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2010.03.15
100冊読む時間があったら論文を100本「解剖」した方が良い
何かインプットしたら、アウトプットすること。
アウトプットを予定して、思い描いて、インプットは行うこと。
メモでも日記でもブログでもレジュメでもレポートでも論文でも著作でも隣の人に話すのでもいいから、吐き出すこと。
ちんぷんかんぷんでも本の内容をレジュメにまとめ、お馬鹿同士トンデモな議論をやり、なんとか書き上げた論文モドキを投稿して無理解極まる査読者とやり取りすること。
でないと、アタマの中にも、手の中にも、何も残っていないことに気付くことになる。
「ああ、そんな本(あるいは、そんな話)、前に読んだな(聞いたな)」でおしまいになるだろう。
アウトプットは、できればインプットと同じ水準のものがいい。
たとえば論文を読むなら、論文を書くつもりで読むこと。
そうなると内容を得るだけでは済まなくなる。
・どういった構成で書かれているか?
・どんな決まり文句や、つなぎの言葉が使われているか?
・主張を支えているものは何か?
・データはどうやってつくられたのか?
・それにはどれくらいの時間とリソースが必要なのか?
・どの参考文献から、どんな一節が引用されているのか?
といった「こまごました」こともチェックすることになる。
何もかもを一度に読む取ることは難しいのなら(確かに難しいことだ)、内容が理解できたと思う論文を、今度は「書き手」の立場から再度(多分、繰り返し)読み返すこと。
だから読むのなら、再読に耐えるようなものがいい。
行なうのは、論文のリバース・エンジニアリングだ。
とことんバラバラに分解して、分解・解析の結果は、自分がすぐにでも利用可能なようにストックしておくこと。
最初は手間がかかるが、すぐに役立つ。
論文を早く(そして速く)、そして深く読みこなせるようになる。
実際の論文は、「研究法」「論文執筆法」で説明されているような、お行儀の良いものばかりではない。
錯誤もゴマカシもある。テニヲハが変なものまである。「真似すべきでない」ことも、ストックしておくこと。
悪い例は自覚的でないと、自分もしでかすことになる。
論文を推すのは、本より論文の方が大抵の場合短いことと、フォーマットが決まっているので、上に述べたような作業がやりやすいからである。
またフォーマットが決まっていると、ひとつの論文をやり終えると、次にとりかかる論文に、それまでの経験が生かしやすい。
2本目の論文にかかる労力は、1本目のおよそ半分くらいになるので、上達したというフィードバックが得やすい。
ぶっちゃけ、誰かの作ったブックリストの100冊を読む時間があったら(実際、そんな時間はないし、かける値打ちも無い)、論文を100本読んだ方がいい。
いや、ただ読むのでなく、さっきも言ったように、バラバラに解体し解剖すること。
スラッシュを入れ、キーワードを囲み、マーカーを引き、アウトラインを抜き取り、図表からのデータは拾い出して自分でも加工してみて、引用箇所は文献リストに挿入して、誰のどんな著作から何が引用されているか一目瞭然となるように整理すること。
まずいタイトルはつけなおせ。
リサーチクエスチョン(この論文が明らかにしようとしている問題)と、この論文で出された問いの答えを抜きだし、簡潔に言いなおせ。
それができたら問題の方をメイン・タイトルに、答えの方をサブ・タイトルにすればいい。
アブストラクトの1文が、論文のどの節、どのパラグラフに対応しているかを明示せよ。もしも、論文本文と齟齬のあったら、アブストラクト(要約)を直してやれ。
だいたい本にしたところで、読むに値するような本は、論文をまとめたものか、それに手を加えたもの、あるいは論文の内容を希釈して新書や一般書の形にし立てたものか、いずれかだ。
教科書は、その分野の膨大な量の論文たちを、うまくわかりやすくまとめて構成したものに過ぎない。しかし自分で同じことをやろうとすると莫大な時間と労力が必要だ。今は先達の力と技を「借り」ておこう。そして、教科書の端々に埋め込んである論文を、やり過ごさす拾っておくこと。
ブログをまとめたもの? イヌにでも食わせるがいい。
順序から言って、新しい知見はまず論文の形で世に出る。論文までいかないものは、チェック機能がより甘い学会発表に、まず「出荷」される。
こんな風に「論文志向」で読むものを探していけば、「教養書」の類にいらぬ時間を費やさなくて済む(ああ、言っちまった)。
論文だといって恐れおののくことはない。最初は読めるところだけ読めばいい。
フォーマットが決まっている論文だと、こんな構成になっている。
* Title(タイトル)
* Abstract(要約)
* Introduction(序論)
* Method(実験または調査方法)
* Result(得られた結果、データ)
* Discussion(考察)
* Conclusion(結論;まとめ)
* Bibliography(文献リスト)
* Appendix (付録)
