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     「責任ある地位」の人が「自己責任」を唱えたその舌で「債権放棄」を訴えたり、自由競争を称え勧める人が未公開株貰ってたり(笑)、そういうことがままあるので、次にような「カンチガイ」が生まれるのもむべなるかな、である。

     (カンチガイはじまり→)人間の本性は利己的だ。生物界の自然淘汰のごとき市場メカニズムは、だから人間の本性に最も適合した仕組みだ。(←カンチガイおわり)


     こういう人は、ホッブスとかアダム・スミスを読み直した方がいい。しかし「読み直す」なんて非現実的なことを期待しても始まらない。利権ナショナリストに限らず我々は、自分の都合にちょうどよい分だけ知識を欠いているものなのだ。本当の意味で「何か知る」ってことは、いつだって自分にとって「都合の悪いこと」なのである。

     さて、この本は、マキャベリを露払いに、ホッブス、ルソー、アダム・スミスという3人のホップ・ステップ・ジャンプでこのあたりのことをさらりとすくい上げる。

     まず、「本性が利己的」な人間たちがガチンコでどつきあったら、市場なんてできるはずがなく、壊滅的差し違いに終わるか、いや自己保存本能がそれを避けるために絶対権力が登場する、ってのがホッブス『リバイアサン』のロジック。

     つぎに、ルソーがホッブスをこき下ろす。ホッブスは、今の競争社会の説明や自分の絶対権力の存在証明のために、「利己心」を人間の本性としてねつ造している。こんなことが許されるなら、おれだって「利他心に満ちた人間」をねつ造してやるぜ、とばかりに「自然にかえれ」とルソーはやる。昔の人間が今の人間とくらべて、ほんとうに「善良」だったとどこまでルソーが信じていたかはさしあたってどうでもいい。ルソーのイヤミは、本来なら説明すべき「人間の利己心」を、ホッブスが「説明の前提」の方に押し込んだことに向けられている。つまりルソーは、人間の本性を「利他心に満ちた」ものと前提しても、現在の社会に見られる「利己的な人間」が社会の仕組みの結果として出現することを示してみせたのである。だとすれば、「人間の利己心」を人間の本性であると決めつけるのは、せいぜいが「思いこみ」、悪く言えば「何か魂胆があるんじゃないか」ということもできる。

     ホッブスは、人間の利己心からは市場なんかできず絶対権力が生じることを言った。ルソーは、「人間の利己心」自体が社会制度から説明できるし、だから人間の利己心を人間の本性であるとするのは、決めつけ以上のものではないとした。

     さてアダム・スミス。アダム・スミスは利己性(自己関心セルフ・インタレスト)に加えて共感シンパシーがあることをもって、ホッブスを補正し、かつ市場メカニズムの作動条件とする。あるいは利己心に共感を付け加えたことによって、ホッブス流の国家とはべつの、市場社会の成立可能性を示してみせる。

     オレはオレが得することを一番に考える。これがセルフ・インタレスト。これだけだったら、ジャイアンのようにスネオのラジコンをただ暴力的に取り上げればいい。でも、これでは市場はできない。向こうだって、自分が得することを一番に考えるのだろうと、分かる。これが共感シンパシー。この二つがあって、何を持っていけば売れるのかに思い至ることができて、市場での取引が可能となる。あるいは双方が納得する取引が可能となる(市場という仕組みは、互酬や再分配とちがって、「与える側ではなく、「買う立場」=「受け取る側」がイニシアティブを握るところにその特徴がある)。

     これが(ほんとは)マーケットの基礎だ。



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