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    「ジャーナリスト系の論者には、とりわけ短文信仰が強い。」(斉藤美奈子『文章読本さん江』p.64)

    「新聞記者の短文信仰には理由がある。新聞は一行十一字詰め(昔は十五字詰め)で印刷される。一文が短くないと、読みにくいのだ。」(斉藤美奈子『文章読本さん江』p.65)



     確かに新聞記者出身者が書く文章表現本には、記者時代のトレーニングを引き合いに出して短文を強く勧める傾向がある。
     とはいえ先の記事
    「文は短く」は俗説か?ー〈短文信仰〉を屠り、短文のレトリックと長文のロジックを取り戻すために 読書猿Classic: between / beyond readers 「文は短く」は俗説か?ー〈短文信仰〉を屠り、短文のレトリックと長文のロジックを取り戻すために 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加
    で引いた中では、中村明と安本美典は学者だし、一行十一字詰め印刷を常に意識しなければならない訳ではない。

     それに、斉藤の引用を読む限り、新聞記事の一文が短いのは既成事実のようだが、果たして本当にそうなのだろうか?
     
     以下はまったく網羅的でない文献調査を行い、たまたま入手できた論文・書籍等からデータの孫引きしてつくったグラフなのだが(赤色が新聞記事、青色が他の文章のセンテンスの長さ)

    1sen-length+.jpg
    (出所)
    ・石田栄美, 安形輝, 野末道子, 久野高志, 池内淳, 上田修一(2004) 「文体からみた学術的文献の特徴分析」『三田図書館・情報学会2004年度研究大会』.
    ・前川守(1995)『1000 万人のコンピュータ科学 3 文学編 文章を科学する』 岩波書店.
    ・森由紀(1998)「専門分野の日本語:社会科学系資料の分析をもとに」『第11回日本語教育連絡会議発表論文集』
    ・鈴木正道(2010)「日本の新聞の1面コラム」『言語と文化』 (7) 43-58.
    ・星川法子(2005)「形態素解析による若い作家の小説の特徴の研究」園田学園女子大学卒論.



     新聞記事のセンテンスの長さは、研究によって大きな違いがある。
     という以外には、新聞記事のセンテンスは必ずしも短いとはいえない(新聞記事に対して1センテンスの長さではっきり勝っているといえるのは判決文と谷崎潤一郎だけである)程度のことが言えるだけである。

     比較しやすいように、長い順に並び替えたグラフが以下。

    1sen-sorted_length.jpg
     



     谷崎は、日本文学の中でも破格に長い文章を書くと知られる作家である。
     会話を含む小説では、太宰治『人間失格』の平均60字だって相当に長いのだが、『細雪』の平均170字なんて異常の域である。
     判決文は、新聞記者とは逆に、「裁判官・検察官・弁護士といった法曹界の人材を養成する司法研修所では、一文を5行程度は続けるよう指導されている」というフォークロアがあることを森(1998)が触れているほどで、200字以上の長いセンテンスが頻出する、ジャンル別ではおそらく最も長い日本語のひとつといっていいと思う。
     
     他方、新聞記事の中でも短文が多い印象があるコラムを比較したものを見れば(鈴木正道、2010)、毎日新聞「余録」51.2字から朝日新聞「天声人語」28.8字までかなりの幅がある。
     中でも朝日新聞「天声人語」は特に短いのであり、これをもって新聞記事の典型とみなすのはちょっと乱暴だと言わざるを得ない。
     
     
     今回は、黒田圭『よくわかる文章表現の技術』がデータをあげて議論するというスタンスだったのと、斉藤美奈子『文章読本さん江』を読み返して、ずいぶん強く言い切ってたなと感じたことがあって、本当はどうなの?とセンテンスの長さを調べてみる気になった。


    よくわかる文章表現の技術〈1〉表現・表記編 (新版)よくわかる文章表現の技術〈1〉表現・表記編 (新版)
    (2009/11)
    石黒 圭

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    文章読本さん江 (ちくま文庫)文章読本さん江 (ちくま文庫)
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     教訓は「何事も調べてみないと分からない」というしまらない(けれど大切ではある)ものだけれど、最後にグラフをもうひとつ。
     
    asahi-length.jpg
    (出典)野元菊雄(1978)「話しことばに近づく新聞文章」大石初太郎他『ことばの昭和史』(朝日新聞社)収録。
     
     これによれば、新聞記事のセンテンスの長さに変化が生じたのは比較的新しい。
     太平洋戦争を挟んで前後でほとんど変化なかったのが、1960年代以降になって短いセンテンスへの変化が生じている。
     

     
    ことばの昭和史 (1978年) (朝日選書)ことばの昭和史 (1978年) (朝日選書)
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     日本語の作文教育から文章読本に至るまで、〈短文信仰〉とでも言うべきものがある。
     文章表現を主題とする書籍の多くが「文は短く」と主張する。
     
     「われわれ新聞記者は、だから、入社以来、先輩たちから、文章はできるだけ短く書くように、といわれつづけてきた。短く書こうとすると、主語と述語が近づき、事実がはっきりしてくる。込み入った因果関係のある事件などの場合には、とくにこの心構えが大切である。」(猪狩章『イカリさんの文章教室』)

     「短く、短く、短く。/とにかくそれを絶えず念頭に置いてほしい。そして、短い一文に、全力を傾けていくことである。/ひとつの文に、あいまいさを残さぬことである。/文章を短くすることによって、意味のつながりを明瞭にすることができる。」(馬場博治『読ませる文章の書き方』)

     「平明な文章を志す場合は、より長い文章よりも、より短い文を心がけたほうがいい。/私は、新聞の短評を書いていたころ、文の長さの目安を平均で三十字から三十五字というところに置いていました。」(辰濃和男『文章の書き方』 (岩波新書)

     「読みやすい文章をめざすには短めに切ることを心がけたい。平均30字以内になるように文を切っていけば、文の長さの点ではかなりやさしい文章になるはずだ。平均で40字くらいまでは読みにくくなる心配はあまりないだろう。」(中村明『名文作法』)