最悪、Title(タイトル)、Introduction(序論;研究の背景と目的;この論文の著者は何故、何をやろうとしているのか)、Discussion(結果から何が言えるか/反論にあらかじめ答えておくところでもある)そして文献リスト(Bibliography)だけでもいい。って、飛ばしたのはMethodとResultとConclusion(どうせ序論の繰り返しだ)だけだが。自分も研究をはじめるようになれば、いやでもMethodとResultは読みたくなる。
読むことが難しい箇所、そして読めない理由はチェックしておく。
繰り返し出てくるのに、分からない専門用語があるのか?(専門事典にあたれ。専門事典なら各項目の最期に参考文献を載せている)。
論文が前提としている先行研究について不案内なのか?(だったら、そこで触れられている論文なり書籍が、次に読むべきものだ。基本的に、読むべき文献は、こうして参照関係をたどって、自ら芋づる式に探索する。誰かに与えられるものではない)。
論文を書いたやつがおそろしくバカな場合だってある。くずかごに放りこめ。
そして、何かが分からない状態こそ、物事を学ぶにふさわしいモードだ。
足りないものリストを、ひとつずつ潰していこう。
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でないと、アタマの中にも、手の中にも、何も残っていないことに気付くことになる。
「ああ、そんな本(あるいは、そんな話)、前に読んだな(聞いたな)」でおしまいになるだろう。
アウトプットは、できればインプットと同じ水準のものがいい。
たとえば論文を読むなら、論文を書くつもりで読むこと。
そうなると内容を得るだけでは済まなくなる。
・どういった構成で書かれているか?
・どんな決まり文句や、つなぎの言葉が使われているか?
・主張を支えているものは何か?
・データはどうやってつくられたのか?
・それにはどれくらいの時間とリソースが必要なのか?
・どの参考文献から、どんな一節が引用されているのか?
といった「こまごました」こともチェックすることになる。
何もかもを一度に読む取ることは難しいのなら(確かに難しいことだ)、内容が理解できたと思う論文を、今度は「書き手」の立場から再度(多分、繰り返し)読み返すこと。
だから読むのなら、再読に耐えるようなものがいい。
行なうのは、論文のリバース・エンジニアリングだ。
とことんバラバラに分解して、分解・解析の結果は、自分がすぐにでも利用可能なようにストックしておくこと。
最初は手間がかかるが、すぐに役立つ。
論文を早く(そして速く)、そして深く読みこなせるようになる。
実際の論文は、「研究法」「論文執筆法」で説明されているような、お行儀の良いものばかりではない。
錯誤もゴマカシもある。テニヲハが変なものまである。「真似すべきでない」ことも、ストックしておくこと。
悪い例は自覚的でないと、自分もしでかすことになる。
論文を推すのは、本より論文の方が大抵の場合短いことと、フォーマットが決まっているので、上に述べたような作業がやりやすいからである。
またフォーマットが決まっていると、ひとつの論文をやり終えると、次にとりかかる論文に、それまでの経験が生かしやすい。
2本目の論文にかかる労力は、1本目のおよそ半分くらいになるので、上達したというフィードバックが得やすい。
ぶっちゃけ、誰かの作ったブックリストの100冊を読む時間があったら(実際、そんな時間はないし、かける値打ちも無い)、論文を100本読んだ方がいい。
いや、ただ読むのでなく、さっきも言ったように、バラバラに解体し解剖すること。
スラッシュを入れ、キーワードを囲み、マーカーを引き、アウトラインを抜き取り、図表からのデータは拾い出して自分でも加工してみて、引用箇所は文献リストに挿入して、誰のどんな著作から何が引用されているか一目瞭然となるように整理すること。
まずいタイトルはつけなおせ。
リサーチクエスチョン(この論文が明らかにしようとしている問題)と、この論文で出された問いの答えを抜きだし、簡潔に言いなおせ。
それができたら問題の方をメイン・タイトルに、答えの方をサブ・タイトルにすればいい。
アブストラクトの1文が、論文のどの節、どのパラグラフに対応しているかを明示せよ。もしも、論文本文と齟齬のあったら、アブストラクト(要約)を直してやれ。
だいたい本にしたところで、読むに値するような本は、論文をまとめたものか、それに手を加えたもの、あるいは論文の内容を希釈して新書や一般書の形にし立てたものか、いずれかだ。
教科書は、その分野の膨大な量の論文たちを、うまくわかりやすくまとめて構成したものに過ぎない。しかし自分で同じことをやろうとすると莫大な時間と労力が必要だ。今は先達の力と技を「借り」ておこう。そして、教科書の端々に埋め込んである論文を、やり過ごさす拾っておくこと。
ブログをまとめたもの? イヌにでも食わせるがいい。
順序から言って、新しい知見はまず論文の形で世に出る。論文までいかないものは、チェック機能がより甘い学会発表に、まず「出荷」される。
こんな風に「論文志向」で読むものを探していけば、「教養書」の類にいらぬ時間を費やさなくて済む(ああ、言っちまった)。
