1933年5月10日、Aktion wider den undeutschen Geist(反ドイツ的精神に抗する行動)と称され、ベルリンの国立歌劇場前や、ボンやミュンヘン、ゲッティンゲンなどドイツの全国34の大学都市で行われた焚書の対象となった著者のリストである。
1933年4月6日、ドイツ学生協会(Deutsche Studentenschaft)が新聞やプロパガンダの手段により、全国的に「非ドイツ的な魂」に対する抗議運動を行う宣言をし、運動は火による書物の「払い清め」(Säuberung)によってクライマックスを迎えた。地方局はこの宣言や委託論文付きの新聞を発行し、スポンサーである著名なナチスの人物に集会での演説をさせ、ラジオの放送時間を得るための交渉を行った。学生協会も4月8日に、マルティン・ルター を意図的に連想させた12ヶ条の論題 (en:Twelve Theses) を起草し、ルターの95ヶ条の論題が投稿されて300年を記念したヴァルトブルク祭 (en:Wartburg festival) に合わせて、「非ドイツ的」な本の焚書の計画を練った。「純粋な」国語と文化が、12ヶ条の論題によって提唱された。貼り紙などにより、この論題が宣伝された。論題は「ユダヤ人の知識の偏重」を攻撃し、ドイツ語とドイツ文学の純化の必要性が断言され、大学がドイツのナショナリズムの中心となることを要求していた。学生らは、焚書運動を、全世界のユダヤ人によるドイツに対する 「組織的中傷」 への答えとし、伝統的なドイツ的価値を肯定した。
1933年5月10日、学生たちは、25,000巻を上回る「非ドイツ的な」本を燃やし、このことが国家による検閲と文化の支配の時代の到来を告げる不吉な予兆となった。5月10日夜、ドイツのほとんどの大学都市において、国家主義者の学生がトーチを掲げながら「非ドイツ的魂への抵抗」の行進を行った。この周到に準備された儀式では、ナチスの高官、教授、教区牧師、学生のリーダーが、参加者や観衆に向けて演説を行った。会場では、学生達が押収された好ましくない本を、まるで喜ばしい儀式であるかのように、かがり火の中に投げ入れ、「火の誓い」の歌がバンド演奏され、儀礼的な文が読み上げられた。ベルリンでは、40,000以上の人がヨーゼフ・ゲッベルスの演説を聞きに、オペラ広場 (Opernplatz) に集合した。ゲッベルスは、
「退廃やモラルの崩壊にはNo」
「家族や国家における礼儀や道徳にはYes。
私は、ハインリヒ・マン、エルンスト・グレーザー、エーリッヒ・ケストナーの書物を焼く」
などと演説した。
出典:(2013)「ナチス・ドイツの焚書」『ウィキペディア日本語版』,(2014年6月8日取得,Link.)
10. Mai 1933 - Bücherverbrennung auf dem Berliner Opernplatz
「Dort, wo man Bücher verbrennt, verbrennt man am Ende auch Menschen.
(焚書は序章に過ぎない。本を焼く者は、やがて人間も焼くようになる)」(ハインリヒ・ハイネ)
「火中からの書物」(Bücher aus den Feuer)とは、かつて火の中へと投じられた書物を火の中から取り戻すことであり、焚書を忘却しなかったことにする動きに抗する、現在進行中の運動である。
リスト中のすべての著者を紹介したかったが、浅学故に断念した。オリジナル版(http://www.buecherlesung.de/liste.htm)を是非ご覧頂きたい。
しかし日本語ウィキペディアに載ってる程の人物は拾い出すことにした。証拠としてウィキペディア該当記事にリンクを付けた。見知らぬ人物について確認の一助になれば幸いである。
このブログでは、過去に日本、アメリカ、ローマ・カトリックの、人に本を読ませないことに関するリストを紹介している。比較から興味深い気づきが得られるかもしれない。
(日本)日本の発禁書一覧2000冊 読書猿Classic: between / beyond readers

(アメリカ合衆国)人から本を奪う者はどんな報いを受けるか/当世米国「禁書」目録 読書猿Classic: between / beyond readers

(ローマカトリック)これがほんとの禁書目録/INDEX LIBRORVM PROHIBITORVM -- 1948 読書猿Classic: between / beyond readers

Liste der "verbrannten" Autoren(焼かれた著者リスト)
アルフレッド・アドラー
Alfred Adler
オーストリア出身の精神科医、心理学者、社会理論家。
ショーレム・アッシュ
Schalom Asch
ポーランドのイディッシュ語作家。
イサーク・バーベリ
Isaak Emmanuilowitsch Babel
ロシアの作家。代表作に『騎兵隊』『オデッサ物語』。
ミハイル・バクーニン
Michail Alexandrowitsch Bakunin
ロシアの思想家で哲学者、無政府主義者、革命家。
アンジェリカ・バラバーノフ
Angelica Balabanova
ロシアの女性革命家。ウクライナ出身のイタリア・ユダヤ人。
バラージュ・ベーラ
Béla Balázs
ハンガリーの映画理論家、美学者、作家、詩人。
アンリ・バルビュス
Henri Barbusse
フランスの作家、社会運動家。
エルンスト・バルラハ
Ernst Barlach
20世紀ドイツの、表現主義の彫刻家、画家、劇作家。
オットー・バウアー
Otto Bauer
オーストリアの社会主義者・政治家・社会学者・哲学者。
ヴィッキイ・バウム
Vicki Baum
オーストリアの作家。代表作に『グランド・ホテル』。
アウグスト・ベーベル
August Bebel
ドイツの社会主義者。ドイツ社会民主党の創設者の一人。
ヨハネス・R・ベッヒャー
Johannes Robert Becher
ドイツの表現主義詩人。
パウル・ベッカー
Paul Bekker
ドイツの音楽評論家、指揮者、劇場支配人。
ヴァルター・ベンヤミン
Walter Benjamin
ドイツの文芸評論家、哲学者、思想家、翻訳家、社会学者。
エドゥアルト・ベルンシュタイン
Eduard Bernstein
ドイツの社会民主主義理論家・政治家。
エルンスト・ブロッホ
Ernst Bloch
ドイツのマルクス主義哲学者。
ヨアヒム・リンゲルナッツ
Joachim Ringelnatz
ドイツの詩人、作家、画家。 ケストナー、メーリング、ブレヒトなどとともに新即物主義(ノイエ・ザハリヒカイト)の代表的詩人。
アレクサンドル・ボグダーノフ
Alexander Alexandrowitsch Bogdanow
ロシアの内科医・哲学者・経済学者・SF作家・革命家。
ワルデマル・ボンゼルス
Waldemar Bonsels
ドイツの作家、児童文学作家。
ベルトルト・ブレヒト
Bertolt Brecht
ドイツの劇作家、詩人、演出家。
ヘルマン・ブロッホ
Hermann Broch
オーストリアの作家。
