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    司書:何かお探しですか?
    学生:え?あ、すみません。……何を探していいかも分からなくて。
    司書:それは、お困りですね。どうされましたか?
    学生:来週までに書かなきゃならないんです。
    司書:レポートを書く課題でしょうか?
    学生:あ、はい、レポートを。……あの、こういう時って何から調べればいいんでしょう?
    司書:そうですね。科目は何でしょう?
    学生:あの、『現在社会論』っていって……。どう説明したらいいんでしょう?
    司書:テキストのようなものは指定されていますか?
    学生:いいえ。毎回、ドキメンタリー番組を見せて、先生が解説するような講義で……。
    司書:なるほど。課題のレポートですがテーマの指定は?
    学生:あ、はい。それが自由に決めていいんです。でも、それもどうやって決めたらいいか、わからなくて。……ただ文献をちゃんと調べて書くようにって。
    司書:それで図書館に?
    学生:はい。先生がまず行ってみて、自分の目で探すようにって。……す、すみません。
    司書:いえいえ。何かを探している方を手助けするのも、私どもの仕事です。そうですね、一から学ぶならば、この図書館にも何冊かレポートの書き方についての本があったはずです。しかし、何事にも時間に限りがある。レポートの期限は?
    学生:それが来週なんです。
    司書:では、早急に取り掛かった方がよさそうです。あなたが書きたいテーマを探してみましょう。
    学生:どうするんですか?
    司書:やり方はいろいろあります。たとえば……失礼ですが、新聞はお読みになりますか?
    学生:はい。一応、読んでます。
    司書:すばらしい。ご記憶に残っている記事があれば、そういったものも手がかりになります。
    学生:……いえ、特には。
    司書:では、新聞のコーナーへご案内しましょう。いつも読んでいるものとは違う新聞を選んでください。1面から順にざっとで結構です、目を走らせて、気になる単語を、見出しではなく本文から、抜き出してください。3つから5つくらいでいいでしょう。ノートはお持ちですか?
    学生:あ、はい。あの、でも、どうやって選べば?
    司書:ヒントを差し上げましょう。のちほど私に質問していただきます。質問は二種類、「○○はいつからあるのですか?」「××は、今後、どうなっていくのでしょう?」です。「○○」や「××」に入るような言葉を選んでください。時間をかけないのがコツです。10分後、またお会いしましょう。


    ==== ○ ○ ○ ====


    少年:先生、今の人は?
    司書:この近くの大学の学生の方です。課題のレポートを書くために来られたようです。S先生の授業をとっておられるようですね。
    少年:知ってる人ですか?
    司書:残念ながら面識はありません。しかし毎年、『現代社会論』のレポートを書くために来られる方が何人かおられます。
    少年:……大学の図書館に行けって言わないんですか?
    司書:まさか。ここは公共図書館です。これは誰のためにも開かれた図書館を意味します。確かに学術的な資料は十分ではありませんが、必要とする人なら誰でも読み調べることができる場所です。それに想像してみてください。「ここはあなたの来る場所ではない」と追い返すようなことを言っては、あの方は図書館とはそういう場所であり、図書館員とはそういう人間なのだと思うようになるでしょう。そう信じた人はおそらく、どんな図書館にであれ、自分から行こうとは思わなくなるでしょう。図書館のファンを減らすことが分かっているのに、そうした行動をとるわけにはいきません。それに……。
    少年:他にも何か?
    司書:ええ。私たちは誰も、誰かのところへ出掛けて行って、無理矢理本を読めだとか調べ物をしろと強いることはできません。私たちが支援できるとしたら、それは自分から図書館にやってきた人たちだけです。さっきの方は確かに、図書館で自分が何をすればいいのか知りませんでした。しかし彼女はやってきた。これだけで手助けする十分な理由になるとは思いませんか?
    少年:……。でも、やっぱり本当だったら大学の図書館へ行くべきだと思います。
    司書:それに気付くには、まず図書館に行ってみることが必要です。それこそ、自分の目と手と足で捜してみること。その上で、どこでなら、どんなものなら、手に入るのか見つけることができるのかを学ぶのです。……おや、戻って来られたようです。それでは、この先はあなたにお任せしましょう。
    少年:え、それはちょっと。
    司書:できるでしょう。〈彼女〉には内緒にしておきます。
    少年:そういうことじゃありません! それに、あの人が嫌がるじゃ……?
    司書:では、彼女に選んでもらいましょう。それなら断る理由はありませんね?


