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    時間の経過とともに成長したり、巨大化・複雑化していく対象について、
    大体の概要や見通しを得るために、その歴史をざっとさらってみる方法がある。

    1 「起源もの」という事典

    ◎ヨハン・ベックマン『西洋事物起原』(岩波文庫)
    主にドイツを中心に、西洋における様々な事物や出来事の発見・起源・伝播などを記した書物。言わば百科辞典のひとつひとつの項目を、ヨハン・ベックマンの博識で時間的に掘り下げたもの。

    ◎石井研堂「明治事物起原」(橋南堂,1908)
    近代デジタルライブラリーや「docuneドキュン」ドキュメント共有サイトで読める

    事物起源選集 / 紀田順一郎監修・解説 ; : 全9巻. -- クレス出版, 2004
    石井研堂「明治事物起原」を含む、日本の事物起源ものを集成

    ただし「起源」は確かめようがなく不確かな場合や「捏造」されたものである場合も多い。


    2 哲学史・思想史

    シュテーリヒ『西洋科学史』(現代教養文庫、全5巻)
    普通なら哲学、自然科学、社会科学、人文科学などと分けられてしまう「諸科学」の流れを、人類の認識の発展として一貫して捉えた名著。古代ギリシア以前の諸文明から19世紀の物理学や進化論や精神分析の登場までを扱う。ないものねだりではあるが、この本の唯一の欠点は(多くの学史がそうなのだが)あまり近い過去、この本の場合なら20世紀を扱ってないこと。つまり相対性理論も量子力学も原子爆弾も、社会調査も、新古典派経済学の「勝利」も「散開」も、ゲーム理論も、「沈黙の春」も、スタグフレーションも南北問題も・・・この本にはない。続きを書くことは、読者への宿題かもしれない。それ故に、よい意味でも悪い意味でも「古典的名著」。ヴォネガットの『スローターハウス5』の一節を引けば、「人生に必要なことは全て、フョードル・ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』に書いてある。・・・でも、もうそれだけじゃ足りないんだ! 」。


    『哲学の歴史(全12巻+別巻1)』(中央公論新社、2007)
    最新にして、野心的な哲学の歴史。

    岩崎 武雄『西洋哲学史 再訂版』(有斐閣,1975)
    手軽なサイズと値段のために,よく読まれた哲学史。関が原以東では,大学院入試準備にも用いられることも多かったとか。

    九鬼周造『西洋近世哲学史稿』
    ハイデガーを鼻であしらった天才 九鬼周造が,祇園から京大に通って講義した哲学史講義を,後にカント学者として大成する優等生 天野貞祐がノートにまとめたもの。タイトルとおり,ルネサンス期からヘーゲルの本のさわりまでしか扱わないが,平賀源内の放屁論から始めるキャッチーなつかみ,空前絶後の説明のわかりやすさなど,他の追随を許さない逸品。関が原以西では,大学院入試に必須だったとか。

    W. T. Jones(1969), A History of Western Philosophy.
    コプルストンは専門的すぎる(地の文は英語でも、引用はすべて原典から情け容赦なくラテン語、ギリシア語で引いてくる、しかも多い)、ラッセルは個性的すぎる、というのであれば、ジョーンズの5冊本がおすすめ。


    3 文学史
    世界文学史 (世界文学全集)世界文学史 (世界文学全集)
    (1993/06)
    松平 千秋

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    世界文学全集の「おまけ」だが,これだけでも結構な読み物。

    ドイツ文学案内 (岩波文庫)
    ギリシア・ローマ古典文学案内 (岩波文庫 別冊 4)
    フランス文学案内 (岩波文庫)フランス文学案内 (岩波文庫)
    (1990/03)
    渡辺 一夫鈴木 力衛

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    新版 ロシア文学案内 (岩波文庫)新版 ロシア文学案内 (岩波文庫)
    (2000/04)
    藤沼 貴安岡 治子

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    いわずとしれた岩波文庫の文学案内。小さくて安くてわかりやすい。「世界文学あらすじ事典」みたいな本が平気で売られているような,今の時代こそ,活用すべき小品。

