直すことで、問題をより広い枠組みにおいて考えることができる。
     コンセプト・ファンは、始原や背景に立ち戻るだけでなく、そこから捉え直すことで見えてきたものを展開して、そうした探索の過程を扇状(fan)の図にして残していく。つまり、「原因究明」という儀礼でなく、視野を広げるという目的に自覚的である。
     大げさに言えば、なぜなぜ分析のプロセスが持っていた可能性を、まるごと書き残すことになる。



    ◯KT法ーPA(問題分析)

    側面確認事項IsケースIs Notケース相違点
    What対象   
    What現象   
    When年月日   
    When時間帯   
    When状況/条件   
    Where発生場所   
    Where発生箇所   
    HowMuch数量   
    HowMuch増減   
    HowMuch頻度/発生パターン   


    1.問題が生じたケース(Is ケース)と生じなかったケース(Is Notケース)を集める。
    2.問題が起こったケースと問題が起こらなかったケースについて、4つの側面(what/when/where/how much)についてデータを書き出す。
    3.問題が起こったケースと問題が起こらなかったケースを比較し、それぞれの側面について相違点を書き出す。
    4.相違点を参考に、問題発生の原因について複数の推測を立てる。
    5.問題が起こったケースと問題が起こらなかったケースのすべての側面について、原因推測のひとつひとつが成り立っているか否かをチェックする。



     ヒトは原因を知りたがる動物である。この傾向はとても強くて、単なる共変関係や相関関係にも、簡単に因果関係を見てしまうことにもつながっている。
     原因を求めすぎるせいで、我々が日頃行う原因究明は間違うことも少なくない。
     原因究明を改善する一つの方策は、現象が起こっている場合だけでなく、起こっていない場合にも注意を払い、両者を比較することである。しかし実際に生じた場合に注意が惹きつけられるのはヒトの仕様ともいうべきもので、むしろ自然であり、自然の傾向に逆らうのはなかなか難しい。
     KT法ーPA(問題分析)は、問題が生じたケース(Is ケース)と生じなかったケース(Is Notケース)について、4つの側面(What,When, Where, How(Much))について比較することで、原因をあぶり出そうとする。


    ◎違う(人の)視点で見る

    ◯if-then-beyond

    if
    もし〜ならば
    then
    こうなる
    (常識的な答え)
    beyond
    踏み越えた答え
    (脱常識的な答え)
       


    1.左の箱には「もし~だったら」という仮定を書く、
    2.真ん中の箱には、その仮定から予想される常識的な答えを
    3.右の箱には、それらを踏まえた/踏み越えた答えを書く。



     if-then-beyondは、アイデアを考える際の最小ユニットである。
     どのような技法であれ、無自覚であれ、この3ステップを繰り返し考えている。
     このことに自覚的になるだけで、どのような技法もクオリティを改善できる。
     あるいは「踏み越えた結果」を導くために、他のどの技法を使うこともできる(たとえば常識的な答えにSCAMPERを適用してみる等)。

     改めて書き出すことには、次のような意義がある。
    ・まず出てくる常識的/平凡な考えを明示化する。
    ・さまざまな変形技法の素材になるかもしれない。
    ・自分の思考の傾向/偏りが自覚できる
    ・それとは違った見方/考えが必要だと自覚できる


    ◯ルビッチならどうする?

    映画監督のビリー・ワイルダーは、次の言葉を自分のオフィスの壁に掲げていた。

     How would Lubitsch have done it?
    (ルビッチならどうする?)



     ワイルダーは絶えずこれを仰ぎ見て、自らの師であった名匠エルンスト・ルビッチ監督だったら、この映画をどう撮るだろうかと思いを巡らせ、インスピレーションを得た。



    ◯ヴァーチャル賢人会議

    1.目下の問題/テーマに対するドリームチームのメンバーを、世界的な第一人者から、あるいは、歴史的偉人たちから選ぶ。
    2.それぞれのメンバーがどんなアイデアを出してくれるか想像する(選んだメンバーの著作や伝記などを参考にするといい)。



     マイケル・マハルコは上記の「ルビッチならどうする?」メソッドをもっと贅沢にして、伝説の名経営者や歴史上の偉人たちからなるドリーム・チーム的な役員会(賢人会議)を招集し、重要な案件を検討してもらうという発想法を紹介している。いわば「◯◯と◯◯と……ならばどう考える? How would ◯◯ have thought it?」という、複数人分版だ。もちろん実際に名経営者や偉人を呼びつけるのは大変(おそらく不可能)だから、頭のなかで想像することでこれにかえるのだ。
     ヴァーチャル賢人会議をリアルに、そして実のあるものにするには、少々仕込みがいる。仮想的に呼びつける偉人たちについて、あなたがほとんど何も知らないならば、会議は失敗に終わるだろう。
     逆に、実際にあったことがなくても、あなたが惚れ込み著作その他を読み込んでいる偉人なら、その招集は成功するだろう。いつも「◯◯ならばどう考える?」といるような人物(ワイルダーにとってのルビッチのような)ならばいうことはない。


    ◯シックス・ハット法

    1.テーマを決める。
    2.それぞれのテーマについて、帽子をかぶった場合のそれぞれ視点からアイデアを発想する。
    ここでいう6つの帽子は以下のもの。
    ・白い帽子・・・客観的な視点
    ・黒い帽子・・・消極的な視点
    ・青い帽子・・・分析的な視点
    ・赤い帽子・・・感情的な視点
    ・黄色い帽子・・・積極的な視点
    ・緑の帽子・・・革新的な視点
    3.2を繰り返して、発想していく。




    ◯時間/空間マトリクス

    大きな紙(あるいはエクセルなどの表計算ソフト)を用意して、次のような表を作る。
    横軸は今日を起点とした未来への時間、縦軸は自分を中心とした空間の広がり、となっている。

    1日後1週間後1ヶ月後3ヶ月後半年後1年後5年後10年後30年後
    自分         
    家族         
    地域         
    職場・学校         
    日本         
    世界         


     この表のマス目を埋められるところから埋めていく。
     たとえば「半年後」と「日本」の軸が交わるマス目には「半年後の日本」がどうなっているかを考えて書く。
     時間的には今に近いほど、空間的には自分に近いほど、埋めやすい人が多いので、「一日後の自分」あたりから始めるといい。


     
     このマトリクスは、元々は自己省察のためのツールである。
     「自分」「家族」「仕事」「地域」「日本」「世界」という広がりの中で、未来を考えていける。自分だけでなく、未来の周りや社会との関わりの中で、見つめなおすことができる。
     逆に、考えなくてはならない問題が、今の自分から、少し離れている場合にも、このマトリクスは役立つ。目下、取り組まなければならない問題が「1年後の家族」や「10年後の日本」である場合にも、そのことだけでなく、周囲のマス目を埋めてみたり、今の自分からマス目を埋めていったりすることで、より広い観点から問題を見なおしたり、より身近な観点から自己関与的に問題を捉え返すことができる。



    ◯オズボーン・チェックリスト

    1.他への転用は?
    2.他の応用は?
    3.変更したら?
    4.拡大したら?
    5.縮小したら?
    6.代用したら?
    7.再配列・アレンジしたら?
    8.逆転したら?
    9.結合させたら?



    ◯ABWアイデア開発リスト

    1.慣習や伝統、常態の逆を考える
    2.特徴を新語・古語・奇想語で表現する
    3.特徴が静的なら動的表現になおす
    4.特徴が動的なら静的表現になおす
    5.特徴や対象について通常の配列を変える
    6.特徴を次に結びつけるー動き、肉体、力、重さ、エネルギー、味、色、臭い、温度など
    7.特徴を次に結び付けるー抽選、推理ゲーム、パズル、謎、ギフト、質問票など
    8.特徴を次の状態の引き起こしで考えるー驚き、挑戦、愉快、当惑、誘惑、ショック
    9.特徴を次に関連させるー幸福、魔法、運命、名声、因果、火、水、神秘、土、宇宙、生命
    10.特徴を次に結びつけるー旅、スポーツ、余暇、性、想像、官能、働き、安全
    11.次の点より考えるー成功、達成、幸運、名誉、感謝、不調和、歪曲、誇張、意外
    12.特徴を擬化するー人間、動物、静物、超人的なもの、機械など



    ABWはアメリカビジネスライティング協会の略


    ◯SCAMPER法

    (S)Substitude(代用)
    (C)Combine(結合)
    (A)Adapt(応用)
    (M)Modify(修正)
    (P)Put to other users(その他の使い道)
    (E)Eliminate or minify(削除 or 削減)
    (R)Reverse or Rearrange(逆説 or 再編成)




    ◎似ているものから考える

    ◯ゴードン法

    1.課題を抽象化したキーワードを決める
    例:新型缶切りの開発 →キーワード「開ける」
    2.キーワードに関するあらゆる方法を列挙する
    例:キーワード「開ける」→あらゆる開け方を考え、できるだけたくさんリストアップする
    3.リストアップされた方法を使って、課題の解決法を考える




    ◯シネクティクス

    類比発想を行う際に次の3種類の類比をつかう
    (1)直接的類比 Direct Analogy
    直接的に似たものを探す。自然界から似たものを探すことが推奨される。
    (2)擬人的類比 Personal Analogy
    問題の要素に自分を同一化して(なりきって)考える。なりきった自分に様々な質問を投げかけるとよい。
    (3)象徴的類比 Symbolic Analogy
    お伽話やことわざなどをヒントに象徴的なアナロジーを考える
    問題を一冊の本と考え、それに簡潔で喚起的・魅力的なタイトルを考えて、そのタイトルからアナロジーを考える(ブックタイトル法)




    ◯等価変換法

    1.課題を定める
    2.課題の解決に解決に役立ちそうな観点を選択する
    3.観点を動詞化して、本質を抽出する。
    4.本質を含む多数の事例をあつめる(これが等価なものである)
    5.事例を一つ選び、事例に特有の条件を取り除き、事例の中で課題解決にも適用できる一般性のある条件を抽出する(これが等価交換で得られるアイデアである)
    6.得られた〈一般性ある条件〉を問題解決に適用してみる
    7.目標が達成できなければ、5に戻り(必要なら4、さらに2へ戻り)繰り返す