    ==== ○ ○ ○ ====


    司書:……という訳で、この後のことは彼に頼んであります。まだ若いですが、図書館と調べものについては十分な知識と経験があります。
    学生:あ、はい。じゃあ、お願いします。
    少年:ええっ!? ……わかりました。
    学生:……あの、3つも選べなかったんですが。
    少年:燃料電池、対面朗読……。
    学生:あの、どうでしょうか?
    少年:えーと、とりあえず、次の5つは最低調べます。

    1.Web検索 2.新聞 3.事典 4.関連図書 5.雑誌記事

    学生:でもネットで調べるのはダメだって言われて……
    少年:ネットで見つけたものをそのままレポートに使う人がいるからです。本を調べても同じ事をしたら同罪です。
    学生:でもネットの情報は信頼性が低いって
    少年:よくそういうこと言いますけど、紙の本だっていい加減なのはいっぱいあるし、ちゃんとした本でも間違ってることだってあります。だから確認しながら使うんです。
    学生:どうするんですか?
    少年:究極的には、書いた人がやったことを全部トレースできればいいんだけど。その人が使った情報源に遡ってひとつひとつ確認をとって、データの集計や実験やシミュレーションもやり直して……。そこまでは時間的にも、他の面でも無理だから、今日は図書館でできることだけやります。
    学生:それって?
    少年:図書館でできることって、つまるところ複数の資料や文献を集めて突き合せることだけなんです。でも、これだけでも結構分かることもあるし、本に書いてある間違いを発見したり直したりできたりもするんです。
    学生:5つ全部調べるんですか?
    少年:ぜんぶ図書館でできますから。学術論文は、大学の図書館の方がたくさんあると思いますけど。
    学生:そうなんですか?
    少年:ええ。順番にやりましょう。実は簡単な順なんです。
    学生:最初はネットですね。Yahooでいいですか?
    少年:ネットでは、日本語だと最低これだけは検索します。事典とか紙の本を調べる手間がいくらか省けますから。googleとyahooとbingは、まとめて検索できるところ(たとえばdogpile)を使ってもいいです。
    学生:「対面朗読」は大丈夫みたいですけど、「燃料電池」は中国のサイトばかりでてきます。
    少年:助詞を、たとえば「は」を加えると日本語サイト以外はだいたい除けますよ。


    燃料電池対面朗読
    dogpile=
     +google
     +Yahoo
     +Bing
    dogpiledogpile
    Yahoo百科Yahoo百科Yahoo百科
    ネットで百科  
    Metamedia
    辞書横断検索
    MetamediaMetamedia
    GeNii
    CiNiiCiNiiCiNii
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    図書館となら、できること/レポートの時間 つづき 読書猿Classic: between / beyond readers 図書館となら、できること/レポートの時間 つづき 読書猿Classic: between / beyond readers につづく。
     「日本国内図書館の外国雑誌購入費および受入れタイトル数」というグラフがある。
    (出典:出典:安達,他(2003)、土屋(2004)./ネットで探すとカラー版のグラフがあちこちにある)

    ukeire.jpg

     日本の図書館の外国雑誌受け入れタイトル数は、雑誌購入費は増加する一方で、1988年に最大の38,477タイトルに達した後、減少を続けている。
    (日本学術会議情報学研究連絡委員会学術文献情報専門委員会.“電子的学術定期出版物の収集体制の確立に関する緊急の提言”.日本学術会議. 2000. http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/17pdf/17_44p.pdf)

     雑誌に対する支出が増え続けているのに、購入される雑誌の数が減っているのは、言うまでもなく雑誌価格の高騰が原因である。


    海外学術誌の平均価格の推移(自然科学分野)
    journal_price.png
    (出典:Library Journal Periodical Price Survey、 1995-2009.)


