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     問題解決スキルを身につけることは、問題を解決することと同じか、それ以上に難しい。
     

     大抵の問題は、既存の知識だけでは解けない。解けるとしたら、そもそも問題に値しない。
     問題解決においては、「答え」はこれから見つけるもの、いや創り上げるものであって、あらかじめ誰かの頭やポケットの中にあるのではない。
     問題解決のプロセスを説明したものはいくつもあるが、指針のようなものにはなっても、決まった手順やアプローチとして受け取るとあまり良いようにならない。
     予定通りに事が進むなら、すでに問題は解決しているのだ。
     実際は、問題解決は発見や新しい知識の創造を含んでいる。そのため決まった手順を適用するだけでは不可能であり、ほとんど必然的に飛躍や逸脱、もちろん試行錯誤、それに僥倖すらも不可欠の構成要素となる。
     

     問題解決が真っ直ぐ進むものでないのなら、何を導きとすれば良いのだろうか?

     自分がやった問題解決自体が、あなたのメンターになるのである。

     1978年に「効率的で信頼できるソフトウェアの作成手法への明確な寄与に対して。および構文解析理論、プログラミング言語の形式意味論、自動プログラム検証、自動プログラム合成、アルゴリズム解析といった情報工学の下位分野の開拓への重要な寄与に対して」チューリング賞を授与された情報工学者ロバート・W・フロイドは、チューリング賞受賞講演の中でこう言っている。

    In my own experience of designing difficult algorithms, I find a certain technique most helpful in expanding my own capabilities. After solving a challenging problem, I solve it again from scratch, retracing only the insight of the earlier solution. I repeat this until the solution is as clear and direct as I can hope for. Then I look for a general rule for attacking similar problems, that would have led me to approach the given problem in the most efficient way the first time. Often, such a rule is of permanent value.  

    「私は、複雑なアルゴリズムをデザインしてきた経験から、自分の能力を高めることに役立つひとつのテクニックを発見した。難しい問題を解決したら、同じ問題をもう一度はじめから解いてみるのだ。前回、問題を解決するに至った道筋をできるだけ忠実に再現してみる。そうすることで、同様の問題に取り組む際に共通するルールのようなものを探す。どうすればもっと早く解決ができたのかも、それでわかる。そうして見つけたルールは、時に永遠の価値を持つ」
    (Robert W Floyd(1978). “Turing Award Lecture, : The Paradigms of Programming,” Communications of the ACM, Vol.22:8, August 1979, pp.455-460.  http://www.jdl.ac.cn/turing/pdf/p455-floyd.pdf

     
     何故(わざわざ)、解き終えた問題にもう一度取り組むのか?
     
     人は自分がやった問題解決であっても、そのすべてを理解してはいない。
     問題解決に何が有効であり何がそうでなかったかを見極めるのには距離をとる必要がある。
     投じた努力の意義と意味、自分自身の内に生まれたインスピレーションの含意を理解するには時間がかかる。
     それらの本当の果実は、まだ収穫されていないのである。
     
     また二度目の問題解決は、たいていは一度目の時よりずっと速やかに進み、労は少なく益が多い。
     二度目であればこそ、一度目では気付かなかったアイデアやアプローチを思いつける。
     事によると、一度目では到達し得なかった解決を発見できる可能性すらある。
     なんとなれば、我々はすでに問題について熟知しており、加えて解決がどんなものか、そもそも解決があるのかについても今や多くを知っている。
     試行錯誤の多くの枝ははらわれ、一度目には選択肢(オプション)とならなかった域へのチャレンジも可能になる。

     そして、立ちふさがっていた問題は、解決にたどり着いた今、長く厳しい問題解決を共に戦った戦友となっている。
     
     
     
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