    ミメーシス―ヨーロッパ文学における現実描写〈上〉 (ちくま学芸文庫)
    ミメーシス―ヨーロッパ文学における現実描写〈下〉 (ちくま学芸文庫)
    こちらは文学のディティールにとことんこだわった文学研究書。図書館もない土地で書かれたなんて,本当の碩学のみに可能な仕事。ホメロスからヴァージニア・ウルフまで扱うので,ヨーロッパ文学史のようにも読める。

    読書案内―世界文学 (岩波文庫)読書案内―世界文学 (岩波文庫)
    (1997/10)
    サマセット・モーム西川 正身

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    C.S.ルイス文学案内事典C.S.ルイス文学案内事典
    (1998/11)
    ウォルター フーパー

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    =日本文学史=
    日本文学史 (講談社学術文庫)日本文学史 (講談社学術文庫)
    (1993/09)
    小西 甚一

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    「愛国的文化論は客観性に乏しく、他国人が日本文学史を書いたほうがより客観性がでるだろう」と考えていたドナルド・キーンを「私の蒙を啓いてくれた恩人」とうならせた愛国者による文学史。キーンによる本書解説にその辺は詳しい。

    ドナルド・キーン『日本文学の歴史 全18巻』(中央公論社『日本文学史』,1976 →改定新版1994)
    その後、キーンは小西甚一を訪問し、二人は知り合い意識しあう間柄となる。キーンは「他国人が書いた日本文学史」を断念しなかった。それもこのような大著で念願を果たした。本書の刊行パーティのスピーチで小西はこう受けてたった。「日本人に本当の日本文学史が書けないはずはありません。キーンさんのよりも良い文藝史を、わたくしが書きます」。

    小西甚一『日本文藝史, 全5巻.』(講談社, 1985)
    その「宣戦布告」を実現して,打ち立てられた日本文学史の巨塔がこの書である。

    日本文学史序説〈上〉 (ちくま学芸文庫)日本文学史序説〈上〉 (ちくま学芸文庫)
    (1999/04)
    加藤 周一

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    日本文学史序説〈下〉 (ちくま学芸文庫)日本文学史序説〈下〉 (ちくま学芸文庫)
    (1999/04)
    加藤 周一

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    『日本文学史序説』補講『日本文学史序説』補講
    (2006/11)
    加藤 周一

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    日本文学史の名を借りた、いい意味でも悪い意味でも、進歩的知識人が描いた日本思想史。滅法おもしろいが、これでいいのかと心配になるところも多数(そこがおもしろいのだが)。人によっては不愉快になる人もいるだろう(そこがおもしろいのだが)。

    4 科学史


    ◎平田寛(1988)『科学の文化史』朝倉書店。
    『図説 科学・技術の歴史』(平田、朝倉書店、1985)の増補改訂版。東洋の科学史は扱われていない。

    世界科学史話世界科学史話
    (2008/03)
    中村 邦光

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    現在もっともコストパフォーマンスよく学術レベルの科学史の通史を学ぶことができる本。

    5 数学史
    ボイヤー『数学の歴史 (全5巻)』(朝倉書店 1985)
     通史として読めるもの。練習問題も豊富。
    カジョリ『数学史 (全3巻)』 (津軽書房 1970)
     非常に詳しくほとんど網羅されている資料集。
    カッツ 数学の歴史カッツ 数学の歴史
    (2005/07)
    ヴィクター・J. カッツ

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     これ一冊でおなかいっぱいになる、アメリカの大学での標準的教科書。

    武隈良一『数学史』(培風館 1959)
    個人が手にしやすい値段で,かつ必要十分な内容を備えたコンパクトな1冊。
    ◎安藤洋美『高校数学史演習』(現代数学社 1999)
    高校生にもわかる使える役に立つ数学史。演習の名のとおり練習問題も秀逸!
    ◎森毅、竹内啓数学の世界―それは現代人に何を意味するか (中公新書 317)
    数学の世界を縦横に歩き回る対談。自在闊達かつゆるゆるの森毅に,スルーも納得しない竹内啓のおかげで,「数学の世界」のおおざっぱなマップを得ることができる。