     たとえば、木の葉とクーラーは、冷却という〈観点〉から見れば、共通点を持つ等価なものである。
     木の葉から、木の葉に特有の「植物の一部であること」等の条件を取り除くと、残るのは「水分を蒸発させて気化熱で冷却する」という一般性のある条件が残る。
     これに機械としての特有の条件を組み合わせると、クーラーとなる。
     
     これを引き算を使った等式で表現してみると、次のようになる。
     
     木の葉 - 植物であること = 気化熱による冷却 = クーラー - 機械であること
     
     この等式的な発想を、アイデアづくりに使うのが等価変換法である。
     
     実際の手順は、目標実現/課題解決に使えそうな観点(今の例では「冷却」)を選び、これを「冷却すること」と動詞化して、「何かを冷却するもの」(事例)を集めるところから始める。
     有望そうな事例の一つを選び、その事例特有の条件を捨象していく中で、一般性のある条件を残すと、上の例だと「木の葉」という事例から、「水分を蒸発させて気化熱で冷却する」という一般性のある条件が残り、これをアイデアとして問題解決に用いていくのである。



    ◯レトリック発想法

    元になるテーマやアイデアについて、次の質問を自問自答する
    シネクドキ発想:「それは何の一種か?」「その例は何か?」
    メトニミー発想:「それと共にあるのは何か?」
    メタファー発想:「それと似ているのは何か?」
    アナロジー発想:「それに対応するのは何か?」





    ◯NM法T型

    1.課題を抽象化したキーワードを決める
    例:新型缶切りの開発 →キーワード「開ける」
    2.QA(Question of Analogy)
    キーワードについて「たとえば……のような?」と問いかけ、類比になる実例を集める
    3.QB(Question of Background)
    類比実例について「そこで何が起きているのか?」と問いかけ、背景を探る
    4.QC(Question of Concept)
    背景に出てきたイメージをヒントに「それは何かの役に立たないか」と問いかけ、課題の解決法を考える



     今回リストに上げた方法の内、このブログを書き手がデフォルトで使っているのがこれである。

     NM法は自分の頭のなかをサルベージする方法である。
     問題の中には、今の自分が知らないだけで、世の中に解き方/取り組み方が既に存在するものも少なくない。そうした場合は、自分の中をごそごそ探るよりも、調べ物をした方が速いことも多い。
     また理詰めで一歩一歩分析していけばちゃんと解けるものもある。これらの正攻法はおろそかにすべきではない。
     しかし調べ物するのを待ってはくれず、正攻法では歯がたたない問題もある。
     新しい考え(アイデア)を必要とするのはそうした問題だ。

     NM法は頭の中にあるリソースを使う方法だが、それが役立つのは、リソースをいつもとは(そして蓄えた時予想していたのとは)異なる仕方で呼び出す/異なる角度で読み出すからだ。
     実は、普通にNM法T型を用いると、最後のQCから出てくる答えは「既存の名案」となりやすい。とくにその分野の問題解決に精通した玄人はそうなりやすい。
     原因は、広がったイメージを今解こうとしている問題解決に着地させるQCのステップにある。QKで問題のおかれたコンテキスト(文脈・状況)を離脱し、QA→QBでアナロギーを梃子にして広がった発想が、お題の問題解決に役立てようとすることで引っ張り戻されるのだ。QCという質問が、脳裏から当てはまりそうな解決策をサルベージしてくるのだ、ともいえる。ときどき、うんうん考えるだけでは意識にのぼってこない「既存の解決策」が、QCという質問に促されて出てくる。








    ■複数から多へ

    ◎異なる要素を掛け合わせる

    ◯一対連関法

    1.ふたつのもの、アイデア、対象を選ぶ(これをAとBとしよう)
    2.AとBのひとつずつをスタートに据えて、連想を広げる
    3.Aからの連想で得たもの、Bからの連想で得たものを、1つずつ組み合わせて新しいアイデアを得る




    ◯さくらんぼ分割法

    1.課題を簡潔に「◯◯を△△する」と2語で表現する。
    2.表現の2語◯◯と△△について、それぞれ属性を考え、2つの属性に分割する
    3.それぞれの属性について、さらに属性を考え、2つの属性に分割する。これを十分だと思うまで繰り返す。
    4.分割してできたたくさんの属性から、好きに組み合わせて新しいアイデアをつくる。

    さくらんぼの収穫



    この方法は、課題についての固定化された見方を、属性への分解を繰り返すことで解体し、自由な発想を可能にする環境を作り出す。


    ◯関係アルゴリズム

    1.キーワードを選び、ディスクAおよびCに記入せよ
    2.ディスクA,B,Cを切り抜き、ディスクB(関係ディスク)の上にディスクCを中心を揃えて置き、それらをディスクAに中心を揃えて置く。中心をペーパーファスナーなどで止めること。下図のようなものが完成する。
    3.ディスクCやディスクB(関係ディスク)を回すことで、既存のキーワードを新たな関係に置く事ができる。

    関係ワード
    ディスクB(関係ディスク)に書かれているのは、ベーシックイングリッシュ850語の中から、2つのアイテムを結びつけるのに用いられる42語をCrovitz, H. F.が抜き出したものである。以下に、全42語をリストアップした。

    【A about B】 ……Bの回りにA
    【A across B】 ……Bを横切ってA
    【A after B】 ……Bの後にA
    【A against B】 ……Bに対して(対抗して/背景にして)A
    【A among B】 ……Bに囲まれてA
    【A and B】 ……Bと並列してA
    【A as B】 ……Bのように見なしてA
    【A at B】 ……BにおいてA
    【A because B】 ……BだからA
    【A before B】 ……Bの前にA
    【A between B】 ……Bの間にA
    【A but B】 ……BではなくA
    【A by B】 ……Bの側にA
    【A down B】 ……Bの下にA
    【A for B】 ……Bのために/向かってA
    【A from B】 ……AからBへ
    【A if B】 ……もしBならばA
    【A in B】 ……Bの中にA
    【A near B】 ……Bの近くにA
    【A not B】 ……AでありBでない
    【A now B】 ……Bと同時にA
    【A of B】 ……Bの一部としてA
    【A off B】 ……Bから離れてA
    【A on B】 ……BとくっついてA
    【A opposite B】 ……Bの反対にA
    【A or B】 ……AまたはB
    【A out B】 ……Bから外にA
    【A over B】 ……Bを越えてA
    【A round B】 ……Bを囲んでA
    【A so B】 ……AもまたBと同様
    【A still B】 ……BにもかかわらずA
    【A then B】 ……Aその後B
    【A though B】 ……Bを通ってA
    【A through B】 ……BだけれどA
    【A till B】 ……BするまではA
    【A to B】 ……AからBへ
    【A under B】 ……Bの下にA
    【A up B】 ……Bの上にA
    【A when B】 ……BのときA
    【A where B】 ……BするところでA
    【A while B】 ……Bしている間はA
    【A with B】 ……BとともにA










    ◎異なる視点を掛け合わせる

    ◯ダ・ヴィンチの組み合わせ術

    1.課題解決に必要なパラメータを複数あげる。
    2.各パラメータごとに、バリエーションをできるだけ多くあげて表をつくる。
    3.表全体を見回して、各パラメータの列から1つ以上のバリエーションを選んで、新しい組み合わせをつくる。



     レオナルド・ダ・ヴィンチは、たとえば人物の顔を描く時、誰か特定のモデルを使うのではなく、顔の部位(目・鼻・口・顎・…)ごとに収集した特徴のリストの中から選び出して、様々な組み合わせをつくって、納得いくものが見つかるまで、この作業を続けた。
     このやり方は、もっと広い分野の問題解決に活用できる。
     既存の解決策を(顔を目・鼻・口・顎の部位ごとに分けたように)複数のパラメータに分割できるなら、分割したパラメータごとにバリエーションを考えれば、多数の組み合わせが、たとえば10のパラメータごとに10のバリエーションができれば10×10=10010の10乗通りの組み合わせができる。



    ◯形態分析法

    1.解決すべき問題を明確にする
    2.問題の解決に関係のありそうな要素(独立変数)と思われるものを列挙する。
    3.洗い出した要素を、同類毎にグルーピングして複数の軸をつくる。
    4.複数の軸を掛けあわせて、すべての要素の組み合わせを一覧できる形態分析チャートをつくる。
    5.すべての組み合わせについて解決策を検討して評価する。



     形態分析法は、宇宙工学者のフリッツ・ズィッキーが開発したもので、その眼目は、問題解決における人の先入観や事前評価を回避するところにある。
     したがって、この方法では、解決すべき問題を、ありとあらゆる組み合わせを検討することで扱う。
     


    ◯TAE交差表

    (1)交差シートの表の左端に、事例・パターンの組が縦方向に並べる。これが〈A.交差される側〉になる。
    (2)表の上端に、パターンの組が横方向に並べる。これが〈B.交差する側〉になる。
    (3)交差したマス目ひとつずつについて、次のような問いについて自答したものを書き入れていく。
    問1:A交差される事例・パターンの中の何がB交差するパターンに似ているか?
    問2:A交差される事例・パターンの中の何が、B交差するパターンの問いに答えるか?
    問3:B交差するパターンから見ると(パターンの《メガネ》をかけると)、A交差される事例・パターンはどのようなものだといえるか?
    問4:A交差される事例・パターンとかけまして、B交差するパターンと解く、そのこころは?

    tubuyaki-cross.png
    (クリックで拡大)




     交差シートとは、事例・パターン×パターンのクロスしたマトリクスであり、すべての事例・パターンに、すべてのパターンをぶつける形になっている。
     交差シートを埋めていく中、パターンの形でゆるく抽象化した事例と事例を互いにぶつけ合うことで、事例・パターンについてさまざまな側面から検討する機会をつくりだす。
     これは自分だけでは思いつけない側面・観点から事例を検討することであり、たくさんの発見・気付きを生み、様々なアイデアやそれを評価する観点を作り出す作業である。
    「気づき」とは、どこかに隠れている何かを探して見つかるものではなく、いろいろな観点がぶつかり合い交差する中で生まれてくるものなのである。

     類似のものに、以下のマトリクス法がある。


    ◯マトリクス法

    1.解決すべき問題を明確にする
    2.問題の解決に関係のありそうな側面を列挙する。
    3.列挙した中から2つの側面を選び、側面ごとにあり得る要素を列挙する。
    4.一つの側面の要素を縦軸に、もうひとつの側面の要素を横軸に並べてマトリクスをつくる。
    5.すべての組み合わせについて検討しマトリクスのそれぞれのマスに書き込んでいく。









