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2016.05.22
人はなぜ恐怖のような不快感情の虜(とりこ)となるのか?
恐怖は不快な感情であり、現実もしくは想像上の危険、喜ばしくないリスクに対する強い生物学的な感覚である。
生き物として避けるべきことを示すサインであり、安全への退避行動を起こす役目を果たすものである。
恐怖をもたらす対象を避けようとすることは至極当然の行動だと言える。
たとえば、人間が恐怖状態に陥ると、心拍数や呼吸数の増加し、脚などの筋肉に血液が集中し、回避行動の準備に入る。
しかし、恐怖をもたらすものに、繰り返し触れようとする嗜好が存在する。
恐怖を主題として読者に恐怖感を与えるためにつくられた創作物は数多い。
また遊園地に設置されている遊具(アミューズメント・ライド)の中で、絶叫マシン(スリル・ライド)と呼ばれるジャンルが今も優勢を誇っている。
これらはすべての人に愛好されている訳ではないが、根強い人気を誇っており、中でも愛好者は繰り返しこれら恐怖刺激に触れることを嗜好する。
これら恐怖へのアディクトはどんな風に形成され維持されるのだろうか?
これに答える仮説のひとつが、獲得動機(acquired motive)に関する相反過程説 opponent-process theory※である。
※ Solomon, R. L. & Corbit, J. D (1974)., An Opponent-process Theory of Motivation : Temporal dynamics of affect, Psychological Review, 81.
相反過程説 opponent-process theory
相反過程説によれば、刺激は2つの対立する過程を起こすとされる。
刺激によってすぐに起こる生体の反応をaプロセスと呼ぶ。
これに対して、恒常状態を保とうとする生体においては、aプロセスが生じると、それに対応して反対の方向のプロセスが生じる。これを bプロセスと呼ぶ。
生体が感じるのは、aプロセスとbプロセスの引き算の結果である。
相反過程説は、刺激がもたらす感情の強さと質の時間的変化を説明する仮説である。
SolomonとCorbit(1974)がまとめた例の一つをアレンジして説明しよう。
同じことは不快な刺激についても言える。今井(1988)が挙げる例を見てみよう※。
※ 今田寛(1988)「獲得性動機に関する相反過程理論について 1」『人文論究』38(1),pp.45-62
快/不快のどちらの場合も、グラフにするとこんな感じとなる。

(クリックで拡大)
出典:今井(1988)、図1
刺激は横軸の網目で表した時間だけ続くとする。
刺激がはじまると、快刺激なら快感情が、不快刺激なら不快感情が、一次的感情として急速に高まり、刺激が続くと順応が生じて安定水準のレベルまで下がって落ち着く。
刺激がなくなると、一次的感情とは反対の後反応が生じて、快感情から不快感情へ(あるいは、不快感情から快感情へ)と反応は振れ、これもしばらくすると収まる、というように時間的に変化していく。
SolomonとCorbitは、こうした時間的変化を〈感情の動的変化の標準パターン〉(Standard Pattern Affective Dynamics)と呼び、やや複雑にみえるこうした時間的変化を説明する内部プロセスとして、先述の時間差のあるaプロセスとbプロセス、そしてその間の引き算を想定した。

刺激が繰り返される場合
相反過程説のキモは、こうした快/不快をもたらす刺激を、反復経験した場合の予測と説明にある。
刺激に即座に反応するaプロセスは刺激を繰り返しても変わらないかやや小さくなるだけだが、bプロセスは刺激を繰り返すと、より立ち上がりが速くなり、しかも長引くようになっていく(下グラフの中段)。
するとaプロセスとbプロセスの引き算で生まれる〈感情の動的変化の標準パターン〉は、下のグラフの上段のように変化する。

