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2010.05.11
辞書読:卓越した知力を身につけるサーキット・トレーニング
辞書の情報密度は非常に高い。
ビギナーは、最初から全部食らってしまうと、情報酔いの可能性もある。
もちろん覚悟を決めた読書家を止めることができるものなんて何もない。
勇気と気合いだけで、cover to cover、表紙から最期の最期まで読み貫くのも可だ。
以下は、そうした自信をがない人、あるいは自信をへし折られた人のために書く。
情報の過剰曝露を避けるために、最初は可能な限り「あっさり」読むことからはじめよう。
これ以上ないくらいのスキミングでかまわない。
また情報処理の負荷を下げるという点で、外国語辞書より、国語辞典を最初のターゲットにするとよい。
これには、外国語辞典に比して、圧倒的に多くの「既知の項目」に触れることができるというメリットもある。
既知の項目について辞書に当たるメリットは先日書いた。
辞書をうまく使えない人は、わからない言葉だけを引いている 読書猿Classic: between / beyond readers

ここで「手に入れよう」としているのは、辞書に搭載された大量の情報ではない。それはむしろ二次的な「余録」と言っても構わないくらいだ。
辞書を読み貫くことを通じて、知的登坂力といったものが身につく。おまけに語彙力、読解力も加わる。
つまり、辞書を読破した者を、圧倒できる書物、退けることのできるほど大著は存在しない(そして本は読まれるために存在する)。ほぼすべての書物が、今やあなたの「射程距離」に入ったことを知るだろう。
さて、できるかぎり挫折の少ない辞書の読み通し方を、具体的に述べる。
1.最初は、ページごとにひとつ、お気に入りの言葉や項目をみつけることからはじめよう。
2.みつかったら、それに印をつけて、次のページに進む。みつからなくても、次のページに進む。
3.最初は、この程度の浅い読み方でかまわない。とにかくページをめくっていく。見たものを、覚える必要はまるでない。ページの間に「風を通す」ことを「目標」にしてもよいくらいだ。
4.最期のページまでたどり着いたら、それだけで大したものだとうぬぼれよう。
5.二周目以降は、おなじことをやっても、進み方がまるで違っているはずだ。
多少の余裕が生まれるだろうから、2回目は、1ページにつき2つのお気に入りを、3回目は3つ、4回目は4つ……という調子で進んでいてもよい。
先に書いたが、辞書を読破できた者を、退けることのできるほどの大著は存在しない。
手始めに、だれかの個人全集で試してみるといい。
もはや「挑戦する」といったレベルを置き去りにしてきたことに気付くはずだ。
(辞書読破に、お勧めの辞書リスト)
本文は、「国語辞典」を軸に書いたが、もっと負荷の低いところから始めたい人もいるだろうし、逆にもっと負荷をかけたい人もいると思う。
下記のリストは、基本的には上になるほど低負荷(下に行くほど高負荷)であるが、異なる種類の辞書をリスティングしているので、負荷の高低は読む人によって異なると思われる。参考になれば幸いである。
○図解__辞典
もっとも負荷の低い辞典。
図解が理解を助けるだけではない。
図で説明する必要のある項目は、「それを何と呼べばよいのか」わからない項目でもある。したがって、この図解辞典では、すべての項目を五十音順(アルファベット順)に配列せず、種類ごとに章立てして配列していることが多い。何と呼べばわからない場合、この方が探しやすいし、一章あたりの分量も、ブラウズして語を見つけることができる程度の長さに抑えてある。
これらの特徴を、辞書読破という観点から見れば、
(1)図解が理解と記憶を助ける
(2)長くないまとまりに章分けされていて、とりあえず一章ずつ読むという中間目標が立てやすい。
(3)呼び方も分からないビギナーでも理解できるよう、前提知識がほとんど必要としない、やさしい記述であることが多い。
以上から、最もリタイアしにくい「読める辞書」であることが多い。