    ■多から少へ

     兵は拙速を尊び、創案は拙多を尊ぶ。
     とにかく数を稼ぐことが次に繋がる。
     しかし、アイデアというものは、大抵はそのままでは使えないクズだ。選び出し、磨き、そして組み合わすことで、実用にこぎつける必要がある。
     増やし続ける段階を過ぎて、創案の峠を再び下る段階がやって来る。
     アイデアの数を減らすために、まずは多すぎるアイデアを取り扱えるようにまとめる必要がある。
     この作業は単なる事後処理ではない。本当に重要なアイデアは、このアイデアの並び方を変える〈移し替え〉の中でこそ生まれる。膨大な〈量〉はこの中で〈質〉に転嫁する。
     膨大な数をアウトプットした後、あなたの無意識はようやく温まり、あなたが目指す方向へと進みだす。
     まとめ作業は、創造的無意識が自身を映す水面である。


    ◎空間的にまとめる

    ◯ただ大きくて白い紙

    1.模造紙を広げる、あるいは壁に貼る。
    2.中心からはじめて、紙の端にたどり着くまで、とにかくなんでもいいので書き/描きつづける。
    3.端についたら、再び中心からはじめて端にたどり着くまで書き/描きつづける。これを繰り返す。



     物理的制約が思考に与える影響は思った以上に大きい。
     これを逆手に取れば、物理的制約をコントロールすることで思考の働きをコントロールできる。
     普段使いのノートやタブレットより、ずっと大きなスペースを相手にするだけで、思考は変わってくる。
     やったことのない人にとって、模造紙大のスペースは時に恐れを抱かせるものだが、その非日常性こそ望むところだ。逆にこの手の大きさに既に慣れている人は、会議室の机を脇に寄せて模造紙を貼りあわせるなど、より広いスペースが必要かもしれない。
     
     書き続けるうちに、かなり簡単にシンキング・ハイとでもいう感覚に陥る。



    ◯KJ法A型

    1.アイデアやデータを1項目1枚のカードにする
     カードの内容は短くても必ず文章にしておく。
    2.すべてのカードを眺めて、最も近いカード同士を集める。
     カードを集める際には、既成概念による分類にならないようにする。
    3.カードが集まりグループができたら、グループごとにそれらのカードが何故集まったのか、その由縁を文章化して〈表札〉をつくる。〈表札〉を表にして集まったカードを重ねる。
    4.同様の要領で、グループをつくり、グループ同士も更に上位のグループにまとめていく。
     最終的に束ねたグループが数束、多くても10束になるまで、この作業をつづける。
    5.模造紙などの大きな紙の上で、まず最上位の数束を配置し、そこから順序、その束に含まれる束を取り出し配置していく。
     束を配置する際に、最善の位置になるよう、それぞれの位置を調整する。
    6.配置を終えたら、群ごとに囲む形で島取りを描き、〈表札〉を転記していく。そして島の間の関係を関係線で表示する。




    ◎ツリー状にまとめる

    ◯マインドマップ

    1.マインドマップ化するためのトピックや問題、課題などを選択する。
    2.中央に枠無しのイメージを配置する。
    3.立体的な(幅・長さ・太さや狭さ・高さなどを用いた)図形、表現、そして最低3色以上の色を使って中央のイメージを完成させる。
    4.中心に近いところに、”波状”の(もしくは有機的な)イメージを持った太めの枝を作り、包括的な基本的アイディア(BOIs)か”章の見出し”を枝の上に配置する。
    5.BOIsの枝の端からそれよりも細めの線を引き、その上にサポートするデータを配置する。
    6.絵やアイコンなどイメージを可能な限りいたるところに用いる。
    7.イメージや言葉は同じ長さのライン上に配置する。
    8.色を使うことで特定の人・トピック・テーマ・データを表したり、マインド・マップをより美しいものにする。
    9.(あなた自身もしくは他人のものであれ)アイディアをつかみ、編集し、組織化し、そして思考の第二段階として複雑もしくは明確により美しく作りあげる。(場合によっては、別な紙にマインドマップを描きなおす)




    ◯特性要因図(フィッシュボーン・ダイアグラム)

    1.特性を決める
    特性(=結果)を決め、右端に端的な言葉で書き表し、大きく枠で囲っておく。
    解決したい問題やなんとかしたい不都合を分析する場合は、特性とは、問題があることによって生じる結果のことである。たとえば「売上低迷」とか「パイプからのオイル漏れ」などがこれにあたる。
    何か求めるもの(成果や目標)がある場合には、それを特性としてもよい。たとえば「数学の成績向上」だとか「創造的な組織づくり」などがこれにあたる。
    2.大骨を記入する
    右端に書いた特性から左端までまっすぐ線を描く。これを魚の背骨に見立てて、大骨を加えていく。大骨の先に選んだ要因の分類を枠で囲んで書く。
    特性に影響を与える要因(=問題の原因)を考える。詳細は後回しにして、まず大きな要因を考えていく。これはより詳細な要因を考える際に、思考を導く要因の大分類になる。大分類は普通3つ〜6つくらいになる。
    よく使われる大分類には、工程別や5M(Man:人、Machine:機械設備、Material:材料、Method:作業方法、Measurement:測定)などがある。
    3.中骨、小骨を記入する
    大骨の要因は、大まかな特性であり、具体的なレベルに要因を掘り下げる必要がある。要因を具体化・詳細化していき、出てきたものを中骨、さらに小骨の要因を書きこんでいく。
    要因の詳細化には「何故そうなのか?」や「それを実現するには何が必要か?」といった問いが導きになる。具体的な対策がとれるレベルまでこの掘り下げを進める。
    4.要因の確認
    こうしてできた特性要因図を点検し、漏れはないか、また特性と要因の関係が確かであるかをチェックし、必要な修正や追加をして仕上げる。
    5.重みづけ
    完成した特性要因図を見直し、影響が大きいと思われる要因を選んでいく。選んだ要因は枠で囲むなどして目立たせる。
    必要なら、そうした重要要因を特性として、さらに特性要因図を作成する。



     特性要因図(フィッシュボーン・ダイアグラム)は、原因と結果の関係を目に見える形にし、網羅的に検討するのに役立つ。
     ひとつの要因について更に掘り下げるのにも使えるし、どの部分で自分の知識/関心/アイデアが手薄かを知るのにも役立つ。書き出すうちに、自分が意識していなかった知識や認識やアイデアを持っていたことにも気づくだろう。また欠けている/不足している部分が明示化されることで、アタマの中の創案回路が活性化される。



    ◎表状にまとめる

    ◯セブンクロス法

    1.これまでに出てきたアイデアを分類して7つ程度のグループにし、分類名をつける。
    2.左から重要な順にヨコ7列に分類したアイデアを並べる。
    3.続いて各列の中で、上から重要な順に並べ替える



    横軸に課題を、縦軸にそれぞれの課題についての解決策を、という風に異なる軸で整理することもできる
    セブンクロス法ーマジックナンバー7から



    ◎線状・時系列にまとめる

    ◯KJ法B型

    1.KJ法A型で、大きな模造紙の上にカードを配置し、島取りと関係線を描いたものを元にして
    2.その内容を順番に読み解くように、文章化していく。



      KJ法の肝は、カードを平面上にグルーピングして関連付けるKJ法A型よりも、そうして図式化したものを文章という線状構造に落としこむKJ法B型にある。
     図解を文章に変換する際に、不足や飛躍が明らかになる。そして、それらを補おうとしてかかる圧力が、思っても見なかった良きアイデアを召喚する。


    ◯こざね法

    1.こざね(小札=小さな紙切れ)にアイデアを1枚につき1項目ずつ書き出す
    2.こざねを並べ替え、論理的に関連があるものをまとめていく
    3.まとまったこざねを論理的に脈絡の通る順に並べ替えて端を重ねホッチキス等で止める
    4.こざねの列を並べ替えてまとめて見出しをつける
    5.見出しを眺め全体の構成を考えて並べ替え、最後は文章にまとめる



    「わたしがここに紹介したこざね法というのは、単数個人用の、いわば密室むき知的生産技術であって、川喜田君の体系でいえば、比較的素朴で、初歩的な技法に属する。かれの体系のなかでは、「KJ法B型による文章化」とよばれているものと、ほぼおなじである。」(梅棹忠夫『知的生産の技術』岩波新書)

     こざね法は、KJ法よりも簡便で、短い時間で成果が出る方法である。
     急いで文章を書き上げなくてはならない時、個人的な経験でいうと、この方法が最速だった。



    ◯ストーリー法

    1.データやアイデアを1項目ごとに1枚のカードに書き出す
    2.書きだしたカードを一望できるように広げる
    3.大きな紙を左・中・右の3列に分ける
    4.カードの中からストーリーになりそうなもの、時系列に並べられるものを取り出し、真ん中の列に上から下へ時間順に並べる
    5.真ん中の列に並べたカードのそれぞれについて、同時に行うものや付帯しそうなカードをその左右に並べる。
    (1)中央のカードに対して前置的な(準備や条件に当たる)事項のカードは左側に置く
    (2)中央のカードに対して後置的な(結果や副作用に当たる)事項のカードは右側に置く
    6.カードを並べていくと不足する箇所が出てくるので、必要な事項をカードに記入し追加していく
    7.ストーリーとしてできあがったらグループ化や関連づけの矢印などを書き加える



    ※すべてのカードを使いきらなくてもよい。


    ◯テヅカチャート

    1.ひとつの出来事について
    (1)「それからどうなった?」(その結果・未来)
    (2)「その前はどうだった?」(その原因・過去)
    をそれぞれ複数考える。
    2.「それからどうなった?」(その結果・未来)で考えだした出来事を、青色の矢印を下に伸ばして、その先に書く。
    3.「その前はどうだった?」(その原因・過去)で考えだした出来事を、赤色の矢印を上に伸ばして、その先に書く。
    4.考えだした出来事のそれぞれについて、1〜3を繰り返していく。

    teduka.png



     テヅカチャートは、手塚治虫が『漫画の描き方』の中で、アイデアのつくり方に触れて紹介している手法である。
     アイデアを時系列に並べて発展させるのに最適なツールである。
     分岐する出来事/物語系のデータを扱うのに最適。
     分岐をそのまま残しておいて、発展させられる。
     ストーリーのつながりを一望化できるので、矛盾や飛躍やご都合主義に気付きやすく修正しやすい。

