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時間がない人のための要約
◯どうするか?→下記のようなレビュー・マトリクスにまとめる

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(出典:『看護研究のための文献レビュー: マトリックス方式』p.95)
◯何を与えてくれるか?(ご利益)
集められた論文に散在する情報を秩序だてて整理し比較対照を容易にする
集められた論文の共通点やトレンド、手薄な点などを浮かび上がらせる
◯どうやってつくるのか?(手順)
(1)文献を集めて年代順に並べる
(2)レビュー・マトリクスへ抽出するトピックを決める
(3)文献から情報を摘出してレビュー・マトリクスを埋めていく
文献を集めることの重要性は別に取り上げたことがある。
結論から言えば、参考文献リストは長いほどいい/文献収集が論文執筆にもたらす4つのご利益 読書猿Classic: between / beyond readers

しかし数多くの文献を手元に集めたとして、それが机周りの空間とあなたの思考に取扱い能力を超えた複雑さをもたらし、混乱を引き起こすだけとしたら本末転倒である。
注意という認知資源は有限である。ヒトが一度に意識を配ることのできる対象の数は思う以上に少ない。
多くの文献を取り回すためには、それらを組織だって取り扱うための方法があった方が良い。とりわけ超人でも碩学でもない我々には。
ある分野の知的貢献は複数の研究、複数の文献によって構成されている。
その分野を切り開く画期となった研究・文献が存在しても、その後重大な補完や修正を付け加えた複数の研究・文献が後に続くことが多い。
そして、ある研究・文献は、先行者を批判するにせよ、それ以前の複数の研究・文献を前提としている。
ひとつの研究・文献の価値や意義は、複数の研究・文献をコンテクストとして背景におかないと見えてこない。
相手にしなければならないのは、常に複数の、それもかなり多くの研究・文献なのだ。
今回は以下の本から、多数の文献を整理し比較対照して研究のフロント(前線)を浮かび上がらせる、簡便な方法を紹介する。
タイトルに看護研究(原題ではhealth sciences)という冠しているのは偶然ではない。
この分野の研究に携わる者の多くは、臨床家(practitioner)でもある。彼らは臨床研究を研究論文等で発信する、この分野の知識の供給者であると同時に、蓄積・共有された知識を活用して自身の臨床にあたる知識の需要者でもある。自身の研究の焦点を見い出すためだけでなく、自身の臨床の水準を高め維持するためにも、人類が今この時点で達している知識の最前線を(できるだけ少ない手間で)知る必要があるのだ。
今回紹介する方法は、異なる分野でも活用可能であり、この書の中でも科学分野以外での活用が紹介されている。
レビュー・マトリクスとは何か
レビュー・マトリクスは、複数の文献を比較対照するための自然かつ組織立った方法であり、複数の論文に含まれる情報を秩序づける表形式の構造である。
実例を見てもらったほうが理解しやすいだろう。
Literature Review Matrix