     「一センテンスの長さは、40〜50字以内になるようにつとめるべきである。とくに、文章の書きだしのセンテンスは、力が入りすぎて、長いセンテンスになることが多いので、注意して短くする。」(安本美典『説得の文章術』)

     
     
     「簡単に短い文がいいと断定するのは容易である。しかし、大切なのは、短い文と長い文の特徴を十分理解し、それを使い分けることである」(北原保雄(1977)「構文とレトリック」『現代作文講座5 作文の技術』)と、当たり前の留保をつけるものすら、ほとんどない。
     あとは斎藤美奈子『文章読本さん江』が、先の短文を勧める引用を並べたてた後で「抑圧的」と一蹴し、「新語は禁じ手、紋切り型も御法度、ひたすら短くわかりやすく書く。じつに正しい。そして正しいだけである。正しさを貫いた結果は、朝の新聞受けの中にある。彼らのいいつけを守っていたら、文章はなべて新聞レベルの正しく退屈なものになる」と薪を背負わせて火をつけているくらいのものである。
     
     
     しかし「短い=わかりやすい」という妄言は、もう少し丁寧に壊しておく必要がある。
     
     当然のことながら、短い文にも長い文にも、それぞれに得手不得手がある。
     
     「文は短く」と断ずるだけでは、短い文と長い文の特徴を理解する機会が失われる。
     もう少し突っ込んでいえば、〈短文信仰〉は、一方では短い文のレトリカルな側面を隠蔽し、一方では複数の述語を持つ長い文が担うロジカルな機能への注意を阻害する。
     
     短い文章は、伝達の正確さや分かりやすさを追求するという理由からではなく、修辞的な理由で選択されることも多い。
     そして、単純でないことを、正確かつ分かりやすく書こうとすれば、それに応じた複雑さや長さを備えた文が必要になる。
     
     
     先に紹介した石黒圭『よくわかる文章表現の技術』(全5巻)の第1巻「表現・表記編」には、「文の長さとよみやすさ」を扱った章(第11講)がある。


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     これを参考に、あまり光が当てられることがない〈長い文が得意なこと〉を中心に、文の長さについて考えてみたい。
     
     
    気が短い人のための要約 
     
    *長いセンテンスが得意なこと

    1.述語に軽重をつける
    2.情報を階層付けする
    3.表現を束ね、節約する
    4.継続性を強調する


    *短いセンテンスが得意なこと
    1.述語間の関係を明示化しなくてすむ
    2.センテンスの構造を単純化する
    3.情報を後出しし目立たせる
    4.センテンスにリズムをつける




    長いセンテンスが得意なこと

    1.述語に軽重をつける

     ひとつだけしか述語を含まない単純なセンテンスをつなぐと、複数の述語を含むセンテンスができる。
     
     「おなかが空いた。ご飯を食べた。」・・・(1)
     「おなかが空いたので、ご飯を食べた。」・・・(2)


     複数の述語を含むセンテンスでは、述語の間に軽重がある。
     日本語は文末決定性の強い言語なので、文末に来た方の述語が主たる述語になる。
     例文(2)でいうと、「食べた」の方が主たる述語である。
     
     つまり複数のセンテンスを一つのセンテンスにまとめることで、(複数の文に含まれていた)複数の述語のうち、特定のものに焦点を当て、目立たせることができる。
     
     このことが文章表現にどんな影響を与えるか、分かりやすいように極端な例で占めそう。
     
     
     日本国及びアメリカ合衆国は、両国間の友好関係を強化する。
     民主主義の諸原則を擁護することを希望する。
     両国の間の一層緊密な経済的協力を促進する。
     それぞれの国における経済的安定を希望する。
     平和のうちに生きようとする願望を再確認する。
     両国が集団的自衛権を有していることを確認する。
     両国が国際平和に共通の関心を有することを考慮する。
     安全保障条約を締結することを決意する。
     よって次のとおり協定する。・・・(3)
     
     
     例文(3)は、有名な悪文である、日米安全保障条約前文を短文化して作ったものである。
     9つのセンテンスからなり、それぞれのセンテンスはひとつの述語を含む。
     つまり9つの述語が登場するが、ただ並列され、そのうちのどれが重要なのか分かりにくい。
     主語である「日本国及びアメリカ合衆国」は結局何をするのか、したいのか、全くはっきりしない。
     
     次の例文(4)は、(3)を元にセンテンスをつなげ、4つのセンテンスにまとめたものである。

     日本国及びアメリカ合衆国は、両国間の友好関係を強化し、民主主義の諸原則を擁護することを希望する。
     両国の間の一層緊密な経済的協力を促進し、それぞれの国における経済的安定を希望する。
     両国が集団的自衛権を有していることを確認し、国際平和に共通の関心を有することを考慮する。
     よって安全保障条約を締結することを決意し、次のとおり協定する。・・・(4)
     
     
     センテンスをつなげることで長文化したが、数多い述語に軽重つけられ、主たる述語は4つ「希望する」「希望する」「考慮する」「協定する」に減った。

     構成要素の数が減れば、組み合わせの数は大きく減じる。
     主たる述語の数が減ると、文章の構造もシンプルなものになる。

     (4)の場合だと、主たる述語は4つに減らしたことで、
     
    fig1.jpg
      
    という述語間の関係がつかみやすくなっている。

     

    2.情報を階層付けする

     センテンスをつなげることには、他の機能もある。
     
     センテンスをつなげまとめることで、元の複数のセンテンスが伝える情報が同じ階層(レベル)にあることを示すことができる。
     
     例えば先の例文(4)の最初のセンテンス、
     
    「日本国及びアメリカ合衆国は、両国間の友好関係を強化し、民主主義の諸原則を擁護することを希望する。」・・・(5)

    fig2.jpg


    を例にすると、「両国間の友好関係を強化する」と「民主主義の諸原則を擁護する」を同じセンテンスに取り込むことで、ふたつが同レベルの階層にあることを示している。




     もう少し単純な例で示すと
     
    「このコンビニは11時にしまる。深夜の売上げは低い。周囲の治安は悪い。」・・・(6)