自分の関心分野から探してみるといい。
(例)
・『図解 インテリアコーディネーター用語辞典』
・『新ファッションビジネス基礎用語辞典』
○『MD現代文・小論文 (MDシリーズ)』
Twitterで「辞書読み体験」をプッシュしてくれたHiroyaYamadaさんが、紹介してくれたもの。実は、朝日出版社のMD(MINI DICTIONARY)シリーズには、「残念」な記憶しかなかったので、ノーマークだった。今回入手してみて、この記事を書こうという気になった次第。HiroyaYamadaさんに多謝。
いろいろ「おまけ」がついているが、辞書自体は現代文・小論文に頻出の4000語を収録。小難しげな本に苦労している人には「即戦力」になる語が選んである。それぞれの語には、語義というよりむしろ解説がついていて、ビギナー向けに丁寧に説明してある。普通の国語辞典に比べると、分量はごく少なく、読み通しやすいだろう。
○『ベネッセ表現読解国語辞典』
コンセプトは、「MD現代文・小論文辞典」と似ているが、こちらはかなり一人前の国語辞書である(しかし後で述べるように留保つきで、である)。辞典部、漢字部、機能語部、敬語表現部の4部構成というのも面白い。論理的な文章の読解や小論文のキーワードとなる抽象語を囲みや見開き詳しく解説し、また似た意味のことば、関連語の効果的な使い分けも丁寧に説明している。「機能語部」「敬語表現部」では、接続詞の用法や文末表現例を取り上げている。
これだけをスペースを贅沢に使い、いろんな機能を詰め込んで、ではどこにしわ寄せが来ているかと言うと、普通の語彙の説明である。これが実にあっさり。見開きで解説してもらえるキーワードとの差は歴然だが、これだけメリハリがついていると、読み物として扱いやすいとも言える。
○『新潮現代国語辞典』
手に取って使える、普通の小型国語辞典からエントリー。1800ページ、約79000語。
用例は、明治から戦前までの「著名な言語作品」ぶっちゃけ文学作品(小説、評論、詩、童謡)から、採集したもの。
はっきり言って、これは用例を読む辞典である。いや、読める(読む気になる)用例だけを集めたと言っても過言ではない。日本語を作った人たちを、ちょっと見直してもいい気になる、そんな辞典。
同じコンセプトで、期間は戦後まで、範囲は新聞記事まで広げた『学研国語大辞典 第2版』があるが(実は普段使いの辞書はこれ)「広げた」せいか、用例の質はやや下がる。
外国語の辞書もいくつかあげてみる。
○Longman Children's Picture Dictionary with CDs: With Songs and Chants
150ページに、800の単語を50のトピックに分けて紹介。当然、図解してある。これなら読める。歌やチャンツ満載のCD付属。
○Longman New Junior English Dictionary (NJED)
普通のロングマン英英辞典は2000語をつかってすべての語を定義しているが、ジュニア版では、さらに1600語に限定。これで収録の12000語を定義し、例文もその範囲内で。
さすがにこれを引いて日常の読書に耐えるとは思えないが、まさにこれこそ読破のための英英辞典ではないか(300ページくらいである)。1万語レベルなので知ってる単語の割合がかなり高いが、分かり切ってるつもりの単語でも、なかなかに面白い。
(個人的には持ち歩いてて、バラバラになった思い出が……)。
○斎藤秀三郎『熟語本位 英和中辞典』
斎藤秀三郎は、英語の勉強に夏休みを費やしてEncyclopedia Britannicaを読破したような人なのだが、エピソードはネットでいくらでも拾えると思うので、辞書の紹介だけにとどめる。
英語どころか日本語まで学べる超絶辞書。読破したのは柳瀬尚紀ぐらいじゃないかと思うが、どこをどう読んでもおもしろい。目からうろこ。とくに例文とそれにつけた訳のすばらしさは筆紙に尽くし難い。
an act of God (天災)
Oh! my God! (南無三!)
