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     世の中には、そして人生には、そもそも正解があり得ないような問題がたくさんある。
     問題がきちんと定義できなかったり、それぞれ別の面で他よりも優れている解決策が並立したり、どうすれば望ましいのかが今後の自分ではコントロールできない不確定要素に左右されたりする場合がそうである。


     そうした場合、少なからぬヒトは、意思決定をやり過ごす。
     「人生ってこんなもんさ」とか「悪い状態も今だけだ」とか「いずれ運が向くだろうさ」とか「いくら考えたって答えなんて出ない」などと自分に言い聞かせて、選択することを先送りにし現状維持を決め込む。
     しかし本当は、リスクを取らないこともまたそれなりにリスキーであるのと同様に、「選択することを先送りにする」こともひとつの選択であり、しかも悪い選択であることが多い。


     未来はどこまで行っても不確実だが、それは意思決定しない理由にはならない。
     むしろ不確実だからこそ、意思決定の余地が残されているのである。
     
     以下は、複数の評価軸が考えられるような複雑な問題、すなわちひとつの評価軸さえ考慮すれば間に合うでヒトの直感がそこそこよい結果をあげるような単純な問題ではないものについて、意思決定を改善するステップとツールである。
     
    (下の方法が大変すぎるという方はこちら→いますぐできる→世界一シンプルな意思決定のやり方 読書猿Classic: between / beyond readers いますぐできる→世界一シンプルな意思決定のやり方 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加


     
    1.意思決定のスイッチを入れる

    (1)つぶやきの中に問題に直面しているサインを見つける

    (2)問題に対して「どうすることもできない」「やり過ごしたい」と思うのは当然のことと捉える

    (3)それでも意思決定することを〈決定〉する(スイッチを入れる)


    「もういいや、現状維持でいこう」や「もう考えるのはやめよう」「いくら考えたって答えなんて出ない」などと心のなかでつぶやいたら、自分が複雑な問題に直面しているサインである。
     ヒトが問題の存在を認めたがらないのは、その問題が自分にはどうすることもできないと感じるからである。

     感じること自体はどうしようもない。

     できるとしたら、どうすることもできないと感じるものだという事実を知っておくこと、そしてそう感じたとしても、問題と向き合い、解決策を注意深く探れば、失敗を回避したり、不快や不安を軽減できると知ることである。
     「どうすることもできないと感じるものだという事実」は知識として知ることができるが、「そう感じたとしても、問題と向き合い、解決策を注意深く探れば、失敗を回避したり、不快や不安を軽減できる」ことを知るには、体験する以外にない。


     「スイッチを入れる」ことを〈儀式化〉しておくのも手だ。
     つぶやきの中に問題に直面しているサインを見つけたら、間をおかず、

    ・赤いペンで手帳に書きこむ
    ・最期までやるという自己契約書を書く
    ・誰かを証人に立てる

    といった所作を決めておくといい。



    2.問題を定義する

    (1)問題を具体的な言葉で表現できないか?→what: 何が問題か?

    (2)問題が生じる/切迫度を増す時があれば、それは何時か?→when: いつ問題は起こるのか?

    (3)問題が生じる/目立ってくる特定の場所があれば、それはどこか?→where: どこで問題は起こるのか?

    (4)この問題は自分の行動の中でどのように現れてくるのか→how: どのように問題は起こるのか?

    (5)この問題はどうして生じるのだろうか?→why: なぜ問題は起こるのか?


     問題の存在を認めたら、問題を定義しよう。
     定義は詳細なほど、あとのステップがやりやすくなる。


     ここでは、よく使われる4W1Hのフォーマットを使おう。
     汎用性が高く、他の場面でも活用可能であり、また現に使われているので改めての習得も不要である(あるいはその手間は少なくて済む)。



