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2010.07.12
Pairシステムで単語を覚える/記憶術やや詳しい目その3
Pairシステム | Linkシステム | Lociシステム | Pegシステム | Phoneticシステム | |
Henry Herdson (mid-1600s) | Winckelman (1648) Francis Fauvel-Gouraud (1844) | ||||
イメージ | ○ー○ ○ー○ | ○→○→○→…… | ○ ○ ○…… ↑ ↑ ↑ ■-■-■…… | ○ ○ ○…… ↑ ↑ ↑ □→□→□…… | ○ ○ ○…… ↑ ↑ ↑ □-□-□…… ↑ ↑ ↑ 1 2 3…… |
概要 | A、B、C、D……ならば、AとB、BとC、CとD……という |
最も簡単で、よく研究された記憶術が、ふたつの対象を結びつけるPairシステムである。
その効果を実験で確かめようとするとき、記憶術をつかうグループと使わないグループの間で、記憶術の使用の有無以外は、条件を同じにしたい。一方に記憶術のやり方を教えるのに5分間使ったなら、もう一方の記憶術なしグループにも、何か別の事柄を5分間指示する。
この点で、最も簡単なやり方でできる(指示も短くて済む)Pairシステムは、実験がやりやすい。習得に何週間もかかる技法だと、こうはいかない。
そんな研究の中でも、良く知られたものが、つぎのアトキンソンの外国語の単語をPairシステムで覚える実験である。
Atkinson, R. C. (1975). "Mnemotechnics in second-language learning". American Psychologist. Vol. 30(8), 30(8), 821-828.
(以下のページから上記論文を含むリチャード・C・アトキンソンの論文集 Human Memory and the Learning Process: Selected Papers of Richard C. Atkinson. が1章ごとにPDFファイルでダウンロードできる http://www.rca.ucsd.edu/selected.asp)
やり方を記そう。
(1)学びたい外国語の単語(the target language word)と、発音の良く似た母語の言葉(phonetically similar L1 words)を探す。[acoustic link]
(2)学びたい外国語の単語(target word)の「意味」、すなわち母語でその訳語にあたる言葉(the L1 translation of the original target)を選ぶ。
(3)(1)と(2)で見つけた言葉をイメージして、一つに結びつける。[imagery link]
アトキンソンの例だと
(1)スペイン語の「Pato」という単語と似た発音の英単語を探す→「pot」。
(2)スペイン語の「Pato」の「意味」、すなわち英語での訳語を選ぶ→「duck」
(3)「pot」と「duck」を結びつけるイメージを思い描く(下のイラストがアトキンソンの論文に添えられている)。

日本語との例も示す。
以下は、田頭穂積,森敏昭「外国語の語彙習得におけるキーワード法の有効性」『広島大学教育学部紀要』第一部 Vol.30 page.191-196. (1982.03.30) http://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/00027162 で被験者への説明として用いられている例。
(1)Kopfというドイツ語と、発音の似た日本の単語を探す→「コップ」
(2)Kopfというドイツ語の日本語訳を選ぶ→「頭」
(3)「コップ」と「頭」を結びつけるイメージ(たとえば頭の上にコップを乗せている場面)を思い描く。
さて、この方法を実用化するには、各ステップにハードルがある。
(ハードル1)学びたい単語と発音の似た母語(日本語)をうまく見つけられるか?
(ハードル2)(多義語の場合)どの訳語を選ぶか?
(ハードル3)(例では具体的な事物を示す名詞がとりあげられたが)抽象語や動詞、接続詞、前置詞などを、どうイメージにするのか?
(ハードル2)については、訳語の選択に悩むくらいなら、いわゆる「コア・イメージ」を選んでおく手がある。以下の本が参考になる。
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イメージを用いる記憶術としては、(ハードル1)と(ハードル3)がどの技法を用いる場合にも、また外国語以外の対象(専門用語、人の名前、地名など)を記憶しようとする際にも、問題になる。
従って、イメージを用いる記憶術の実用化には、intangibleな記憶対象をtangibleなもので代替することが必要になる。
実は、アトキンソンの実験では、被験者はしばしば「発音の似た母語」を見つけることに困難を覚え、自分で探すよりも実験者が用意したものを使った方が成績が良かった。
つまり、イメージをつくることは繰り返し練習することで上達し速度も増していくが、intangibleな記憶対象をtangibleなもので代替することを、自分でうまくできるようになるかが、記憶術を「マスター」できるかどうかの境目になる。
記憶術が、繰り返し小さなブームが来ることがあっても、広く普及することがない一因はここにある。
一般的な解法はないが、方略としては次の3つが考えら得る。
○方略1:音の分割
抽象語、外国語の場合、語源や由来を知れば、有意味なものとして捉えることもできるが、それが不可能な場合(あるいは回避したい場合)、最悪「無意味な音の並び」として処理する必要がでてくる。
この場合は、単語なら2~3のパーツに分けることで、事物に対応づけることがやりやすくなる。語呂合わせの基本的なテクニックである。
たとえば、「マネタリズム」を「マネタ」(真似た?)+「リズム」(律動?)、temperamentを「テンパラ」(天婦羅?)+「メン」(麺?)など。
○方略2:具体化、例示化
イメージ化するためには、具象名詞であっても、特定の事物にまで「具体化」する必要がある。
たとえば「靴」一般はイメージできない。
特定の「靴」(たとえば自分が普段はいている靴)である必要があるし、その方がイメージは明瞭になる。
また自己関与的なものは記憶されやすいことから、「自分が(現に)持っている具体物」に変換することは有益である。
動詞については、その動作をしている者、その作業に必要なもの(「掃く」なら「ホウキ」)ものへと転換することもできる。
○方略3:場面化、物語化
形容詞、動詞について、登場人物(例えば自分)と場面を設定し、例えば「私が~~している」「~~な(状態にある)私」場面をイメージすることで対処可能である。
その場面/物語について、どこで/どういった状況で行われているかがイメージできればなお良い。
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