God's will be done! (天なり命なり)
the hand of God (天災)
God damn you! (くたばってしまえ、天罰にあたれ)
No, by God! (何ぞ然らん)
Even the gods cry over it. (鬼神も為に泣く)
と訳すセンスを入り口に、devilの方も見ておくと、
a devil of a fellow (大悪人/色魔)
a devil of a mess (乱暴狼藉)
Devil take it! (えいくそっ、しまった)
The devil! (何くそ)
というのがどんどん続いていくのだが、少し飛ばして
Give the devil his due. (盗人にも三分の理あり)
To give the devil his due (公平に言えば)
devil's bed post (トランプのクラブの4)
devil's bones (骰子さいころ)
devil's books (歌留多カルタ)
whip the devil round the stump (責任逃れの言い訳を仕立てる)
いや、いくらでも写したくなるので、このあたりで。
(関連記事)
辞書をうまく使えない人は、わからない言葉だけを引いている 読書猿Classic: between / beyond readers
ビギナーは、最初から全部食らってしまうと、情報酔いの可能性もある。
もちろん覚悟を決めた読書家を止めることができるものなんて何もない。
勇気と気合いだけで、cover to cover、表紙から最期の最期まで読み貫くのも可だ。
以下は、そうした自信をがない人、あるいは自信をへし折られた人のために書く。
情報の過剰曝露を避けるために、最初は可能な限り「あっさり」読むことからはじめよう。
これ以上ないくらいのスキミングでかまわない。
また情報処理の負荷を下げるという点で、外国語辞書より、国語辞典を最初のターゲットにするとよい。
これには、外国語辞典に比して、圧倒的に多くの「既知の項目」に触れることができるというメリットもある。
既知の項目について辞書に当たるメリットは先日書いた。
辞書をうまく使えない人は、わからない言葉だけを引いている 読書猿Classic: between / beyond readers

ここで「手に入れよう」としているのは、辞書に搭載された大量の情報ではない。それはむしろ二次的な「余録」と言っても構わないくらいだ。
辞書を読み貫くことを通じて、知的登坂力といったものが身につく。おまけに語彙力、読解力も加わる。
つまり、辞書を読破した者を、圧倒できる書物、退けることのできるほど大著は存在しない(そして本は読まれるために存在する)。ほぼすべての書物が、今やあなたの「射程距離」に入ったことを知るだろう。
さて、できるかぎり挫折の少ない辞書の読み通し方を、具体的に述べる。
1.最初は、ページごとにひとつ、お気に入りの言葉や項目をみつけることからはじめよう。
2.みつかったら、それに印をつけて、次のページに進む。みつからなくても、次のページに進む。
3.最初は、この程度の浅い読み方でかまわない。とにかくページをめくっていく。見たものを、覚える必要はまるでない。ページの間に「風を通す」ことを「目標」にしてもよいくらいだ。
4.最期のページまでたどり着いたら、それだけで大したものだとうぬぼれよう。
5.二周目以降は、おなじことをやっても、進み方がまるで違っているはずだ。
多少の余裕が生まれるだろうから、2回目は、1ページにつき2つのお気に入りを、3回目は3つ、4回目は4つ……という調子で進んでいてもよい。
先に書いたが、辞書を読破できた者を、退けることのできるほどの大著は存在しない。
手始めに、だれかの個人全集で試してみるといい。
もはや「挑戦する」といったレベルを置き去りにしてきたことに気付くはずだ。
(辞書読破に、お勧めの辞書リスト)
本文は、「国語辞典」を軸に書いたが、もっと負荷の低いところから始めたい人もいるだろうし、逆にもっと負荷をかけたい人もいると思う。
下記のリストは、基本的には上になるほど低負荷(下に行くほど高負荷)であるが、異なる種類の辞書をリスティングしているので、負荷の高低は読む人によって異なると思われる。参考になれば幸いである。
○図解__辞典
もっとも負荷の低い辞典。
図解が理解を助けるだけではない。
図で説明する必要のある項目は、「それを何と呼べばよいのか」わからない項目でもある。したがって、この図解辞典では、すべての項目を五十音順(アルファベット順)に配列せず、種類ごとに章立てして配列していることが多い。何と呼べばわからない場合、この方が探しやすいし、一章あたりの分量も、ブラウズして語を見つけることができる程度の長さに抑えてある。
これらの特徴を、辞書読破という観点から見れば、
(1)図解が理解と記憶を助ける
(2)長くないまとまりに章分けされていて、とりあえず一章ずつ読むという中間目標が立てやすい。
(3)呼び方も分からないビギナーでも理解できるよう、前提知識がほとんど必要としない、やさしい記述であることが多い。
以上から、最もリタイアしにくい「読める辞書」であることが多い。
自分の関心分野から探してみるといい。
(例)
・『図解 インテリアコーディネーター用語辞典』
・『新ファッションビジネス基礎用語辞典』
○『MD現代文・小論文 (MDシリーズ)』
![]() | MD現代文・小論文 (MDシリーズ) (1998/09) 有坂 誠人、大澤 真幸 他 商品詳細を見る |
Twitterで「辞書読み体験」をプッシュしてくれたHiroyaYamadaさんが、紹介してくれたもの。実は、朝日出版社のMD(MINI DICTIONARY)シリーズには、「残念」な記憶しかなかったので、ノーマークだった。今回入手してみて、この記事を書こうという気になった次第。HiroyaYamadaさんに多謝。