    ブルバキ数学史〈上〉 (ちくま学芸文庫)ブルバキ数学史〈上〉 (ちくま学芸文庫)
    (2006/03)
    ニコラ ブルバキ

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    ブルバキ数学史〈下〉 (ちくま学芸文庫)ブルバキ数学史〈下〉 (ちくま学芸文庫)
    (2006/03)
    ニコラ ブルバキ

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    いかに哲学者が数学をわかっていないかを,古代から現在にわたってこき下ろした(たとえば「ヘーゲルという人は、自説にちょうど都合がよい分だけ、同時代の科学についての知識を欠いていた人で・・・」)基礎論のところが最高。

    6 統計学史
    ◎小杉肇『統計学史』恒星社厚生閣 1984
     エジプト時代から日本の国勢調査まで、統計学の歴史がまとめられている。統計学の発展に寄与した多くの研究者が簡潔に紹介され、よみやすい。

    ◎イアン・ハッキング『偶然を飼いならす―統計学と第二次科学革命』(木鐸社、
    1999)
     科学においてなぜ統計学が必要なのか。いつもどおり読ませる筆致,考えさせる統計学史。

    リスク〈上〉―神々への反逆 (日経ビジネス人文庫)リスク〈上〉―神々への反逆 (日経ビジネス人文庫)
    (2001/08)
    ピーター バーンスタイン

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    リスク〈下〉―神々への反逆 (日経ビジネス人文庫)リスク〈下〉―神々への反逆 (日経ビジネス人文庫)
    (2001/08)
    ピーター バーンスタイン

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     ハッキングよりもぐっと実務者向きの統計お話

    7 化学史
    入門化学史 (科学史ライブラリー)入門化学史 (科学史ライブラリー)
    (2007/09)
    T.H.ルヴィア

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     少なめのページ数に良くまとめてある。

    8 生物学史
    生命科学の近現代史生命科学の近現代史
    (2002/10)
    広野 喜幸、

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    生命科学・医学史研究の最新の成果を、トピックごとにそれぞれわかりやすく紹介。とりわけ社会史的な観点からのアプローチを重視した、新しい視点による生物学史研究入門書。

    9 医学史
    ◎川喜田愛郎『近代医学の史的基盤 上 』『近代医学の史的基盤 下』(岩波書店、1977)

    日本語で書かれた西洋医学史のうちで最高のもの。その情報密度は医学史事典としても使えるほど。

    ◎アッカークネヒト『世界医療史』(内田老鶴圃、2000)

    原題A short history of medicine。「short history」というタイトル通りにコンパクトなボリュームなのだけれど、古代から現代、中国や中南米、アラビア医学を含み、そのカバリッジは「世界」というタイトルどおりに広い。当時の社会経済状況にも短いながらも的確な目配り。なぜ医学史を学ぶかを端的に説明した序文もすばらしい。


    10 心理学史
    流れを読む心理学史―世界と日本の心理学 (有斐閣アルマ)流れを読む心理学史―世界と日本の心理学 (有斐閣アルマ)
    (2003/10)
    サトウ タツヤ高砂 美樹

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    心理学の成立から現代の心理学まで、心理学の大きな流れをコンパクトにまとめあげた入門テキスト。心理学史の方法論や日本の心理学史を含めた意欲的な一冊。

    動物心理学史―ダーウィンから行動主義まで動物心理学史―ダーウィンから行動主義まで
    (1990/05)
    R. ボークス

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    本書は1870年頃から1930年頃までの約50年間の動物心理学の変遷を豊富な資料を駆使し「自然科学としての心理学」の歴史と姿を詳述している。

    11 経済学史
    ◎八木紀一郎『経済思想 (日経文庫―経済学入門シリーズ)
    きわめて簡潔。大まかな経済学の流れを確認するのによい。

    ライブ・経済学の歴史―“経済学の見取り図”をつくろうライブ・経済学の歴史―“経済学の見取り図”をつくろう
    (2003/10)
    小田中 直樹

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    分配、再生産と価値、生存、政府、効用、企業、失業といった7つのテーマごとに1章ずつ当て、ある程度深く踏み込んでいる。基礎だけでは退屈、いきなり応用だとわからないという人に有益。「見取り図」をつくるという著者の意図は、このリストの趣旨と一致する。