     一連のストーリーを上から下に出来事をつないで書いておいて、それぞれの出来事から「それからどうなった?」(その結果・未来)と「その前はどうだった?」(その原因・過去)を派生させていくのもよい。










    ■少から1へ

    ◎比較して選ぶ

    ◯フランクリンの表

    1.まず紙の真中に縦の線を一本引く
    2.そして、いま決定したい事項について、賛成する理由を線の左側に、反対する理由を線の右側に、それぞれ書いていく。
     フランクリンは、この作業に時間をかけるよう勧めている。「数日に渡り,折に触れては、賛成の側、反対の側それぞれに、理由を追加していくようにと。
    3.一通り出尽くしたところで、今度は個々の(賛成・反対)理由について、重要度(重み)をつけていく。ひとつの賛成理由とひとつの反対理由を、場合によってはひとつの理由と複数の理由を(同じ重みのプラス、マイナスが異なるものとして)相殺していく。
    4.やがて(数日後)どちらの側にも変化がなくなったところで、残された項目によって、賛成か反対か(たとえばある計画を実行するか否か)について決定を下すことができる。






    ◎順位をつける

    ◯多項目ランキング

    0.複数の選択肢からひとつを選ばなければならない場合
    1.評価軸となる項目を数個選ぶ
     例:コスト、効果、
    2.評価軸ごとに、複数の選択肢について、1位から最下位までランキングをつける
    3.選択肢ごとにランキング順位を集計して、総合得点で上位のものを選ぶ




    ◯KT法ーDA(決定分析)

    MUST選択肢1選択肢2選択肢3…
    条件1   
    条件2   
    条件3   
       
    WANTウエイト相対評価積算相対評価積算相対評価積算
    目標1       
    目標2       
    目標3       
           


    1.必ず満たしてなければならない条件をMUST条件として複数あげる。
    2.できれば満たしていた方が望ましい目標をWANT目標として複数あげ、重要さに応じてウェイトをつける。
    3.選択肢それぞれについて、MUST条件を満たしているかチェックし、満たしてない選択肢を除く。
    4.選択肢それぞれについて、WANT目標について相対評価し、相対評価にウェイトを掛け、積算に記入する。
    5.選択肢それぞれについて、WANT目標の積算を合計し、最も多い点がついたものを選ぶ。



     
     0(ゼロ)を1にすることは、1を2にしたり2を4にしたりするよりも難しい。
     
     アイデア発想法の多くは、「〜についてのアイデアを出そう」という目的で使うものである。
     テーマが外から与えられる状況下で進化してきたものなので無理もない。

    半時間で108のアイデアを生む/後処理をにらんだブレイン・ライティングの工夫その他 読書猿Classic: between / beyond readers 半時間で108のアイデアを生む/後処理をにらんだブレイン・ライティングの工夫その他 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加
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    アイデアが降りてこないあなたを神様に助けさせる7つの道具 読書猿Classic: between / beyond readers アイデアが降りてこないあなたを神様に助けさせる7つの道具 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加

     
     問題は、何をするかも、どっちへ進むかも、決まってない場合である。

     以前は、昔書いたメモや文章を読み返すか、辞書や書物をランダムに開くか、散歩など他のことをするかしながら、何か思いつくまで待つくらいしかしてなかった。

    発明王はここまでやる→エジソンのすごいノート 読書猿Classic: between / beyond readers 発明王はここまでやる→エジソンのすごいノート 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加


     しかし少し前に紹介した、まだうまく言葉にならないものを捕まえるための方法にTAE(Thinking At the Edge)がある。これを使うともう少し組織的かつルーティン的に「0(ゼロ)からはじめる」ことに取り組める。
     
     何を書くかは身体に尋ねる-言葉にならないところから理論を立ち上げるThinking At the Edgeという方法 読書猿Classic: between / beyond readers 何を書くかは身体に尋ねる-言葉にならないところから理論を立ち上げるThinking At the Edgeという方法 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加
     
     最初はTAEをフルセットに近い形でやっていたのだが、どんどん手を抜くようになって、最近は以下の簡易な方法に落ち着いている。


     なお、この方法は、
    書くのに必要なすべてのものー野田のフロー(流れ)図と創作系記事まとめ 読書猿Classic: between / beyond readers 書くのに必要なすべてのものー野田のフロー(流れ)図と創作系記事まとめ 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加
    で触れた

    a.コモンセンスを獲得する全方位読書〜A.書きたいもの/書く動機
    の中の
    ・精神に逆目を立ててくれるような、苦手な分野、嫌いな作家の本を手に取る

     とくに好きでもない書物、どうしても好きになれない作品は、あなたが何を書きたいのかを教えてくれる可能性が高い。
     「いやいやいや、そうじゃないだろ!」と思わず叫んだ箇所、どうしても納得できない部分に突き当たったなら、それこそがあなたが書きたいと思う何かであり、少なくともその方向を示す断片である。
     自分を広げる読書の中で、とくに自分が「否」と叫びたくなるものを読む中で、自分が本当は何を書きたいのかを発見する。

    を手続化・方法化したものである。

     
     
    1.自分を炎上させる言葉からはじめる

     最初に「呼び水となる1文」を用意する。
     この「呼び水となる1文」は、書けるなら自分で書いてもいい。
     しかし自分で書けるくらいだったら、0(ゼロ)からはじめることにはならない。
     
     ここは言葉が出てくるきっかけになりさえすれば、何でもかまわない。
     名言名句や「うまいこという」と自分が感心するようなフレーズよりもむしろ、カチンとくる(腹が立つ)ものとか、「これはひどい」と思うような1文を選んだ方が、言葉(文句)が出て来やすい。
     
     一言で言えば「自分を炎上させる言葉を選ぶ」といった感じである
     
    ※では、実際に巷で炎上を引き起こしている発言がベストかといえばそうではなくて、文脈から切り離して持ってくると何てことはないフレーズであることが多く(状況×発言者×言葉遣い×内容の合わせ技が炎上発言を成り立たせるほとんどすべてであり、内容だけの比重を考えると案外軽いことが分かる)、あまり自分を炎上させてはくれないようである。
     
     
     ネットで何か書いている人なら、自分を批判するコメントの類をストックしておく。
     書いても仕方がないと思いながらも思わず反論してしまいたくなるようなのが、最も言葉が湧き出てくる。
     他の人宛の言葉でも、思わず噛みつきたくなるような言葉なら、同様に使える。
     
     「自分を炎上させる言葉」は、自分の価値観やものの見方と食い違うものであることが多い。
     お手軽なのは、たとえば思想信条の違う/対立する人たちが書いたものから探すことである。
     
     その発言の内部で〈食い違い〉を含む矛盾した文も「それが本当は正しいとしたらどういうことか?」という問いとセットにすると、呼び水となる言葉として使える。「本当は正しいとしたら」を持ち続けるのが少し労力がいるが、これができるなら、禅の公案のようなものも使えるようになる。


     こうして溢れ出た悪感情まみれの言葉は、以下の数ステップの間に濾過/蒸留されて、アイデアに精製される。

     「自分を炎上させる言葉」に、書くのを辞めたくなるような言葉を選ぶのは、その善用であり供養である。



    2.沸き起こる言葉を手を止めず書き出す

     自分の中から言葉が湧き上がる〈呼び水となる1文〉を選んだはずなので、その1文を目にして出てくる言葉をとにかく書き留めていく。
     
     そのまま外に出すわけではないので、手を止めたり、書いたことを反省したりはしない。
     うまい表現にはならず、まともな文にもならないかもしれませんが、単語であっても、時にはうなり声であっても、とにかく書き出す。
     外には出せないような罵詈雑言や汚い言葉も書き留める。
     同じような言葉が繰り返し出てきても構わないので、そのまま書き出ていく。
     
     この段階ではそれほど時間を使いたくないので、あまりたくさん書かなくてもいい。
     言葉が途切れて来たら、次のステップへ進む。
     


    3.書き出した〈ぶつくさ〉に線を引く


     2.で書き出した言葉の羅列を読み返します。
     
     「これは、さっきのと似てる」「また同じ事を言ってる」というところに線を引いたり囲んだり印をつけたりしていく。
     重要そうと思えるところにも、線を引いたり囲んだり印をつけたりしていく。
     

     そして線・囲み・印をついた部分から、テーマや方向性とすべきキーワードを拾い出す。
     

     ここまで来れば、今後の調べものやアイデア出しのテーマや方向性、少なくともその候補ぐらいは手に入る。
     
    yobimizu.png
     

     
    4.拾い上げた項目を交差Crossingさせる


     3.で拾えたのはせいぜい思いつきだが、さらに掘り下げるにはもう1ステップ加える。


     線・囲み・印をついた部分から、なるべく異なるものを3つくらい選ぶ。
     3つの項目を拾った場合は、3×3のマス目を埋めることになる。
     
     3つ以上選んでもかまいませんが、拾い上げる項目が増えると、交差表は大きくなり埋めるマス目の数は急激に増えて時間がかかるようになる。
     より複雑なものや大物を狙うなら3つより多めを、そうでないなら3つだけを拾うことにして先に進む。
     中の人の現有能力では、手間対効果を考えると3×3ぐらいがちょうど良いようである。

     こうして選んだ3つ(以上)の項目をつかって下のような交差表をつくる。
     左端と上端に並んだ項目を掛け合わせてマス目を埋めていく。
     
     
    tubuyaki-cross.png

     

     これはTAEで出てくるパターン交差の流用である。
     
     交差させる項目はできるだけ異なるものを選んだ。
     いわば思いつきの中の極端なもの同士を掛け合わせることで、思いつきに含まれているがはっきりとは現れていないものを現前化させる試みである。
     
     これは自分のつぶやきのそれぞれを、異なる角度から見なおしてみることでもある。 
     個々の思いつきには、その内容と共に、その内容を支える前提や視点が(多くは暗黙的・陰伏的に)含まれている。
     異なる思いつきを掛け合わせることは、異なる内容と前提・視点を強引に組み合わせることで、暗黙的・陰伏的だった部分を表面に浮かび上がらせる。
     
     また 自分を炎上させる言葉に惹起させられて出てきたつぶやきは、勢いはあるかわりに冷静さに欠け視野がせまいものになりがちである。
     異なる前提・視点と結び合わせることは、視野を広げ、冷静さを取り戻すプロセスでもある。
     
     
     どのように「掛け合わせ」て何を書き込むかは自由であり、異なる項目を結び付けようとするだけで(特にそれぞれの項目が大きく異なっている場合には)言葉が浮かんでくることも珍しくない。
     しかし一応のガイドライン(導きの質問)としては次のようなものがある。

    ・〈左端の項目〉と〈上端の項目〉は、どこが似ているか?
    ・〈左端の項目〉と〈上端の項目〉は、どこが異なるか?
    ・〈左端の項目〉の視点から見て〈上端の項目〉はどう見える?
    ・・〈左端の項目〉と主張する人は、〈上端の項目〉をどう思うか?
    ・〈左端の項目〉の中の何が、〈上端の項目〉を問いとした時の、答えになっているか?
    ・〈左端の項目〉と掛けて〈上端の項目〉と解く、その心は?

