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     番外編。普通はどれも必要ないと思う。

     しかし正攻法ではニッチもサッチもいかない時、というのは必ずおとずれる。

     たとえばアイデアがいますぐ必要だ、しかしジェームス W.ヤング『アイデアのつくり方』に載ってる正攻法→(1)仕込む (2)忘れて待つ (3)浮かんだのをつかまえる、なんてことは今やってられないんだ、何しろ今すぐ必要なんだ、という時である。
     
     そんな時、悪魔はあなたの耳元でささやくだろう。
    「パクれ」

     エドガー・アラン・ポーだって、創作はコンポジションだと言い切ってるじゃないか。ヤングだって『アイデアのつくり方』の中で「新しいものなんてのは、結局のところ古い既存のものの組み合わせだ」みたいなことを言ってるじゃないか。
     
     しかし、他の物書きがこさえた「出来合いのもの」をそのまま引き写して来るのと、古いネタを組み合わせて使うのは、雲泥の差がある。
     パクるなら、せめて違うジャンルからパクろう。
     手元に置いておいていいネタ本は、人それぞれだろうが、『オックスフォード動物行動学事典』、大島暁雄ほか編『図説民俗探訪事典』、東大落語会篇『落語辞典』(青蛙房)、『欧米文芸登場人物事典』、『西洋美術解読事典』、学研辞典編集部『13か国語でわかる新・ネーミング辞典』、『世界文学鑑賞辞典(1)イギリス・アメリカ編、(2)フランス・南欧・古典編(3)ドイツ・北欧・中欧編 (4)ロシア・ソヴィエト編』など、とりあえず思い付いた順に並べてみた。
     

     さて、以降が通常ならざる手段である。



    1 ルルスのアルス・マキナ


     エドガー・アラン・ポーは創作をコンポジションだと述べたが、「突き詰めれば、既存の要素の組み合わせ」ということになる。
     組み合わせの術(アルス・コンビナトリア)は、長い歴史を持っているが、できるかぎり単純かつ少数の要素で、すべてを包含し得ることをめざした試みに、ルルスのアルス・マキナがある。
     日本語での説明としては、このあたりを、ダウンロード用としては、これを参照のこと。
     これは、ドイツ語版の、でかいやつ。


     アルス・マキナは、バベッジの差分機関(ディファレンシャル・エンジン)から現代のコンピュータにつながる、「考える仕掛け」の源流のひとつ。

     考案者ライムンドゥス・ルルスは1272年ころ、マヨルカ島のランダ山で啓示を受けた。神の属性である善、偉大、永遠といったものが万物に注ぎ込まれるのを見た。神の属性に基礎をおいた<術>に関する書物を書くことに残りの生涯は費やされる。最後に来るのが『大いなる術』Ars magna (1305-08) であった。

     カバラが高度に発達したのは中世スペインであり、その最高潮はルルスの術の出現と一致する。当時のスペインは、イスラム教、キリスト教,ユダヤ教が鬩ぎあう遅滞であり、『大いなる術』Ars magna は異教徒を改宗させることのできる哲学的完全言語の体系としてのプロジェクトとして構想された。

     もっとずっと簡略化された類似のものにCrovitzのrelational algorithm(1970)がある。これは次項で取り扱う。



    2 関係アルゴリズム relational algorithm

    ■使い方
    RelationArgo.jpg

    1. キーワードを選び、ディスクAおよびCに記入せよ(上図、参照)
    2. ディスクA,B,Cを切り抜き、ディスクB(関係ディスク)の上にディスクCを中心を揃えて置き、それらをディスクAに中心を揃えて置く。中心をペーパーファスナーなどで止めること。下図のようなものが完成する。
    3. ディスクCやディスクB(関係ディスク)を回すことで、既存のキーワードを新たな関係に置く事ができる。
    4. 問題解決における応用例は後述。

    RelationArgo2.jpg

    ■関係ワード

     ディスクB(関係ディスク)に書かれているのは、ベーシックイングリッシュ850語の中から、2つのアイテムを結びつけるのに用いられる42語をCrovitz, H. F.が抜き出したものである。以下に、全42語をリストアップした。