     雑誌価格がもたらすものは、雑誌購入タイトルの減少だけではない。
     つまり、図書館の資料購入費が雑誌へと回り、単行本の購入までも減少する。
     アメリカ研究図書館協会(Association of Research Libraries)の調査によれば、1986年から1999年にかけて、雑誌購読費は170%増加しているにも関わらず、受け入れタイトル数は6%減少した。これに加えて、同時期には単行本の受け入れタイトル数もまた26%減少している。
    (Case, M. M. (2002). “Capitalizing on Competition: The Economic Underpinnings of SPARC” . SPARC.  http://www.arl.org/sparc/publications/papers/case_capitalizing_2002.shtml


     1980年代の10年間だけでも、学術雑誌の価格は10倍、物価上昇を割り引いても3倍に跳ね上がった。
     1980年代末、アメリカの図書館員たちは、学術情報流通に破壊的な影響を及ぼす雑誌価格の高騰をSerials Crisis(雑誌の危機)と呼んだ。


    〈雑誌の危機〉が切断するもの

     研究論文に代表される(※)学術情報の流通・循環(の望ましい在り方)を、「贈与の円環(Circle of Gifts)」と呼ぶことがある。

    Circle_of_Gifts.png

     
    (0)研究者は、既存研究を参照・収集して、研究を計画し、また自らの研究を位置付ける。新しい知識の〈住所表示〉は、その知識を産み出したものの責任で行われる。
    (1)研究者は、研究成果を論文等にまとめ、それを学会誌に投稿する。
    (2)学会は、投稿された論文等を審査し、雑誌に編集して出版する。
    (3)大学図書館を中心とする研究図書館は、論文等を収集・保存し、研究者に提供する。 (→(0)に戻る、以上繰り返し)

     〈雑誌の危機〉はこの循環の(2)から(3)へとつながるところを切断する。
     流通は円環をなしており、この部分の切断の影響は、循環全体に広がる。

     「科学に再投資するための購読料は消え去り、よってその学協会、ひいては科学プロセス全体が弱体化する事態を引き起こす」(バックホルツ, 2002)



    ※より詳細な学術情報のライフサイクル

    LifeCycle+.png



    〈雑誌の危機〉をもたらしたもの

    reasonsresults.png


    (1)非弾力的な論文の需要

     学術雑誌の需要は、価格によって増減しにくい。つまり安ければ買い、高ければ買い控えるといったものではない。
     読者(研究者)が直接支出するのでなく、購読者(図書館や研究機関など)が予算を組購入することが多いことも、価格と需要の結びつきを弱くしている。
     このことが価格上昇をダイレクトに雑誌購読数の減少に反映させず、雑誌価格の上昇は随分前から生じていたのに、読者(研究者)が問題に気付くのを遅らせた可能性がある。
     読者(研究者)や購読者(図書館や研究機関など)のみならず、出版者側も、マーケティングを行って価格や発行部数を設定するのでなく、刊行費用を購読部数で割ってタイトルの単価を算出するという方式を採用してきた。


    (2)論文数の激増

     論文の生産量が増大すると、論文数、ページ数は増大する。
     刊行費用の大部分を占める固定費(査読や編集の費用を含む)は、論文数が増えるに従い増大することになる。
     こうした場合に購読部数が増えなければ、雑誌の価格は、上昇せざるを得ない。

     購読者(図書館や研究機関など)が耐えられないところまで、価格上昇が続けば購読部数が減少し、この分もまた価格に上乗せされることになる。
     ここに至ると、価格上昇と購買者数減少との間に悪循環が生まれる恐れがある。


    (3)商業出版社の市場独占

     論文数や雑誌数の増大は、新たな出版販路への需要を高め、商業出版社の進出をまねいた。
     出版社は、学会誌を吸収したり、他の出版社を買収して寡占化が進んだ。STM(科学・工学・医学)分野ではElsevier社の28%を筆頭に全体の66%を8 出版社で寡占している状況である。
     Pergamon社がElsevier社に買収されたケースでは、旧Pergamon社の雑誌は平均して22%値上がりし、Lippincott社がKluwer社に買収されたケースでは35%もの値上がりが生じた。
     市場独占は価格上昇への購読者(図書館や研究機関など)のリアクションを阻害している。例えば、かつて電子ジャーナルによって雑誌購入費の大幅な削減が可能だと思われていたが、実際には市場独占を背景に、冊子体との平行出版や冊子体キャンセル禁止条項が契約に盛り込まれたりなど。


