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2012.02.10
続きを書く→この定義を知ることであなたの研究はスタートを切る
前回の記事
論文に何を書くべきか→これだけは埋めろ→論文作成穴埋めシート 読書猿Classic: between / beyond readers

で、論文が書けないのではなくて研究ができないことは分かったけれど、結局どうやって研究すればいいかよく分からないという声があった。
今回はできるだけシンプルに、そして実用的に研究を定義することを試みる。
研究の再帰的定義
研究とは、何か別の研究の続編(つづき)である。
定義の中に定義すべきものが入っている、いわゆる再帰的な定義であって、いつまでも底に届きそうにない。
あなたの研究Aが別の研究Bの続編(つづき)であっても、研究Bが果てして本当に研究なのかどうかは、研究Bが何か別の研究(たとえば研究C)の続編(つづき)でなければならないが、その研究Cが果たして本当に研究なのかどうかは……、という風にどこまでも続きそうだからである。
しかし最終的な基礎付けができなくても、人は前に進むことはできる。
あなたの周囲で研究だと認めてられているものを、あなたも研究であると受け入れて、自分の研究を始めればよいのである。
あなたが受け入れたその研究が、あなた自身の研究を位置づける背景(のひとつ)となる〈先行研究〉となる。
研究の再帰的定義は、研究という知的営為の成り立ちに沿うものである。
参照される研究は、また別の研究を参照し、その連なりは遥か遠くまで続く。
ひとつの研究がなしうることは極めて小さいかもしれないが、そこにつながる過去の研究を入れ子状に含み持っている。
研究する者は、自分の新たな知的貢献を先行研究のネットワークに係留することで、はるかな過去から手渡されてきたバトンを受け取り、まだ出会ったことがないかも知れない次の研究者に手渡すのである。
よい研究とは何か?
先に述べた研究の再帰的な定義は、いくつかのことを含意する。
そのひとつは、あらゆる知識はスタンドアローンでは存在できない(他の知識を必要とする)ことの一部として、とりわけ研究は他の研究と切り離されては存在できないことである。
そして、研究の再帰的な定義は、何が良い研究であるかも我々に教えてくれる。
すなわち、そこから続編(つづき)が生まれる研究が、良い研究である。
そこから(研究が生まれるような)良い続編(つづき)が生まれる研究は、とりわけ良い研究である。
先行研究をリバースエンジニアリングせよ
そして今の我々に最も重要なことであるが、この定義はこれから研究を始めようとする人に、もっとはっきり言えば、前の記事で出てきた〈論文の穴埋めシート〉をどうやって埋めればいいか途方に暮れている人に、何をすればよいかを具体的に教える。
あなたがその続編(つづき)を書きたくなる研究を見つけて、その研究(論文)から逆に〈論文の穴埋めシート〉をつくる(埋める)のである。
本来の〈穴埋めシート〉から論文へ向かうのとは逆をやる訳だ。
つまり逆向きにつかうことで、〈論文の穴埋めシート〉は、研究(論文)のリバースエンジニアリングのためのツールになる。
先行研究から自分の研究を導く
あなたが見つけた研究(論文)から〈論文の穴埋めシート〉をつくる(埋める)ことができたら、その〈論文の穴埋めシート〉から多くを〈流用〉することができる。
先行研究からリバースエンジニアリングした〈論文の穴埋めシート〉のどこをどう活用するか(どこをそのまま使い、どこを独自のものにするか)によって、例えば次のような研究スタイルを採用することになる。
追試
・「Q-D-1.この研究は,どのような問題を解決するのに役立ちますか?」→先行研究の信頼性を高める
・上の項目以外は、先行研究から得たものを活用する。
異なるドメインでの追試
・「Q-A-1.データはどのように収集しましたか?」→先行研究と同じ方法で、先行研究と類似するが異なる対象からデータを得る
・「Q-D-1.この研究は,どのような問題を解決するのに役立ちますか?」→先行研究の信頼性を高める。
・上の項目以外は、先行研究から得たものを活用する。
異領域への拡張
・「Q-A-1.データはどのように収集しましたか?」→先行研究と類似の方法で、異なる領域の対象からデータを得る
・「Q-D-1.この研究は,どのような問題を解決するのに役立ちますか?」→先行研究の成果を別領域に転じ、成果の一般化をはかる。
反証
・「Q-A-1.データはどのように収集しましたか?」→先行研究と類似の方法で、同じもしくは異なる領域の対象からデータを得る
・「Q-D-1.この研究は,どのような問題を解決するのに役立ちますか?」→先行研究の成果を検証し、その適用可能範囲を制限/確定する。先行研究からは説明でできない事象の存在を示し、これを含むより統合的な研究を促す。
複数の先行研究の統合
・「Q-B-1.この論文で検証したいことは何ですか?」→異なる先行研究の成果のどれもを説明できる新たな仮説
・「Q-D-1.この研究は,どのような問題を解決するのに役立ちますか?」→複数の先行研究を統合できる理論モデルを提示する。
(参考:穴埋め論文シートの項目)
A. このデータは正しい(信頼できる)
Q-A-1.データはどのように収集しましたか?(どのような実験?測定?出典?)
