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忙しい人のための要約
以下の5つのパートで文章を構成する。
A.〈はじめ〉 ……内容の紹介・要約
B1.〈なか1〉 ……具体例その1
B2.〈なか2〉 ……具体例その2
C.〈まとめ〉 ……具体例の共通点
D.〈むすび〉 ……上記の共通点の一般化〈としての主張〉
書く順序は次の通り。
1.具体例をあつめる→〈なか1〉〈なか2〉
2.具体例の共通点を書く→〈まとめ〉
3.まとめから言えること(主張〉を書く→〈むすび〉
4.内容を簡単に紹介する入口を書く→〈はじめ〉
(ほかに参考になりそうな記事)
・文章の型稽古→穴埋めすれば誰でも書ける魔法の文章テンプレート 読書猿Classic: between / beyond readers

・物事を論じられるようになるスモール・ステップス→米国の小学生が使う思考ツール 読書猿Classic: between / beyond readers

書くことが苦手な人は多いです。
話すことは自然に身についても、書くことは自然にはできるようになりません。
「どんなふうに書いてはいけないか」「悪文とはどういうものか」について説明する本や文章はたくさんあります。
文章を書く上で気をつけるべき「やってはいけないリスト」も山ほどあります。
こうしたものは、一応は書くことができる人が自分の書いたものを手直ししたり、もっとうまく書いたりする助けになるかもしれませんが、そもそも書けない人、書くことをまだ始めていない人には役に立ちません。
書くことが苦手な人が知りたいのは、「何をしてはいけないか」ではなく、「何をしたらよいか」の方です。
それも「よい文章をたくさん読め」みたいな、気の長い努力目標みたいなものじゃなくて、今できる具体的な作業手順のようなものが知りたいのです。
文を書くにはいろんなことに気をつけなければいけません。
しかし、いっぺんにいろんなことをやろうとすると混乱するし、力も分散してうまくいきません。
目標(ゴール)だけを与えられても、何から手をつければいいか分からないと、頭の温度は上がっても空回りするばかりで進めなくなります。
逆に手順があると、まずこれだけをすればいいのだ、それ以外は後でやればいいのだと分かって、一度にひとつずつ取り組むことができます。
以下の方法は、書くことをまだ始めていない人、書き始めたばかりの人(小学生が想定されています)のために作られたものです。
たとえば以下の本に紹介されています。
あなたは、書くひとですか? - 殺シ屋鬼司令

で紹介されていた、〈「作文のつまずき」の現れ方〉という図をつくった市毛勝雄さんという人の作文指導の方法です(この図も、今回紹介する作文指導の模擬授業に、資料として使われたものです)。

(クリックで拡大)
(『国語科授業の常識を疑う〈3〉作文 (市毛勝雄模擬授業の記録と分析』p.60)
この方法は、もともと小学生が書けるようになるためのものですが(そのために簡潔ですが、丁寧な数多くの指示とフィードバックで構成されています)、もう小学生ではない人、普段書かない人、書くのが苦手な人、書くために何をすればいいか分からない人に役立つと思います。
短くまとめると次のようになります。
つまり、文章の型(フォーマット)だけでなく、文章の作成作業にも型(フォーマット)を持ち込みます。
これによって書くために「今何をすればいいか」「次に何をすればいいか」がはっきりします。
文章の型と作業の型はもちろん、以下に示すように互いに結びついています。
文章の構成
以下の5つのパートによって構成された文章を書くことを目指します
A.〈はじめ〉 ……内容の紹介・要約
B1.〈なか1〉 ……具体例その1
B2.〈なか2〉 ……具体例その2
C.〈まとめ〉 ……具体例の共通点
D.〈むすび〉 ……上記の共通点の一般化〈としての主張〉
やってみるとかなり手早く、筋の通った文章が書けることが分かると思います。
この方法を使うと長い文章はもちろん書けますが、書きなれない人はまず20字×20行=400字詰め原稿用紙1枚を書いてみましょう(小学生も取り組む課題です)。
各パートが終わるごとに改行して、〈はじめ〉〈なか1〉〈なか2〉〈まとめ〉〈むすび〉の、5つの段落で書くことになります。
それぞれのパートの分量の目安は、20字×20行=400字詰め原稿用紙1枚だと、
A.〈はじめ〉 ……2行
B1.〈なか1〉 ……7行
B2.〈なか2〉 ……7行
C.〈まとめ〉 ……2行
D.〈むすび〉 ……2行
です。これで20行になります。
学校でやるときは、下図のように、各自で原稿用紙に赤線を引いてもらい、自分で文章量を先に確認してもらいます。