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(『看護研究のための文献レビュー: マトリックス方式』p.95 を元に作成)
1行にひとつの文献が割り当てられ、文献から抜き出された情報がそれぞれの項目のマス目に配置される。
すべての文献から共通して同じトピックを拾い出していくことで、複数の文献に含まれる情報を横断的に参照できる。
レビュー・マトリクスがもたらすもの
あるテーマ・分野の文献を集め、レビュー・マトリクスをつくると、それらの文献の多く(時にすべて)に共通するものが浮かび上がってくる。
レビュー・マトリクスのトピック(項目)列を縦にみると、たとえば次のようなことがわかる。
・このテーマは、誰が研究しているか? 誰が協力しているか? →著者、研究協力者の列
・このテーマは、どこで(どの機関で)研究されているか? →著者の所属機関の列
・このテーマの研究で必ず(または頻繁に)引用される文献は? →引用文献の列
・このテーマの研究者が、よく使うデータセットは? →データセットの列
・このテーマの研究によく資金を出しているのは? →資金提供者の列
レビュー・マトリクスでは文献を年代順に並べてある。
これにより、あるテーマ・分野の研究について、時系列に沿った移り変わりが浮かび上がらせる。
・このテーマの研究で初期に用いられてきた研究デザインは?(ケーススタディ?)
・このテーマの研究にRCT(Randomized Controlled Trial ランダム化比較試験)が用いられだしたのはいつ頃からか?
→いずれも「研究デザイン」の列を時系列順に(つまり上から下へと)読むことで
さらにそこにある(実施された)共通点ばかりでなく、そこにない共通点=未だこのテーマの研究でなされていないもの、手薄な部分なども、レビュー・マトリクスから浮かび上がる。
発見された研究の空白地帯や手薄部分は、自分の研究の焦点を合わせるべきところかもしれない。
・このテーマの既存研究で対象者はほとんど成人ばかり→10代を対象としたものはまだ少ない
・このテーマの既存研究で、人種を独立変数にしたものは少ない
・このテーマの既存研究でA法、B法との対照したものはあるがC法についてはまだない