(クリックで拡大)
出典:今井(1988)、図5
快刺激の場合
つまり、快をもたらす刺激の場合は、繰り返すことで快レベルは下がり、その反対に振れる後反応による不快レベルは増し、しかも長引くようになる。
恋する者の例に戻れば、繰り返すうちに、会うことの喜びは減り、離れていることによる悲しみは深く長く続くことになる。
この例は、たとえばアルコールやタバコのような嗜好品を摂取する経験に、そして薬物をはじめとする様々な依存症の問題に応用できる(むしろこれらの例の方が分かりやすい)。
たとえば喫煙が習慣化すると、一服の煙草が与える快感は最初の頃よりも減少し、以前と同じ効果を得ようとすれば、より強い/より多くの煙草が必要になる。
さらに吸い終わった後の煙草への渇望感はより強く、またより長く続くようになる。そうして不快な渇望感から逃れるために次の一服が必要となり、これらのメカニズムがチェーン・スモーキングを(他の薬物なら薬物依存を)引き起こすことになる※。
※ 相反過程説は、薬物耐性(tolerance)や薬物依存(dependence)、嗜好(addiction)について一定の説明を与えるが、相反過程説だけでは説明できない部分も少なくない。例えば、相反過程説に依拠すれば、刺激の繰り返しすなわち薬物の反復使用だけで薬物耐性ができることになるが、実際の耐性の形成は状況依存的であり、他の諸条件が関与している。

出典:Koob GF (2013) Addiction is a reward deficit and stress surfeit disorder. Front. Psychiatry 4:72., FIGURE 3
http://dx.doi.org/10.3389/fpsyt.2013.00072
不快刺激の場合
不快をもたらす刺激の場合も同様に、繰り返すことで不快レベルは下がり、その反対に振れる後反応による快レベルは増し、しかも長引く。
サウナの例に戻れば、暑さによる不快感は小さくなり、サウナから出ることの快感は大きくなり、より持続することとなる。
そしてこの例は、我々の探求テーマだった〈恐怖の嗜好〉について応用できる。
Epstein(1967)は、落下傘兵(parachutist)の落下経験(回数)と感情の関係を調べ、初落下時の恐怖は経験を積むにつれて薄れ、代わって多幸感(euphoria)を感じるようになること、そしてこの多幸感が落下傘兵を続ける強い動機になっていることを報告している※。
※ Epstein S. (1967) Toward a unified theory of anxiety. In: Maher BA (ed) Progress in experimental personality. Research, vol 4. Academic Press, New York, pp 2–90.
我々がバンジージャンプやスカイダイビングを楽しめるようになるのは、恐怖刺激に対する反動(bプロセス)がもたらす多幸感(euphoria)が反復によって強くなっていくからだが、同じことが、たとえば人を傷つけることに関しても生じ得る。
初期の研究者が考えていたのと異なり、相手を殺して失敗してしまうのは経験の浅い拷問人ではなく、むしろベテランの拷問人の方がである。拷問人の中には、拷問を繰り返し行うことによって苦痛が減り、反動(bプロセス)がもたらす多幸感(euphoria)を求める者がいるのである※。怖い話になってしまった。
※ Baumeister, R. F. (2012). Human evil: The myth of pure evil and the true causes of violence.
in Mikulincer, Mario (Ed); Shaver, Phillip R. (Ed), The social psychology of morality: Exploring the causes of good and evil. Herzliya series on personality and social psychology., (pp. 367-380).
生き物として避けるべきことを示すサインであり、安全への退避行動を起こす役目を果たすものである。
恐怖をもたらす対象を避けようとすることは至極当然の行動だと言える。
たとえば、人間が恐怖状態に陥ると、心拍数や呼吸数の増加し、脚などの筋肉に血液が集中し、回避行動の準備に入る。
しかし、恐怖をもたらすものに、繰り返し触れようとする嗜好が存在する。
恐怖を主題として読者に恐怖感を与えるためにつくられた創作物は数多い。
また遊園地に設置されている遊具(アミューズメント・ライド)の中で、絶叫マシン(スリル・ライド)と呼ばれるジャンルが今も優勢を誇っている。
これらはすべての人に愛好されている訳ではないが、根強い人気を誇っており、中でも愛好者は繰り返しこれら恐怖刺激に触れることを嗜好する。
これら恐怖へのアディクトはどんな風に形成され維持されるのだろうか?
これに答える仮説のひとつが、獲得動機(acquired motive)に関する相反過程説 opponent-process theory※である。
※ Solomon, R. L. & Corbit, J. D (1974)., An Opponent-process Theory of Motivation : Temporal dynamics of affect, Psychological Review, 81.
相反過程説 opponent-process theory
相反過程説によれば、刺激は2つの対立する過程を起こすとされる。
刺激によってすぐに起こる生体の反応をaプロセスと呼ぶ。
これに対して、恒常状態を保とうとする生体においては、aプロセスが生じると、それに対応して反対の方向のプロセスが生じる。これを bプロセスと呼ぶ。
生体が感じるのは、aプロセスとbプロセスの引き算の結果である。
aプロセスの特徴
・刺激によってすぐに生じる。
・強さと継続時間は刺激によって決まる。
・繰り返し経験してもさほど変わらない(が、少しずつ小さくなる)。
bプロセスの特徴
・aプロセスよりも遅れて生じ、刺激が消えaプロセスがなくなった後、遅れて消えていく。
・繰り返し経験するうちに、aプロセスに対する遅れは次第に短くなり、消える速度も緩やかになる。
相反過程説は、刺激がもたらす感情の強さと質の時間的変化を説明する仮説である。
SolomonとCorbit(1974)がまとめた例の一つをアレンジして説明しよう。
1.何気なく歩いていると、好きな人にばったり出会う。
2.言葉を交わしていると喜びの興奮と幸福感が高まっていく
3.それを続けているとやや落ち着いてくる
4.互いに用事があるので別れると、しばらく寂しい気持ちがおそってくる
5.しかし時間とともに、その気持も落ち着いていく。
同じことは不快な刺激についても言える。今井(1988)が挙げる例を見てみよう※。
※ 今田寛(1988)「獲得性動機に関する相反過程理論について 1」『人文論究』38(1),pp.45-62
1.平静な状態から高温のサウナ室に入る
2.しばらくすると熱のために苦痛と不快におそわれる
3.しかし、それをしばらく我慢していると馴れがおこってやや耐えられるようになり、それがしばらく続く
4.次にサウナ室を出ると、ほっとした開放感を伴う快さを経験する
5.しかし時間とともに再び感情はもとの平静なベースラインの状態に戻っていく
快/不快のどちらの場合も、グラフにするとこんな感じとなる。