(市毛勝雄『国語力を育てる言語技術教育入門』明治書店 p.87)
文章作成の手順
書く手順は次の4ステップです。
5つのパートについて、1つずつ順に考え書いていきます。
ただし、最初に取り組むのは〈なか1〉〈なか2〉からです。
次のような順序で、考え書いていきます。
1.具体例をあつめる→〈なか1〉〈なか2〉
2.具体例の共通点を書く→〈まとめ〉
3.まとめから言えること(主張〉を書く→〈むすび〉
4.内容を簡単に紹介する入口を書く→〈はじめ〉
1 具体的な出来事、事例をあつめる
→〈なか1〉〈なか2〉
まず具体的なところから始めます。
配置的には文章の中ほどに配置される〈なか1〉〈なか2〉から書き始めます。
内容的には、生活作文なら起こった出来事、読書感想文なら本の中でおもしろかったところ、論説文なら具体事例などを書くことになります。
具体的なところからはじめるのは、抽象的なことは小学生には扱いづらいからです。
素材を集める範囲を指示するのは、「自由題」だとどこから手をつけてよいか分からず、取り掛かることが難しいからです。
抽象的なことを書くには〈考える〉ことが必要ですが、具体的なことを書くには〈思い出す〉だけでできます。
ここでの指示は、「何を書こうか」「どんな風に書こうか」を考える作業の中から、〈思い出す〉だけでできることを取り出して先にやってしまおう、というものです。
つまり〈考える〉ことは、この後の〈まとめ〉や〈むすび〉を書くステップに後回しされるのです。
文章を書く際に「事実」と「意見」を分けるように言われることがあります。この言い方にしたがえば、事実は〈なか1〉〈なか2〉で、意見は、この後の〈まとめ〉や〈むすび〉で書くということになります。
〈考える〉ことの一部として、後回しされるもののひとつに〈感想〉があります。
つまり「楽しかった」「おもしろかった」は、具体的なことを書く〈なか1〉〈なか2〉ではなく、次の〈まとめ〉で書きます。
このステップでのポイントは、複数の具体的な出来事・事例を集めることです。
バラバラすぎるものだと、次のステップで〈まとめ〉を行うのが難しくなります。
フォーマットでは、最低限として2つの出来事・事例を書くことになっています。
もっとたくさんの出来事・事例を集めることができたなら、その中から良さそうなものを2つ以上を選ぶとよいでしょう。
2 具体例の共通点を書く
→〈まとめ〉
具体的なものが複数集まったので、それらをまとめるものを書きます。
〈まとめ〉として書くのは、〈なか1,2〉で列挙された具体的なものの共通点です。
具体的な出来事や素材から何を共通点として抜き出すか、頭を働かせるステップです。
ここで単なる事実以上のものを書く段階に進みます。
出来事をいくつか並べて、最後の「たのしかったです」「おもしろかったです」と書く、よくある初級段階の作文では、この「たのしかった」「おもしろかった」が〈まとめ〉であり、並べられた出来事から抽出された共通点です。
感情の共通点に理由がつけば、一歩深く踏み込んだ共通性が取り出されたことになります。たとえば「遠足」という領域で素材を探し、複数の巡った場所の様子が具体例として集まった場合、「どこもきれいでした。(だから)たのしかったです」という〈まとめ〉ができれば、「きれいな風景」という共通性が取り出されています。
低学年では情緒的・感想的なまとめが多いですが、年齢が上がると概念的な共通性を取り出す〈まとめ〉が増えてきます。
一口に概念的共通性といっても、も既存の分類をそのままつかったものから、独自の見立てによるオリジナル性の高いものまで様々です。
具体的素材を束ねる〈まとめ〉が書ければ、文章は8割方書けたも同然です。
共通点を取り出すのが難しく、うまく〈まとめ〉を書くことができない場合は、〈なか1,2〉を書くステップに戻って、具体的な素材を選びなおした方がよいかもしれません。
3 まとめから言えること(主張)を書く
→〈むすび〉
〈まとめ〉を書くことは具体的素材の共通性を抽出する作業でした。
〈むすび〉は、そうして取り出された共通性を、異なる(より広い)場面や文脈に適用する一般化の作業です。
多くの実用文では、この〈むすび〉のところで、事実(〈なか1〉〈なか2〉)とその分析・発見(〈まとめ〉)を踏まえて、「では、どうすべきか?」の答え・主張が書かれます。
しかしまず、小学生の作文に戻って、〈むすび〉がどのようなものかを見てみましょう。
「ぼくのお父さん」という領域で素材を探し、お父さんの(ある日の、そして別の日の)行動が具体例として集まり、「ぼくのお父さんは、はたらきものです」という共通点=〈まとめ〉が取り出されたとしましょう。
この後に、「ぼくもおとうさんのようになりたいです」と書くのが、〈むすび〉の例になります。〈お父さんは働き者〉という取り出されたものが、書き手のあり方という別の文脈に適用されています。
この部分は、従来の作文教育では「未来の自分を書きなさい」などと指導されていたところです。
異なる(より広い)場面や文脈に適用する一般化と捉えなおすと、大人が書く実用文までが射程の内に入ります。
〈むすび〉を書くことは、〈まとめ〉を書くよりも、さらに一段分むずかしい作業です。
〈まとめ〉を書くことは、〈なか1,2〉で書いた具体的素材の中に答を探すことでした。
〈むすび〉を書くことは、〈まとめ〉で分析・発見したものを、その外に持ち出すことです。
〈むすび〉のあるなしが、たとえば報告書(レポート)と論文とを分かつものだと言えるかもしれません。
〈むすび〉なしでも、〈まとめ〉まで書けていれば、報告書(レポート)としてなら立派に成り立ちます。
しかし、ただ伝えるだけでなく、訴えるためには〈むすび〉が必要となります。
4 内容を簡単に紹介する入口を書く
→〈はじめ〉
文章の残りの部分が書けた後に、〈はじめ〉に取り掛かります。
〈はじめ〉が位置するのは文章の入口です。担当するのは、読み手を文章の中に案内することです。
全体が短い文章なら、どのようなことを書いた文章なのかを短くまとめれば(要約を書けば)、それで案内となります。
長い文章の場合は、要約のほかに、読み手に対して何故この文章を読むべきかを説得する必要があるかもしれません。
たとえば論文の場合なら、従来の研究に対してどこが新しいのかを書く必要があるでしょう。
追記
今回の書き方は、はじめて作文を書く小学生から、論文を含む様々な実用文を書かなければならない大人まで、役に立つ方法です。
お気づきの通り、〈はじめ〉〈なか1〉〈なか2〉〈まとめ〉〈むすび〉の5つで文章を構成するこの方法は、学術論文では標準的なIMRAD(、Introduction, Methods, Results And Discussion)型構成の下位互換になっています。
念のため、対応関係を書いておきます。
A.〈はじめ〉 ……Introduction(導入)
B.〈なか1、2〉……Methods(研究方法)&Result(実験結果)
C.〈まとめ〉 ……Discussion(考察)
D.〈むすび〉 ……Conclusion(まとめ)
〈なか1、2〉から書き始める今回のアプローチを論文執筆に当てはめると、
・方法(Methods)の記録から必要部分を抜書きしたり要約したり、
・結果(Results;実験データなど)の一部から視覚表示資料(Figure,Table,写真)をつくって並べたり、
することから、論文を書く(その中でも構想を考える)作業を始めることになります。
(他に参考になりそうな記事)
・論文に何を書くべきか→これだけは埋めろ→論文作成穴埋めシート 読書猿Classic: between / beyond readers