    日本版〈雑誌の危機〉と失われた10年

     受入れ雑誌タイトル数が、日本全体でたった10年間で半減するという〈事件〉は、それが進行していた1990年代にはまだ〈問題〉とはなっていなかった。
     購読者(図書館や研究機関など)は、国際的に生じた学術雑誌の価格上昇にさらされていたし、予算の制約から購入できない雑誌が生じていることは当然気付かれていた。たとば自分のところで購入しなくなった雑誌の記事を図書館間相互貸借(Interlibrary Loan : ILL)による複写サービスで取り寄せる件数は増加していた。
     しかし雑誌購入の意思決定は各大学、学部、学科、研究室、教員……と分散化されていること、そして利用の頻繁な雑誌は継続され、利用の稀な雑誌からキャンセルされ図書館間相互貸借(ILL)を利用するといった仕組みが、問題を見えにくいものにしていた。
     事態に多くの人が気付くのが、こうして遅れることになった。



    大学が学術雑誌買えない
    読売オンライン 2008年6月18日

    値上がり、予算減で 研究に影響懸念

     学術雑誌の価格が高騰して、大学が購入を取りやめる事態も起きている。

     「大学や独立行政法人が悲鳴を上げている。重要な情報源が維持できない」。4月10日の総合科学技術会議で、金沢一郎・日本学術会議会長は福田首相に窮状を訴えた。

     山口大の図書館は昨年末、雑誌を扱う出版社シュプリンガーとの購読契約を打ち切った。千数百万円の経費削減となったが、約1300の電子雑誌が読めなくなり、研究者の個人購読に切り替えた。理系、文系を問わず、過去の成果や最新の動向を知ることは研究の第一歩。学術雑誌が読めなくなれば、その基盤が損なわれかねない。丸本卓哉学長は「買いたくても買えない。研究の根幹にかかわる」と危機感を募らせる。





    (参考文献)
    安達淳,根岸正光,土屋俊,他(2003)「SPARC/JAPANにみる学術情報の発信と大学図書館」『情報の科学と技術』 53(9), 429-434. http://ci.nii.ac.jp/lognavi?name=nels&lang=jp&type=pdf&id=ART0003215902

    尾城孝一,星野雅英(2010)「学術情報流通システムの改革を目指して 国立大学図書館協会における取り組み」『情報管理』 53(1), 3-11. http://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/53/1/3/_pdf/-char/ja/

    長谷川豊祐(1998).「外国雑誌のRenewalと価格問題」『神資研』33, 10-16. 入手先 著者ホームページ http://members3.jcom.home.ne.jp/toyohiroh/hasegawa/ssk9909.htm

    バックホルツ, アリソン. (高木和子訳) (2002).「SPARC:学術出版および学術情報資源共同に関するイニシアチブ」『情報管理』 45(5), 336-347. http://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/45/5/336/_pdf/-char/ja/

    土屋俊(2004).「学術情報流通の最新の動向 : 学術雑誌価格と電子ジャーナルの悩ましい将来」『現代の図書館』 42(1), 3-30. 入手先, 千葉大学学術成果リポジトリCURATOR, http://mitizane.ll.chiba-u.jp/meta-bin/mt-pdetail.cgi?cd=00020285

    Thomes K. (2000). "The economics and usage of digital library collections", ARL: A Bimonthly Report on Research Library Issues. http://www.arl.org/bm~doc/econ.pdf

    芳鐘冬樹(2004)「科学研究出版の費用分析とビジネスモデル」『カレントアウェアネス』 No.282, 13-15. 入手先 Internet Archive http://web.archive.org/web/20060116023634/http://www.ndl.go.jp/jp/library/current/no282/doc0007.htm




     初心者向け図書館講座を続けよう。

     図書館にあるのは書籍だけだと思うのは狭い考えだ。
     とはいうものの、そう思うのは図書館や図書館を紹介してきた者にも責任がある。

     今回取り上げる図書館資源は、雑誌である。
     雑誌は、ともすれば、書籍よりも格下の存在と見なされてきた。

     しかし知識の担い手や情報流通の観点から見れば、ほとんどすべての書籍は「セコハン(secondhand)」であり、ほとんど「二次著作物」と言っては過言であるが、言い足りないよりは言い過ぎた方がいい。

     本の最初や最後の方に「初出」がどうとかと書いてあるのを見たことがあるだろう。
     今のような出版のしくみができた以降の書籍は、自主出版でもない限り、雑誌(学術誌などを含む)などに載ったものを元にして作られていることが多い。