論文だといって恐れおののくことはない。最初は読めるところだけ読めばいい。
フォーマットが決まっている論文だと、こんな構成になっている。
* Title(タイトル)
* Abstract(要約)
* Introduction(序論)
* Method(実験または調査方法)
* Result(得られた結果、データ)
* Discussion(考察)
* Conclusion(結論;まとめ)
* Bibliography(文献リスト)
* Appendix (付録)
最悪、Title(タイトル)、Introduction(序論;研究の背景と目的;この論文の著者は何故、何をやろうとしているのか)、Discussion(結果から何が言えるか/反論にあらかじめ答えておくところでもある)そして文献リスト(Bibliography)だけでもいい。って、飛ばしたのはMethodとResultとConclusion(どうせ序論の繰り返しだ)だけだが。自分も研究をはじめるようになれば、いやでもMethodとResultは読みたくなる。
読むことが難しい箇所、そして読めない理由はチェックしておく。
繰り返し出てくるのに、分からない専門用語があるのか?(専門事典にあたれ。専門事典なら各項目の最期に参考文献を載せている)。
論文が前提としている先行研究について不案内なのか?(だったら、そこで触れられている論文なり書籍が、次に読むべきものだ。基本的に、読むべき文献は、こうして参照関係をたどって、自ら芋づる式に探索する。誰かに与えられるものではない)。
論文を書いたやつがおそろしくバカな場合だってある。くずかごに放りこめ。
そして、何かが分からない状態こそ、物事を学ぶにふさわしいモードだ。
足りないものリストを、ひとつずつ潰していこう。
(関連記事)
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自宅でできるやり方で論文をさがす・あつめる・手に入れる 読書猿Classic: between / beyond readers

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九州男児
なるほど。
で、とりあえず、論文っていうのはネットに流れているものなの?
管理者がよく読んでる論文ってたとえばどんななの?
で、とりあえず、論文っていうのはネットに流れているものなの?
管理者がよく読んでる論文ってたとえばどんななの?
2010/03/16 Tue 21:45 URL [ Edit ]
九州女児
>九州男児
http://scholar.google.co.jp/ で検索すればいくらでも論文はネット上で探せるし読めるけど。
http://scholar.google.co.jp/ で検索すればいくらでも論文はネット上で探せるし読めるけど。
2010/03/17 Wed 07:19 URL [ Edit ]
「とことんバラバラに分解して、分解・解析の結果は、自分がすぐにでも利用可能なようにストックしておく」という箇所は、本当に同意できます。
自分はかつては、何かを読むときには、本にせよ論文にせよ、作品の構造を維持したまま頭の中に写し取ることに執心していました。段落ごとに要約ノートを作ったり。
けれども、著者の考えに寄りかかったままだと、なぜか頭の中には残らないんですよね。正確に理解する訓練にはなりますが。
一方、自分が何かを作り出すための糧にするというスタンスのもとで、読んだものから情報を抽出するようになってからは、読むことが自分の糧になっている実感があります。
自分はかつては、何かを読むときには、本にせよ論文にせよ、作品の構造を維持したまま頭の中に写し取ることに執心していました。段落ごとに要約ノートを作ったり。
けれども、著者の考えに寄りかかったままだと、なぜか頭の中には残らないんですよね。正確に理解する訓練にはなりますが。
一方、自分が何かを作り出すための糧にするというスタンスのもとで、読んだものから情報を抽出するようになってからは、読むことが自分の糧になっている実感があります。
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トップの二連の写真に惹かれました。
ぼくは恩師にはテキスト批評という表現で叩き込まれました。論文のネタを書き落としてストックしていくのは楽しい作業です。
でもゼミだからこその楽しさが大きかったです。ひとりでは、読んで面白がって終わりにしてしまいます。
ぼくは恩師にはテキスト批評という表現で叩き込まれました。論文のネタを書き落としてストックしていくのは楽しい作業です。
でもゼミだからこその楽しさが大きかったです。ひとりでは、読んで面白がって終わりにしてしまいます。
2010/03/19 Fri 21:55 URL [ Edit ]
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2011/10/05 Wed 22:48 [ Edit ]
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