     では3つの文はただ並列しているだけが、内容からすれば後ろの2つのセンテンスはともに第1センテンスの理由を示している。

     であれば、共に理由を表す第2センテンスと第3センテンスは束ねた方が、ふたつが同レベルの階層にあることが分かりやすい。
     また3つのセンテンスの役割分担と、それぞれの間の論理的関係もはっきりする。
     つまり同じ階層(レベル)にあるセンテンスをまとめることで、前後のセンテンスとの間にある階層性を示すことができる。

    fig3.jpg

     
    「このコンビニは11時にしまる。なんとなれば、深夜の売上げは低いし、周囲の治安は悪い。」・・・(7)

     いくつかのセンテンスをまとめたうえで接続詞をつけることは、接続詞が影響を及ぼす範囲(スコープ)をコントロールすることでもある。
     
     


    3.表現を束ね、節約する

     複数のセンテンスを一つのセンテンスにまとめることで、重複した表現を省くことができる。
     つまりセンテンスの長さは長くなるが、冗長さを減らすことができる。
     当たり前の話だが、〈短文=シンプル〉に拘泥していると、見過ごされやすい論点でもある。
     
     「朝は家で昨日の残り物を食べた。昼は近所のレストランでランチを食べた。」・・・(8)
     
     「朝は家で昨日の残り物を、昼は近所のレストランでランチを食べた。」・・・(9)



    4.継続性を強調する

     訳あって後述する。


    短いセンテンスが得意なこと

    1.述語間の関係を明示化しなくてすむ

     訳あって後述する。
     

    2.センテンスの構造を単純化する

     長いセンテンスは複雑な構造を持つことができる。
     逆に、センテンスを短くすることは、センテンスの構造の単純化につながる。
     
     たとえばひとつのセンテンスに含まれる述語の数が4つ、5つ・・・と増えていくと、どの述語同士の結びつきが強く、どの結びつきが弱いか、瞬時に判断することが難しくなっていく。
     
      しかしセンテンスの構造を整理して、読みやすくすることはできる。
     
     「マイナーな競技の場合、オリンピックでメダルを取れば取材が殺到するが、メダルを取らなければ見向きもされない。」・・・(9)
     
     例文(9)は

     「〜であれば〜だが、
      〜であれば〜だ」

     と、〈〜であれば〜だ〉という形式を平行して用いることで、述語を4つ使いながらも、述語の間の関係は明確である。
     
     
    3.情報を後出しし目立たせる

     訳あって後述する。
     

    4.文にリズムをつける

     訳あって後述する。




    正確さと分かりやすさを越えて


     後回しにしたものをまとめて扱おう。

     先ほどいくつかの項目を後回しにしたのは、それらが内容を伝達することにだけ関わるものではないからだ。
     ちょっと真顔で言いづらいが、それらは表現に関わることだと大くくりすることができる。
      
     以下の項目は、主として文章の調子や綾に関わるものである。もちろん内容の伝達と表現は、はっきりここからここまでと分離できるものではない。
     文章表現本の中には、まず正確に分かりやすく伝えることに注力すべきで、文章のスタイルを気にするなんぞ色気づくのは100年早い!とでも言いたそうなものが散見する。
     しかし読書心理学的には、読み手の意欲は読解力を左右する重要なファクターだから、読みたくなるように書くことは、結果的として、よりよく伝えることに貢献している。
     何かを伝えようとすれば、無自覚であれ、否応なく何らかのスタイルを採用しているのである。
     
     わざわざ節を区切った理由は、〈短文信仰〉が、飾らない文章が一番であるという〈非文飾信仰〉と通じている節があるからである。
     しかし、短いセンテンスが得意なことは、以下に見るように、むしろ修辞・表現面に多い。
     
     

    長いセンテンスが得意なこと(修辞表現篇)

    4.継続性を強調する

     センテンスを切ることは、そこで文章の流れに小さな切れ目を入れることである。
     逆に一連の出来事を一続きのものとして表現したい場合には、一つのセンテンスにまとめることは有効である。
     
     「自動販売機のまえに100円玉が落ちていた。僕はそれを見つけた。そして周りを見た。誰も居ないことを確認した。落ちていた100円玉を拾った。それをポケットに入れた。」・・・(10)
     
     「自動販売機のまえに100円玉が落ちているのを見つけた僕は、周りを見て、誰も居ないことを確認し、100円玉を拾って、ポケットに入れた。」・・・(11)
     
     
     

     
    短いセンテンスが得意なこと(修辞表現篇)


    1.述語間の関係を明示化しなくてすむ

     言葉を伝達手段としてのみ考えると、このことは長所とは言えないが、予防線は引いておいたから、気にせず進む。
     
     複数のセンテンスをつなげ一つのセンテンスにまとめる場合には、接続助詞などを用いなければセンテンスとして成り立たず、それぞれの関係は否応なく示されることになる。
     複数のセンテンスに分けた場合には、接続詞を使って関係を明示することもできれば、接続詞を使わずに関係を明示せずに済ませることもできる。
     よくいえば、センテンス同士の関係について、その解釈の可能性を開くというか、読者に委ねるというか丸投げするというか、曖昧にしたまま済ませるというか、段々ひどくなってきたが、そういうことができる。
     
     実際のところどうなのかといえば、日本語の場合、接続詞をつけられたセンテンスは、全体の1割=10%程度である。9割の文は、接続詞がないままに並べられているわけだ。
     多くは接続詞なしでも誤解が生じる可能性が少ない(だから接続詞は必要ない)からだが、不必要以外の理由もある。
     一歩ごとに道しるべがある道がかえって歩きにくく、また歩いても楽しくないように、あらゆるセンテンスに接続詞をつけた文章は、ぎくしゃくして読みづらい。
     また接続詞は、センテンスとセンテンスとの論理的関係を示すだけでなく、強調したいところを目立たせたり、また言葉の調子を整えたりリズムをつけたりするのにも用いられる。
     そうした文の綾としての接続詞が効果を発揮するためには、接続詞の使用を極力ひかえて、ここぞというところでのみ使った方がいい。
     
     