     書き下ろしの本は、思うよりずっと少ない。
     一応は「書き下ろし」の形をとっていても、内容はその著者がどこかで書いたり、話したりしたことが元になっていることも多い。
     「書き下ろし」の企画が通るには、その著者がそうした内容を書くのにふさわしいと編集者や出版社に認められる必要があるが、そのためには企画に先立ってその著者がなんらかの形で情報発信していて、それを編集者なりがそれを読んだり聞いたりしているはずである。

     書籍はぶっちゃけ、雑誌などの「下流」に位置する。
     このことから次のようなことが生じる。

    1.雑誌記事の内容は書籍より新しい

     雑誌に載ったものが、その後、書籍になる(ことが多い)のだから当然である。
     書籍をつくるのは雑誌よりも時間がかかる(時間をかける)のが普通だから、雑誌に載った後に書籍になるとしても、そこにさらにタイムラグが生まれる。
     そして調べものというニーズで言えば、できるかぎり新しい情報を得たい場合が大半である。
     新しいテーマやトピックについて調べようという場合、そもそもそのテーマについての書籍がない場合も多い。しかし、そうした場合でも雑誌記事は見つかる場合がある。


    2.雑誌記事の内容は書籍よりも多様である

     なんとなれば雑誌に掲載された記事のごく一部しか書籍にならないからだ。
     これは一面では書籍の利点(アドバンテージ)でもある。「選りすぐられたもの」だけが書籍になるとも考えられるからだ。
     しかしこのことは必ずしも内容の質を保証しない。たとえば商業的にペイするかどうかは書籍化にあたって重要な要素であろう。つまり売れそうにないものは書籍になりにくい。
     我々が何か調べようとする場合、そのテーマやトピックはポピュラーなものとは限らない。むしろ、誰もが知っていることを調べても仕方がないだろうから、調べもののテーマはマイナーなものになることが珍しくない。
     このことも、調べるなら書籍だけでなく雑誌記事にも当たらなくてはならない理由のひとつである。


    3.雑誌記事は書籍より詳細である

     専門雑誌や学術雑誌など、多くの人を相手にする訳ではない雑誌の場合、その分野の人なら当然知っているべき入門的知識に紙面を割く必要はない。
     むしろある特定の事項に絞って突っ込んだ内容を盛り込むことが多い。学術論文はその最たる例だ。
     特定の事項に絞ってあるので詳しいタイトルがつくことが多く、知りたいことズバリの内容を検索するのにもよい。

     網羅的に書かれた書籍は、こうした記事を要約して(詳細は省いて)まとめたものが多い。
     書籍でざっくり概説的な知識を得た後、さらに突っ込んで知ろうとする場合は、こうした専門雑誌の記事に当たる必要がある。
     

    4.雑誌記事は書籍よりも短い

     雑誌記事は、書籍よりも〈新しく〉〈多様〉で〈詳細〉であると言った。
     もう一つ大きな特徴がある。雑誌記事は大抵の場合、書籍よりも短い。
     短いことはいいことだ。同じ読書速度なら、短い方がたくさん読める。
     調べものの観点から言えば、たくさん読めるというのは、より多くの情報源に当たることができるということだ。
     1冊の本を読む時間に10本の雑誌記事が読めるとしたら、しかも〈新しく〉〈多様〉で〈詳細〉なのだ、これを使わない手はないだろう。


    5.雑誌記事を追うには図書館へ行け

     しかし本を読めと宣う人は多いが、雑誌を読めと言ってくれる人はあまりいない。

     せいぜい指導教官や研究室のおせっかいな先輩が「論文を読め」「論文を読まないなら死ね」と言ってくれるくらいだ。
     論文は学術雑誌に載っている、といった当たり前のことは、誰も教えてくれない。

     探すべきは学術雑誌や論文だけではない。
     知りたい情報が専門誌は無論、一般誌にも載っていることも少なくない。
     くだらない眉唾ものの記事ばかり載せているように思える大衆雑誌も、そのくだらない記事が年月を経ると、その時代を映す貴重な資料になることだってある。


     このことにいち早く気付いた大宅壮一は膨大な雑誌のコレクションと独自の分類をつくったが、彼の死後、このコレクションをもとに大宅壮一文庫がつくられ、現在でも年間2万人の利用がある。
     このコレクションの「雑誌記事索引総目録」が件名別、人名別で刊行されており、これを使って明治時代から現在までの大衆誌の記事を検索できる。普通の雑誌記事索引では見られない記事を拾っているところが貴重。
    公式サイト:http://www.oya-bunko.or.jp/