追記2
文字を書くのもおぼつかない低学年には、フォーマットに沿った口頭作文で練習させます。
〈はじめ〉〈なか1〉〈なか2〉〈まとめ〉のフォーマットで、各パートは短い1文で構成します。
たとえば、
きのう、えんにちに いきました。〈はじめ〉
おめんを かって もらいました。〈なか1〉
わたあめを かって たべました。〈なか2〉
とても たのしかった です。〈まとめ〉
こうした練習を1年生からやっておくと、2年生になって文字を書く力がついてくると、楽に作文ができるようになります。
大人も文章を書く素振り練習のように活用できると思います。
(他に参考にした書籍)
以下の5つのパートで文章を構成する。
A.〈はじめ〉 ……内容の紹介・要約
B1.〈なか1〉 ……具体例その1
B2.〈なか2〉 ……具体例その2
C.〈まとめ〉 ……具体例の共通点
D.〈むすび〉 ……上記の共通点の一般化〈としての主張〉
書く順序は次の通り。
1.具体例をあつめる→〈なか1〉〈なか2〉
2.具体例の共通点を書く→〈まとめ〉
3.まとめから言えること(主張〉を書く→〈むすび〉
4.内容を簡単に紹介する入口を書く→〈はじめ〉
(ほかに参考になりそうな記事)
・文章の型稽古→穴埋めすれば誰でも書ける魔法の文章テンプレート 読書猿Classic: between / beyond readers