いろいろ「おまけ」がついているが、辞書自体は現代文・小論文に頻出の4000語を収録。小難しげな本に苦労している人には「即戦力」になる語が選んである。それぞれの語には、語義というよりむしろ解説がついていて、ビギナー向けに丁寧に説明してある。普通の国語辞典に比べると、分量はごく少なく、読み通しやすいだろう。
○『ベネッセ表現読解国語辞典』
![]() | ベネッセ表現読解国語辞典 (2005/02) 沖森 卓也、中村 幸弘 他 商品詳細を見る |
コンセプトは、「MD現代文・小論文辞典」と似ているが、こちらはかなり一人前の国語辞書である(しかし後で述べるように留保つきで、である)。辞典部、漢字部、機能語部、敬語表現部の4部構成というのも面白い。論理的な文章の読解や小論文のキーワードとなる抽象語を囲みや見開き詳しく解説し、また似た意味のことば、関連語の効果的な使い分けも丁寧に説明している。「機能語部」「敬語表現部」では、接続詞の用法や文末表現例を取り上げている。
これだけをスペースを贅沢に使い、いろんな機能を詰め込んで、ではどこにしわ寄せが来ているかと言うと、普通の語彙の説明である。これが実にあっさり。見開きで解説してもらえるキーワードとの差は歴然だが、これだけメリハリがついていると、読み物として扱いやすいとも言える。
○『新潮現代国語辞典』
![]() | 新潮現代国語辞典 (2000/02) 山田 俊雄、 他 商品詳細を見る |
手に取って使える、普通の小型国語辞典からエントリー。1800ページ、約79000語。
用例は、明治から戦前までの「著名な言語作品」ぶっちゃけ文学作品(小説、評論、詩、童謡)から、採集したもの。
はっきり言って、これは用例を読む辞典である。いや、読める(読む気になる)用例だけを集めたと言っても過言ではない。日本語を作った人たちを、ちょっと見直してもいい気になる、そんな辞典。
同じコンセプトで、期間は戦後まで、範囲は新聞記事まで広げた『学研国語大辞典 第2版』があるが(実は普段使いの辞書はこれ)「広げた」せいか、用例の質はやや下がる。
外国語の辞書もいくつかあげてみる。
○Longman Children's Picture Dictionary with CDs: With Songs and Chants
![]() | Longman Children's Picture Dictionary with CDs: With Songs and Chants (2002/12/16) Pearson Longman 商品詳細を見る |
150ページに、800の単語を50のトピックに分けて紹介。当然、図解してある。これなら読める。歌やチャンツ満載のCD付属。
○Longman New Junior English Dictionary (NJED)
![]() | LONGMAN NEW JUNIOR ENG DIC (N/E) (New Junior English Dictionary) (1994/03/07) 不明 商品詳細を見る |
普通のロングマン英英辞典は2000語をつかってすべての語を定義しているが、ジュニア版では、さらに1600語に限定。これで収録の12000語を定義し、例文もその範囲内で。
さすがにこれを引いて日常の読書に耐えるとは思えないが、まさにこれこそ読破のための英英辞典ではないか(300ページくらいである)。1万語レベルなので知ってる単語の割合がかなり高いが、分かり切ってるつもりの単語でも、なかなかに面白い。
(個人的には持ち歩いてて、バラバラになった思い出が……)。
○斎藤秀三郎『熟語本位 英和中辞典』
![]() | 熟語本位 英和中辞典 新増補版 (1993/09/07) 斎藤 秀三郎、豊田 実 他 商品詳細を見る |
斎藤秀三郎は、英語の勉強に夏休みを費やしてEncyclopedia Britannicaを読破したような人なのだが、エピソードはネットでいくらでも拾えると思うので、辞書の紹介だけにとどめる。
英語どころか日本語まで学べる超絶辞書。読破したのは柳瀬尚紀ぐらいじゃないかと思うが、どこをどう読んでもおもしろい。目からうろこ。とくに例文とそれにつけた訳のすばらしさは筆紙に尽くし難い。
an act of God (天災)
Oh! my God! (南無三!)
God's will be done! (天なり命なり)
the hand of God (天災)
God damn you! (くたばってしまえ、天罰にあたれ)
No, by God! (何ぞ然らん)
Even the gods cry over it. (鬼神も為に泣く)
と訳すセンスを入り口に、devilの方も見ておくと、
a devil of a fellow (大悪人/色魔)
a devil of a mess (乱暴狼藉)
Devil take it! (えいくそっ、しまった)
The devil! (何くそ)
というのがどんどん続いていくのだが、少し飛ばして
Give the devil his due. (盗人にも三分の理あり)
To give the devil his due (公平に言えば)
devil's bed post (トランプのクラブの4)
devil's bones (骰子さいころ)
devil's books (歌留多カルタ)
whip the devil round the stump (責任逃れの言い訳を仕立てる)
いや、いくらでも写したくなるので、このあたりで。
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