    3.情報を後出しして目立たせる


     「昨日夜更かししたから、試験中、頭が働かなかった。」・・・(12)
     
     「試験中、思うように頭が働かなかった。昨日夜更かししたのだ。」・・・(13)

     「先日、夏目漱石の『こころ』という作品を読んだ。」・・・(14)
     
     「先日、とても心に残る作品を読んだ。夏目漱石の『心』という作品だ。」・・・(15)
     


     先日書いた謎解き文が、まさにこれに当たる。

    読む者を新しい知識に導きその心を惹きつけてやまない謎解き文のテンプレート 読書猿Classic: between / beyond readers 読む者を新しい知識に導きその心を惹きつけてやまない謎解き文のテンプレート 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加

     謎解き文をつくる手順ををもう一度説明すると、

    (1)文章の一部を取り出し
    (2)後ろに回して
    (3)元あったところに別の語句を挿入する

    となる。

     新たな文章を挿入するステップ3があるので、全体として文章が伸びているが、そのステップを省くと、元のセンテンスは切り分けられ、一つ一つのセンテンスは短くなっている。

     謎解き文は、情報を提示する順番を変えているだけではなく、前段ではむしろ情報の不足を提示している。
     情報の不足を提示することで、読み手を引き付けようとする演出、文の綾なのだ。
     情報伝達という点では、短くなったから分かりやすくなったとは言えない。
     
     しかし、先に触れたように、読み手を引き付けることは、結果として、情報の伝達に寄与する。誰も読みたがらないものは、何も伝えないからだ。
     さらにひとつ、情報を小出しにすることは、人間の限りあるある認知資源からすれば、必ずしも非難されるべきことではない。
     一度にたくさんの情報や複雑な全体を提示されても、処理しきれないかもしれない。知的好奇心は無限でも、知性の口はおちょぼ口である。
     とはいえ、ただ少量ずつ手渡せばよいというものでもない。読み手を退屈に陥らせず引き付けることができるなら、長い時間かけて、最終的には大量の情報を伝達することができる。
     
     

    4.文にリズムをつける

     「山路を登りながら考えた。
     智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。」・・・(16)


     あまり解説する必要を感じないけれど、短いセンテンスを使う、もっともよくある用途がこれである。

     ヘミングウェイはあんなふうに書くのは、関係代名詞を知らないからではない。
     
     
     
     

     
    Pairシステム Linkシステム Lociシステム Pegシステム Phoneticシステム
    創案者ソウアンシャ 不詳フショウ 不詳フショウ シモニデス?(紀元前556年頃 - 紀元前468年) Henry Herdson (mid-1600s) Mink von Weunßhem (1648)
    Francis Fauvel-Gouraud (1844)
    イメージ ○ー○

    ○ー○
    ○→○→○→…… ○ ○ ○……
    ↑ ↑ ↑
    ■-■-■……
    ○ ○ ○……
    ↑ ↑ ↑
    □→□→□…… 
    ○ ○ ○……
    ↑ ↑ ↑
    □-□-□……
    ↑ ↑ ↑
    1 2 3…… 
    概要 一対イッツイのものをイメージでムスびつける。 A、B、C、D……ならば、AとB、BとC、CとD……という具合グアイにイメージでムスびつける。 現実ゲンジツまたは仮想カソウ場所バショに、オボえたいものをイメージでムスびつける。 順序ジュンジョ明確メイカクなもの(peg;かけくぎ)を記憶キオクしておいて、それにオボえたいものをイメージでムスびつける。 数字スウジ対応タイオウするキーワードを生成セイセイし、それに覚えたいものをイメージで結びつける。


     

     Phoneticシステムは、Pegシステムを改良したものとみなすことができる。
     Phoneticシステムは、数字を子音に置き換える数字子音置換法とPegシステムと組み合わせることで、Pegシステムの長所を保ったまま、その短所を改善するものだった。
     
     Pegシステムでは、記憶を結びつける〈掛け釘〉は、順序をもった素材であれば、何からでもつくることができる。数字やアルファベットでも、また黄道十二宮や干支のように数字と直接関係がなくてもよい。
     Pegシステムはこれによって、記憶内容へのランダム・アクセスを実現した。
     覚えたことを順にみていかなくても、たとえば4番目のアイテムを直接に取り出すことができた。
     
     一方、Pegシステムの弱点は、Pegの作成にあった。
     順序をもった対象があれば、いくらでもPegの系列は作成可能だが、Peg作成は、元になる素材を見つけることに依存している。長い系列の(とくに2,30アイテムを越えた)Pegをつくることは実際には難しい。
     たとえば三十六歌仙や四十七士を素材とすれば、36ないし47のアイテムを格納できるPegが作れそうだが、ここまでアイテム数の多い素材はそもそも中々覚え切れず、また何番目と指定してアイテムを取り出すことは更に困難である。
     
     Lociシステムの弱点は、Pegシステムによって〈掛け釘〉の素材を、実在(ときに非実在)の〈場所〉に縛られることなく、より抽象的な、順序関係を持つ素材へ移行することで克服された。
     Pegシステムの弱点は、〈掛け釘〉の素材を、順序を持つ既存の(黄道十二宮や干支のような)素材に縛られることなく、さらに抽象化を進めることで克服される。
     つまり素材をどこからか見つけてくるのではなく、もっとシステマティックに/単純なルールによって〈掛け釘〉をユーザーが自由に発生させるようにすること。
     この要求に応えたのがPhoneticシステムであった。
     
    major-system-pd.png

    Mink von Weunßhem Relatio novissima ex parnasso de arte reminiscentiae, Das ist : Neue wahrhafte Zeitung aus dem Parnassus von der Gedechtniß-Kunst / Stanislaus Mink von Weunßhem. - [Electronic ed.]. - [S.l.], 1618 [ca. 1648](Phoneticシステムについての最初の著作の一つ)から




    ■Phoneticシステムの実際

     Phoneticシステムが、それまでの記憶術に対して何が画期的なのかといえば、イメージ化した記憶を結びつける〈掛け釘〉(Phoneticシステムでは〈鍵言葉〉と呼ばれる)を、原理的にはいくらでも生成できる点である。
     