(クリックで拡大)
出典:今井(1988)、図1
刺激は横軸の網目で表した時間だけ続くとする。
刺激がはじまると、快刺激なら快感情が、不快刺激なら不快感情が、一次的感情として急速に高まり、刺激が続くと順応が生じて安定水準のレベルまで下がって落ち着く。
刺激がなくなると、一次的感情とは反対の後反応が生じて、快感情から不快感情へ(あるいは、不快感情から快感情へ)と反応は振れ、これもしばらくすると収まる、というように時間的に変化していく。
SolomonとCorbitは、こうした時間的変化を〈感情の動的変化の標準パターン〉(Standard Pattern Affective Dynamics)と呼び、やや複雑にみえるこうした時間的変化を説明する内部プロセスとして、先述の時間差のあるaプロセスとbプロセス、そしてその間の引き算を想定した。

刺激が繰り返される場合
相反過程説のキモは、こうした快/不快をもたらす刺激を、反復経験した場合の予測と説明にある。
刺激に即座に反応するaプロセスは刺激を繰り返しても変わらないかやや小さくなるだけだが、bプロセスは刺激を繰り返すと、より立ち上がりが速くなり、しかも長引くようになっていく(下グラフの中段)。
するとaプロセスとbプロセスの引き算で生まれる〈感情の動的変化の標準パターン〉は、下のグラフの上段のように変化する。

(クリックで拡大)
出典:今井(1988)、図5
快刺激の場合
つまり、快をもたらす刺激の場合は、繰り返すことで快レベルは下がり、その反対に振れる後反応による不快レベルは増し、しかも長引くようになる。
恋する者の例に戻れば、繰り返すうちに、会うことの喜びは減り、離れていることによる悲しみは深く長く続くことになる。
この例は、たとえばアルコールやタバコのような嗜好品を摂取する経験に、そして薬物をはじめとする様々な依存症の問題に応用できる(むしろこれらの例の方が分かりやすい)。
たとえば喫煙が習慣化すると、一服の煙草が与える快感は最初の頃よりも減少し、以前と同じ効果を得ようとすれば、より強い/より多くの煙草が必要になる。
さらに吸い終わった後の煙草への渇望感はより強く、またより長く続くようになる。そうして不快な渇望感から逃れるために次の一服が必要となり、これらのメカニズムがチェーン・スモーキングを(他の薬物なら薬物依存を)引き起こすことになる※。
※ 相反過程説は、薬物耐性(tolerance)や薬物依存(dependence)、嗜好(addiction)について一定の説明を与えるが、相反過程説だけでは説明できない部分も少なくない。例えば、相反過程説に依拠すれば、刺激の繰り返しすなわち薬物の反復使用だけで薬物耐性ができることになるが、実際の耐性の形成は状況依存的であり、他の諸条件が関与している。