・物事を論じられるようになるスモール・ステップス→米国の小学生が使う思考ツール 読書猿Classic: between / beyond readers

書くことが苦手な人は多いです。
話すことは自然に身についても、書くことは自然にはできるようになりません。
「どんなふうに書いてはいけないか」「悪文とはどういうものか」について説明する本や文章はたくさんあります。
文章を書く上で気をつけるべき「やってはいけないリスト」も山ほどあります。
こうしたものは、一応は書くことができる人が自分の書いたものを手直ししたり、もっとうまく書いたりする助けになるかもしれませんが、そもそも書けない人、書くことをまだ始めていない人には役に立ちません。
書くことが苦手な人が知りたいのは、「何をしてはいけないか」ではなく、「何をしたらよいか」の方です。
それも「よい文章をたくさん読め」みたいな、気の長い努力目標みたいなものじゃなくて、今できる具体的な作業手順のようなものが知りたいのです。
文を書くにはいろんなことに気をつけなければいけません。
しかし、いっぺんにいろんなことをやろうとすると混乱するし、力も分散してうまくいきません。
目標(ゴール)だけを与えられても、何から手をつければいいか分からないと、頭の温度は上がっても空回りするばかりで進めなくなります。
逆に手順があると、まずこれだけをすればいいのだ、それ以外は後でやればいいのだと分かって、一度にひとつずつ取り組むことができます。
以下の方法は、書くことをまだ始めていない人、書き始めたばかりの人(小学生が想定されています)のために作られたものです。
たとえば以下の本に紹介されています。
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あなたは、書くひとですか? - 殺シ屋鬼司令

で紹介されていた、〈「作文のつまずき」の現れ方〉という図をつくった市毛勝雄さんという人の作文指導の方法です(この図も、今回紹介する作文指導の模擬授業に、資料として使われたものです)。

(クリックで拡大)
(『国語科授業の常識を疑う〈3〉作文 (市毛勝雄模擬授業の記録と分析』p.60)
この方法は、もともと小学生が書けるようになるためのものですが(そのために簡潔ですが、丁寧な数多くの指示とフィードバックで構成されています)、もう小学生ではない人、普段書かない人、書くのが苦手な人、書くために何をすればいいか分からない人に役立つと思います。
短くまとめると次のようになります。
○ 〈はじめ〉〈なか1〉〈なか2〉〈まとめ〉〈むすび〉 の5つで文章を構成する ○ 〈なか1〉〈なか2〉→〈まとめ〉→〈むすび〉→〈はじめ〉 の順に取り組む |
つまり、文章の型(フォーマット)だけでなく、文章の作成作業にも型(フォーマット)を持ち込みます。
これによって書くために「今何をすればいいか」「次に何をすればいいか」がはっきりします。
文章の型と作業の型はもちろん、以下に示すように互いに結びついています。
文章の構成
以下の5つのパートによって構成された文章を書くことを目指します
A.〈はじめ〉 ……内容の紹介・要約
B1.〈なか1〉 ……具体例その1
B2.〈なか2〉 ……具体例その2
C.〈まとめ〉 ……具体例の共通点
D.〈むすび〉 ……上記の共通点の一般化〈としての主張〉
やってみるとかなり手早く、筋の通った文章が書けることが分かると思います。
この方法を使うと長い文章はもちろん書けますが、書きなれない人はまず20字×20行=400字詰め原稿用紙1枚を書いてみましょう(小学生も取り組む課題です)。
各パートが終わるごとに改行して、〈はじめ〉〈なか1〉〈なか2〉〈まとめ〉〈むすび〉の、5つの段落で書くことになります。
それぞれのパートの分量の目安は、20字×20行=400字詰め原稿用紙1枚だと、
A.〈はじめ〉 ……2行
B1.〈なか1〉 ……7行
B2.〈なか2〉 ……7行
C.〈まとめ〉 ……2行
D.〈むすび〉 ……2行
です。これで20行になります。
学校でやるときは、下図のように、各自で原稿用紙に赤線を引いてもらい、自分で文章量を先に確認してもらいます。