    3.当面の目的を明確にし、同時にいくつかの案を出す

    (1)why分析
     問題または解決案について「それは何故か?」を問い、より上位の/より根本的な目的を明らかにする。

    (2)how分析
     問題または解決案について「それを(解決)するにはどうしたら?」と問い、解決策を具体化し、また解決策の選択肢を増やす。
     
     一旦より上位の/より根本的な目的を検討してから、具体的な解決策へと再度降りていくやり方は、解決策の幅を広げ、行き止まりになるのを避けやすくなる。
     
     例とそのツールを示そう。
     下の図は、赤い矢印がwhy分析の経路、青い矢印がhow分析の経路を示す。
     太枠の四角「学校がつまらない」が最初の問題である。
     ここからすぐにhow分析で解決策へ進む(青い矢印)と「退学する」「転部する」といった解決策にたどり着く。
     これに対して、まずwhy分析を行い、より上位の/より根本的な目的へ向かうことで、選択肢の幅を広げている。
     またさらに上位へ進んだ後、how分析へ進むと、先程の具体性を持たず宙ぶらりんだった「転部する」という解決策も、他の職種→カウンセラー、弁護士、映画監督という系列が結びつき、取り上げるに足る解決策に転換される。

    why-how.jpg


    4.案を絞り込む

     トベルスキーの属性値による排除法 Tversky's elimination by aspects (EBA) を一部変更した方法で、解決策の数を取り扱い可能なまでに(5つ程度に)減らす(絞り込む)。
    (1)検討すべき条件(側面)をリストアップする

    (2)リストアップされた条件(側面)を、「これだけは欠けていてはならない条件」と「あれば望ましい条件」とに分けて、「これだけは欠けていてはならない条件」

    (3)欠けていてはならない条件のうち一番に重要な条件について、それを含んでいない解決策をすべて落とす。

    (4)欠けていてはならない条件のうち二番目に重要な条件について、それを含んでいない解決策をすべて落とす。

    (5)以上を、欠けていてはならない条件がなくなるまで繰り返す。



     オリジナルのトベルスキーの属性値による排除法 Tversky's elimination by aspects (EBA) は次のようなものである。



    (1)もっとも重要な、これだけは欠けていてはならない条件を決め、それを含んでいない解決策をすべて落とす。

    (2)二番目に重要な条件を決め、それを含んでいない解決策をすべて落とす。

    (3)三番目に……(以下略)、残る解決策がひとつ、もしくは取り扱い可能な数になるまで繰り返す。



     EBAは非補償型の意思決定法である。補償型の場合はいわば総合点で評価するので、ある属性の評価が低くても、評価が高い属性があれば、その欠点は補われる。非補償型の場合は、そうした補いはできない。つまり、ある属性の評価が低いだけで、他の属性での評価がいくら高くても(総合評価なら最上位に来るものであっても)排除されてしまい、必ずしもベストの選択にならない。





    5.案を評価する

     次の4つの側面について、プラス面とマイナス面を、残っている解決策すべてについて、リストアップする。

     つまり解決策ひとつについて8つの評価の側面があるが、まず問題についての考慮項目を8つの評価の側面について考える。

     たとえば職業選択という問題だと、「自分にとっての実利的評価」には〈収入〉や〈仕事の難易〉〈安定性〉などが、〈自分の価値観による評価」には〈自負心プライド〉〈メシの種以上のものか?〉などが考慮項目として挙げられるだろう。


    自分の 他人の
    実利的評価自分にとっての実利的評価他人にとっての実利的評価
    価値観からの評価自分の価値観による評価他人の価値観による評価

     どれほどよい解決策であっても、いくらかの短所/欠点を含んでいる。

     言い換えれば、どのような解決策であっても、代償は不可欠である。

     代償を折込み済みにするためにもマイナス面の評価は不可欠である。


     損得や有利不利についての実利的評価とは別に、価値観からの評価を行うのは、解決策の実施と持続に大きな影響を与えるからである。

     どれだけ利益となるものであっても、意にそぐわぬ、価値観に背く解決策では、やる気が起こらず、取りやめる理由を探し続けることにもなりかねない。

     自分にとっての評価だけでなく、(自分にとって重要な)他人にとっての評価も考慮するのは、決定された解決策を実施するにあたって、そうした他人は実施の妨げにもなり、後方ないし側面支援にもなるからである。