    (凡例)AをBと【___】な関係におく……日本語試訳

    【A about B】 ……Bの回りにA
    【A across B】 ……Bを横切ってA
    【A after B】 ……Bの後にA
    【A against B】 ……Bに対して(対抗して/背景にして)A
    【A among B】 ……Bに囲まれてA
    【A and B】 ……Bと並列してA
    【A as B】 ……Bのように見なしてA
    【A at B】 ……BにおいてA
    【A because B】 ……BだからA
    【A before B】 ……Bの前にA
    【A between B】 ……Bの間にA
    【A but B】 ……BではなくA
    【A by B】 ……Bの側にA
    【A down B】 ……Bの下にA
    【A for B】 ……Bのために/向かってA
    【A from B】 ……AからBへ
    【A if B】 ……もしBならばA
    【A in B】 ……Bの中にA
    【A near B】 ……Bの近くにA
    【A not B】 ……AでありBでない
    【A now B】 ……Bと同時にA
    【A of B】 ……Bの一部としてA
    【A off B】 ……Bから離れてA
    【A on B】 ……BとくっついてA
    【A opposite B】 ……Bの反対にA
    【A or B】 ……AまたはB
    【A out B】 ……Bから外にA
    【A over B】 ……Bを越えてA
    【A round B】 ……Bを囲んでA
    【A so B】 ……AもまたBと同様
    【A still B】 ……BにもかかわらずA
    【A then B】 ……Aその後B
    【A though B】 ……Bを通ってA
    【A through B】 ……BだけれどA
    【A till B】 ……BするまではA
    【A to B】 ……AからBへ
    【A under B】 ……Bの下にA
    【A up B】 ……Bの上にA
    【A when B】 ……BのときA
    【A where B】 ……BするところでA
    【A while B】 ……Bしている間はA
    【A with B】 ……BとともにA


    ■関係アルゴリズムを問題解決に適用した事例

    ケース「19世紀パリに頻発した暴動の一コマ」

     派遣された軍隊の司令官は、暴徒に発砲する事で広場から連中を排除せよとの命令を受けた。
     彼は兵隊に射撃姿勢を取り、群衆い狙いを定めるよう命じた。
     おそろしい沈黙の後、彼は剣を引き抜き、その場にいるすべての者に聞こえるよう叫んだ。


    このケースにおけるキーワードは
    * 司令官
    * 兵隊
    * 広場
    * 暴徒
    * 射撃姿勢
    * 銃
    * 群衆
    などが考えられる。可能な組み合わせの数はかなり多く、解もたくさんある。

     ここでは、司令官がおこなった問題解決に集中するために、キーワードとして「暴徒」と「群衆」を選ぼう。
     42の関係ワードを、この「暴徒」と「群衆」に適用してみよう。
    「暴徒」about「群衆」、「暴徒」across「群衆」、「暴徒」after「群衆」、……。

     実際にこの作業をやってみれば、司令官がどの関係ワードのところで次の解決策を見つけ出したか分かるだろう。司令官は、次のように叫び、事態を収拾した。


    「諸君!私は暴徒を撃つように命令された。しかしながら、私の目の前には善良な市民の方々が大勢いる。そこで、支障なく暴徒を射撃できるよう、市民の皆さんが立ち去る事を要求します」
     間もなく、広場からは人っ子一人いなくなった。司令官は誰ひとり撃つ事なく、「暴徒」を広場から排除する事に成功した。


    参考文献
    Crovitz, H. F. (1970). Galton's walk; Methods for the analysis of thinking, intelligence and creativity. New York: Harper & Row.



    3 タロット

     アルス・コンビナトリア(結合術)としては、ルルスの術(アルス・マグナ)ほど厳密でなく、もっとルーズで使いやすいものとしてタロットがある。

     占いとして使われ出したのは、実は意外に新しいが、それでもストーリー・ジュネレーターとしての優れた点が、タロット占いに生かされているのは間違いない。

     キャラクターを占えば、ストーリーやあらすじが、ほらできあがり。スプレッド(タロットの並べ方)は時間の経過が扱われているもの(たとえばケルト十字とか)がよいと思う。

     ただし普通にタロット占い(リーディング)できる程度の慣れは必要。ただし占い的に厳密な解釈をするよりも、絵柄から思い浮かぶものを広げて行く方がよい気がする。

     やはりいわくありげな絵が書いてあって、意味の重層性や混在性、連想の喚起力からすると、22枚しかないのはむしろメリットかもしれない。

     たとえば1つの事項をいきなり50の分類のどれに入るかを知ることは困難で、何らかの分類樹を経て分類するしかない。すると分類樹のかなり手前で、つまり少数のカテゴリーで手を打ちたくなるのも人情だ。