     交差シートのマス目は必ずしもすべて埋める必要はない。
     交差する中で「これは!」というものが出てくれば、目的は達したので先に進んで構わない。 
     ただ、作りかけの交差シートは保存しておこう。
     いつか空いているマス目を埋めようとすることで、今は気付かず思いつかなかったアイデアが浮かぶことが結構ある。


    (参考文献)
    TAEによる文章表現ワークブック―エッセイ、自己PR、小論文、研究レポート…、人に伝わる自分の言葉をつかむ25ステップTAEによる文章表現ワークブック―エッセイ、自己PR、小論文、研究レポート…、人に伝わる自分の言葉をつかむ25ステップ
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     今回取り上げるThinking At the Edge(以下、TAEと表記する)は、言葉にならないもやもやした感じを言葉にする方法であり、そこからさらに、雑多だが豊かな非定型データ・資料と取っ組み合い、理論(仮説)を立ち上げるまで進むことができる方法論である。

    ※直訳すれば「辺縁で考える」となるが、ドイツ語では「Wo Noch Worte Fehlen」(「未だ言葉に成らざる所」)と名づけられている。

     このTAEは、フォーカシング(focusing)で知られる臨床心理学者であり哲学者でもあるジェンドリンが、シカゴ大学での理論構築の授業で用いていた方法を、2004年にジェンドリンとメアリー・ヘンドリクスが14のステップにまとめたものである
     
    ※Gendlin, E. T. & Hendricks, M. N. (2004) Thinking At the Edge (TAE) steps. The Folio, 19(1), 12-24.
    https://www.focusing.org/tae_steps.html(英語原文ほか日本語、中国語、ドイツ語、スペイン語、フランス語、イタリア語訳あり)



     邦書では得丸さと子氏が、文章表現への応用と質的研究への応用について、次の2つの書物を著している。

    TAEによる文章表現ワークブック―エッセイ、自己PR、小論文、研究レポート…、人に伝わる自分の言葉をつかむ25ステップTAEによる文章表現ワークブック―エッセイ、自己PR、小論文、研究レポート…、人に伝わる自分の言葉をつかむ25ステップ
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     フォーカシングは、ジェンドリンの体験過程療法における主要技法だが、ざっくり言ってしまうと、自分の中にある「言葉にならないんだけど何かあるんだよ」とか「あああ、この辺まで出てきてるんだけど言葉にならん」という感覚(これをフェルトセンスfelt senseという)に焦点を合わせることである。そうしておいて、この感覚に合う言葉を探して、ぴったりなものが見つかるまで試行錯誤をくり返す。

     フェルトセンスはうまく言葉で表現できないが、付き合っているうちに、いろいろと言葉を呼び寄せる。また言葉がフェルトセンスを呼び出すこともある。この言葉でいいかどうかも、「ああ、そうそう、これだよ」という感じでフェルトセンスが教えてくれる。
     
     この、言葉にならない感覚と付き合い、言葉を突き合わせるところからはじまって、何十年かけてより大量で複雑なデータを扱い理論を構築することができるまでジェンドリンたちは進んだ。これがTAEである。
     
     応用としては、先の文献にあるように、書くのが苦手な人の文章表現やエスノグラフィーの分析などの質的研究(qualitative research)への応用のほかに、少し工夫すれば集団での活用も可能であり、現場の暗黙知を汲み上げて共有化することや、広義の問題解決にも用いることができそうである。

    ※例えばエンジニアの実践知をTAEの手法をつかって分析したものに得丸さと子(智子) (2010b) 「感性」を扱う質的研究 感性工学 10(2), 99-102.がある。



     TAEの14のステップは大きく分けると3つのパートに分かれる。

    TAE14Step.png


     もやもやしたものをアイデアの形にするだけなら、パート1「もやもやから言葉をつかみ出す」をやるだけでよいかもしれない。
     何か書いていたり作っていたりすると、「なにか違う」とか「あー、なんかもっとこう」と言葉にならない感じにぶつかることが結構ある。そんな時は、このパート1をやって、とりあえず言葉にしておくと、正解に行き当たらなくても、とにかく先に進めたりする。

     分析対象(比較事例など)をすでに明瞭に切り出すことができているなら、パート2「実例に語らせる」のパターン抽出して、交差(Cross)させるところから、はじめる手もある。
     また最初期のTAEは、このパート2までで終わっていた。すべての場合でパート3「理論を立ち上げる」まで進む必要はない。

     すでに他の手法などで分析を進めているものがあるなら、いきなりパート3「理論を立ち上げる」を試みるのもよい。
     

     それぞれのパートで興味深い手法が取り入れられており、部分的に使っても役立ちそうだが、今回はとにかく一通り紹介してみたい。そのため手続き面に集中することにし、背景理論や哲学についての解説は上記の書を参照されたし。
     
     以下では、上記文献のうち『ステップ式質的研究法』で紹介される、得丸氏によって工夫されたシートを用いて、TAEを実際に試してみた。
     フィールドノートなどの分析はボリューム的に断念し、かわりに上記の文献でもコンパクトな使用例として使われている感想文書きをやってみる。
     長らく、個人的に「なんか書きたいことはあるんだかうまく言葉にできない」ものとして持ち続けている、玉川重機『草子ブックガイド』の感想文を題材としてみた。

    草子ブックガイド(1) (モーニングKC)草子ブックガイド(1) (モーニングKC)
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    パート1 もやもやから言葉をつかみ出す


    ○「この感じ」に意識を合わせる

    ステップ1:よく知っているが未だに表現できないものの「この感じ」からはじめる

     パート1でやることは、次の「マイセンテンス・シート」1枚にまとめられている。


    mysentence.png


     シートの①には、取り組もうとしている課題を書いておく。
     そうして課題についてどんな感じがするかを身体感覚として味わい、その感じを捕まえておく。
    「この感じ」をこの後ステップごとに繰り返し呼び出すことになる。

     人によっては、このステップが一番難しく感じるかもしれない。 曖昧ではっきりしなくて何をしたらいいか、何が出来ればよいのか分からなく感じるのだ。
     
     このステップで必要なことは2つある。

     ひとつは、取り組もうとしている課題について、昵懇(じっこん;親しく心安いこと)になっていること。
     取り組むべき大量かつ複雑な資料(データ)がつみあがっているなら、繰返し読み、必要ならば印をつけ、メモと取り、とにかく資料すべてを一旦は自分の中を通らせること。

     そしてもう一つは、課題に親しむ中で育っていく、言葉にしがたいが何かあるという「感じ」を丁寧に扱うことである。
     
     後段の「感じ」を扱う際に必要なのは、何かをやること(たとえば正解を求めることや正しい手順でできているか気に病むこと)よりも、むしろ感じながら(あるいは感じられるまで)待つことである。
     
     「ああ、ここまで出掛かってるんだけど」という「ここ」(それは喉元かもしれないし胸の辺りかもしれない)に意識を向ける、向け続けることが基本になる。
     「なんか、こう、もわっとしてる」なら、その「もわっ」が身体の中のどのあたりにあるかを感じて、そこに意識を合わせるのだ。
     そして、感じてるもののについて「よく分からんが、ひょっとして○○かな、いや違うな、××かも……」という気持ちが起こるまで、「この感じ」に意識をあわせたまま待ってみる。
     「○○かな、いや違うな、××かも……」あたりまできたら、そうして感じているものを書き出していくのである。

     そもそも言葉でうまく言い表せないものを扱っているので、ぴったりとした言葉は、なかなか出てこない。いや、結局出てこない、と言ってもいい。
     とりあえず「何か something」と呼んでみたり、「~みたいな何か」「~のようなやつ」と比喩を用いたり、あるいは(まったく偏見だが関西出身のアートディレクターみたいに)強引に擬音やオノマトペで表してみると(いずれも言葉が足りないときに我々が普段用いている方略である)、「この感じ」に少しは触れた感じになって先に進めることがある。
     
     こうして出てくる言葉の断片をシートの②に書いていく。


    ○「この感じ」がみつからないとき


     資料に十分まみれたとしても、最初は、意識をあわせるべき「この感じ」が見つからない、あるのかないのかもよく分からないことが少なくない。
     実践的には、それでもとりあえず「マイセンテンス・シート」を埋めてみることを勧める(このシート自体に言葉しがたいものを言語化するステップがいくつも組み込まれている)のだが、以下は、もう少しちゃんとやりたい人のための対処法(トラブルシューティング)である。
     
    (0)大前提として、「この感じ」とやらは、以下で出てくる技法のようなものを使わないと、それも正しく用いないと、感じられないようなものではない。
     言葉にしがたい何かを抱えて、なかなかぴったりとした言葉が見つからないまま過ごし、しかしやっとのことでそうした言葉を探し当ててスッキリという体験は、多くの人が持っている。
     人に自然に起こりうる現象としてのフォーカシング(言葉にならない感覚に注意を向け、その感覚と共に過ごすこと)があることを前提に、それがうまくいくように助けるために、技法としてのフォーカシングは組み立てられているのだ。手段と目的を取り違えないこと。