マックス・ブロート
Max Brod
チェコ出身のユダヤ系の作家、作曲家。カフカの友人、紹介者。
ニコライ・ブハーリン
Nikolai Iwanowitsch Bucharin
ロシアの革命家、ソビエト連邦の政治家。
エドガー・ライス・バローズ
Edgar Rice Burroughs
アメリカの小説家。代表作に「火星シリーズ」『ターザン』。
エリアス・カネッティ
Elias Canetti
ブルガリア出身のユダヤ人作家、思想家。
リヒャルト・クーデンホーフ=カレルギー
Richard Nicolaus Eijiro Coudenhove-Kalergi
東京生まれのオーストリアの政治活動家。汎ヨーロッパ連合主宰者。別名、青山 栄次郎。
フョードル・ダン
Fjodor Iljitsch Dan
ロシアの医師、労働運動家、政治家。メンシェヴィキの有力者の一人。
チャールズ・ダーウィン
Charles Darwin
イギリスの自然科学者。自然選択説による進化論を提唱。
オットー・ディクス
Otto Dix
ドイツの新即物主義の画家。
アルフレート・デーブリーン
Alfred Döblin
ドイツの小説家。
ジョン・ドス・パソス
John Dos Passos
アメリカ合衆国の小説家、画家。
セオドア・ドライサー
Theodore Dreiser
アメリカ合衆国の作家。
イリヤ・エレンブルグ
Ilja Grigorjewitsch Ehrenburg
ソ連の作家。代表作『トラストD. E.』。
アルベルト・アインシュタイン
Albert Einstein
ドイツ生まれのユダヤ人の理論物理学者。光量子説・ブラウン運動の理論、相対性理論などの提唱者。
クルト・アイスナー
Kurt Eisner
バイエルン王国の政治家、作家。ミュンヘン革命の中心人物。
フリードリヒ・エンゲルス
Friedrich Engels
ドイツ出身の思想家、ジャーナリスト、実業家。K.マルクスとともにマルクス主義の創設者。
アレクサンドル・ファジェーエフ
Alexander Alexandrowitsch Fadejew
ソ連の作家。
リオン・フォイヒトヴァンガー
Lion Feuchtwanger
ドイツ系ユダヤ人の小説家、劇作家。
ヴェーラ・フィグネル
Wera Nikolajewna Figner
ロシアの女性革命家、ナロードニキ。
ブルーノ・フランク
Bruno Frank
ドイツ系ユダヤ人の作家。
アンナ・フロイト
Anna Freud
イギリスの精神分析家。ジークムント・フロイトの娘。
ジークムント・フロイト
Sigmund Freud
オーストリアの精神分析学者。精神分析の創始者。
アルフレート・フリート
Alfred Hermann Fried
オーストリアの法学者。1911年にノーベル平和賞。
エゴン・フリーデル
Egon Friedell
オーストリアの批評家・哲学者、俳優、作家。
エドゥアルト・フックス
Eduard Fuchs
ドイツの風俗研究家・収集家。代表作『風俗の歴史』。
アンドレ・ジッド
André Gide
フランスの小説家。
マクシム・ゴーリキー
Maxim Gorki
ロシアの作家。
ジョージ・グロス
George Grosz
ドイツ出身の画家。諷刺画家。
エミール・ユリウス・ガンベル
Emil Julius Gumbel
ドイツの数学者。ガンベル分布の名の由来。
エルンスト・ヘッケル
Ernst Haeckel
ドイツの博物学者、医者。ドイツで進化論の普及に尽力。主著に『生物の驚異的な形』。
ヤロスラフ・ハシェク
Jaroslav Hašek
チェコのユーモア作家、風刺作家。
ラウル・ハウスマン
Raoul Hausmann
オーストリアの画家・デザイナー・詩人。ベルリンダダの創立者の一人。
ジョン・ハートフィールド
John Heartfield
ドイツの写真家、ダダイスト。
ヴェルナー・ヘーゲマン
Werner Hegemann
ドイツ出身の都市計画家。
ハインリヒ・ハイネ
Heinrich Heine
ドイツの詩人、作家。
アーネスト・ヘミングウェイ
Ernest Hemingway
アメリカの小説家・詩人。
テオドール・ホイス
Theodor Heuss
ドイツのジャーナリスト、のちに西ドイツの初代連邦大統領。
シュテファン・ハイム
Stefan Heym
ドイツの作家、詩人。
ルドルフ・ヒルファーディング
Rudolf Hilferding
オーストリア出身の政治家、マルクス経済学者、医師。
マグヌス・ヒルシュフェルト
Magnus Hirschfeld
ドイツの内科医、性科学者、同性愛者の権利の擁護者。
ゲオルグ・イェリネック
Georg Jellinek
ドイツの公法学者。
フランツ・カフカ
Franz Kafka
チェコ出身のドイツ語作家。
ワレンチン・カターエフ
Walentin Petrowitsch Katajew
ソビエト連邦の小説家。
カール・カウツキー
Karl Kautsky
ドイツのマルクス主義政治理論家、革命家。
ヘレン・ケラー
Helen Keller
アメリカ合衆国の教育家、社会福祉活動家、著作家。
ハンス・ケルゼン
Hans Kelsen
オーストリア出身の公法学者・国際法学者。
アーサー・ケストラー
Arthur Koestler
ハンガリー出身のユダヤ人のジャーナリスト、小説家、政治活動家。
アレクサンドラ・コロンタイ
Alexandra Michailowna Kollontai
ロシアの女性革命家、共産主義者。
ユリウス・コルンゴルト
Julius Korngold
チェコ出身のユダヤ系の音楽評論家。
カール・コルシュ
Karl Korsch
ドイツ出身のマルクス主義理論家。
ジークフリート・クラカウアー
Siegfried Kracauer
ドイツのジャーナリスト、社会学者、映画学者。
エルゼ・ラスカー=シューラー
Else Lasker-Schüler
ドイツ出身の詩人。
フェルディナント・ラッサール
Ferdinand Lassalle
ドイツの政治学者、労働運動指導者。 ドイツ社会民主党の母体となる全ドイツ労働者同盟(ドイツ語版)の創設者。
ウラジーミル・レーニン
Wladimir Iljitsch Lenin
ロシアの革命家、政治家。
レオニード・レオーノフ
Leonid Maximowitsch Leonow
ロシアの小説家、劇作家
テオドール・レッシング
Theodor Lessing
ドイツ系ユダヤ人の哲学者。
オイゲン・レヴィーネ
Eugen Leviné
ロシア出身の革命家、ドイツ共産党(KPD)の政治家。
カール・リープクネヒト
Karl Liebknecht
ドイツの政治家で共産主義者。ヴィルヘルム・リープクネヒト の子。
ヴィルヘルム・リープクネヒト
Wilhelm Liebknecht
ドイツの政治家でドイツ社会民主党の創立者の一人。
ジャック・ロンドン
Jack London
アメリカ合衆国の作家。
エーミール・ルートヴィヒ
Emil Ludwig
ドイツ出身のユダヤ人作家。
ルカーチ・ジェルジ