出典:Koob GF (2013) Addiction is a reward deficit and stress surfeit disorder. Front. Psychiatry 4:72., FIGURE 3
http://dx.doi.org/10.3389/fpsyt.2013.00072
不快刺激の場合
不快をもたらす刺激の場合も同様に、繰り返すことで不快レベルは下がり、その反対に振れる後反応による快レベルは増し、しかも長引く。
サウナの例に戻れば、暑さによる不快感は小さくなり、サウナから出ることの快感は大きくなり、より持続することとなる。
そしてこの例は、我々の探求テーマだった〈恐怖の嗜好〉について応用できる。
Epstein(1967)は、落下傘兵(parachutist)の落下経験(回数)と感情の関係を調べ、初落下時の恐怖は経験を積むにつれて薄れ、代わって多幸感(euphoria)を感じるようになること、そしてこの多幸感が落下傘兵を続ける強い動機になっていることを報告している※。
※ Epstein S. (1967) Toward a unified theory of anxiety. In: Maher BA (ed) Progress in experimental personality. Research, vol 4. Academic Press, New York, pp 2–90.
我々がバンジージャンプやスカイダイビングを楽しめるようになるのは、恐怖刺激に対する反動(bプロセス)がもたらす多幸感(euphoria)が反復によって強くなっていくからだが、同じことが、たとえば人を傷つけることに関しても生じ得る。
初期の研究者が考えていたのと異なり、相手を殺して失敗してしまうのは経験の浅い拷問人ではなく、むしろベテランの拷問人の方がである。拷問人の中には、拷問を繰り返し行うことによって苦痛が減り、反動(bプロセス)がもたらす多幸感(euphoria)を求める者がいるのである※。怖い話になってしまった。
※ Baumeister, R. F. (2012). Human evil: The myth of pure evil and the true causes of violence.
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2016.05.01
道具を使わず一瞬で離れた場所との距離を知る方法
時間がない人のためのまとめ

二足直立歩行の適応によって手が解放された人間にとって、道具は人体の感覚器官や運動器官の延長であり、拡張であった。「はかる」行為も同様であり、その道具は、まずもって人体寸法を基準に創りだされた。
古代オリエントにおける長さの基礎はひじの長さに始まるキュビト(約50cm)で、のちにイギリスのキュービット cubitに引き継がれ、またその2倍に相当する単位(イギリスのエル ell、ドイツのエルレElle など)やさらに2倍に相当する単位(イギリスのファゾム fathom、ドイツのクラフテル Klafter、フランスのブラッス brasse など)をもたらした。
他にも、4本の指を並べた幅(日本のつか、イギリスのパーム palm)、親指の幅(中国の寸、ドイツのダウメン Daumen、オランダのドイムduim )、人差指または中指の幅(イギリスのディジット digit、フィンガー finger など)、げんこつの大きさ(ドイツのファウスト Faust)を元にするものがあり、さらに指を広げて事物にあてがうという動作から、イギリスのスパン span、ドイツのシュパンネ Spanne、中国の尺、日本のあた(咫)などの単位が生まれた。
特に指の幅に由来する身体尺は、古代エジプトではdjeba、メソポタミアではubānu、古代ギリシアではδάκτυλοςと呼ばれ、ローマのdigitusを経て、ディジットdigitとなり、10本の指が算術の指=数字の呼び名ともなる。
自然物による度量衡の標準とするメートル法が席巻して久しいが、今回はどんな原始的な測定器も持たずに、この身一つで離れた場所との隔たりを測る技を思い出すことにする。
手の分度器で天を測る
天体観測の経験のある人なら、腕をいっぱいに伸ばした時の、手や指の幅がつくる角度がどれくらいか知っているだろう。
もちろん、おおよそだが
・親指一本分の幅が2度(小指なら1度)
・握りこぶしの親指から小指までの幅が10度
・親指と人差し指をいっぱいに開いた幅が15度