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レビュー・マトリクスをつくる手順

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(1)文献を集めて年代順に並べる
文献を集めないことには、レビュー・マトリクスは作れない(また作る必要もない)。
『看護研究のための文献レビュー: マトリックス方式』では、文献レビューをつくるのワークフローに沿って、次の4つのフォルダを物理的に、またはコンピュータ上につくることが推奨されている。
(a)ペーパー・トレイル・フォルダー……文献探しの手がかりと記録(ログ)、文献探索のスタートや参考にしたキーソース、検索に用いたキーワードとデータベースごとのヒット数、作業中の振り返りのメモなど……を置く
(b)文書フォルダー……集めた文献(抜き刷りやファイル)を置く
(c)レビュー・マトリクス・フォルダー……つくったレビュー・マトリクスを置く
(d)総括フォルダー……レビュー・マトリクスを元にまとめた文献レビュー(というアウトプット)の下書きから完成品までの各バージョンを置く
文献を集めることはスノーボール的に行わざるを得ない。
見つけた文献を手がかりに、そこに含まれる情報(著者名、参考文献リスト、登場するテクニカル・タームなど)を活用して、さらに文献を探していく。
調査の成果(ここでは集めた文献そのもの)とは別に、調査の過程を残していくことが重要である。
調査過程の記録は、今回の調査の中ではもちろん、調査が一段落した後にも、繰り返し役に立つ。
(2)レビュー・マトリクスに取り出すトピックを決める
およそ文献に書き込まれる要素はすべて、トピックとしてマトリクスに取り込むことができる。
実際的には、自分(が行う文献調査)の目的と集まった文献とに合わせて、レビュー・マトリクスを構成するトピックを決めることが推奨される。
つまり、作り手とその目的次第、そして集まった文献次第でどんなトピックでマトリクスを作るかは様々だということである。
しかし作業の手がかりのために、ほとんどすべての場合に登場するトピックとよく使われるトピックを挙げておこう。
以下の3つはほぼ必須のトピックであり、レビュー・マトリクスの最左の3列を占める。
(a)著者、題名、掲載誌などの書誌情報
(b)発行年など ……年代順にソートするため
(c)文献の(研究)目的……目的として明示されるか、仮説やリサーチ・クエスチョンとして示される
次のものは研究論文を対象としたレビュー・マトリクスに頻出のものである。
(d)独立変数と従属変数
「喫煙が肺がんに与える影響」についての研究ならば〈喫煙の量(頻度)〉が独立変数、〈肺がんの発生率〉が従属変数となる
(e)研究デザイン
(f)対象(数、単位、属性)
(g)データセット、データソース
(h)データの収集方法と収集時
(i)用いられた指標や尺度
(j)統計分析の手法と前提条件
(k)当研究の著者によって書かれた意義・長所
(l)当研究の著者によって書かれた短所
(m)引用文献
(n)資金提供者
・
・
(z)上記項目についてのマトリクス作成者の判断やコメント
(3)文献から情報を摘出してレビュー・マトリクスを埋めていく
上記で決めたトピックについて、文献を読みながら情報を摘出してレビュー・マトリクスを埋めていく。
抽出する項目とまとめる様式がレビュー・マトリクスとして定められているので、この作業はチームで複数人によって行うこともできる。
この場合、一人がひとつの文献についてすべてのトピックを埋めるやり方と、特定のトピックについて一人がすべての文献を担当するやり方がある。
レビュー・マトリクスを越えて
マトリクスを作りながら気付いたことはメモして置く。完成後、見返して気付いたこと分かったことは言語化する。そして、まとめて一つの文章としてアウトプットする。
つまりレビュー・マトリクスを見直し文献レビューとして文章化することが望ましい(先に示したワークフロー・フォルダーの構成もそうなっていた)。
理由の一つは、そうすることが必要になるからである。
レビュー・マトリクスは何度も再利用可能な知的生産物だが、フォーマルな知識の伝達手段ではない。
例えばある分野やテーマについてレポートを提出しなければならないとき、文章化したものが要求される(こうしたタスクにもレビュー・マトリクスは直接役立つ)。
研究費を申し込む時にも、既存研究を整理し要約した文章を添付することが求められる。
自身の研究を取り組む場合、論文として発表する場合はいうまでもない。
もう一つの理由は、文章化する作業を通じて、より深い洞察を得ることができるからである。
文章化するためには、情報を選択的に抜取り、それらを整合的に結び合わせ、論理的に関係付けることが必要になる。そのためには、レビュー・マトリクスが示している様々なものを再認し、組合せ、突き合わせることになるだろう。こうした過程を通じて、自身の認識は深化し、ただ眺めていただけでは得られなかったような発見をレビュー・マトリクスから得ることができる(少なくともその可能性は高まる)。
またレビュー・マトリクスは、見る者によって、また切り口によって示す姿を変える、多様な可能性を抱えた二次的資料である。一通りの見直しでは、その可能性のすべてを開示することはできない。このことは時間をおいてレビュー・マトリクスを見直した時や、自分以外の者がどのように読み解くかを知ったときに痛感するだろう。
それ故、現時点で自分がレビュー・マトリクスから受け取ることができるものを、スナップショットの形で残すことに意味がある。
現時点では、レビュー・マトリクスから何を受け取ったかを記録することで、自分の認識の変化を反省的に確認することができる。
ひとつのレビュー・マトリクスから何度も異なる発見を汲み上げること、そして同じ文献群のセットから別のレビュー・マトリクスを作り上げることは、多数の文献が織り成す知のフロントを、様々な角度で切り出し取り回す足場となる。
◯どうするか?→下記のようなレビュー・マトリクスにまとめる

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(出典:『看護研究のための文献レビュー: マトリックス方式』p.95)
◯何を与えてくれるか?(ご利益)
集められた論文に散在する情報を秩序だてて整理し比較対照を容易にする
集められた論文の共通点やトレンド、手薄な点などを浮かび上がらせる
◯どうやってつくるのか?(手順)
(1)文献を集めて年代順に並べる
(2)レビュー・マトリクスへ抽出するトピックを決める
(3)文献から情報を摘出してレビュー・マトリクスを埋めていく
文献を集めることの重要性は別に取り上げたことがある。
結論から言えば、参考文献リストは長いほどいい/文献収集が論文執筆にもたらす4つのご利益 読書猿Classic: between / beyond readers