Georg Lukács
ハンガリーの哲学者、マルクス主義者。
アナトリー・ルナチャルスキー
Anatoli Wassiljewitsch Lunatscharski
ロシアの革命家、ソビエト連邦の政治家。
ローザ・ルクセンブルク
Rosa Luxemburg
ポーランド出身、ドイツで活動したマルクス主義の政治理論家、哲学者、革命家。
ウラジーミル・マヤコフスキー
Wladimir Wladimirowitsch Majakowski
ソ連の詩人。ロシア未来派(ロシア・アヴァンギャルド)。
アンドレ・マルロー
André Malraux
フランスの作家、冒険家、政治家。
ハインリヒ・マン
Heinrich Mann
ドイツの作家。トーマス・マンの兄。『ウンラート教授』(映画『嘆きの天使』の原作)
クラウス・マン
Klaus Mann
ドイツの作家。トーマス・マンとカタリーナ・ マンの子。
トーマス・マン
Thomas Mann
ドイツの小説家。『ヴェニスに死す』『魔の山』など。
カール・マルクス
Karl Marx
ドイツ出身の哲学者、思想家、経済学者、革命家。
フランツ・メーリング
Franz Mehring
ドイツのマルクス主義者、歴史家。
エーリヒ・メンデルゾーン
Erich Mendelsohn
ドイツ出身のユダヤ系建築家。
ヴィクトル・マイヤー
Victor Meyer
ドイツのユダヤ系化学者。
グスタフ・マイリンク
Gustav Meyrink
オーストリアの小説家。『ゴーレム』、『緑の顔』など。
モルナール・フェレンツ
Ferenc Molnár
オーストリア出身の劇作家・小説家。
ヘルマン・ミュラー
Hermann Müller
ドイツの政治家。ドイツ社会民主党(SPD)所属。
ロベルト・ムージル
Robert Musil
オーストリアの小説家、劇作家。『特性のない男』『夢想家たち』など。
フランチェスコ・サヴェリオ・ニッティ
Francesco Saverio Nitti
イタリアの政治家、経済学者。
グスタフ・ノスケ
Gustav Noske
ドイツの政治家。ドイツ社会民主党(SPD)。
フランツ・オッペンハイマー
Franz Oppenheimer
ドイツのユダヤ系社会学者、政治経済学者
カール・フォン・オシエツキー
Carl von Ossietzky
ドイツのジャーナリスト。1935年のノーベル平和賞受賞者。
アントン・パンネクーク
Anton Pannekoek
オランダの天文学者、マルクス主義理論家。
アルフレート・ポルガー
Alfred Polgar
オーストリアのジャーナリスト、批評家。カバレット(文学キャバレー)の管理者。
フーゴー・プロイス
Hugo Preuß
ドイツの公法学者。「ヴァイマル憲法の父」。
マルセル・プルースト
Marcel Proust
フランスの作家。『失われた時を求めて』。
グスタフ・ラートブルフ
Gustav Radbruch
ドイツの法哲学者、刑法学者。
ヴァルター・ラーテナウ
Walther Rathenau
ドイツの実業家、政治家。
ジョン・リード
John Reed
アメリカ合衆国出身のジャーナリスト。
ヴィルヘルム・ライヒ
Wilhelm Reich
オーストリア・ドイツ・アメリカ合衆国の精神分析家。オルゴン理論の提唱者。セックス・ポル(性政治学研究所)を主宰し、プロレタリアートの性的欲求不満が政治的萎縮を引き起こすと主張。社会による性的抑圧からの解放を目指したが、その極端な思想や行動は唯物論的な共産党(殊にコミンテルン)から「非マルクス主義的ゴミ溜め」と批判され除名された。
エーリッヒ・マリア・レマルク
Erich Maria Remarque
ドイツの作家。『西部戦線異状なし』。
カール・レンナー
Karl Renner
オーストリアの政治家。第一次世界大戦終了直後の共和国の初代首相と第二次世界大戦終了直後の共和国の臨時首相・初代大統領を務めた。
ヨアヒム・リンゲルナッツ
Joachim Ringelnatz
ドイツの詩人、作家、画家。
ロマン・ロラン
Romain Rolland
フランスの作家。
アルトゥル・ローゼンベルク
Arthur Rosenberg
ドイツの歴史家・政治家。
オイゲン・ロート
Eugen Roth
ドイツの叙情詩人。
ヨーゼフ・ロート
Joseph Roth
オーストリアのユダヤ系作家。
ネリー・ザックス
Nelly Sachs
ドイツの詩人、作家。
フェーリクス・ザルテン
Felix Salten
ハンガリー出身のオーストリアのジャーナリスト・小説家。『バンビ』
マーガレット・サンガー
Margaret Sanger
アメリカ合衆国の産児制限活動家。
アルトゥル・シュニッツラー
Arthur Schnitzler
オーストリアの医師、小説家、劇作家。
ミハイル・ショーロホフ
Michail Alexandrowitsch Scholochow
ロシアの小説家。『静かなドン 』。
ブルーノ・シュルツ
Bruno Schulz
ポーランドのユダヤ系作家・画家。
クルト・シュヴィッタース
Kurt Schwitters
ドイツの芸術家・画家。
アンナ・ゼーガース
Anna Seghers
ドイツの小説家。
カール・ゼーフェリンク
Carl Severing
ドイツの政治家。
イニャツィオ・シローネ
Ignazio Silone
イタリア出身の小説家、政治家。
ゲオルク・ジンメル
Georg Simmel
ドイツ出身の哲学者、社会学者。ドイツ系ユダヤ人(キリスト教徒)。
アプトン・シンクレア
Upton Sinclair
アメリカ合衆国の小説家。
グリゴリー・ジノヴィエフ
Grigori Jewsejewitsch Sinowjew
ロシアの革命家、ソビエト連邦の政治家。
アグネス・スメドレー
Agnes Smedley
アメリカ合衆国のジャーナリスト。
フョードル・ソログープ
Fjodor Sologub
ロシア象徴主義の詩人・小説家・戯曲家。
ミハイル・ゾーシチェンコ
Michail Michailowitsch Soschtschenko
ソ連の作家。
ヨシフ・スターリン
Josef Stalin
ソビエト連邦の政治家、軍人。同国の第2代最高指導者。
ルドルフ・シュタイナー
Rudolf Steiner
オーストリア出身の神秘思想家 。アントロポゾフィー(人智学)の創始者。
カール・シュテルンハイム
Carl Sternheim
ドイツの作家。表現主義の代表者の一人。
ベルタ・フォン・ズットナー
Bertha von Suttner
オーストリアの小説家。ノーベル平和賞を受賞した最初の女性。
パウル・ティリッヒ
Paul Tillich
ドイツのプロテスタント神学者。
レフ・トロツキー
Leo Trotzki
ウクライナ生まれのロシアの革命家、ソビエト連邦の政治家。
クルト・トゥホルスキー
Kurt Tucholsky
ドイツのユダヤ系諷刺作家、ジャーナリスト。
シグリ・ウンセット
Sigrid Undset
ノルウェーの小説家。1928年ノーベル文学賞受賞者。
ハインリヒ・フォーゲラー
Heinrich Vogeler