     なにしろ雑誌はたくさんある。
     この多様性もまた、先に見たように雑誌(記事)のメリットなのだが、個人が入手し収集できる雑誌はごく限られている。
     多様性のメリットを発揮するには、多くの雑誌を長期間に渡って収集するところが必要になる。
     だから図書館なのだ。

     雑誌記事を使いこなすには、記事ひとつひとつが検索できる必要がある。
     雑誌記事検索のためのツールは従来玄人向けで、小さな図書館は所蔵してないことも多かった。
     今は国会図書館の雑誌記事索引がインターネットで誰でも使える。


    『雑誌記事索引』は「国立国会図書館NDL-OPAC」http://opac.ndl.go.jp/ のページから「雑誌記事索引の検索/申込み」をクリックして検索する。
     1948年から現在までの国内刊行の学術雑誌を中心とした雑誌記事情報を収録(1948~74年は人文・社会系のみ)。
     ※国会図書館が所蔵するすべての雑誌の記事が検索できるわけではない。検索可能な雑誌と記事が採録されている期間については、雑誌記事索引採録誌一覧で確認できる。

     なお、学術雑誌については、国立情報学研究所(NII)の「CiNii(NII論文情報ナビゲータ)」http://ci.nii.ac.jp/ で、上記の『雑誌記事索引』に加えて、国内の学協会誌、大学研究紀要などの論文情報を検索でき、一部の論文は全文の閲覧が可能。



     あなたの行きつけの図書館にあまり雑誌が揃っていなくても、国会図書館の雑誌記事索引で見つけたものなら、有料だがその記事をコピーして自宅や職場に送ってもらえる。郵送料込みで数百円、時間も1週間かからない。
     もちろん、行きつけの図書館を介しても依頼できる。

     国立国会図書館 遠隔複写サービスの紹介ページ
     http://www.ndl.go.jp/jp/service/copy3.html


     自宅で雑誌記事を手に入れる方法は、以前書いた次の記事が参考になるかもしれない。

    自宅でできるやり方で論文をさがす・あつめる・手に入れる 読書猿Classic: between / beyond readers 自宅でできるやり方で論文をさがす・あつめる・手に入れる 読書猿Classic: between / beyond readers


    (その他の役立つツール)

    『明治・大正・昭和前期雑誌記事索引集成』(皓星社)

     明治初期から昭和前期までの人文科学、社会科学など各テーマの雑誌記事索引と雑誌毎の目次を掲載したもの。
     上記の国会図書館「雑誌記事索引」作成以前の時代について、雑誌記事・論文を網羅的に調べることができる。
     皓星社ホームページで執筆者索引検索と総目次検索が可能。


    Scirus http://www.scirus.com/srsapp/
    Elsevier社が提供する科学技術情報に特化したサーチ・エンジン。MEDLINE/PubMed(医薬学関係の雑誌論文書誌情報)やScienceDirect (1,800誌以上の主として科学技術専門誌の全文情報有料、抄録までは無料)、SIAM、CogPrints、arXiv.org e-Print archiveをサービス・ソースとし、科学技術雑誌論文の検索にも使える。

    ArticleFinder http://www4.infotrieve.com/search/databases/newsearch.asp

    Infotrieve社が提供する雑誌論文検索・発注システムで、書誌事項の検索までは無料。採録誌54,000誌以上、収録レコード数は2,600万件以上。サービス・ソースはMEDLINE、ERIC、IEEE、IEE、Infotrieve社が作成している雑誌目次情報のTable of Contents(TOC)外部サイトへのリンクおよび電子ジャーナル目次情報のeContent外部サイトへのリンクなど。


    大学や研究機関に所属していない個人も合わせ技で、ScirusやArticleFindeやGoogle Scholarで見つけた(がオンラインでは入手できない)雑誌記事を、(すべての雑誌ではないが)国会図書館NDL-OPACで検索して郵送取り寄せするも可能。

     「国立国会図書館NDL-OPAC」http://opac.ndl.go.jp/ のページから「一般資料の検索/申込み」ボタンを押して、「洋雑誌新聞」にチェックを入れて、タイトルの検索ボックスに雑誌名を入力し検索→見つかったら書誌情報画面左上の「所蔵詳細/申込み」ボタンを押し、該当号を選ぶ。