    (1)感じているのに気付いていない、ということも多い。つまり、もっとすごいものが来るはずだと期待が大きすぎるのである。
     フォーカシングをやってみて「なにも感じませんでした」という人に、どんなふうに感じなかったかと詳しく話してもらうと、「喉に少しだけ違和感があるけど、夕べは寒かったし風邪を引きかけかもしれないから無視しました。胃の辺りの少し変な感じがあったけど、座りなおしたら消えたから、座り方が悪かっただけでしょう。胸の真ん中で何か広がっていく感じがしたけど、そういう風に感じたかったからそうなっただけだと思いました。だから何も感じませんでした、といいました」といったことを言う場合がある。
     「喉の違和感」も「胃の辺りの変な感じ」も「胸の真ん中で何か広がっていく感じ」も、しばらく意識を置いてみるべき「この感じ」である。
     ここまで分かりやすいツンデレ・フォーカシングもあまりないが(ほんとよく覚えてるよな、この人)、この人から得られる教訓は、何もないのに限定も否定もできない、ということである。つまり「単なる」とか「少し~」とか「~だけ」とか「~にすぎない」とか「~には意味がない」のような限定的・否定的表現が頭の中をよぎったら、その限定・否定されているもの(感覚)こそ、しばらく付き合ってみるべき「何か」である可能性が高い。
     
    (2)では、誰でも感じていそうな、ちょっとした違和感だとか、どこそこが「暖かい」とか「ざわざわしてる」とか、そういう「感じ」みたいなものを見つけて、それから何をすればいいのか?
     からだの状態も注意の向く先もどんどんと変化するから、しばらく付き合うために、その「感じ」をとりあえず描写してみる、あるいは名前をつけてみる。そうすると呼びかけやすいし、注意がその「感じ」に留まりやすい。
     どんな描写/名前がいいか? しっくりくるものなら何でもいい。まったく浮かばないなら「何か something」でもいい。もう少し色をつけるなら「暖かい何か」とか「ざわざわする何か」とか。「ぽかぽかさん」とか「ざわざわちゃん」とか。
     しっくり来ないなら別のものにすればいいだけだ。
     「何か……ざわざわする何か……ざわざわちゃん?……は、ないわな。……ただのざわざわじゃなくて、ちょっと固い感じもするし……ざわかち?……ハードざわ?……色でいうと、白……というよりシルバー……しるざわ?……ちがうなあ……」
     というのを延々やって(というのがフォーカシングの基本である)、何故だかつながりのない「タイコさん」みたいなところに落ち着くこともある。
     
    (3)しかし「誰でも感じていそう」と決め付けるのはよくない。今書いているのは「この感じ」が見つからない人のためのものだ。
     ではまず、どこをどう探せば見つかりやすいのかを言おう。
     目立たないものを見つけるには、ヒトが違いには敏感であることを利用するのが一つの手である。
     たとえば胸の感じと腹の感じを比べて違いはないかと点検してみよう。からだのいろんな場所の感じの違いを比較することで、「感じ」の在り処が分かることがある。
     違いが見つかったらあったら、さらに細かく比較をくり返して、たとえば腹の右側と左側を比較するなどして「違い」の在り処を絞り込んでいくといい。

    (4)これでもまだ、「この感じ」とやらが感じられない場合は、先に声をかけてみる手がある。「ハロー(こんにちは)」でも「えーと、いま大丈夫ですか?」でもいい。どうせ「この感じ」が見つかったときは、名前をつけて呼びかけるのだが、これを先にやってしまうのだ。
     暗闇の中、相手がいるのかどうか分からないけど「おどかしてごめん、でも怪しいものじゃないよ」と友好的に声をかけてみる感じである。
     誰もいない場合アホらしい振る舞いだが、だからこそ居ることを信じている=前提にしているのだと伝えることができる。
     そしてごく小さな反応があっても分かるように、身体の内部に意識を置きつつ、心持を静かにしてしばらく待つ。
     何かしら感じの変化みたいなものがあれば、すかさず「(返事してくれて)ありがとう」とお礼を言って既成事実をつくる。あとは恐ろしく内気で口下手な者に、おだやかに話しかける感じてやっていけばいい。
     
    ※哲学者でもあったジェンドリンはフォーカシングを説明するのに空間的メタファーを用いたが、弟子のアン・ワイダー・コーネルは擬人法(これもメタファーである)を用いることで、臨床家にとっては、ずっと分かりやすい説明とインストラクションを生み出した。

    (参考文献)
    やさしいフォーカシング―自分でできるこころの処方やさしいフォーカシング―自分でできるこころの処方
    アン・ワイザー コーネル,Ann Weiser Cornell,大沢 美枝子,日笠 摩子

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    (5)それでも返事(反応)がない場合は、「邪魔して(脅かして)ごめん。今日は退散します。じゃあ、また」と礼儀正しく言って引き下がろう。(4)を大真面目にやれたのであれば、日をあらためて何回かやるうちに、かすかなものであれ反応が得られるだろう。
     得られなかったとしても、それであなたの世界が縮小してしまう訳ではない。
     繰り返しになるが、「この感じ」が見つからない原因の多くは、結果をあせりすぎること、擬人化が恥ずかがってやり切れないこと、そして期待が大きすぎることである。

    (6)擬人化の方が後の展開はやりやすい。取り組みたい課題についての「この感じ」を得るのに、「○○なんだけど、どんなもんだろうね?」と言葉を使って質問する形で行えるからだ。もっとも、その課題よりむしろこっちを、という反応が返ってくる場合もある。あなたにとってより重要で火急の用件がある場合などがそうだ。そんな場合は、重要・火急の用件を紙に書き出すなどして、後回しにするがちゃんと取り組むとコミットメントしておくとよい。

    (7)擬人化といっても、感じたい何か、「この感じ」(フェルトセンス)が、あなたが投げかけた問いに、口を開いてべらべら喋り出してご神託を投げ返してくれる訳ではない。
     起こるのはせいぜい、あとから見ると「ひょっとして、あれがそうだったの?」と思うくらいささやかな、ほかの場所とはわずかに異なる感覚や、さっきまでと少しだけ違う感覚の変化でしかない。
     しかもその「感じ」に気長に付き合い、「こうだろか、それともああだろうか」といろいろ言葉を試しながら名前をつけてやって、なんだか腑に落ちるところまで至った、そのまた後に、やっと「この感じ」が意味していたのは「なんだこういうことだったのか」と分かることがある、というじれったさである。急がず期待せず待て。短気は損気。
     
    (8)「こんなの結局アタマで考えてるだけじゃないか」や「感覚なんてお天気次第で、気分次第で変わる、当てになるもんか」は頻出の否定評価である。ビギナーだけではなく経験あるフォーカサー(フォーカシングする人)の心にも繰り返し現れる。内なる懐疑論者は誰の中にもいる。
     しかし懐疑論者は懐疑するだけで検証しない。その意思も術も持っていない。
     我々が少しだけ有利なのは、内なる懐疑論者が持っていない検証手段を持っていることだ。フォーカサーなら、出てきたものを「からだに戻す」ことで合っているかどうか確かめる。TAEをやる人は、この先の作業を続けることで確認できる。
     
     とりあえず「マイセンテンス・シート」を埋めていこう。


    ○「この感じ」を文にしてみる

    ステップ2:「この感じ」から出てくる言葉を取り出し、その中からいくつか選んで短い1つの文を作る。その短文の一カ所に空所を作り、そこに入る語を「この感じ」に従って選ぶ。

     浮かんだ言葉があらかた吐き出せたら、シートの②に書き出した言葉を読み返して、大切そうなものに線を引く。
     これが終わったら、さっき感じた「この感じ」にぴったりきそうな短文をつくってみる。完璧にマッチしなくても、どこか一部分フィットしていればいい。線を引いた言葉を組み合わせるとできることがあるし、書きだした中で一番気になる言葉に何か別の言葉を足してできることもある。
     次に進むきっかけになる程度のものだから(つまり後で直してもいい)、あまり悩まず、いくつか書いてみて、いちばんましなのを選ぶ。
     短文は理屈が通らなかったり訳が分からなかったりしてもいい。他人にはもちろん、自分にも理解できないものであってもいい。むしろ分からないものの方が、いろんな思考や言葉を呼び起こしやすいかもしれない。
     短文として外に出してみることで、おそらく「ほんとはこうじゃないんだけど」という違和感が生じるだろう。これこそ望むべきものだ。この違和感が次に進む原動力となる。
     
     
    ○キーワードをみつける

     短文が選べたらシートの③に書く。これを仮マイセンテンスと呼んでおく。
     次に仮マイセンテンスの核になっていそうな言葉に線を引いておく。線を引いた言葉がキーワード1である。

     仮マイセンテンスからキーワード1にした部分を空所(ブランク)にしたものをシートの④に書いておく。
     
     今分かっているキーワード1を⑤に書く。
     そして⑤に書いたキーワード1について、辞書に載っているような通常の/常識的な意味を⑥に書いておく。
     
     次に④に書いた空所(ブランク)を持つ文をつかって、キーワード2と3を考えよう。空所(ブランク)を埋めてみてしっくりくるような他の言葉がないか捜すのだ。見つかったらキーワード2を⑦に、キーワード3を⑧に書き入れる。
     これらについても辞書に載っているような通常の/常識的な意味を⑧と⑩に書いておく。



    ○辞書以上/以外の意味をつかむ

    ステップ3、4:選んだ語の辞書上の意味を確認した後、その意味に納まりきらない独自の意味を書き出す。

     さて、もう一度③の仮マイセンテンスや④の空所(ブランク)を持つ文をキーワード2や3で埋めた文を見てみよう。
     これらのおかしな文は、キーワード1,2,3を普通の辞書的な意味で解釈しても、意味が通らないことが多い。
     これらキーワードが重要なのは、通常の意味以上の何かを担う、いやむしろ無理からに通常以上の意味を担わされているからである。いつも以上の、今回だけの特別な意味合いを押し付けられているのであれば、辞書的意味との比較で、それを明らかにしておこう。言葉に無理強いしなければ表せなかった何かこそ、何かこう言いたいんだけど言葉にできなかったものへの手がかりだ。

     パート1ではここが山場である。

     今回限りに込められた特別な意味をほぐすことで、また様々な言葉が手に入る。
     そうしたら、それらを⑭に書き出しておこう。


    日常使いのTAE(TAE FOR DAILY USE)では、まさにここのところをエッセンスとしている。
    これは1行に短くまとめられたTAEとでも言うもので、

    心動かされる言葉に出会ったとき、こう自問自答するのだ。
    「もしその________という語句が言いたい意味を、正確に言おうとすれば、あなたがその語句で言い表したいものは、本当はなんだろうか?」