ドイツの画家、建築家。
ヤーコプ・ヴァッサーマン
Jakob Wassermann
ドイツのユダヤ系作家。
フランク・ヴェーデキント
Frank Wedekind
ドイツの劇作家。ドイツ表現主義の先駆者、不条理演劇の先駆者。
オットー・ヴァイニンガー
Otto Weininger
オーストリアのユダヤ系哲学者。主著『性と性格』は今日では性差別主義的、反ユダヤ主義的とされ、ヒトラーの『わが闘争』にも影響を与えたことが知られる。
ハーバート・ジョージ・ウェルズ
Herbert George Wells
イギリスの小説家、社会活動家、歴史家。ジュール・ヴェルヌとともに「SFの父」と呼ばれる。
フランツ・ヴェルフェル
Franz Werfel
オーストリアの小説家、劇作家、詩人。
カール・ウィットフォーゲル
Karl August Wittfogel
ドイツ出身の社会学者、歴史学者。
フリードリヒ・ヴォルフ
Friedrich Wolf
ドイツの医師、作家、共産党の政治家。
クララ・ツェトキン
Clara Zetkin
ドイツの政治家・フェミニスト。社会主義の立場による女性解放運動を主導し、女性解放運動の母と呼ばれる。
エミール・ゾラ
Émile Zola
フランスの小説家で、自然主義文学の代表者。
カール・ツックマイヤー
Carl Zuckmayer
ドイツの劇作家・脚本家。
アルノルト・ツヴァイク
Arnold Zweig
ドイツの作家。
シュテファン・ツヴァイク
Stefan Zweig
オーストリアのユダヤ系作家・評論家。伝記、歴史小説で知られる。池田理代子はツヴァイクの「マリー・アントワネット」を叩き台に『ベルサイユのばら』を描き、倉多江美は「ジョゼフ・フーシェ」を元に『静粛に、天才只今勉強中』を描いた。
この諮問委員会はこの諮問委員会は19名の委員と20人のスタッフとから成り、2年間の時間と200万ドルの費用をかけて報告をまとめた。
『日本大百科全書』には「報告に基づいてポルノグラフィーの販売・陳列・配布の禁止に関する法律をすべて撤廃した」とあり、『世界大百科事典』でも「成人に対するポルノグラフィーの販売、陳列、配付の禁止に関する法律をすべて撤廃するように勧告した。デンマーク、スウェーデン、イスラエル、イギリスなどの研究も同様な結論に達し、日本以外の先進諸国は1960~70年代にポルノグラフィーを解禁した。」と勧告・研究がポルノ解禁につながったような書きぶりであるが、我妻洋『社会心理学入門』(講談社学術文庫、1987)では、次のように書いてある。
1970年、委員会は700ページに及ぶ膨大な報告書をニクソン大統領に提出し、「成人についてはポルノをほぼ全面的に解禁すべきである」とのべた。ニクソン大統領は激怒して、この報告書をはねつけた。(p.104)
「はねつけた」報告書に基づいて「法律をすべて撤廃」することなどありそうにないが、本当のところはどうなのか?
だいたいジョンソン大統領が設置した諮問委員会が、何故ニクソン大統領に答申しているのか? アメリカ合衆国大統領にはリコールはなく任期は決まっており、任期内に答申の提出が行われるのが当然であり普通でもあるのに。
以下では、諮問委員会が提出した1巻の要約(これだけで700ページある)と9巻の研究報告書(Technical report)が「闇に葬り去られた顛末」を簡単に紹介する。
『世界大百科事典』(平凡社)の「ポルノグラフィー」の項では、このCommission on Obscenity and Pornography(猥褻とポルノに関する諮問委員会)が設置に至った経緯が次のように記されている。
「ポルノグラフィーを取り締まるためには,それが反社会的行動を誘発して有害であることを証明しなければならぬという世論が1960年代に高まった。そこで,アメリカではジョンソン大統領の諮問をうけて,19名の権威者と20名のスタッフが〈猥褻とポルノグラフィーに関する委員会〉をつくり,68年から2年間に200万ドルを費やして実証的研究を行ったが……」
しかし実際には、
「わいせつ文書及びポルノグラフィーの流通の実態はもはや放置しえない段階に至っており、連邦政府はそうした文書や書物が国民、特に青少年にとって有害な影響を及ぼしているのかどうか、またそれらをより効果的に取り締まる方法があるのかということについて、早急に検討を始めるべきである」との決議案が連邦議会で採択され、これに基づき諮問委員会の設置を大統領に求める法案もまた可決されたことによる。
1950年代末から60年代にかけては、これまで「わいせつ」とされ検閲されてきた文学作品が勝訴していった時代であった。たとえば1930年代から再三にわたって検閲・没収・出版者の逮捕にさらされてきたD・H・ロレンス『チャタレイ夫人の恋人』は1959年に、発送中の書籍を没収した郵政省が裁判の結果敗訴し、結局この年のベストセラーリストの2位となる売上げをあげた。1934年にパリで出版されて以来、アメリカ国内では禁書扱いだったヘンリー・ミラー『北回帰線』は1961年に無削除版が出版、多くの書店経営者が逮捕され発行元のグローブ・プレス社は60もの訴訟にさらされたが、1964年に最高裁の判決によりこの小説の合法性が確定した。同年には1820年以来発禁扱いであった、最初の近代的ポルノグラフィーされるジョン・クレランド『ファニー・ヒル』が出版され、当局はすぐさま没収する手段に出たが、これも裁判が行われ、1966年には最高裁判決により合法であるとの決着がついた。1965年に出版されたウィリアム・バロウズ『裸のランチ』が1966年に勝訴したのを境に書籍についてのこうした取り締まりは鳴りをひそめ、性表現の日常化と氾濫の時代が幕を開けた。
Allyn, David, Make Love, Not War – The Sexual Revolution: An Unfettered History. New York 2000,
これに対して「猥褻とポルノに関する諮問委員会」の設置はもともと、「より効果的に取り締まる」ことを狙ったものであり、実のところを目指すというよりむしろ、訴訟を通じてすでに達成されつつあった「ポルノ解禁」に対する反動の意味が強かったと見るべきであろう。
この設置意図からして、「ポルノは無害である」との諮問委員会の答申は受け入れ難いものであり、後に連邦議会は、ニクソン大統領とともに激しい言葉で非難し、答申の受諾を拒否することになる。
もともと政府の指示に基づき政府予算で作成された諮問委員会報告書であるにも関わらず、そのイラストレイデッド版の編者が「わいせつ物郵送謀議」で逮捕され有罪判決をうけるといった事件まで起こる始末であった。
Michael Hemmingson(2004). "An Interview with Earl Kemp of Greenleaf Classics" in
Lunch, L., & Parfrey, A. (2004). Sin-a-rama: Sleaze sex paperbacks of the sixties. Los Angeles, Calif: Feral House.