     古典的な数字子音置換法を使い、Phoneticシステムの実例を示そう。
     ここでは、よく知られる次の変換表を用いる。
     
    数字 変換する子音 覚え方
    0   s, c(soft C、サ行の音), z zは"zero"の頭文字
    1   t, d, th d,tには下向きの線が1本
    2   n nには下向きの線が2本
    3   m mには下向きの線が3本
    4   r 4"four"の最後の文字
    5   l ローマ数字では50をLを書く
    6   sh, ch, j, g(soft G、ヂャ行の音) jを裏返すと6に似てる
    7   k, c(hard C、カ行の音), g(hard G、ガ行の音), ng 7を2つ組み合わせるとKになる
    8   f, v 筆記体のfは8に似てる
    9   p, b bの鏡文字は9に似てる
    対応なし  ※母音a,e,i,o,uとh、w、yは数字と対応しない
     いくつでも子音の間に入れることができる



    Gouraud.jpg

    Fauvel-Gouraud, Francis, Phreno-mnemotechny, or, The art of memory : the series of lectures, explanatory of the principles of the system, delivered in New York and Philadelphia in the beginning of 1844 (1845) p.93. から。 それまでのPhoneticシステムを取り入れ、Fauvel-Gouraudがまとめたもの。現在、一般的に使われる数字子音変換の最初のもの。



     上の変換表に従い、与えられた数の各桁の数字を子音に置き換え、それらの子音を使った一つの単語をつくる。つまり何桁であっても一つの数字は、一つの単語に置き換えることができる。
     
     この方式は、大きな数の取扱いを簡便にする。。
     数字のひとつひとつに、ひとつのイメージを与えていた形態法や音韻法では、桁数の増加は、そのまま取り扱うイメージの増加につながった。
     しかし、この数字子音置換法では、数字の大きさが増えても子音の数が増えるだけで、桁が1つ2つ増えても、少しばかり長い単語を選べば済む。
     
     「子音に数字を対応させる」ということは、母音(加えて上記表に現れないh、w、yを含む)については自由に子音の前後にいくらでもはさんでよい、ということである。
     たとえば1という数字に対応した〈鍵言葉〉は、teaでもtieでもaidでもいい。eやaやiといった母音は無視されるからだ。
     14という数字に対応した〈鍵言葉〉は、treeでもdrawでもthrowでもいい。

     いくつかの文献から0〜9の数字をどのように単語に変換しているか例をあげる。

      Furst*1 Lorayne
    & Lucas
    *2
    Buzan*3 "Charles57"*4 Mindtools*5
    0 sew       sew
    1 tea tie day tie toe
    2 Noah Noah Noah Noah Noah
    3 may(pole) Ma Ma Ma Ma
    4 ray rye Ra Ra ray
    5 law law law law law
    6 jaw shoe jaw shoe jaw
    7 key cow key key key
    8 fee ivy fee ivy fee
    9 pea bee bay bee pie


    *1 Bruno Furst, You Can Remember (Memory and Concentration Studies, 1962) pp.12-20.
    *2 Harry Lorayne and Jerry Lucas, The Memory Book: The Classic Guide to Improving Your Memory at Work, at School, and at Play (Ballantine Books, 1996) p.119.
    *3 Tony Buzan, Use Your Perfect Memory: Dramatic New Techniques for Improving Your Memory; Third Edition (Plume, 1991) p.90.
    *4 http://members.optusnet.com.au/~charles57/Creative/Memory/index.html
    *5 http://www.mindtools.com/pages/article/newTIM_07.htm

     0から99までの数字について単語に変換した例を、それぞれ1つずつあげよう。

     0. sew  25. nail  50. lace  75. coal 
     1. tea  26. niche  51. lot  76. cage 
     2. Noah  27. neck  52. lane  77. cake 
     3. may  28. navy  53. lime  78. coffee 
     4. ray  29. nap  54. lair  79. cap 
     5. law  30. mass  55. lily  80. face 
     6. jaw  31. mat  56. lash  81. fat 
     7. key  32. man  57. lake  82. fan 
     8. fee  33. mama  58. leaf  83. foam 
     9. pea  34. mare  59. lab  84. fire 
     10. toes  35. mail  60. cheese  85. file 
     11. tot  36. match  61. jet  86. fish 
     12. tan  37. mike  62. chain  87. fog 
     13. tam  38. muff  63. jam  88. fife 
     14. tar  39. map  64. chair  89. fob 
     15. tail  40. rose  65. jail  90. bus 
     16. tissue  41. rat  66. judge  91. bat 
     17. tack  42. rain  67. check  92. bun 
     18. taffy  43. ram  68. chef  93. bomb 
     19. tap  44. rear  69. ship  94. bear 
     20. nose  45. rail  70. case  95. ball 
     21. net  46. rash  71. cat  96. beach 
     22. nun  47. rake  72. can  97. bike 
     23. name  48. reef  73. comb  98. beef 
     24. Nero  49. rope  74. car  99. baby 


     もちろん、各数字に対応付けられる単語は、上記以外にもいくらもある。
     例えば10と対応する英語の単語は、AIDS、Hades、Texas、White House、DASH、DOS、Aedes、Aethusa、Aides、Aotus、AthosDESDISA、DOSDSDawesDiasDiazDisDuse、Dyaus、EDS、Equetus、Exodus、Hades、Hyades、Ixodes、Oates、Odesa、Otis、Otus、Outaouais、THz、TSA、TSH、Taos、Taxus、Texas、Toyohashi、Tues、WATS、Watusi、White House、White Sea、Wodehouse、Yeats、adios、adz、adze、at sea、daisdaisy、dasdash、daysdaze、deixisdesex、diazo、dish、dishy、dose、douse、dowse、doze、dozy、eats、eidos、ethos、head sea、hiatus、hideous、hothouse、ides、idesia、iodise、iodize、odious、otiose、outhouse、……とまだまだある。