     冷静なものからイっちゃってるものまで様々な解釈書、解説書が出ているのも、タロットを使う利点に数えられるだろう。

     グレマスの行為者モデル(民話に共通する構造を取りだしたもの cf.グレマス『構造意味論』)にはめ込んでこれをリーディングすれば、世界観やらプロットができる。
     PHPで簡単に作ったのを設置してみた。

    http://www12.atpages.jp/storytools/tarrot_no.php


     リロードするだけで、新しい組み合わせが生まれ、新しい世界観やプロットができあがる。気に入るのが見つかるまで繰り返せばよい。


    たとえばスター・ウォーズ(1977年:エピソード4/新たなる希望)だとこんな感じになる。

    starwars_tarot.jpg

    (あらすじ)
     田舎のあんちゃん(主人公:愚者:ルーク・スカイウォーカー)が、ベン・ケノービと名のる老人(送り手;隠者:オビ・ワン)によって使命をあたえられ、密輸船長(援助者;戦車:ハン・ソロたち)の協力を得て、敵(敵対者:死:ダース・ベイダー)の攻撃に犠牲を出すも、反乱軍の象徴である姫(対象/目標:星:レーア姫)を見事助け出し、反乱軍(受け手:世界)は勝利をおさめる。



     このあたりの話は、大塚英志が『物語の体操』以来、いくつも本を書いているのでおなじみ。ネット上で使えるツールもたくさんある

     ただ、タロットでいえば、どういう(絵柄の)タロットを使うで、絵から生まれるインスピレーションが異なるので、単なるキーワードの組み合わせよりも、絵柄の組み合わせを重くみたい。

    http://www12.atpages.jp/storytools/rebo/tarrot_e.php

    http://www12.atpages.jp/storytools/lego/tarrot_e.php
    http://www12.atpages.jp/storytools/decameron/tarrot_e.php
    http://www12.atpages.jp/storytools/manara/tarrot_e.php

     例証になるかどうかわからないが、異なるタロットをグレマス・モデルに並べた、上の4つで比較して見て欲しい(下の二つは18禁っぽいが)。



    4 グレマス・モデル


    グレマスは、プロップが『民話の形態論(The Morphology of the Folk Tale)』でまとめた登場人物の七つの役割を、3つの軸によって整理した。すなわち(1)履行の軸:仕事と闘争。(2)契約の軸:契約の成立と破棄(3)流離の軸:出発と到着。グレマスは、物語の主題、そこでの行為と役割の型をまとめて‘行為項(actants)’と呼び、3つの軸がこれら行為項の底辺にある、と主張している。

     ぶっちゃけていうと、物語の行為項は3つの軸に対応する3×2=6つあることになる。すなわち

    * 主体/対象(プロップのいうヒーローと探される人)
    * 送り手/受け手(プロップの派遣する人とヒーロー)
    * 支援者/敵対者(プロップの支援者と提供者の融合、および敵対者と偽のヒーロー) 

     グレマスは、いわゆる英雄(ヒーロー)は主体(探す者)であり、受け手であると主張している。たとえば、ある物語の英雄は、連れ去られた姫を「探す者」であり、探索の成功の褒美として、姫と結婚する(受け手)というように、英雄(ヒーロー)は2つの役割を果たすのである。

     ありがちなあらすじの例を示すと、こんな感じ。

    (0)「対象」が「送り手」の下を離れたところから物語は始まる
    (1)「主人公」は物語と無縁の生活を送っているが、ある日「送り手」が発した「対象」探しの依頼を耳にする
    (2)「主人公」は捜索の旅に発つ。
    (3)「主人公」は、旅の途中、「協力者」と出会い、以後の旅をともにする。
    (4)「主人公」は、「敵対者」からの妨害に繰り返し合うが、なんとか退ける。
    (5)「主人公」は、とうとう「対象」を探し出す。
    (6)「主人公」と「敵対者」の最後の戦い。
    (7)「主人公」は「対象」を「受け手」のところに送り届ける。しかし「対象」は「主人公」を・・・

     もちろん、全然違った読み方をすることもできる。

    グレマス・モデルは何もタロットだけに限定する必要はない。
     ちょっと思いついて、ラファエロの『アテネの学堂』から哲学者を切り抜いて、グレマス・モデルに突っ込んでみたのか下の図

    ScuolaDiAtene.jpg


    これもPHPで簡単に作ったのを設置してみた
    http://www12.atpages.jp/storytools/Scuola_di_Atene.php

     リロードするだけで、新しい組み合わせが生まれ、新しい世界観やプロットができあがる。気に入るのが見つかるまで繰り返せばよい。

     哲学者ごとに担うポジションやイメージが浮かぶには、古代ギリシア・ローマあたりの哲学史の基礎知識が必要かもしれない。哲学的なアイデアの多くが、この時期に出切っているので、物の考え方の基礎パターンをおさえるにも悪くない。