諮問委員会の設置にまで、時間を戻そう。
ジョンソン大統領は、この諮問委員会の設置にあまり乗り気でなかったらしい。ポルノの規制にせよ解禁にせよ、いずれの結論が出ても、それを巡る論争や政治的揉め事が持ち上がることが予想されたからだ。
このためジョンソン大統領は結論を引き伸したい動機があり、任期内に答申提出を求めることすらしなかった、と諮問委員会で影響力検討小委員会(effect panel)の委員長をつとめたLarsenは述懐している。
Larsen O. N.(1975). The Commission on Obscenity and Pornography: Form, Function, and Failure. in Komarovsky, M. (ed.) Sociology and public policy: The case of Presidential commissions. New York: Elsevier.
ともあれ1968年1月には18名の委員が任命されることとなった。法学者・裁判官6が名、宗教関係者4名、それに社会学者が4名、精神科医が2名が入っていた。
議会が予算を承認し、1968年7月にインディアナ大学の性化学研究所で最初の会合がもたれた。憲法学者でミネソタ大学の法学部長だったウィリアム・ロックハートが議長に選出された。
委員会には4つの小委員会(panel)が設置され、同時並行で議論は進められることになった。
(1)わいせつ文書やポルノグラフィーの取引、流通の実態を調査するtraffic and distribution panel
(2)わいせつ文書やポルノグラフィーの影響の有無を検討するeffect panel
(3)性教育をはじめとする社会政策について検討するpositive-approaches panel
(4)法律上の諸問題を検討するlegal panel
これら小委員会の報告を元に答申がまとめられた。答申には10項目あったが、いずれも委員全員の一致をみた者ではなく、多数委員の意見として採択されたものであった。
答申の中で最も強調されたことは、大規模な性教育の実施であった。
これに対してポルノグラフィーについての法的規制に関しては、「ポスのであろうが何であろうが、成人が読みたいものを読み、見たいものを見るという個人の自由は何人も鑑賞することができない」「そうした自由を制限する法律は、国法であろうと州法であろうと直ちに廃止されなければならない」と提言した。
その理由として、
(1)これまでの研究成果をみるかぎり、ポルノを見たり読んだりすることが犯罪や非行、性的逸脱、情動障害といった社会問題及び個人レベルでの不適応の主たる原因とはみなされないこと
(2)成人の間では、ポルノは娯楽や情報源として利用されている実態があること
(3)ポルノの法的規制が実効をあげていないこと
(4)世論調査の結果、国民の多数はポルノの法的規制に賛成でなかったこと
があげられた。
この答申が最終的に連邦議会と大統領とに手渡されたのは1970年9月30日だった。
10月13日、上院は60対5という大差で答申の受諾を拒否することを決議し、「諮問委員会は議会が求めたことについて適切な回答をしなかった。そのうえ、答申内容も十分な研究の裏付けを得たものではなかった」と批判した。
10月24日、ニクソン大統領もまた「答申内容を仔細に検討した結果、これは国民の道徳心を堕落させるものであり、私としては決して受け入れることができないものである」「諮問委員会は本来の任務を遂行しなかったと言わざるを得ない」というコメントを発表した。
文献 bibliography
猥褻とポルノに関する諮問委員会 報告書
(要約)
Barnes, C., & United States. (1970). The Report of the Commission on Obscenity and Pornography. New York: Bantam Books.
(研究報告書)
United States. Commission on Obscenity and Pornography. (1970-1971). Technical report of the commission on obscenity and pornography 9 vols.
v. 1. Preliminary studies --
v. 2. Legal analysis --
v. 3. The marketplace: the industry --
v. 4. The marketplace: empirical studies --
v. 5. Societal control mechanisms --
v. 6. National survey --
v. 7. Erotica and antisocial behavior --
v. 8. Erotica and social behavior --
v. 9. The consumer and the community.
(イラストレイテッド版)
United States., & Kemp, E. (1970). The illustrated presidential report of the Commission on Obscenity and Pornography. A Greenleaf classic, GP555. San Diego, Calif: Greenleaf Classics.
Komarovsky, M. ed.(1975) Sociology and public policy: The case of Presidential commissions. New York: Elsevier.
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影響力検討小委員会(Effect Panel)の委員長Otto N. Larsenの述懐を含む
Lunch, L., & Parfrey, A. (2004). Sin-a-rama: Sleaze sex paperbacks of the sixties. Los Angeles, Calif: Feral House.
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逮捕されたイラストレイテッド版編者Earl Kempのインタビューを含む
三井宏隆(1990).「社会科学と社会政策 : ある大統領諮問委員会の顛末」『哲學 』90, 165-197.