     このように数字と変換後の言葉との対応をゆるめることで、語呂合わせとは比較にならない自由度が生まれ、〈鍵言葉〉を原理上は無限に、実用上も無数に近く、つくりだすことができるようになる。
      
     これによって、PegシステムのランダムアクセスとLociシステムの大容量記憶を同時に実現し、〈掛け釘〉Pegの枯渇/オーバーライドによる混乱といった問題にも対処している。
     
     
     
    ■Phoneticシステムの日本語への適用
     
     上の数字子音置換法(メジャー記憶術)は、英語などのヨーロッパ系の言語に依存している。
     
     これを日本語用にローカライズするには、

    数字仮名置換法

    1 → あ行 → あ、い、う、え、お
    2 → か行 → か、き、く、け、こ
    3 → さ行 → さ、し、す、せ、そ
    4 → た行 → た、ち、つ、て、と
    5 → な行 → な、に、ぬ、ね、の
    6 → は行 → は、ひ、ふ、へ、ほ
    7 → ま行 → ま、み、む、め、も
    8 → や行 → や、ゆ、よ
    9 → ら行 → ら、り、る、れ、ろ
    0 → わ行 → わ、ん、*
    *0がわ行だけでは少ないので、ば行、ぱ行も使う。

    という風に行単位で数字を割り当てればよい。
     これで実質的に子音に対応して数字を割り当てていることになり、語呂合わせに対して、単語選択の自由度は大きく広がる。
     ただし子音の後に必ず母音が来る言語の特性上、単語選択の自由度と、変換した言葉の短さの点では、数字子音置換法に対して劣る。
     
     


    ■Phoneticシステムの短所

     従来の記憶術のすべての長所を取り込み短所を克服したPhoneticシステムにも欠点がある。

     それは、システムの抽象性と複雑さとにある。
     一言で言えば、難しい。習得に、そして慣れるのに、時間がかかる。

     また、事前準備についても、もっとも時間をかける必要がある記憶術である。

     原理的には、必要になってからいくらでも〈鍵言葉〉を作ればよいのだが、実用上は、〈鍵言葉〉にかかる時間を節約するために、よく使う〈鍵言葉〉はあらかじめ作っておき、慣れておく(そして記憶しておく)必要がある。
     
     
    ※また日本人にとっては、上記とは別に次のようなことが利用にあたって障害となる。

    ・ヨーロッパの言語を念頭につくられたシステムであるので、音韻構造の違う日本語にはそのままでは使いづらい。
     →単語選択の自由度は若干落ちるが、数字仮名置換法で代用すれば、実用上大きな問題はない。
     
    ・数字子音変換を生かそうとすれば、たとえば英語の単語から〈鍵言葉〉を見つける必要がある。
     →現在では、数字を入力すると、条件に合致した〈鍵言葉〉の候補を教えてくれるウェブサービス*を活用することもできる。


     
    *数字子音変換に関するネット上の資源

     Phoneticシステムでは、原理上いくらでも〈鍵言葉〉を作れることができるが、実用上はよく使う〈鍵言葉〉はあらかじめ作っておき、慣れておいた方がよい。
     自分で〈鍵言葉〉をつくるのがおっくうな人や、数字に対応する子音を含む単語を思いつけない人のために、これまでつくられた〈鍵言葉〉を対応する数字から検索したり、好きな数字を入れれば、該当の子音を使った単語のリストを提案してくれるウェブサービスが存在する。

    Memorize numbers with this online mnemonic generator
    http://www.rememberg.com/


     数字を入力すると、子音変換した単語の候補を、WordNetやWikipedia等にある項目から拾ってリストにしてくれる。
     Wikipediaにある項目には、Wikipediaへのリンクがつくので、提案された単語を知らなくても意味を確認することができて便利。


    The Number Thesaurus
    http://www.the-number-thesaurus.com/Submit.asp


     こちらは逆に、単語を入力すると、子音変換で対応付けられる数字が何かを表示してくれる。
     
     
    iPhone用には次の無料アプリがある。

    NumberThink App

    カテゴリ: 教育

    価格: 無料




    Android用には、有料だが次のものがある。

    Mnemonic Major System - Android Apps on Google Play






    ■改良されたPhoneticシステム
     
     Phoneticシステムは、それまでの記憶術の長所を生かし短所を取り除いた、最も完成されたシステムだが、その複雑さ・難解さから、それ以降の改良は、特性をできるだけ保持したまま、システムを簡素化し、習得しやすく、また利用しやすくする方向に進んだ。
     


     たとえばDominicシステムは、より簡単な変換規則を採用していて、システムを習得する初期コストが低い。
     
    1→A
    2→B
    3→C
    4→D
    5→E
    6→S
    7→G
    8→H
    9→N
    0→O

     Dominicシステムは、2桁の数字をアルファベット2文字に変換し、アルファベット2文字をイニシャルにする人物のイメージへと変換するものであり、数字子音変換のかわりに用いることができる。
     
     数字は人にとって最も覚えにくいものの一つだが、逆に人間の顔は最も記憶に残るものの一つであるが、Dominicシステムは、このことを利用している。
     つまり人間にとって最も覚えにくいものを、最も覚えやすいものに転換するのである。

     実用には、00~99のあらゆる数字に対応して、イニシャルから、とっさに人物を思い浮かべることは難しいので、あらかじめ条件に合った人物のリストを用意しておく必要がある
     つまりこの方法を用いるために、事前に00~99に対応したイニシャル(O.O.からN.Nまで)の、顔が分かる99名をリストにしておくのである。
     以下にリストの例を示そう。