    ○マイセンテンスをつくる

    ステップ5:以上の過程を経た上で、「この感じ」を短文(マイセンテンス)で表現する。


     特別な意味をほぐしたときに現れたこれらの言葉は、あなたが感じた「この感じ」から出てきている。正確に言うことはまだできない。ぴったりした言葉はおそらくまだ見つかっていない。しかし手垢のついた言葉を、複数重ねて何とか言おうとしていることを、できるだけ短く言いなおしてみよう。理想は「AはBである」とか「AであるときBである」程度のものだが、それより長くてもいい。十分に言い切れなくても、今はとにかく文にすることが先決だ。これを⑮に書いて、マイセンテンスと呼ぼう。
     言い足りないことは、解説・補足説明として⑯に記録しておく。
     こうして、もやもやからはじめて、不十分ながらひとつの言語表現に変換するところまで来た。





    パート2 実例に語らせる

     パート2は、TAEの中で最も作業量が多いパートである。
     その甲斐あって、もっとも豊かに言葉が出てくる/収穫できるパートでもある。
     パート1のフォルトセンスをつかむのが難しい人は、このパート2からでもいいので、やってみることをお勧めする。
     
     このパートでは、複数の事例を抽象化した上で、互いにぶつけ合わせ/掛け合わせて、事例のもつ複数の側面を際立たせることで、事例が含み持つ可能性を多面的に掘り起こしていく。
     
     使うフォーマットは「パターン・シート」と「交差シート」である。今回は複数の事例・パターンを1枚でまとめて扱う表形式のものを使ってみた。
     扱う事例が多くて、1枚のフォーマットでは扱いにくい場合には、事例・パターンごとに1枚ずつ別れたフォーマットを使うといい。
     
     
    ○事例をあつめる

    ステップ6:「この感じ」や「マイセンテンス」をよく表現する事例を集める。


     まずは分析にかける事例をあつめていく。
     パート1を済ませているなら、その中でつかまえた言葉にし難い「この感じ」が、そして、それを何とか言語化したマイセンテンスが導きの杖となる。
     
     つまり「この感じ」に照らして何だかひっかかる事例、あるいはマイセンテンスの例となりそうな事例、そこまで明確なことは言えないがなんとなく関係がありそうな事例を拾っていく。
     
     マイセンテンスは、未だ言い足りない(あるいは完全には言い当ててない)言語表現だが、不完全でも文の形にしておくと、個々の事例に当たってみて「あり」「なし」がなんとなく分かることが多い。

     この段階ではなぜこの事例を選んだか明確にできなくてもいい(それはこれからの作業の中で次第に明確化してくる)。


    ○事例からパターンを得る

    ステップ7:それぞれの事例に表れている、他にも適用できる一般的パターンを見出す。

     パターンとは、事例の中に繰り返し現れる可能性のあるものである。
     以下の手順で、事例集め(ステップ6)とパターン抽出(ステップ7)は同時平行して行っていく。
     
    (1)集めた事例を「パターン・シート」の①にひとつずつ記入していく。
    (2)事例を記入するごとに、事例を中心となるものを短く要約しパターンをつくる。「AはBである」とか「AであるときBである」程度のものがいい。
    (3)事例ごとに起こしたパターンを、②の列に事例に対応させて、書き入れておく。
    (4)事例Aから得たパターンが、事例Bの中にもみつかるかもしれない。たとえば、新しい事例を検討していて、これは新しくパターンをつくるより、既存のパターンを使った方がよいと感じる場合が出てくるだろう。
     こうした場合は、事例から新たにパターンを作る代わりに、既存パターンの欄にある③類似例の欄に事例を書き入れる。
    (5)類似例が加わったことにより、複数の事例にまたがるよう、必要ならばパターンを修正する
    (6)以上の作業中に気付いたことは、検討していた事例の行にある④の欄に記録しておくと、パターンを作ったり修正する際に役立つ。

    pattern_sheet.png
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    ○事例&パターンを交差させる

    ステップ8:パターンと事例を総当り的にぶつけて交差させる。この交差から事例のさまざまな側面を明らかにし、隠れていた知見を見い出す。

     事例独自のパターンを得るか、他の事例から生まれたパターンの類似例に割り当てるかして、取り上げたすべての事例についてパターン・シートに入力し終えたら、ステップ8に進もう。 
     
     ステップ8では、交差シートを作成していく。
     交差シートとは、事例・パターン×パターンのクロスした表であり、すべての事例・パターンに、すべてのパターンをぶつける形になっている。
     
     交差シートを埋めていく中、パターンの形でゆるく抽象化した事例と事例を互いにぶつけ合うことで、事例・パターンについてさまざまな側面から検討する機会をつくりだす。
     これは自分だけでは思いつけない側面・観点から事例を検討することであり、たくさんの発見・気付きを生み、様々なアイデアやそれを評価する観点を作り出す作業である。
     また多面的な検討は、抽象化への足がかりともなる。
     
     
    (1)交差シートの表の左端に、事例・パターンの組が縦方向に並べる。これが〈A.交差される側〉になる。

    (2)表の上端に、パターンの組が横方向に並べる。これが〈B.交差する側〉になる。

    (3)交差したマス目ひとつずつについて、次のような問いについて自答したものを書き入れていく。

    問1:A交差される事例・パターンの中の何がB交差するパターンに似ているか?
    問2:A交差される事例・パターンの中の何が、B交差するパターンの問いに答えるか?
    問3:B交差するパターンから見ると(パターンの《メガネ》をかけると)、A交差される事例・パターンはどのようなものだといえるか?
     
     落語文化圏に住む我々にとってはむしろ、このパターン同士を交差するこのステップは「なぞかけ」に似ている、といった方が分かりやすいかもしれない。
     あの「○○とかけまして、××と解く。そのこころは?」というやつである。
     
    問4:A交差される事例・パターンとかけまして、B交差するパターンと解く、そのこころは?


    パート2ではここが山場である。

    「気づき」とは、どこかに隠れている何かを探してみるかるものではなく、いろいろな相互関係が交差する中で新たに生まれてくるものなのである。


    交差シート(部分)
    cross_part.png
    (クリックで拡大)


    交差シート(全体) (Excelファイル cross_all.xlsx



    ○交差する数が多すぎる場合は

     「AとかけてBと解く、そのこころは?」と「BとかけてAと解く、そのこころは?」、あるいは「BのメガネをかけてAを見ると?」と「AのメガネをかけてBを見ると?」とでは、出てくる答えが異なりうる。したがって本来は、交差するもの/されるものが逆転した組合せについても考えた方がいい。
     
     こうしていくと10個のパターンからは、10×9=90個の交差が生じる。パターンの数が30を越えると、総当りでは交差の数は千近くなり、さすがに効率化(手を抜くこと)を考えたくなる。
     
     ジェンドリンとヘンドリクスのオリジナルなTAEでは、4つの事例=4つのパターンから4×4の交差をつくろうという指示になっている。
     交差の威力をまず実感したい場合には、これくらいでやってみるのがよいかもしれない。
     
     交差させる実例・パターンの数が多い場合には、次のような工夫が考えられる。
    (1)すべての組合せの交差が、有用なものを生み出すとは限らないから、有望そうな交差だけを選んで考える。
    (2)パターンをカード化して床にばら撒いて見回し、並べ替えながらペアになりそうな(そう「この感じ」が教える)パターンの組が見つかったら(これとこれで交差しそうだと感じたら)拾い上げ、交差の結果は別に書きとめていく。書きとめた後は、パターン・カードは、他のカードの中に戻し、また別のパターンの組を見つける作業をくり返していく。

     しかしあまり考えやすい/分かりやすい交差だけを扱っていては、新しいものが見つかりにくい。解し難い〈なぞかけ〉からこそ、思ってもいないものが見つかるからだ。

    (3)むしろあまり考えず、半ばランダムにパターン・カードを2枚拾い上げて、拾った以上は必ず交差を考える方が(つかれるが)よい結果が得られるかもしれない。
     
     
    ○交差から新しいパターンを得る
     
     交差から得られた気付きや思い付きを書きとめた後、その中心となるものを新しいパターンとして、やはり「AはBである」とか「AであるときBである」程度に簡潔にまとめておく。

     交差シートのマス目は気付いたことや思いつきを書きながら作業を進めていくと、次第に、別の組合せによる交差でも、似たようなことを書いていることに気付きはじめる。
     交差シートから生まれる気付きやアイデアは、一見むやみに発散していくようにみえるが、作業をすすめていくといくつかのまとまりに収束していくことが多い。
     収束する理由の一つは、ひとつのフェルトセンス(「この感じ」)、ひとつのマイセンテンス(「この感じ」を何とか言語化したもの)に照らして事例を集めたからである。
     もうひとつの理由は、事例からパターンを抽出することと、事例とパターンに別のパターンを掛け合わせることが、いずれも抽象化へ向かう圧力をかけていることになるからである。

     交差のあちこちに生まれる互いに似たものは、この先で理論を立ち上げていく際に、重要な足がかりとなるものである。
     
     

    ○これまでの作業の成果を仮に/自由にまとめる

    ステップ9:これまでの作業のまとめとして、気づいたことを自由に書く。

     ステップ8まで終わったら、ステップ9では、これまでのシートを見直して、これまでの成果を簡単にまとめておく。
     箇条書きでもいいし、数百文字程度の文章でもよい。簡単なチャート図を書くのもよいだろう。
     これらは事例の突き合わせから生まれた発見を、仮にまとめたものである。
     
     
     

    パート3 理論を立ち上げる
     
     パート3では、これまでの作業で得られた成果を元に、素材とした事例以外に適用可能で、他の人に伝達可能なレベルへ抽象化を進めていく。
     パート3での目標は、理論の構築である。TAEでは理論を概念の構造体と考える。これまでの気付きや発見を包括できるような、互いに絡み合った概念の組を見い出すことが目指される。
     このため抽象概念を無理やり結びつけて(当然この段階では意味の分からない命題の化け物ができる)、この化け物がちゃんと立つことができるよう補い訂正するためにあてがった言葉の中から、相互に連関した抽象概念を取り出していく。
     
     パート1では、辞書的な意味とぶつけることで、それ以外/以上に言葉に込められた意味を掘り起こして、言葉にならない「感じ」を言語化する手がかりを得た。
     パート2では、複数の事例とその抽象であるパターンをぶつけ合うことで、事例のもつ複数の側面を際立たせて、事例が含み持つ可能性を掘り起こす手がかりを得た。
     パート3では、そのままでは結びつかない諸概念を強引に結びつけることで、その矛盾や不合理を解消しようと呼び集められる言葉たちから、パート1とパート2で得た多くの発見を包括しうる概念の構造体をつくる材料を得ようとするのである。