その他
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抜粋
ポルノグラフィー(ぽるのぐらふぃー)
pornography
人間の性または性的興奮の誘発を目的とする小説、絵画、映画、写真などの総称で、略してポルノともいい、伝統的な好色文学とは区別して現代的、西洋的なものについていうことが多い。西洋では18世紀にジョン・クレランドJohn Cleland(1709―89)の『ファニー・ヒル』(1748~49)、マルキ・ド・サドの『ジュスチーヌ』(1791)などが出てサドやカサノーバの快楽主義が流行し、ポルノグラフィーの黄金時代といわれたが、もっぱら一部の貴族や大ブルジョアのものであった。19世紀になり、印刷技術の発達と、中産階級が読書の能力と経済力をもつようになって市場が広がり、また写真が発明されるなどして、『蚤(のみ)の自伝』(1887)、『インドのビーナス』(1889)、『フロッシー』(1897)、『わが秘密の生涯』(1885ころ)などのほか、雑誌も『パール』『ブードア』など数多く発刊されておびただしいポルノグラフィーが氾濫(はんらん)したが、良風秩序を害するというので検閲制度も設けられるに至った。20世紀に入り、検閲は依然として行われたが、1960年代にアメリカでは、大統領ジョンソンの諮問を受けた19名の有識者の報告に基づいて、成人に対するポルノグラフィーの販売・陳列・配布の禁止に関する法律をすべて撤廃し、ついでデンマーク、スウェーデン、イスラエル、イギリスその他の諸国も1970年代にそれぞれ解禁した。(後略)
[ 日本大百科全書(小学館) ]
ポルノグラフィー
pornography
一般に,性的行為のリアルな描写を主眼とする文学,映画,写真,絵画などの総称。略してポルノporno ともいい,伝統的な好色文学などと区別して近・現代的なものを指すことが多い。語源はギリシア語の pornographos で〈娼婦 porn* について書かれたもの graphos〉を意味する。それはやがて,英語でいう obscene(猥褻(わいせつ))な文学のことになった。obscene の原義は,〈scene(舞台)からはずれたもの〉つまり舞台では見せられないもののことであるという。表に出せるものに対して,裏のものをポルノグラフィーというわけである。とすれば,〈裏本〉〈裏ビデオ〉などという現代日本におけるいい方もポルノグラフィーにふさわしいことになる。
しかし両者を分ける絶対的な規準はない。両者は検閲によって分けられるが,この検閲は時代と社会によって相対的に動いてゆくものである。したがってポルノグラフィーは,時代が定める検閲の境界と読者層との関係のうちにとらえられるべきなのである。検閲と読者層という面からポルノグラフィーを眺めると,その歴史は19世紀以前と,19世紀以降の二つに大きく分けることができるだろう。18世紀は過渡期である。この世紀は〈ポルノグラフィーの黄金時代〉ともいわれている。たしかに快楽主義が流行し,サドやカサノーバが性のユートピアを追い求めた。J. クレランドの《ファニー・ヒル》(1749),サドの《ジュスティーヌ》に対抗して書かれたレティフ・ド・ラ・ブルトンヌの《アンティ・ジュスティーヌ》(1798)などのポルノグラフィーの傑作がこの時代に書かれている。それにもかかわらず,ポルノグラフィーが社会的な問題となるのは19世紀になってからである。なぜなら,18世紀までは,ポルノグラフィーはもっぱら一部の貴族や大ブルジョアのものだったからである。
19世紀になって,中産階級の上層部が本を読む能力と経済力をもつようになったとき,ポルノグラフィーの検閲が問題になってくる。たとえば,《ファニー・ヒル》は出版されたときは,なんの規制も受けなかったが,1820年にアメリカでこの本を売っていた書籍商が処罰された。ニューヨーク州でこの本が解禁になったのは1963年であった。皮肉なことに,1964年になって,イギリスでこの本の処分をめぐって裁判があり,没収破棄の判決が出された。これからもわかるように,検閲に関しては,19世紀から20世紀の60年代まで連続した見方がつづいていたのである。
19世紀には複製技術の発達と市場の拡大によって,おびただしいポルノグラフィーがあふれた。また,写真の発明もいち早く利用され,19世紀半ばにはポルノ写真がかなり出回りはじめた。ビクトリア朝のイギリスの中産階級の間で特にポルノグラフィーが栄えたのは,この時代が表と裏を厳しく分けていたせいであった。ビクトリア朝の人々は,表では性的なものがまったく存在しないかのようにふるまっていた。特に女性や子どもは性的なものに触れないように守られていた。一般の女性は性的なことに無知で,子どものように無邪気であるのがいいとされていた。性的な言葉は家庭では使うことが禁じられ,〈脚 leg〉という言葉さえ無作法であるとされていた。表と裏を分ける指標の一つは陰毛であった。ビクトリア朝の芸術展にはおびただしいヌードが出品され,ひじょうにエロティックなものもあったが,陰毛を描かないという規則によってポルノグラフィーと区別されていた。現代においても,陰毛が見えるか見えないかが猥褻の規準となっているのも,われわれがビクトリア朝以来の性的道徳のパースペクティブの中にいることを示している。
あるものをないようなふりをして,表面から隠すというビクトリア朝の偽善的な道徳は,逆にすべてを裏側に押しこんだために,裏側の世界が巨大にふくれあがった。表面はまじめなビクトリア朝の紳士は,裏で娼婦とポルノグラフィーを愛好したのであった。I. ブロッホの《イギリスの性生活》(1912)によれば,19世紀では,1820‐40年,1860‐80年に特にポルノグラフィーが多く出版された。これははじめの時期は,ブルックス,ダンコンブ,次の時代に W. ダグデールという出版者が活躍したせいであったという。また,イギリスでのポルノグラフィーの需要が多かったので,パリやブリュッセルで印刷されて輸入されたものも大量にあった。《蚤の自伝》(1887),《インドのビーナス》(1889),《ローラ・ミドルトン》(1890),《フロッシー》(1897)といった本のほかに,ポルノ雑誌もたくさん出された。《パール》(1879‐82),《ブードア》(1883)などが有名である。ビクトリア朝の時代相をよく物語っている自伝的ポルノグラフィーの代表として,《わが秘密の生涯》(1885ころ,匿名),F. ハリス《わが生涯と恋》(1925‐29)をあげておこう。なお,19世紀はポルノグラフィックな芸術においても多産な世紀であった。A. ビアズリー,F. ロップス,F. von バイロスなどの作品がすぐれている。