     00 = OO = Ozzy Osborne     50 = EO = Edward James Olmos  
     01 = OA = Orphan Annie     51 = EA = Edward Abbey  
     02 = OB = Orlando Bloom     52 = EB = Ernest Borgnine  
     03 = OC = Oliver Cromwell     53 = EC = Eric Clapton  
     04 = OD = Olympia Dukakis     54 = ED = Ellen Degeneres 
     05 = OE = Omar Epps     55 = EE = Erik Estrada  
     06 = OS = OJ Simpson     56 = ES = Elisabeth Shue  
     07 = OG = Oscar the Grouch     57 = EG = Eva Gabor  
     08 = OH = Oliver Hardy     58 = EH = Ed Harris  
     09 = ON = Oliver North     59 = EN = Ed Norton 
     10 = AO = Annie Oakley     60 = SO = Shaquille O'Neal  
     11 = AA = Andre Agassi     61 = SA = Sammuel Adams  
     12 = AB = Antonio Banderas     62 = SB = Sandra Bullock  
     13 = AC = Agatha Christie     63 = SC = Sean Connery  
     14 = AD = Andy Dick     64 = SD = Scooby Doo  
     15 = AE = Alison Eastwood     65 = SE = Sheena Easton  
     16 = AS = Arnold Schwarzenegger     66 = SS = Steven Spielberg  
     17 = AG = Alec Guinness     67 = SG = Sam Gangee  
     18 = AH = Alfred Hitchcock     68 = SH = Saddam Hussein  
     19 = AN = Alfred E. Neuman     69 = SN = Sam Neill 
     20 = BO = Barack Obama     70 = GO = Gary Oldman  
     21 = BA = Ben Affleck     71 = GA = Gillian Anderson 
     22 = BB = Bugs Bunny     72 = GB = George Bush  
     23 = BC = Bruce Campbell     73 = GC = George Clooney  
     24 = BD = Brian Dennehy     74 = GD = Gena Davis  
     25 = BE = Barbara Eden     75 = GE = Gloria Estefan  
     26 = BS = Ben Stiller     76 = GS = Gene Simmons  
     27 = BG = Bill Gates     77 = GG = Galileo Galilei  
     28 = BH = Bob Hoskins     78 = GH = George Harrison  
     29 = BN = Bill Nye     79 = GN = Greg Norman  
     30 = CO = Conan O'Brien     80 = HO = Haley Joel Osmet 
     31 = CA = Charles Atlas     81 = HA = Hank Aaron  
     32 = CB = Charlie Brown     82 = HB = Halle Barry  
     33 = CC = Charlie Chaplin     83 = HC = Harry Carey  
     34 = CD = Cameron Diaz     84 = HD = Humpty Dumpty  
     35 = CE = Clint Eastwood     85 = HE = Havelock Ellis  
     36 = CS = Charlie Sheen     86 = HS = Homer Simpson  
     37 = CG = Cary Grant     87 = HG = Hermione Granger  
     38 = CH = Charlton Heston     88 = HH = Howard Hughes  
     39 = CN = Chuck Norris     89 = HN = Harriet Nelson  
     40 = DO = Donnie Osmond     90 = NO = Norah O'Donnell  
     41 = DA = Douglas Adams     91 = NA = Neil Armstrong 
     42 = DB = Dave Barry     92 = NB = Ned Beatty  
     43 = DC = David Copperfield     93 = NC = Nicolas Cage  
     44 = DD = David Duchovny     94 = ND = Neil Diamond 
     45 = DE = Dwight D. Eisenhower     95 = NE = Wikipedia:Nora Ephron  
     46 = DS = David Sedaris     96 = NS = Nancy Sinatra  
     47 = DG = Danny Glover     97 = NG = Newt Gingrich  
     48 = DH = Dustin Hoffman     98 = NH = Neil (Patrick) Harris  
     49 = DN = David Niven     99 = NN = Nick Nolte 


     このリストに登場する全員について、あなたが顔を思い浮かべることができるとは限らない。
     分からない人物については、それぞれ顔が分かる人物に差し替える必要がある。


     50音表をつかっても(上記の1 → あ行 、2 → か行 、3 → さ行 、4 → た行 、5 → な行 、6 → は行 、7 → ま行 、8 → や行 、9 → ら行 、0 → わ行ば行ぱ行)、同様の人物リストは作ることができるが、母音を自由に使える子音変換よりも縛りが強く難しい。
     既存のものが見つからなかったので、やっつけ仕事でつくってみたが、「ら行」や「わ行」で苦しんだ。
     苦し紛れに「ご本人の顔は分からないけれど絵柄が浮かぶから」という言い訳をしつつ、「漫画家」カードを乱発してしまった。