Q-A-2.データをどのように加工しましたか?(どのような統計手法?表?グラフ?)
B.この研究は正しい(根拠づけられている)
Q-B-1.この論文で検証したいことは何ですか?
Q-B-2.どんなデータが得られましたか?
Q-B-3.データから言えることは何ですか?
Q-B-4.この論文で明らかにできたことは何ですか?
Q-B-5.この論文で明らかにできなかったこと,今後の課題は何ですか?
C.この研究は意義がある(学問的コンテキストに対する位置づけ)
Q-C-1.この論文のテーマに関連する先行研究にはどんなものがありますか?
Q-C-2.先行研究によって明らかになっていることは,どんなことですか?
Q-C-3.先行研究によって解明されていないことは,どんなことですか?
Q-C-4.この論文は,未解明点についてどのような貢献ができますか?
Q-C-5.この論文は何を明らかにする研究の一部(ひとつ)ですか?
D.この研究は必要である(社会的コンテキストに対する位置づけ)
Q-D-1.この研究は,どのような問題を解決するのに役立ちますか?
(関連記事)
・100冊読む時間があったら論文を100本「解剖」した方が良い 読書猿Classic: between / beyond readers

論文に何を書くべきか→これだけは埋めろ→論文作成穴埋めシート 読書猿Classic: between / beyond readers

で、論文が書けないのではなくて研究ができないことは分かったけれど、結局どうやって研究すればいいかよく分からないという声があった。
今回はできるだけシンプルに、そして実用的に研究を定義することを試みる。
研究の再帰的定義
研究とは、何か別の研究の続編(つづき)である。
定義の中に定義すべきものが入っている、いわゆる再帰的な定義であって、いつまでも底に届きそうにない。
あなたの研究Aが別の研究Bの続編(つづき)であっても、研究Bが果てして本当に研究なのかどうかは、研究Bが何か別の研究(たとえば研究C)の続編(つづき)でなければならないが、その研究Cが果たして本当に研究なのかどうかは……、という風にどこまでも続きそうだからである。
しかし最終的な基礎付けができなくても、人は前に進むことはできる。
あなたの周囲で研究だと認めてられているものを、あなたも研究であると受け入れて、自分の研究を始めればよいのである。
あなたが受け入れたその研究が、あなた自身の研究を位置づける背景(のひとつ)となる〈先行研究〉となる。
研究の再帰的定義は、研究という知的営為の成り立ちに沿うものである。
参照される研究は、また別の研究を参照し、その連なりは遥か遠くまで続く。
ひとつの研究がなしうることは極めて小さいかもしれないが、そこにつながる過去の研究を入れ子状に含み持っている。
研究する者は、自分の新たな知的貢献を先行研究のネットワークに係留することで、はるかな過去から手渡されてきたバトンを受け取り、まだ出会ったことがないかも知れない次の研究者に手渡すのである。
よい研究とは何か?