    ○包括する3つの言葉(ターム)を選ぶ
     
     ステップ10を始める前に、これまでの成果を包括できるような3つの用語を選ぶ。
     
     ステップ9での仮まとめが参考になるが(そこに出てきた言葉が候補になるかもしれない)、より手堅くやるには次のような作業を行うといい。

    (1)これまでに検討したキーワードやマイセンテンス、事例から抽出したパターン、それに交差シートを埋める中で見つかった新パターンなどをカード化する。
    (2)カードをすべて平面に並べ、まとまりがつくよう並び替えて配置する。
    (3)配置し終わったカード全体を包むような大きな三角形を描いたとき、三角形の3つの頂点に配置すべき言葉を考える。

     こうして選んだ3つの言葉を以下ではタームと呼ぼう。
     
     
     
    ○「であるシート」でタームの相互関係をさぐる

    ステップ10:「この感じ」をよく表現する用語を3つ選定し、2つずつペアにして”is”(「である」)で結ぶことを出発点として必要な語を加え、相互に関連づける。

     ステップ10では、「であるシート」を使う。
    (1)先ほど選んだ3つのタームA,B,Cから、ペアをつくり
    「AはBである」
    「BはCである」
    「CはAである」
    という3つの文を作る。
     念を入れて、さらに
    「BはAである」
    「CはBである」
    「AはCである」
    の3つに文を加えて、合計6つの文について以降の作業をしてもいい。

    (2)こうしてできた3つの文は、それだけでは意味が通らない不完全な、あるいは言い過ぎであるような強すぎる主張になっているだろう。これらがまともな主張となるよう、いくつか言葉を補っていく。
     たとえば 
     「AはBである」→修正→「AはBの一部である」
     「BはCである」→修正→「BはCとなる可能性を含む」
     「CはAである」→修正→「新しいCがAから生まれる」
     
    (3)加筆した文のそれぞれについて、何故そう言えるのか/いったい何を主張しているのかを、他人にも分かるような書き方でメモ欄に書いていく。

    (4)抽象概念の候補になりそうな言葉はキープしておくために、「タームの書き出し」として別に抜書きしておく。

     加筆を行う中で付け加えられた言葉や、メモ欄に書いた解説の中で使われた言葉の中に、このあと理論を立てていく際につかえるようなものがある。少しでもひっかかる、あるいは光る言葉はキープしておくために、「タームの書き出し」として別に抜書きしておく。
     
     
     その他、作業中に生まれた気付きや思いつきもメモしておく。
     
    is_sheet.png
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    ○「もともとシート」でタームの本質的関係をさぐる

    ステップ11:ステップ10で選定した用語を2つずつペアにし「本来」の語で結び、本来的意味に根ざす関係を探求的に見出す。見出された関係を新しい用語で表現する。


     ステップ11では「もともとシート」を使い、ステップ10と同様の作業を行う
     
    (1)3つのタームA,B,Cから、ペアをつくり
    「Aは本当は(もともと)Bである(性質を持っている)」
    「Bは本当は(もともと)Cである(性質を持っている)」
    「Cは本当は(もともと)Aである(性質を持っている)」
    という3つの文を作る。
     念を入れて、さらに
    「Bは本当は(もともと)Aである(性質を持っている)」
    「Cは本当は(もともと)Bである(性質を持っている)」
    「Aは本当は(もともと)Cである(性質を持っている)」の3つに文を加えて、合計6つの文について以降の作業をしてもいい。

    (2)今度は加筆せず、上で作った3つ(あるいは6つ)の文それぞれについて、何故そう言えるのか/いったい何を主張しているのか(あるいは何故そう言えないのか)を、他人にも分かるように解説してみる。おそらく、この無理やり作られた命題を筋が通るように解説するためには、よく知られた常識や見方・考え方の外に出る必要があるかもしれない。

    (3)上で書かれた解説は、タームAとB、BとC、CとA、それぞれの間の本質的(本来的)な関係について語っている(少なくとも語ろうとしている)。
     それ故、さらに一段階高められた抽象概念が、ここから見つかるかもしれない。
     候補になりそうな言葉はキープしておくために、「解説に現れた新しいターム」として別に抜書きしておく。

     
     作業としては似ているが、2つ異なるところがある。
     ひとつは、すでにタームA,B,Cについては突き合わせを行っており、3つがどんな関係ならば意味のある主張となるかを作業を行う我々が知っていることである。
     もうひとつは、このステップで問われるのが、P.K.ディックがアイデアを得るときに好んで使ったあの質問「~とは、本当は何なのか?」であることである。

     つまりステップ10の突き合わせで見えたあり得べき関係の、その本質を掘り出すことが、ここでは求められているのである。
     このため、ここでの作業における気付きや思いつきの抽象度は1段上がったものとなる。ある程度、抽象度が上がらないと「~とは、本当は何なのか?」という問いに答えることができない。
     言い換えば、新しい抽象概念の発生が促されていると言うことができる。
     加筆部分や何故そう言えるのか/いったい何を主張しているのか/何故そう言えないのかについての説明、作業中の気付き・思いつきに含まれる言葉の中に、こうした抽象概念(のヒント)が含まれることが多い。
     (3)で抜き出したの中から最重要なものを3~4つ選び、次のステップで抽象概念の候補にすることになる。

    inhere.png
    (クリックで拡大)


     
     
    ○抽象概念を互いに組み込む

    ステップ12:「この感じ」をよく表現する用語を、3、4個選び直し、相互に組み込んで文を作ることにより関係づける。必要なだけ新しい用語を組み込み、同様に関係づけていく。相互に組み込まれた用語は概念と呼ばれ、諸概念の総体は理論と呼ばれる。新たに加えたい用語がない状態になったとき、理論が完成する。


     ステップ12は長い作業であるため、前半と後半に分けて説明しよう。
     
    (前半)
    (1)まずステップ11で見つけた抽象概念の候補を3つ選び、それらを新たなタームP,Q,Rとする。

    (2)「Pとは、~である」「Qとは、~である」「Rとは、~である」という定義文を作っていく。ただし、Pの定義の中で他のタームQ,Rを使わなくてはならない。同様に、Qの定義ではR,Pを、Rの定義ではP,Qをそれぞれ使う。つまり定義の中に他のタームを織り込むのである(相互定義シートの上半分)。

     相互に織り込みながら定義を作り上げる作業は、TAEの最後の難関だが、我々はすでにステップ10,11で「~は~である」「~は本当は~である」というフォーマットででっち上げた無理やりな命題を、なんとか意味が通るように作り直す経験を経ている。
     今回は、他の抽象概念を使いされすれば、フォーマットは自由だから、なんとか作り上げることができるだろう。

    inter_concept.png
    (クリックで拡大)

     


     なお抽象概念が3つでは、これまで取り扱ってきた検討や発見を取り込んで纏め上げるには足りなく感じるかもしれない。
     まずステップ11で得られた抽象概念の候補には、他にも取り入れたいものが残っているかもしれない。
     こうした場合は、3つの抽象概念について相互定義ができあがったら、必要なだけ、しかしひとつずつ抽象概念を増やしていこう。

     相互定義シートの下半分に、4つめの抽象概念を足し加えるフォーマットを用いる。

    (3)3つの抽象概念についてすでに作った相互定義をなるべく変えないように、4つめの抽象概念を盛り込むために必要な加筆を行う。

    (4)4つめの抽象概念の定義を、P,Q,Rのすべてを盛り込んで作ってみる。

    (5)さらに抽象概念の追加が必要なように感じれば、新たな抽象概念について(3)~(4)を繰り返し追加していく。
     

    inter_concept2.png
    (クリックで拡大)





    ○抽象概念の構造体を磨き上げる
     
     ステップ12の後半は、前半でできた相互定義のセットに磨きをかける。
     抽象概念の候補には、採用した概念といくらか類似するものが他にもあったかもしれない。また定義をつくってみて、修正したり別の表現にした方がよい概念が見つかるかもしれない。
     
     せっかく組みあがった抽象概念の相互定義を崩さないように、抽象概念の訂正は、同じ概念はすべての定義で差し替える(置換する)ことで行う。
     抽象概念置換シートを使おう。 
     
    (1)ステップ12の前半でつくった抽象概念の定義をセットで抽象概念置換シートに書き入れる。
    (2)変更した方がよい言葉・表現を、別の言葉・表現に置換する。この際、すべての抽象概念の定義について置換を行うこと。
    (3)置換前と置換後を比較して感じたことをメモしておく。
    (4)さらに変更が必要だと感じるなら、別の言葉・表現についても置換を行う。
    (5)置換をくり返すうちに、これ以上変える必要はない/変えない方がよいと感じる段階に至れば、そこでこの置換作業を終える。

     こうして置換を繰り返して、最終的に抽象概念の相互定義のセットをつくる。

    replace_concept.png
    (クリックで拡大)



     ここまでで、理論(仮説)の核(コア)になる、互いに組み合った抽象概念の構造体ができた。
     これらのすべての定義を一つにまとめて、すべてのタームを用いて、理論のコアになる命題として書いたものが、理論の骨格になる。
     

    ○抽象概念を他のテーマにぶつける

    ステップ13:作った理論を他のテーマに適用してみて、説明可能性を検討する。
     
     さらに理論に磨きをかけるには、今回検討したテーマ以外の問題について、組み上げた抽象概念の構造体を適用する。
     


    ○理論を本来のテーマで発展させる

    ステップ14:あなたの理論をその分野で拡張し、応用する。

     「あなたの理論を拡張するために、 次のように自問してみよう:次に生じ る問いは何だろう?この理論はどんな 次の理解に繋がるだろうか?あるいは 密に関連するはずのどんな要素が未だ 足りないだろうか?
     あなたが加える新たな用語が更に導出 されるために、必要なら本来的な繋が りを書き加えなさい。
     新しい用語が繋がれた後で、置き換え によってあなたの他の用語がそれに関 して何を語りうるかを検討しなさい。
     このようにしてあなたはあなたの理論 を更に次々と拡張できる。」

     ※Gendlin, E. T. & Hendricks, M. N. (2004) Thinking At the Edge (TAE) steps. The Folio, 19(1), 12-24.