(市毛勝雄『国語力を育てる言語技術教育入門』明治書店 p.87)
文章作成の手順
書く手順は次の4ステップです。
5つのパートについて、1つずつ順に考え書いていきます。
ただし、最初に取り組むのは〈なか1〉〈なか2〉からです。
次のような順序で、考え書いていきます。
1.具体例をあつめる→〈なか1〉〈なか2〉
2.具体例の共通点を書く→〈まとめ〉
3.まとめから言えること(主張〉を書く→〈むすび〉
4.内容を簡単に紹介する入口を書く→〈はじめ〉
1 具体的な出来事、事例をあつめる
→〈なか1〉〈なか2〉
まず具体的なところから始めます。
配置的には文章の中ほどに配置される〈なか1〉〈なか2〉から書き始めます。
内容的には、生活作文なら起こった出来事、読書感想文なら本の中でおもしろかったところ、論説文なら具体事例などを書くことになります。
小学生に教室で書いてもらう場合には、素材を集める範囲を指示します。 たとえば「遠足について書きましょう。遠足に関係あることなら何でもいいです」というふうにです。 加えて「遠足でどんなことがありましたか? 思い出せるかぎり、いくつでも書き出してみましょう」という指示が出ます。 |
具体的なところからはじめるのは、抽象的なことは小学生には扱いづらいからです。
素材を集める範囲を指示するのは、「自由題」だとどこから手をつけてよいか分からず、取り掛かることが難しいからです。
抽象的なことを書くには〈考える〉ことが必要ですが、具体的なことを書くには〈思い出す〉だけでできます。
ここでの指示は、「何を書こうか」「どんな風に書こうか」を考える作業の中から、〈思い出す〉だけでできることを取り出して先にやってしまおう、というものです。
つまり〈考える〉ことは、この後の〈まとめ〉や〈むすび〉を書くステップに後回しされるのです。
文章を書く際に「事実」と「意見」を分けるように言われることがあります。この言い方にしたがえば、事実は〈なか1〉〈なか2〉で、意見は、この後の〈まとめ〉や〈むすび〉で書くということになります。
〈考える〉ことの一部として、後回しされるもののひとつに〈感想〉があります。
つまり「楽しかった」「おもしろかった」は、具体的なことを書く〈なか1〉〈なか2〉ではなく、次の〈まとめ〉で書きます。
このステップでのポイントは、複数の具体的な出来事・事例を集めることです。
バラバラすぎるものだと、次のステップで〈まとめ〉を行うのが難しくなります。
フォーマットでは、最低限として2つの出来事・事例を書くことになっています。
もっとたくさんの出来事・事例を集めることができたなら、その中から良さそうなものを2つ以上を選ぶとよいでしょう。
小学生に教室で書いてもらう場合には、複数の出来事・事例を引き出すために助け舟として、次のようなフォーマットを示します。 たとえば「お父さんについて書きましょう」と、素材を探す範囲を指定した場合には、「『きのう、お父さんは~~』『きよう、お父さんは~~』の二つを書きましょう」などと指示されます。 |
2 具体例の共通点を書く
→〈まとめ〉
具体的なものが複数集まったので、それらをまとめるものを書きます。
〈まとめ〉として書くのは、〈なか1,2〉で列挙された具体的なものの共通点です。
具体的な出来事や素材から何を共通点として抜き出すか、頭を働かせるステップです。
ここで単なる事実以上のものを書く段階に進みます。
出来事をいくつか並べて、最後の「たのしかったです」「おもしろかったです」と書く、よくある初級段階の作文では、この「たのしかった」「おもしろかった」が〈まとめ〉であり、並べられた出来事から抽出された共通点です。
感情の共通点に理由がつけば、一歩深く踏み込んだ共通性が取り出されたことになります。たとえば「遠足」という領域で素材を探し、複数の巡った場所の様子が具体例として集まった場合、「どこもきれいでした。(だから)たのしかったです」という〈まとめ〉ができれば、「きれいな風景」という共通性が取り出されています。
低学年では情緒的・感想的なまとめが多いですが、年齢が上がると概念的な共通性を取り出す〈まとめ〉が増えてきます。
一口に概念的共通性といっても、も既存の分類をそのままつかったものから、独自の見立てによるオリジナル性の高いものまで様々です。
具体的素材を束ねる〈まとめ〉が書ければ、文章は8割方書けたも同然です。
共通点を取り出すのが難しく、うまく〈まとめ〉を書くことができない場合は、〈なか1,2〉を書くステップに戻って、具体的な素材を選びなおした方がよいかもしれません。
3 まとめから言えること(主張)を書く
→〈むすび〉
〈まとめ〉を書くことは具体的素材の共通性を抽出する作業でした。