先に述べた研究の再帰的な定義は、いくつかのことを含意する。
そのひとつは、あらゆる知識はスタンドアローンでは存在できない(他の知識を必要とする)ことの一部として、とりわけ研究は他の研究と切り離されては存在できないことである。
そして、研究の再帰的な定義は、何が良い研究であるかも我々に教えてくれる。
すなわち、そこから続編(つづき)が生まれる研究が、良い研究である。
そこから(研究が生まれるような)良い続編(つづき)が生まれる研究は、とりわけ良い研究である。
先行研究をリバースエンジニアリングせよ
そして今の我々に最も重要なことであるが、この定義はこれから研究を始めようとする人に、もっとはっきり言えば、前の記事で出てきた〈論文の穴埋めシート〉をどうやって埋めればいいか途方に暮れている人に、何をすればよいかを具体的に教える。
あなたがその続編(つづき)を書きたくなる研究を見つけて、その研究(論文)から逆に〈論文の穴埋めシート〉をつくる(埋める)のである。
本来の〈穴埋めシート〉から論文へ向かうのとは逆をやる訳だ。
つまり逆向きにつかうことで、〈論文の穴埋めシート〉は、研究(論文)のリバースエンジニアリングのためのツールになる。
先行研究から自分の研究を導く
あなたが見つけた研究(論文)から〈論文の穴埋めシート〉をつくる(埋める)ことができたら、その〈論文の穴埋めシート〉から多くを〈流用〉することができる。
先行研究からリバースエンジニアリングした〈論文の穴埋めシート〉のどこをどう活用するか(どこをそのまま使い、どこを独自のものにするか)によって、例えば次のような研究スタイルを採用することになる。
追試
・「Q-D-1.この研究は,どのような問題を解決するのに役立ちますか?」→先行研究の信頼性を高める
・上の項目以外は、先行研究から得たものを活用する。
異なるドメインでの追試
・「Q-A-1.データはどのように収集しましたか?」→先行研究と同じ方法で、先行研究と類似するが異なる対象からデータを得る
・「Q-D-1.この研究は,どのような問題を解決するのに役立ちますか?」→先行研究の信頼性を高める。
・上の項目以外は、先行研究から得たものを活用する。
異領域への拡張
・「Q-A-1.データはどのように収集しましたか?」→先行研究と類似の方法で、異なる領域の対象からデータを得る
・「Q-D-1.この研究は,どのような問題を解決するのに役立ちますか?」→先行研究の成果を別領域に転じ、成果の一般化をはかる。
反証
・「Q-A-1.データはどのように収集しましたか?」→先行研究と類似の方法で、同じもしくは異なる領域の対象からデータを得る
・「Q-D-1.この研究は,どのような問題を解決するのに役立ちますか?」→先行研究の成果を検証し、その適用可能範囲を制限/確定する。先行研究からは説明でできない事象の存在を示し、これを含むより統合的な研究を促す。
複数の先行研究の統合
・「Q-B-1.この論文で検証したいことは何ですか?」→異なる先行研究の成果のどれもを説明できる新たな仮説
・「Q-D-1.この研究は,どのような問題を解決するのに役立ちますか?」→複数の先行研究を統合できる理論モデルを提示する。
(参考:穴埋め論文シートの項目)
A. このデータは正しい(信頼できる)
Q-A-1.データはどのように収集しましたか?(どのような実験?測定?出典?)
Q-A-2.データをどのように加工しましたか?(どのような統計手法?表?グラフ?)
B.この研究は正しい(根拠づけられている)
Q-B-1.この論文で検証したいことは何ですか?
Q-B-2.どんなデータが得られましたか?
Q-B-3.データから言えることは何ですか?
Q-B-4.この論文で明らかにできたことは何ですか?
Q-B-5.この論文で明らかにできなかったこと,今後の課題は何ですか?
C.この研究は意義がある(学問的コンテキストに対する位置づけ)
Q-C-1.この論文のテーマに関連する先行研究にはどんなものがありますか?
Q-C-2.先行研究によって明らかになっていることは,どんなことですか?
Q-C-3.先行研究によって解明されていないことは,どんなことですか?
Q-C-4.この論文は,未解明点についてどのような貢献ができますか?
Q-C-5.この論文は何を明らかにする研究の一部(ひとつ)ですか?
D.この研究は必要である(社会的コンテキストに対する位置づけ)
Q-D-1.この研究は,どのような問題を解決するのに役立ちますか?
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・100冊読む時間があったら論文を100本「解剖」した方が良い 読書猿Classic: between / beyond readers

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