    ◎馬渡尚憲『経済学のメソドロジー―スミスからフリードマンまで』日本評論社

    学派がことなると方法自体が異なる経済学。この本は経済学の方法に焦点を当てて、それらがどのように発展し、 様々な経済学の系譜を生み出したきたかを説明。

    ◎三土修平『経済学史』新世社

    経済学史であっても数学的な展開がないと物足りない(数式があった方がむしろわかりやすい)という人にお薦め。代表的な経済理論を、簡潔な数理モデルを使って解説している。新古典派がモデルのベースだが、 マルクスも含めて他学派も「中立的」に扱っている。

    ◎ハンス ブレムス『経済学の歴史 1630‐1980―人物・理論・時代背景
    歴史上の経済理論を数理的にモデル化して(三土氏のものよりは、もう少しだけ複雑・現代的)分析した異色の経済学史。現在に近い理論により多くのページを割いている。三土氏のものが「中立的」だとしたら、新古典派に「偏って」いる。現在の経済学から見た経済学史、という試み。

    ◎『経済学大辞典 (3)』東洋経済新報社:
    全3巻から成る、日本最大の経済学の辞典。掲載は大項目主義。 第3巻が経済史と経済学史。

    『マーケティング学説史 アメリカ編』

    経営革命の構造 (岩波新書)

    12 社会学史
    ◎新睦人・大村英昭・宝月誠・中野正大・中野秀一郎『社会学のあゆみ 』(有斐閣新書一九七九年)。
    新睦人・中野秀一郎編『社会学のあゆみ (パート2) ――新しい社会学の展開』(有斐閣新書一九八四年)。
    二冊で一組。長く読まれてきた新書版の定番テキスト。近頃では、「意外と難しい」と、最初の一冊としてはどうかという意見も。むしろ社会学は「入門書」や「教科書」からはじめるほうがよいかも。

    新しい社会学のあゆみ (有斐閣アルマ)新しい社会学のあゆみ (有斐閣アルマ)
    (2006/12)
    新 睦人

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    こちらはずっとやさしくなった継承版。


    ランドル・コリンズが語る社会学の歴史ランドル・コリンズが語る社会学の歴史
    (1997/08)
    ランドル コリンズ

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    おもしろさ抜群の社会学史。社会学どころか、学問の始まりからはじめて、社会学の伝統を(1)紛争理論、(2)功利主義・合理的選択理論、(3)デュルケム理論、(4)ミクロ相互作用論の四つに整理し、それぞれの伝統に属する、今でも使える理論だけを紹介。コリンズはデュルケムおたくであり、その意味で実に偏向のある社会学史だが、だからこそ、めっぽう面白い。


    ◎D・マーチンデール『現代社会学の系譜〈上〉―社会学理論の性格と諸類型 (1970年)』(新装版・未来社1974年)
    現代社会学の系譜〈下〉―社会学理論の性格と諸類型 (1971年)』(新装版・未来社1974年)
    2段組600ページの大作、日本語で読める最も詳しい社会学史。きわめて整然とした見立ての下に「社会学史」の全体像がまとめられており、なおかつ社会学周辺の研究や、今となってはマイナーな社会学者も省かない。「社会学者・学説」の箇条書き的紹介に過ぎない類書と異なり,大きな流れを一気に読ませる名著。

    13 人類学史
    人類学的思考の歴史人類学的思考の歴史
    (2007/06)
    竹沢 尚一郎

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    見やすい構成、堅実かつ充実した内容(古典的でオーソドクスとも言える)、使える文献案内と、最初の人類学史にぴったりの書。

    人類学の歴史と理論 (明石ライブラリー)人類学の歴史と理論 (明石ライブラリー)
    (2005/02)
    アラン バーナード

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    上記の書と比べて、より情報量、圧縮率ともに高し。より玄人向け。






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