     決定された解決策が実施されない、または実施されたとしても途中で頓挫する大きな要因のもうひとつが、自分にとって重要な、周囲の他人からの働きがけである。

     これは強い意志を持っていればなんとかなるといった類いの問題ではない。

     しかし、あらかじめ折込んでおけば、対処しようがないものでもない。

     我々は人の間で生きている。問題解決も意思決定も、人の間で行われる。それを捨象してはうまくいかない。




    6.ひとつの案に決定する

    (1)それぞれの解決策についての評価を見直す。

    (2)どの解決策の評価にも登場する考慮項目は、解決策を選択することには役に立たないから、線を引いて抹消する。

    (3)評価のうち、もっとも重要だと思われるものには7点を、もっとも重要でないと思われるものには1点を与える。

    (4)それぞれの解決策について、プラスの得点の合計からマイナスの得点の合計を引き、合計点を計算する。

    (5)もっとも得点が高いものが、決定すべき解決策である。



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     ある現状が続いている場合、何の力も働いていないことはなく、むしろ様々な力が均衡していると考える方が正しい。
     とすれば、前へ進むためには、プラスの力を追加したり上乗せするだけでなく、マイナスの力を減じるやり方も使えることになる。

     クルト・レヴィン(Kurt Lewin)の「場の理論:Field Theory」の「力の場の分析:Force Field Analysis」は、こうした発想に立った分析ツールである。
     よく使われるのは「うまくいっていない現状」について、「推進力」「抵抗力」をそれぞれ思いつく限り書き出し、それぞれの「力」の大きさを評価して、その釣り合いで現状を表し、「抵抗力」を減少させる方法や「推進力」を増加させる方法を考えていくものである。
     特に、抵抗があって変革が進まないケースなどに有用だとされる。

     この方法は、個人についても使える。
     変わろうとすれば、必ず変わるまいとする力を感じることになる。
     自分の中の「援軍」と「抵抗勢力」を書き出し、その力を評価しておくことは、セルフ・マネジメントという難しい仕事にもとても役に立つ。

     個人向けに、二通りのフォースフィールド図の書き方をまとめておく。


    (バランス型フォースフィールド図)

    1.紙の一番上に、中央に「現状」を、右端に「望ましい状態」を書く。
    2.紙の中央に縦線を引き、線の右側に「抵抗力」(望ましい状態の実現を妨げる力)を、線の左側に「推進力」(望ましい状態の実現する力)を、できるだけ多く書きだしていく。
    3.それぞれの「抵抗力」「推進力」の大きさをそれぞれ評価する。10段階評価で数字を書き入れてもいいし、矢印の長さで表してもよい。
    4.「抵抗力」「推進力」について、変えやすそうなものを選んで、いくつか◯を付けていく。また追加できそうな「推進力」を考えてもよい。
    5.変えやすいと選んだ「抵抗力」「推進力」それぞれについて、変える方策を書き、「抵抗力」がどれくらい弱まるか、「推進力」がどれくらい強まるか、(追加できる「推進力」の大きさがどれくらいか)を評価して、赤で書き入れる。

    FFA.jpg



    (アンバランス型フォースフィールド図)

    1.取り組もうとする課題を紙の一番上の中央に書く。
    2.課題についての、最高の状態(Bast Case)を紙の左端に、最悪の状態(Worst Case)を紙の右側に書く。
    3.紙の中央に、課題の実現を左右する要因や状況を、できるだけ多く書き出す。
    4.3で書き出した要因や状況それぞれについて、最高の状態(Bast Case)へ引っ張るものか、最悪の状態(Worst Case)へ引っ張るものかを判断し、現時点での引っ張る力の大きさを評価して×印を付ける。
    5.すべての要因・状況について、4の作業が済んだら、それらの力を平均した総合評価を、紙の一番下に引いた線の上に×印で表す。これで現状がどのあたりで均衡しているかが表示される。
    6.変えやすい要因・状況すべてについて、変える方策を考え、その方策をとったときの引っ張る力の向きと大きさを評価して、今度は赤い×印を付ける。これがすべて終わったら、もう一度すべての要因・状況を平均した総合評価を、紙の一番下に引いた線の上に今度は赤い×印で表す。これができるだけ最高の状態(Bast Case)側に来るように、さらに方策を考える。

