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2008.05.22
中島義春『哲学者のいない国』(洋泉社)
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# 中島さんというのが、最近いっぱいでてる、「テツガクすること」みたいなの書いてる人だけど、カント研究者でね。
@ (笑)
# ぜんぜん読んだことないけど(笑)、書評によると(笑)、要するに「哲学研究者はいるけど、哲学している人はいない」とか、やっぱりそういうの書いてるらしい。
@ (笑)それ、逆だ。
# そうそう。哲学研究者なんてどこにもいないじゃない(笑)。
@ テツガクしてるやつなんか、うじゃうじゃいるしね(笑)。生物学者でも会社社長でも(笑)、なんかちょっと「語ろう」としたら、みんなすぐにテツガクしちゃう。アルチュセールいうところの、「自然発生的哲学」(笑)。「それ」がテツガクなんだってば(笑)、だからお前はだめなんだよ(笑)、気付けよいいかげん。
# あと「難しいコトバをつかってやるのが哲学じゃなくて、日常のコトバで普通のことを考えるのが哲学だ」とか、きっと書いてあるんだ。そんなこといっても仕方ないじゃない(笑)。
@ 小田実がさ、奥さんの実家に挨拶にいくんだよ。で、顔が恐いから、奥さんのお母さんがすごく恐がるの。「この人はヤクザにちがいない。娘を売り飛ばす気だ」って(笑)。で、お父さんが「おまえの仕事はなんだ?」って聞くの。
# (笑)
@ 小田実は、ほんとはいやなんだけど、「自分は作家だ」っていうのね(笑)。桑原武夫が、『第二芸術論』で「日本人は誰もが芸術家になれるとおもってやがるトンチキだ、だから俳句なんて流行るんだ。フランスで、エクリヴァンっていやあ、めちゃくちゃ尊敬されるんだ」って書いてるけど、まあそういうところを狙ったんだね(笑)。
# それで尊敬されたの(笑)?
@ そしたら、お父さんは「作家は女たらしだから、娘はやれない」っていうの(笑)。で、奥さんのほうが困って、とうとう「この人は思想家です」っていうんだ(笑)。そしたら、二つ返事でOKになるの。思想家って偉いんだよ(笑)。「考える人」ってことなんだけど(笑)。
# しょうがないね(笑)。「自分で考えるためのテツガク」とか(笑)
@ ああいうの好きな人って、ヒーリングとかに行けばいいんだと思う(笑)。
# 「自分さがし」だもんね。
@ あのね、イタリアかどこかに、密かに穴を掘って(笑)、そのなかに700人くらいヒーラーばっかりでつくってる秘密の国があるんだって(笑)
# (爆笑)
@ 700人も穴に入ってるくらいなら、さっさと世界のどこへでも、人を救いに行けよ、っておもうんだけど(笑)。
# 考えるだけでいいなら、ナポレオンヒル・プログラムね(笑)。
@ 最近のことばでいうと(笑)、「脳内革命」だね(笑)。
# 「思考は実現する」(笑)。あれはどうですか?
@ 書こうとおもったんだけど(笑)、「努力すれば、成功する」っていうのと、同じくらい無意味だね(笑)
# (笑)
@ あのね、「物を買うにはお金が必要だ」ってのが正しくても、「お金があれば物が買える」ってのは間違いでしょ(笑)。
# つまり、逆は必ずしも正しくはない訳ね(笑)
@ そうそう(笑)。同じ事が「成功するには努力が必要だ」ってのと、「努力すれば成功する」というのについても、言えるじゃない。
# うん(笑)。
@ 意志ってのはまずもって選択の原理な訳でしょ(笑)。世の中の事象のいずれかを「実現した」と言い張るためには、そいつを数多の事象の中から選ばないといけない訳ですよね、「これを実現したい」と。「実現するためには、それを意志(思考)することが必要だ」(笑)。
# もういいよ、あとはいわなくても(笑)。
@ あと努力する人は、反証を受け付けない、というのもあるね(笑)。
# 信念あるからね(笑)
@ これは深刻な例だけど(笑)、「いい子でいたら、親が愛してくれる」と思ってる子はさ、いい子であろうと努力する。でも、少なくとも主観的には、まずあんまり愛されてない訳だよ。
# でないと、そんな信念も努力も出て来ようがないよ。
@ 科学的認識(笑)ならさ、仮定に反する証拠が出てきたら、仮定が否定される訳じゃない(反証される)。でも、この子は、努力の結果大して愛されなくても、「いい子でいたら、親が愛してくれる」という仮定を否定しようとは思わない。
# 思わないね。
@ 思ったりしたら、いままでの苦労が水の泡だから(笑)。
# ひどいね(笑)
@ だから「まだ努力が足りない」と思う。
# こまったね。
@ でも、だいたい努力って「水の泡」になるべく運命づけられてると思わない(笑)?
# 思う(笑)
@ そして水中の酵素が分解してくれる(笑)。でないと、世の中に努力廃棄物がごろごろすることになるもの(笑)。
2008.05.17
ハイネ『ドイツ古典哲学の本質』(岩波文庫)
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さて、この本の本当のタイトルはこんなにいかめしくなくて、「ドイツの宗教と哲学の歴史のために」という、何かパンフレットみたいなものなのだけど、元々はドイツ文学を少しばかりかじっていい気になってるフランス人に、「ドイツ哲学」なるしろものを示してみせるために書かれたものだ。
けれど本当は、詩人兼革命家であったハインリヒ・ハイネというドイツ人は、ことによると日々の労働やその埋め合せのための慰安や革命運動に忙しくて、哲学書なんて読む時間がないのかもしれない友達たちのために、自分の革命運動に忙しい中、これを書いた。
たとえば何故君が哲学書なんかを読むべきなのか、あれらのこ難しげな書物は、君にとって(そしてまた革命にとって)どれくらいの意味があるのかを、ぼくは語って見せようと思う、とハイネは言っている。
この本の中には(「ナントカの世界」なんて本と違って)女の子なんて出てこないけど(そして「救い」なんてあるようでないけど)、実はこれが一番わかりやすくて、かつ実用的で、加えてチャーミングな西洋哲学のブックレットなのだ。なんとなれば、ハイネには、誰も読めもしない「テツガクショ」を書くつもりも、書く時間もなかったからだ。
革命詩人は、ドイツの妖精(コボルト)から語り起こし、ルターの宗教改革が、スピノザの堅い殻にかくされた「おいしい思想」が、それからレッシングが、カントの「三批判」が、「ドイツ国民に告ぐ」というアジテーションをとばしたフィヒテにはじまるドイツ観念論が、いかに思想の天空上の革命であったか、いかにぼくらの頭を押さえつけてきた古い亡霊や迷信や何かを払拭するために、役に立ったのか(そして役に立つのか)を、順番にやさしく述べていく。
ドイツ哲学の歴史をヘーゲルまで駆け抜けた後、このかわいらしい本は、こんなくだりで終わってる。
君達はギリシャ神話のオリュンポス山のことはよく知っているだろう。
あの山で男女の神々が、はだかのままで、神のたべる酒や食物を酔い食らって、たのしんでいるあいだにまじって、こうしたよろこびや楽しみのさなかにいながら、よろいを着て、兜をかぶり、槍を手にした一人の女神を見つけるだろう。
それこそ知恵の女神だ。
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