〈むすび〉は、そうして取り出された共通性を、異なる(より広い)場面や文脈に適用する一般化の作業です。
多くの実用文では、この〈むすび〉のところで、事実(〈なか1〉〈なか2〉)とその分析・発見(〈まとめ〉)を踏まえて、「では、どうすべきか?」の答え・主張が書かれます。
しかしまず、小学生の作文に戻って、〈むすび〉がどのようなものかを見てみましょう。
「ぼくのお父さん」という領域で素材を探し、お父さんの(ある日の、そして別の日の)行動が具体例として集まり、「ぼくのお父さんは、はたらきものです」という共通点=〈まとめ〉が取り出されたとしましょう。
この後に、「ぼくもおとうさんのようになりたいです」と書くのが、〈むすび〉の例になります。〈お父さんは働き者〉という取り出されたものが、書き手のあり方という別の文脈に適用されています。
この部分は、従来の作文教育では「未来の自分を書きなさい」などと指導されていたところです。
異なる(より広い)場面や文脈に適用する一般化と捉えなおすと、大人が書く実用文までが射程の内に入ります。
〈むすび〉を書くことは、〈まとめ〉を書くよりも、さらに一段分むずかしい作業です。
〈まとめ〉を書くことは、〈なか1,2〉で書いた具体的素材の中に答を探すことでした。
〈むすび〉を書くことは、〈まとめ〉で分析・発見したものを、その外に持ち出すことです。
〈むすび〉のあるなしが、たとえば報告書(レポート)と論文とを分かつものだと言えるかもしれません。
〈むすび〉なしでも、〈まとめ〉まで書けていれば、報告書(レポート)としてなら立派に成り立ちます。
しかし、ただ伝えるだけでなく、訴えるためには〈むすび〉が必要となります。
4 内容を簡単に紹介する入口を書く
→〈はじめ〉
文章の残りの部分が書けた後に、〈はじめ〉に取り掛かります。
〈はじめ〉が位置するのは文章の入口です。担当するのは、読み手を文章の中に案内することです。
全体が短い文章なら、どのようなことを書いた文章なのかを短くまとめれば(要約を書けば)、それで案内となります。
長い文章の場合は、要約のほかに、読み手に対して何故この文章を読むべきかを説得する必要があるかもしれません。
たとえば論文の場合なら、従来の研究に対してどこが新しいのかを書く必要があるでしょう。
追記
今回の書き方は、はじめて作文を書く小学生から、論文を含む様々な実用文を書かなければならない大人まで、役に立つ方法です。
お気づきの通り、〈はじめ〉〈なか1〉〈なか2〉〈まとめ〉〈むすび〉の5つで文章を構成するこの方法は、学術論文では標準的なIMRAD(、Introduction, Methods, Results And Discussion)型構成の下位互換になっています。
念のため、対応関係を書いておきます。
A.〈はじめ〉 ……Introduction(導入)
B.〈なか1、2〉……Methods(研究方法)&Result(実験結果)
C.〈まとめ〉 ……Discussion(考察)
D.〈むすび〉 ……Conclusion(まとめ)
〈なか1、2〉から書き始める今回のアプローチを論文執筆に当てはめると、
・方法(Methods)の記録から必要部分を抜書きしたり要約したり、
・結果(Results;実験データなど)の一部から視覚表示資料(Figure,Table,写真)をつくって並べたり、
することから、論文を書く(その中でも構想を考える)作業を始めることになります。
(他に参考になりそうな記事)
・論文に何を書くべきか→これだけは埋めろ→論文作成穴埋めシート 読書猿Classic: between / beyond readers

追記2
文字を書くのもおぼつかない低学年には、フォーマットに沿った口頭作文で練習させます。
〈はじめ〉〈なか1〉〈なか2〉〈まとめ〉のフォーマットで、各パートは短い1文で構成します。
たとえば、
きのう、えんにちに いきました。〈はじめ〉
おめんを かって もらいました。〈なか1〉
わたあめを かって たべました。〈なか2〉
とても たのしかった です。〈まとめ〉
こうした練習を1年生からやっておくと、2年生になって文字を書く力がついてくると、楽に作文ができるようになります。
大人も文章を書く素振り練習のように活用できると思います。
(他に参考にした書籍)
![]() | 国語力を育てる言語技術教育入門 (21世紀型授業づくり) (2002/02) 市毛 勝雄 商品詳細を見る |
![]() | 間違いだらけの文章作法―若い教師のための論文入門 (教育新書) (1986/10) 市毛 勝雄 商品詳細を見る |
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