である。
星や星座の位置を大まかに伝えるのに「地平線から20度、つまり握りこぶし2つ分上がったところ」といった具合に使うことができる。
北斗七星が、こぶし3つ分=角度でいって30度の大きさがある、なんてことが言えるようになる。
星座盤で分かった角度を使って、空を探すのにも、もちろん利用できる。
この方法の利点は、道具いらずで簡便なところ、そして腕の長さと手/指の幅の比率をつかっているので、一応は体の大きさに関わらず使えるところだ。
これは「体の大きな人は、その分腕は長くて、手も大きいだろう」という、大らかな前提に基づく。
もちろん指や手の大きさ、腕の長さ、そしてその比率は個人差があるが、それ以外の原因からくる誤差の方が大きいので、そこにこだわっても見返りが少ない。
という後ろ向きな理由から、一応は体の大きさに関わらず使えるのである。
手の分度器で地上を測る
正確さを求めない用途であれば、この「手の分度器」は他にも利用できる。
たとえば、川向こうに乗用車が止まっている。腕を伸ばして人体分度器をやってみると、ちょうど指一本(の幅)で車の全長が隠れた、とする。
乗用車の大きさは、もちろん車種によって異なるが、いまの文脈に照らしてお雑把に言うと、おおよそ全長4m、正面から見た幅は2m、高さは1.5mである。
1/tan 2° = 28.63……だから、大雑把にいって4m×30=120m離れたところに、その車はあることが分かる。

この方法の欠点は、誤差が大きい(桁数と四捨五入した最初の数字くらいが分かる程度、と思っておけば腹も立たない)という最大のものを除くと、対象の実際の長さを知っていないと距離を導けないところだが、逆に言えば、街でよく目にするものについていくつか覚えておきさえすればいい、とも言える。
細かい数字は必要ない(どうで誤差のなかに掻き消える)のと、こういう遊びを何度か実際にやってみると、意外と覚えていられるものだ。
街で見かけるものの大雑把な長さと、指・手の幅に対応させた、〈手の距離計・早見表〉を挙げておこう。


対象までの距離(単位:m) = 対象の大きさ(単位:m) × 倍率
例えば、電柱がちょうど親指一本分の幅なら、大雑把に言って0.3m×30=9mぐらい離れたところに、その電柱はあることになる。
早見表で言うと、「親指の幅」の行と「電柱の幅」の列がクロスしたところ「9」(m)が、対象との距離である。
同じく、電線の高さがちょうどこぶし一つ分なら、大雑把に言って5m×6=30mぐらい離れたところにある。
早見表で言うと、「にぎりこぶし」の行と「電線の高さ」の列がクロスしたところ「30」(m)が、対象との距離である。
ふたたび天の仰ぎ見る
もう少し遠くのものについても、手の距離計で測ってみよう。
月の直径は、この方法だと小指のちょうど半分ぐらいに見える(五円玉の穴とちょうど同じくらい)。
月の直径は約3500kmだから、115倍すると、ざっと40万kmとなる。
地球の中心と月の中心との間の平均距離は38万4400kmというから、正確ではないが、絶望するほどひどい結果ではない。
手の分度器の軍事利用
ご存じの方はうずうずしているはずだから申し添えておくと、主として軍事関係で使われるmil(angular mil)という角度の単位を、手や指の幅で測る方法がある。
mil(angular mil)は、円周を6400に分割した角度単位で、1milは、ほぼ1km先の1m幅の物体を見るときの角度(視角)にあたる(もう少し正確には1kmで0.982mほど)ので、距離を計算するのに便利である。次の式で計算できる。
対象までの距離(単位:km) = 対象の大きさ(単位:m) ÷ mil
先ほどと違って、割り算であることと、対象までの距離と対象の大きさで単位が違っていることに注意。
ライフルスコープや軍事用/海事用の双眼鏡等には、Mil-Dotというmilを目で測るための目盛り(reticle)がついている。

身長180cmの人をスコープで見るとこんな感じになる。

しかし、こうしたものが手元になくても、腕を伸ばして指や手の幅を使うやり方が使える。

(出典)Figure 8-7. Hand and fingers used to determine deviation. in Army Field Manuals
FM 3-21.94 The Stryker Brigade Combat Team Infantry Battalion Reconnaissance Platoon
CHAPTER 8 COMBAT SUPPORT
同じものが https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Mil_estimation.jpg にあり。
これで先程の例である、川向うの乗用車(全長4m)が指1本の幅だった場合の距離について再び計算すると
4m ÷ 30mil(指1本の場合) ≒ 0.133kmで、およそ130mということになる。
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