20世紀に入っても,ビクトリア朝的検閲のある部分はそのままであった。1928年に D. H. ロレンスの《チャタレー夫人の恋人》がイタリアで出版されたとき,イギリスは国内での発売を禁止した。ポルノ産業は20世紀にますます大きくなった。現代の一つの特徴は,文学や芸術が表と裏の境界を意識的に利用してポルノグラフィックな想像力を刺激・消費しようとしていることである。ビクトリア朝からつづいたポルノの検閲は,1960年代に一部が解禁され,80年代にはさらに新しい段階にさしかかっている。
海野 弘
[特徴と社会への影響] W. アレンによると,猥褻性が美学的概念なのに対して,ポルノグラフィーは道徳的概念であるという。ポルノグラフィーは,偽善や上品ぶる感情の内面を暴露したものにほかならない。以下,その現代的意味について,アメリカを中心に記述する。
P. C. クロンハウゼン夫妻は,ポルノグラフィーの特徴をとらえるのに次の12項目を挙げている。全体の構成,誘惑,破瓜(はか),近親相姦,性行動を放任・奨励する両親,涜聖行為,淫(みだ)らな言葉,精力絶倫型男性,色情狂型女性,性の象徴としての黒人や東洋人,同性愛,鞭打ち。ポルノグラフィーの構成は,不道徳な影響を及ぼすような強烈なエロティック場面の連続で作られており,エロティックでない,気を散らす部分がない。ハード・コア・ポルノグラフィーは性交をあからさまに描いたものであり,ソフト・コア・ポルノグラフィーは性交シーンの偽装,フレンジー・ポルノグラフィーは異常性愛を扱ったもの,と分類されている。ポルノグラフィーの目的は,人間生活の基本的現実を描写するよりも,むしろ読者を性的に興奮させるために,エロティックな心像をひきおこさせることにあり,心理的催淫剤の役割をつとめる点にある。
ポルノグラフィーを取り締まるためには,それが反社会的行動を誘発して有害であることを証明しなければならぬという世論が1960年代に高まった。そこで,アメリカではジョンソン大統領の諮問をうけて,19名の権威者と20名のスタッフが〈猥褻とポルノグラフィーに関する委員会〉をつくり,68年から2年間に200万ドルを費やして実証的研究を行ったが,その報告書の中で委員会は〈性への興味はごくあたりまえの,健康で善良なものであり,ポルノグラフィー問題の大部分は人々が性に対して率直でおおらかな態度をとりえないことが原因をなしている〉と述べ,成人に対するポルノグラフィーの販売,陳列,配付の禁止に関する法律をすべて撤廃するように勧告した。デンマーク,スウェーデン,イスラエル,イギリスなどの研究も同様な結論に達し,日本以外の先進諸国は1960~70年代にポルノグラフィーを解禁した。ポルノグラフィー解禁運動は人間性解放や差別撤廃,精神・言論自由化の運動の一つであるが,国家権力が国民の要求によって解禁に譲歩することによって国家の本質についての問い直しを避け,その要求を無力化した,と考える見方もある。
ポルノグラフィーの心理的影響も科学的に調査されるようになった。ポルノグラフィーを見ても全員が興奮するとは限らず,研究者によって数値は異なるが,近年の調査によれば,男性の23~77%,女性の8~66%が性的興奮を示すにすぎない。その刺激は短時間しか持続せず,抑制によって反応を抑えることもできる。性映画の性的刺激効果は48時間以内に急速に弱まり,性生活に影響を与えない。毎日ポルノグラフィーを見せると興味はしだいに薄れ,1週間後には〈見あきた〉といい出し,3週間後には〈もう見たくない〉という飽和現象が認められる。嫌悪感を抱くかどうかについては,ランニング,割礼,ポルノグラフィー(性交)の各映画を見せて反応を調べると,快適な気分になるのは性交シーンが最高得点であり,不快感は性交シーンが最低得点である。デンマークでは,ポルノグラフィーが広まるとともに性犯罪が激減し,解禁後は3分の1に減った。アメリカの性犯罪者は,10歳代でポルノグラフィーを見る機会がなかった人に多いという。強姦者は,性をタブー視する家庭に育ち,その18%はエロティックな物品を持っていて親に叱られた経験者である。
性的な文書をポルノグラフィーだと考える傾向は,性行動に罪悪感を抱いている人ほど強い。欧米のポルノグラフィーには性交シーンを悪魔がのぞき見しているなどの形で罪悪感がつきまとっていることが多いが,日本の浮世絵春画や春本には罪悪感がみられない。これは,宗教や民俗のちがいによると思われる。
小林 司
1968年、ジョンソン大統領は「ワイセツとポルノに関する諮問委員会」を設置してそれにポルノ解禁問題をはかった。この諮問委員会は19名の委員と20人のスタッフとから成り、2年間の時間と200万ドルの費用をかけて、あらゆる種類のポルノの実態と、その社会に及ぼす影響を調査した。委員会の依頼を受けたノルウェーの心理学者カチンスキー(Katchinskey)は、ポルノが解禁になったデンマークにおいて、のぞき見とか幼児への性的な悪ふざけのような性犯罪は年々めだって減少したのに対して、強姦やサディズム的行為はぜんぜん変化しなかったことを認めた。つまり、ポルノ映画とかポルノ雑誌を鑑賞することは、ある種の性行動の代償にはなっても、他の性行為の代償にはならなかったわけである。ただし、ポルノに刺激されて性犯罪が増えたと言う事実は、まったく認められなかった。カチンスキーはこの点をはっきりと報告書に書いた。1970年、委員会は700ページに及ぶ膨大な報告書をニクソン大統領に提出し、「成人についてはポルノをほぼ全面的に解禁すべきである」とのべた。ニクソン大統領は激怒して、この報告書をはねつけた。(我妻洋『社会心理学入門』(講談社学術文庫,1987)上pp.103-104)
![]() | 社会心理学入門〈上〉 (講談社学術文庫) (1987/10) 我妻 洋 商品詳細を見る |
国立国会図書館蔵書検索・申込システムで、
(1)請求記号が特501-で始まるもの(内務省から米軍が接収し、1976年から1978年までに米国議会図書館から返還されたもの)
(2)同じく請求記号が特500-で始まるもの(昭和12(1937)年以降、内務省から移管された帝国図書館蔵のもの)
を抽出してマージして作成した。
ただし押収した図書を保管していた内務省保管書庫は、関東大震災により焼失しているため、(1)(2)とも大正12(1923)年秋以降に処分を受けたもののみで、それ以前のものは残っていない。

発禁書は、「アカ」(マルクス主義に限らず労働運動等にも)と「エロ」(井原西鶴、ゾラから性科学まで)と「宗教」に限らない(後述の「日本十進分類ごとの発禁書点数」を参照)。他にも
幕末・明治・大正回顧八十年史. 第3輯(東洋文化協会、昭和8.4)
http://opac.ndl.go.jp/recordid/000000695287/jpn
(禁止理由)「御写真等粗末ナル」こと (安寧秩序妨害(禁安))
小学生の読む陸軍読本(金の星社、昭和8.10)
http://opac.ndl.go.jp/recordid/000000694736/jpn
(禁止理由)軍事機密が載っている (安寧秩序妨害(禁安))
