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     論理学の良いところは、トレーニングの効果が絶大なところだ。

     たとえれば、論理学は一種の「高地」トレーニングなので苦しいが、これによって思考の「心肺機能」がアップする。
     思考が「息切れ」しにくくなる。そして「登坂力」が増す。
     微細な違いに気付く力や、筋が混み入った話への感受性も高まる。
     学術書の類や、日本語とは思えない悪文を読むのに、きつい坂道を上るような苦しさを感じている人は、最もその効果を実感できるだろう。

     しかし論理学を学ぶ人はあまり多くない。

     独習は不可能ではない。
     というより、自分で問題を解かないことにはどうにもならないので、習うにしろ、自分一人で取り組まなくてはならない時間が多い。

     科学哲学者の内井惣七氏は、論理学の学習について、次のように言っている。

    ・問題を山のように解かないと、論理学が身に付くはずがない。ぼーっと、本を眺めてマスターできるのは、フォン・ノイマンみたいな悪魔だけだ。

    ・証明の基本は、まず証明すべき式の形をしっかりと見ること(論理学や数学もそうだが、記号操作が必要なものを苦手とする人は、記号の並びの些細な違いについての感受性が鈍い。トレーニングはその識別力となって身に付いていく)。

    ・述語論理に入ったときは、命題論理のトートロジーの形を(ひとめで)見分ける感覚が身に付いてないと、どうにもならない。



     「問題を山のように」というのは、どれくらいの量のことか?

     内井惣七氏が自分のサイトで「思い出話」を書いている。
     http://www1.kcn.ne.jp/~h-uchii/Logic/


     彼が京都大学の工学部から文学部に学士入学した際(内井氏が言うところを信じるならば、彼自身が京都大学に教員として着任する1990年まで)、この大学にはまともな論理学者がいなかったそうだ。
     したがって内井氏が学んだのは外部講師による集中講義であって、これは当時の制度では30時間×2回=計60時間だった。
     2回と言うのは、外部講師の旅費が2回分しか出ないということだが、60時間で論理学が身に付くものではないと、この時の外部講師は自腹を切って京大に論理学を教えに来た。
     しかし受講生は減っていって、とうとう内井氏ひとりになってしまった。
     当時使われていた教科書はKalish & Montague(1967), Logic: Techniques of Formal Reasoning.で、「できるだけたくさん問題を解きなさい」ということだったので、内井氏は夏休み中に、この教科書のすべての問題を解いて、かの講師に送った。「こんなには採点できない」とついに弱音がもれたそうだ。
     しかし1年が経ち、講師は別れの際、続きはこれで勉強しなさいとゲンツェンの原論文のコピーとKleeneのMathematical Logicのコピーをくれた(コピーがものすごく高価だった時代の話である)。


     さてテキストだが、内井惣七氏のものだと『真理・証明・計算―論理と機械』がある。コンパクトで、トピック満載だが、湯で戻す必要がある。その意味で、ちょっと「授業書」っぽい。

     今なら、独習の場合は、戸田山和久『論理学をつくる』が一番使いやすいと思う。

     『論理学をつくる』がきつかったら?


     趣向はちがうが、野矢 茂樹『新版 論理トレーニング』をやるだけでも(「読む」だけでなく「解く」ということである)、「学術書の類や、日本語とは思えない悪文を読む」自分にかかる負担が変わっていることに気付くだろう。終わったら、ついでに『論理トレーニング101題』もやろう。


     なお、『論理学をつくる』で問題を解くのが「きつい」というのは、それほど変な話ではない。ちゃんと取り組んでいる証拠だから、まちがっても「自分の頭が悪い」などとは思わないように。
     「1問解くのに丸1日かかった」としても、途中で投げ出したとしても、不思議ではない。そういうものだ。ちゃんと取り組んでいる証拠だから、まちがっても「自分の頭が悪い」などとは思わないように。その気になったら、また取り組めば良いだけの話だ。



    論理学をつくる論理学をつくる
    (2000/10)
    戸田山 和久

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    新版 論理トレーニング (哲学教科書シリーズ)新版 論理トレーニング (哲学教科書シリーズ)
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    論理トレーニング101題論理トレーニング101題
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    野矢 茂樹

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    『論理学をつくる』が終わったら?

    述語計算LKを学ぶのに、
    復刊 数理論理学復刊 数理論理学
    (2001/08/15)
    松本 和夫

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    が、その名の通り復刊されている。今のうちに買い。

    不完全性定理では、ゲーデルの原論文に沿ったものだと(これがあんまりないのだ)
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    前原 昭二

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    が丁寧なつくり。

     
    ゲーデルの不完全性定理ゲーデルの不完全性定理
    (1996/07)
    レイモンド スマリヤン

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    の一工夫も二工夫もあるちょっと違った証明も、スマリヤンのいろんな論理ゲームの本ともどもお勧めである。

    真理・証明・計算―論理と機械真理・証明・計算―論理と機械
    (1989/05)
    内井 惣七

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    今や、カリッシュの本も、クリーニの本も、お手頃価格で手に入る。

    Logic: Techniques of Formal ReasoningLogic: Techniques of Formal Reasoning
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    Donald Kalish

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    Stephen Cole Kleene

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