     00:わたなべわたる(漫画家)    50:中村文弥(俳優) 
     01:和田あき子(歌手)    51:中村敦夫(俳優) 
     02:渡辺一夫(仏文学)     52:中上健次(作家) 
     03:渡辺貞夫(サックス奏者)    53:中村正三郎(プログラマ) 
     04:若木民喜(漫画家)    54:中村玉緒(女優) 
     05:渡部直己(文芸評論家)    55:中村伸郎(俳優) 
     06:和田春樹(歴史学者)    56:中田英寿(元サッカー選手) 
     07:和田政宗(NHKアナウンサー)    57:中村メイコ(女優) 
     08:和田芳恵(作家)    58:仲間由紀恵(女優) 
     09:綿矢りさ(作家)    59:仲村瑠璃亜(女優) 
     10:オスカー・ワイルド(作家)    60:ビリー・ワイルダー(映画監督) 
     11:アルバート・アインシュタイン(物理学者)    61:林あさ美(歌手) 
     12:アンドリュー・カーネギー(実業家)    62:長谷川健太(元サッカー選手) 
     13:オリバー・サックス (作家)    63:林家三平(落語家) 
     14:阿佐田哲也(作家)    64:浜田剛史(ボクサー) 
     15:アルフレッド・ノーベル(実業家)    65:フローレンス・ナイチンゲール 
     16:荒俣宏(物知り)    66:ハナ肇(コメディアン) 
     17:あだち充(漫画家)    67:長谷川町子(漫画家) 
     18:あさりよしとお(漫画家)    68:袴田吉彦(俳優) 
     19:芥川龍之介(作家)    69:林家ライス・カレー子(漫才コンビ) 
     20:カール・ポパー(哲学者)    70:マツダ・ポーター(トラック) 
     21:カート・ヴォネガット(作家)    71:前田愛(女優) 
     22:桂木桂馬(マンガの登場人物)    72:前田健 (タレント) 
     23:カール・セーガン(物理学者)    73:松田聖子(歌手) 
     24:嘉門達夫(歌手)    74:マリー・タッソー(蝋人形作家) 
     25:カップ・ヌードル(食べ物)    75:松田直樹(サッカー選手) 
     26:小林秀雄(評論家)    76:前田美波里(女優) 
     27:カール・マルクス(哲学者)    77:松任谷正隆(音楽プロデューサー) 
     28:カール・ヤスパース(精神科医)    78:前田米造(映画カメラマン) 
     29:カール・ルイス(陸上選手)    79:前田遼一(サッカー選手) 
     30:スティービー・ワンダー(歌手)    80:山田わか(婦人運動家) 
     31:ささきいさお(歌手)    81:山田晶(中世哲学研究者) 
     32:沢田研二(歌手)    82:山田かまち(詩人) 
     33:ジャンポール・サルトル(作家)    83:山田サチ子(妹) 
     34:さとう珠緒(女優)    84:山田太一(脚本家) 
     35:ジョン・ナッシュ(数学者)    85:山本直樹(漫画家) 
     36: サダム・フセイン(政治家)    86:矢井田瞳(歌手) 
     37:佐々木マキ(絵本作家)    87:山田まりや(女優) 
     38:貞本義行(アニメーター)    88:山田康雄(声優) 
     39:坂本龍一(音楽家)    89:山田玲司(漫画家) 
     40:チャールズ・パース(哲学者)    90:リヒャルト・ワーグナー(作曲家) 
     41:鉄腕アトム(マンガの登場人物)    91:ラッキィ池田(振付師) 
     42:田中角栄(政治家)    92:ルイス・キャロル(作家) 
     43:田辺聖子(作家)    93:頼山陽(史家) 
     44:田中達也(サッカー選手)    94:ルビー・ディー(女優) 
     45:高橋尚子(陸上選手)    95:ルイ・ナポレオン(政治家) 
     46:立花ハジメ(アーティスト)    96:ロラン・バルト(思想家) 
     47:田村正和(俳優)    97:雷句誠 (漫画家) 
     48:たがみよしひさ(漫画家)    98:ローマン・ヤコブソン(言語学者) 
     49:田村亮子(柔道選手)    99:ルードヴィヒ・ローレンツ(物理学者) 

     




    ■Phoneticシステムの適用

     このシリーズで紹介した記憶術には上位互換の関係があり、これまでにPairシステム、Linkシステム、Lociシステム、Pegシステムの紹介の中で挙げられたすべての用途に、Phoneticシステムは用いることができる。
     
     習得と準備の手間(コスト)の大小があるため、簡易的な目的には、より簡便な方法を使ったほうがよい(日常的にはこうした記憶ニーズの方が多いだろう)。
     逆に言えば、これまでの記憶術ではスペック的に力不足となった領域こそ、Phoneticシステムが活躍する場である。




    *ステージ記憶術(memory feat)

     ステージ記憶術(memory feat)の定番の出し物に、会場から好きな単語を言ってもらい、記憶術師の後ろにあるホワイトボードに書き上げていき、何十個か並んだ後に、それを一つ飛ばしに言わせたり、任意の場所(例えば23番目)単語は何かを尋ねたりするものがある。
     正順、逆順、一つ飛ばし、二つ飛ばしで言わせたり(ここまではなんとかLociシステムでもできる)、またN番目の単語は何か?との問いに瞬時に答えることができるのは、記憶術師が何らかのPhoneticシステムを利用しているからである。
     

    *一冊を覚える

     Pegシステムでやったように、目次から小見出しに至るまで、〈鍵言葉〉を対応させ、一冊の書物の内容を記憶することができる。
     phoneticシステムでは、記憶を引っ掛ける〈鍵言葉〉の数に、実質上制限がないので、つまりどれほど詳細な目次であっても、その項目それぞれに〈鍵言葉〉をあてがうことができる。
     同じ理由で、数百の本であっても、すべてのページごとに〈鍵言葉〉を付与し、ページ単位で記憶することが可能である。
     実用目的ではどのページに何が載っているかを記憶する必要はないが、ステージ記憶術(memory feat)のあるものは、この方法を使っている。




    *メンタル・ファイル・システム

     数百の(必要ならそれ以上の)〈鍵言葉〉を作ることができるということは、頭の中にそれだけの数の、自由に出し入れできる〈引き出し〉を用意できるということだ。
     Phoneticシステムによる頭の中の〈引き出し〉の一部を普段使いの備忘録として割り当てておくことで、手帳などの外部記録なしに日常的に必要となるデータ、メモ、情報などを持ち歩くことができる。
     たとえば101番~130番はto do list、131~150番にその日思いついたアイデア、151~170番にidやアカウント関係、171~190番に緊急連絡先……といった具合に。
     当初は手帳等を併用することになるが、やがてそうした外部記憶を使う必要がなくなっていることに気付くだろう。
     

     
    *数字の記憶

     桁数の多い数字であっても、Phoneticシステムは短い単語に変換することができる。
     このため数字を記憶するには最善の記憶術である。



    *暗記したものへのタグ付け

     他の方法で記憶したものであっても、Phoneticシステムをつかって記憶したアイテムのひとつひとつに番号を付与しておくとよい。
     記憶を呼び出す手がかりが増えることとなり、たとえば英単語帳を覚えた場合など、今日は21~40番目の単語を復習しようといったことが英単語帳が手元になくても可能になる。
     一冊の英単語帳には数百以上の単語が載っているが、phoneticシステムなら数百数千の〈鍵言葉〉を作り出すことが可能である。
     

    *Phoneticマップ(マトリクス)

     複数の素材から作った複合Pegで、表や2次元座標についての〈掛け釘〉をつくったが、Phoneticシステムを用いれば、さらに大きな表や詳細な座標を使うことができる。
     トニー・ブザンは、伝統的な数字子音置換法を使って、2系列の〈鍵言葉〉を作り、Phoneticマップを提案している。
     Ron-Hans Evansはは、より簡素なDominicシステムをつかって、100×100=10000の記憶アイテム数を擁するPhoneticマップ〈ドミニック・ホテル〉を提案している。
     

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