    5 ロジェのシソーラス

     アルス・コンビナトリア(結合術)の最も実用的な形態。英語圏では有名な類語辞典だが、すべての項目を世界観に基づき、類似(及び対立)する概念は近くに集まるように配置しているのがポイント。このようにつくると、類語辞典は表現を磨くだけでなく、発想を助ける道具としても使える。

     ピーター・マーク・ロジェ博士の画期的偉業は1852年に初版が出版され、単語や熟語を意味で分類するというまったく新しい方式を取り入れたものであった。
     ロジェ博士の方式はひとつの考えやコンセプトに関係するすべての言葉をひとつにまとめるというものだ。
     そのおかげで比較的手軽なサイズで広範囲の単語を調べることが可能になった。辞書のようにABC順に整理されたシソーラスでは繰り返しが多過ぎ使いづらかったからだ。
     その後1世紀半以上にもわたって増補、再編集、改良が加えられてきた『Roget's International Thesaurus』は最も使える関連語辞典であり、アイデアを刺激、整理したり、明快・効果的な文章や会話表現に役立つツールでもある。


    詳しい目次は
    http://en.wikipedia.org/wiki/Wikipedia:Outline_of_Roget's_Thesaurus

    ここから全文検索できる(同様にサービスはネットのあちこちにあるが)
    http://poets.notredame.ac.jp/Roget/

    詳しいことは、ここにある論文(日本語、pdf)をどうぞ。
    http://ci.nii.ac.jp/naid/110003320850/


     たとえば主人公やメインとなる持ち主をキーワードとして、類似概念や対立概念をひろっていく。テーマや主張は、登場人物のセリフにするのが楽だが、それではお説教を埋め込んだだけである。それらは登場人物の行動を通じて表現されたほうがよい。そしてそうした行動は、反対概念の具体化である敵対者の行動や、主人公が反応せざるを得ない状況へのリアクションとして描くことが出きれば自然である。主人公の行動を引きだす、他人の行動や周囲の状況を見つけるのに、シソーラスは役立つ。

     またarchitecture(建築)を引くと、ただbuildingといった普通の意味での類義語だけでなく、くfrozen music(ゲーテがアッカーマンとの対話で、建築を凍った(凝固した)音楽と呼んだ。もとは哲学者シェリングの美学に登場する概念。後年、フェノロサが奈良薬師寺の東塔を表現するのに用いた)といった「気のきいた言いまわし」も混ぜているのもポイント。

     一度、英語にする際に混じるノイズも、時によい方向に働く。 



    6 時空計算尺ガリバー

     時は1994年、東京大学の和田昭充教授は、百億光年規模の巨視世界からオングストローム尺度の素粒子まで、宇宙、地球、生命、分子、原子を総合し俯瞰する装置を考案した。その名も時空計算尺ガリバー!!

     正尺に宇宙の森羅万象の時間・空間のトピックを表裏に、それぞれの秒とメートル単位で対数スケールの上にプロットされ、そのうち人間が実感が持てる生活スケールを取り出して副尺として、正尺と互いにスライドする仕組みである。

     すなわち空間縮尺には拡大率に100万倍をとり、タンパク質や細胞の大きさを「実感」できるようにされており、時間縮尺には、生命の誕生以来の歴史が「1年」に縮めてある。
     時空間対比は、エジプト文明以来の歴史を1メートルとすると、生命の歴史は1000キロメートルとなる。

    gulliver.jpg


     当時、携帯サイズ版が株式会社丸善から発売されたが、現在も上野の国立科学博物館には3.5メートルの大型尺が展示され、来館者が手で動かして作動できるようになっている(携帯サイズ版も国立科学博物館のミュージアム・ショップで売っている)。

     これ自体がアルス・マキナのスケール(ものさし)版ともいうべき、発想ジュネレーターの側面を持っているが、たとえば水木しげるは、妖怪は何百年も生きるから、人の見方とは自ずから変わってくるといっている。時空計算尺ガリバーは、ある時は妖怪の視点で、ある時はウスバカゲロウの視点で(あるいはレトロ・ウイルスの視点で、事象の地平に立った観点で)、ものごとを考え直すツールである。



    7 紙と筆記具

     番外というか、キーボードを叩く時間が増えるほど、ちょっと脇に置いてある、この「大前提」が効く。

     結局つまらないことも、月並みな考えも、すべて書き出してみないことには、はじまらない。

     個人的には、筆ペンが、線の太さが自在、タッチも自在、何を書いてもヘタウマになる、の3拍子でお気に入り。とくにマインド・マップ(「国語力世界一」のフィンランドの小学生は、これでお話をつくる練習をするようだ)を書くのに良い。

     7色の筆ペンなど出ないものだろうか?どころか、カラー筆ペンなんて山ほどありました





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