といったものもある。もちろん、いわゆる「エログロ」もあるのだが、
犯罪図鑑 江戸川乱歩全集付録(平凡社、昭和7.5)
http://opac.ndl.go.jp/recordid/000000695311/jpn
(禁止理由)「拷問ソノ他変態性欲等ノ残忍ナル絵画写真ヲ収録」 (風俗壊乱(禁風))
……平凡社の気が利き過ぎた付録。
女優ナナ エミール・ゾラ原作(三興社、昭和3.9)
http://opac.ndl.go.jp/recordid/000000790039/jpn
(禁止理由)「風俗上有害ナリト認メラル性的場面ノ露骨ナル描写」 (風俗壊乱(禁風))
……どんなすごい小説かと思う。『ナナ』には、やたらと邦訳があるが、手に入りやすいものを挙げておく。
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日本十進分類ごとの発禁書点数
(点数上位30、多い順)
363 | 236 | 社会運動に投ぜんとする青年に与ふ/ 山川均〔等〕述 共産党宣言/カール・マルクス,フリードリツヒ・エンゲルス共著 ; デ・リヤザノフ編評註 ; 大田黒研究所訳編 一切を挙げて赤露の挑戦に備へよ/赤尾敏著 | |
913.6 | 172 | 男女の秘密/山本春雄作 「女重役」と女共産党員発表号/SMG-171号作 江戸川乱歩選集. 第6巻(「 | |
169 | その他の宗教 新興宗教 | 115 | 記紀真釈/出口王仁三郎著 教のかがみ/清水英範著 ; 日の本教会本部編 生命の実相 : 生長の家聖典. 信の巻/谷口雅春著 |
366 | 労働経済 労働問題 | 103 | 労働組合読本/荒畑寒村著 失業と失業に対する闘争/ 「インタナシヨナル」編輯部訳編 弥次喜多労働組合の巻 |
310 | 政治 | 67 | ロシア共産党第十五回報告演説/スターリン〔著〕 ; 秋田篤訳 日本愛国革新本義/橘孝三郎著 興亜聖戦の輿望/足立陽太郎著 |
155 | 国体論 詔勅 | 47 | 左傾ニ関シ国事御願/島安兵衛著 皇道の栞/有留弘泰編 大日本忠孝訓/中島竜三著 |
911.5 | 詩 | 39 | 日本プロレタリア詩集. 1929年版/日本プロレタリア作家同盟編 罰当りは生きてゐる : 岡本潤詩集 帝国情緒 : 詩集/鈴木政輝著 |
148 | 相法 易占 | 33 | 二十八宿詳解 : 吉凶速断/高島易断所本部神宮館編 恋の辻占 : 都々逸独占い 家相の見方 : 家業繁栄子孫長久/松田定象編著 |
210.7 | 33 | 上海事変に就て/内藤順太郎編 五・一五事件軍法会議記録 2・26事件を語る/黒木正麿著 | |
319.1 | 外交 国際問題 | 29 | 満蒙論 : 満蒙の経済的価値と日本のとるべき態度/室伏高信著 聯盟脱退と国民の覚悟/竹林芙蓉著 英国打倒欧洲参戦の主張 /野依秀市著 |
367.6 | 性問題 | 29 | カーマスートラ(性愛の学/印度学会訳編 男女生殖器図解全書/花柳隠士著 正しい性教育/ジー・デー・オールズ著 ; 湯浅与三訳 |
304 | 論文集 評論集 講演集 | 27 | 金持の父と子へ/武藤重太郎著 デパートの白魔 : 本当にあった事/週刊朝日編輯局編 銃後の叫び/林喜一著 |
315 | 政党 政治結社 | 27 | 農民の無産政党の国際的形勢/オイゲン・ウァルガ著 ; 大西俊夫訳 全国大衆年鑑. 1931/浅沼稲次郎編 日本共産党公判闘争傍聴記 |
194 | キリスト | 24 | 基督教道話/前田元二著 聖書より見たる日本/中田重治著 約束の地/バツクストン著 ; 米田豊訳 |
911.16 | 和歌 | 24 | おいらはプロレタリア : 歌集 花明山 : 第1歌集 /出口王仁三郎著 奥戸足百・影山正治両君獄中吟詠歌集出版後援会要綱並作品抜抄 |
611.9 | 農村・農民問題 | 23 | 農村と青年運動/三宅正一著 農民の福音 ノウミン ノ フクイン 赤羽一著 農村調査の要点 |
491 | 基礎医学 | 22 | 性慾の実際と其善用/久保川南柯著 結婚愛/マリー・ストープス著 ; 矢口達訳 正しい性生活/H.W.ロング著 ; 性科学研究所訳 |
238 | ソビエト連邦 | 19 | 労農ロシアの社会主義的建設 : 社会主義への道/ブハーリン原著 ; 河上肇,大橋積共訳 世界を震撼させた十日間/ジヨン・リード著 ; 樋口弘,佐々元十共訳 ロシヤ大革命史. 第3巻/ロシヤ国立図書出版所編 ; 南蛮書房編輯部訳 |
915.9 | 記録・報告文学 | 19 | 噫!忠烈加納部隊/伊藤実著 妙法の御名を叫びて死闘四十時間 : 秋尾伍長血戦記/倉沢樹一郎編 独立機関銃隊いまだ猛射中なり /坂口一郎著 |
198 | キリスト教 各教派 教会史 | 18 | 苦難の福音/中田重治講演 ; 大江信筆記 天よりのラジオ/ジョン・トマス著 ; 蔦田二雄訳 救世軍亡国論/小俣洋平著 |
289.1 | 18 | 労働者・農民の代議士山本宣治は議会に於て如何に闘争したか?/政治的自由獲得労農同盟編 東郷元帥写真帖/大日本偉勲顕彰会編纂部〔編〕 軍神杉本五郎中佐/中桶武夫著 | |
368 | 社会病理 | 18 | 特殊部落一千年史 : 水平運動の境界標/高橋貞樹著 全国水平社第十二回大会詳報 動く愛国団体 : 新日本国民同盟等の改造断行請願運動 |
312.1 | 政治史・事情 | 16 | 不逞不臣の暴状輔弼の重責を汚す放蕩無頼の現内閣 政党及び憲政史/田中康夫著 軍部の系派・動向/小林住男著 |
384 | 社会・家庭生活の習俗 | 16 | 猥褻と科学 /〔宮武〕外骨編 春画王の告白/堀伊八著 芸者生活打明け話 |
598 | 家庭衛生 | 15 | 性愛技巧と初夜の誘導/羽太鋭治著 不感症と早漏の素人療法/隠士菊翁著 夫婦道心得帖 : 通俗医学/艸楽園主人著 |
912 | 戯曲 | 15 | 菊池寛戯曲全集. 第1巻(「特殊部落の夜」所収) 戯曲資本論/阪本勝著 鍬と銃 : 反戦小脚本集/コツプ日本プロレタリア演劇同盟レパアトリイ委員会編 |
170 | 神道 | 12 | 全村ノ祀神法ヲ統一シ教化方針ヲ確立セヨ/尾家天霊著 月読基礎学生業書/石井藤吉著 宇宙神秘ト信仰 : 大和民族之使命 /青木茂著 |
913.5 | 小説 物語 近世 | 12 | 梅ごよみ・春告鳥/為永春水著 ; 博文館編輯局校訂 西鶴全集/石川巌編 ねさめくさ/悟道軒書 |
311 | 政治学 政治思想 | 11 | 帝国主義と戦争問題/コムミンテルン編 ; 町田鶴哉訳 フアシズム論/パシユカニー,エルコリ著 ; 吉野次郎,万里信一郎共訳 ヒットラーは何を求るか/イ・オ・ロリマー著 |
908 | 叢書 全集 選集 | 11 | 恋百態/河森萍花訳 巴里・上海エロ大市場/尖端軟派文学研究会編 世界猟奇全集 |