    FFA2.png




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    既知から未知へ

     新しいことが何も含まれていない文章は、読む意味も書く意味もない。
     まったく新しいことだらけだと、何が書いてるのか分からない。

     言語表現は、送り手(話し手、書き手)と受け手(聞き手、読み手)の間で共有される「既知の情報」を表す部分と、話すことで話し手から聞き手に渡される「未知の情報」の部分とからできている。
     順番は、読者が〈知っていること〉から〈知らないこと〉へ進むのが正しい。
     この方がヒトの情報処理にかなって理解しやすい。
     
     この原則は、ひとつの文中、文と文の関係から、文章全体の構成まで、いずれのレベルについても言える。




    一文の中の既知と未知


    ○ The new project is exciting.
      (例の、あの)新しい企画だけど刺激的だね。
    ? A new project is exciting.
       ある新しい企画は刺激的である。



     上の文の「The new project (新しい企画)」は、この文より前に登場し説明されているものだと推測できる。
     つまり読者にとっても(この文の時点では)既知の事項である。
     話し手と聞き手の間で共有されているので、「the」という定冠詞がついている。
     既知の事項を受けて、未知の情報「exciting」が付け加わっているので座りがよい。
     
     これに対して下の文の主語である「A new project(ある新しい企画)」は、未知の事項である。
     不定冠詞「a」がついているのがそのサインである。
     つまり聞き手にとっては(この文の時点では)未知の事項である。これから説明されなくてはならない。
     この文は、文法的には大丈夫でも、ちょっと舌足らずでアタマも足りてない感じがする。
     できればこう言い直したいところだ。


    ○ We have an exciting new project.
      刺激的な新企画があるんだ。

     

     この文では、「We」が既知の事項、「have a exciting new project.」が未知の事項である。
     「We」で「もちろん、おれたちの話だぞ」と既知事項のフィールドを張って、そこに未知の事項「刺激的な新企画がある」が出てくる。




    文章構成における既知と未知

     一つの文が〈既知〉→〈未知〉という順に構成されるとすると、複数の文からなる一つのまとまりある文章は、どのように構成されるべきだろうか?
     より前の文が述べた事項は既知の事項として扱ってもいいから、ひとつの文で少しずつ新しい情報を付け加えながら、文章は進んでいくことになる。

     さて、杓子定規に考えると困るのは、一番最初の文は何を既知として扱っていいか、である。
     一番最初の文は、定義により、それ以前の文を持たない。書かれたもの、説明したものはまだないから、結論としては、文章に含まれないが既知である事項を前提にするしかない。

     ここで、その文章は誰が読むことを期待(予定)して書かれるか、という問題に行き当たる。
     それによって、何をどこまで既知事項として扱えるかが決まるからだ。
     誰を読者として想定するかが決まれば、読者が知っている(はず)ことを想定できる。
     そして、文章は、読者が知っている(はず)ことから書き始めるのが原則ということになる。

     よって書き出しの第一パラグラフは、次のような構成になる。覚えやすいように頭文字を取り出してある。



    C:Common Knowledge
       読み手も知っていること

    B:But →Question?
      「しかし」で導きの疑問に切り替え

    A:Answer 
      導きの疑問への解答=この文章で伝えたいこと




     まずは、読み手も知っている(はず)ことを簡潔に書く。
     これは読者を選別する役割を担う。
     つまり、ここに書かれたことが周知であるような人々に対してこの文章は書かれている、という事前アナウンスがその役目である。

     しかし、読み手も知っている(はず)ことばかりでは、冒頭に述べたように、読む価値がない。
     文章は、読み手が知らない事項へ進まなくてはならない。
     その切り替え点で、逆接の接続詞が入る。
     butをandやorなどと同様に扱ってはならない。
     逆接(でも、だって)の後にこそ、本音が漏れる、もとい文章の趣旨が登場するのである。

     逆接の接続詞で折り返した後、この文章が答えようとする問いと、それに対する簡潔な答えを付け加えれば、第1パラグラフは出来上がる。
     その後は、簡潔すぎる/言いっぱなしの答えに対して、根拠付け(何故そう言えるのか?への答え)と詳細説明(どういう事か?への答え)を展開して、筋の通った文章ができる。




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    バーバラ ミント、グロービスマネジメントインスティテュート 他

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