しかし数多くの文献を手元に集めたとして、それが机周りの空間とあなたの思考に取扱い能力を超えた複雑さをもたらし、混乱を引き起こすだけとしたら本末転倒である。
注意という認知資源は有限である。ヒトが一度に意識を配ることのできる対象の数は思う以上に少ない。
多くの文献を取り回すためには、それらを組織だって取り扱うための方法があった方が良い。とりわけ超人でも碩学でもない我々には。
ある分野の知的貢献は複数の研究、複数の文献によって構成されている。
その分野を切り開く画期となった研究・文献が存在しても、その後重大な補完や修正を付け加えた複数の研究・文献が後に続くことが多い。
そして、ある研究・文献は、先行者を批判するにせよ、それ以前の複数の研究・文献を前提としている。
ひとつの研究・文献の価値や意義は、複数の研究・文献をコンテクストとして背景におかないと見えてこない。
相手にしなければならないのは、常に複数の、それもかなり多くの研究・文献なのだ。
今回は以下の本から、多数の文献を整理し比較対照して研究のフロント(前線)を浮かび上がらせる、簡便な方法を紹介する。
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タイトルに看護研究(原題ではhealth sciences)という冠しているのは偶然ではない。
この分野の研究に携わる者の多くは、臨床家(practitioner)でもある。彼らは臨床研究を研究論文等で発信する、この分野の知識の供給者であると同時に、蓄積・共有された知識を活用して自身の臨床にあたる知識の需要者でもある。自身の研究の焦点を見い出すためだけでなく、自身の臨床の水準を高め維持するためにも、人類が今この時点で達している知識の最前線を(できるだけ少ない手間で)知る必要があるのだ。
今回紹介する方法は、異なる分野でも活用可能であり、この書の中でも科学分野以外での活用が紹介されている。
レビュー・マトリクスとは何か
レビュー・マトリクスは、複数の文献を比較対照するための自然かつ組織立った方法であり、複数の論文に含まれる情報を秩序づける表形式の構造である。
実例を見てもらったほうが理解しやすいだろう。
Literature Review Matrix

(クリックで拡大)
(『看護研究のための文献レビュー: マトリックス方式』p.95 を元に作成)
1行にひとつの文献が割り当てられ、文献から抜き出された情報がそれぞれの項目のマス目に配置される。
すべての文献から共通して同じトピックを拾い出していくことで、複数の文献に含まれる情報を横断的に参照できる。
レビュー・マトリクスがもたらすもの
あるテーマ・分野の文献を集め、レビュー・マトリクスをつくると、それらの文献の多く(時にすべて)に共通するものが浮かび上がってくる。
レビュー・マトリクスのトピック(項目)列を縦にみると、たとえば次のようなことがわかる。
・このテーマは、誰が研究しているか? 誰が協力しているか? →著者、研究協力者の列
・このテーマは、どこで(どの機関で)研究されているか? →著者の所属機関の列
・このテーマの研究で必ず(または頻繁に)引用される文献は? →引用文献の列
・このテーマの研究者が、よく使うデータセットは? →データセットの列
・このテーマの研究によく資金を出しているのは? →資金提供者の列
レビュー・マトリクスでは文献を年代順に並べてある。
これにより、あるテーマ・分野の研究について、時系列に沿った移り変わりが浮かび上がらせる。
・このテーマの研究で初期に用いられてきた研究デザインは?(ケーススタディ?)
・このテーマの研究にRCT(Randomized Controlled Trial ランダム化比較試験)が用いられだしたのはいつ頃からか?
→いずれも「研究デザイン」の列を時系列順に(つまり上から下へと)読むことで
さらにそこにある(実施された)共通点ばかりでなく、そこにない共通点=未だこのテーマの研究でなされていないもの、手薄な部分なども、レビュー・マトリクスから浮かび上がる。
発見された研究の空白地帯や手薄部分は、自分の研究の焦点を合わせるべきところかもしれない。
・このテーマの既存研究で対象者はほとんど成人ばかり→10代を対象としたものはまだ少ない
・このテーマの既存研究で、人種を独立変数にしたものは少ない
・このテーマの既存研究でA法、B法との対照したものはあるがC法についてはまだない

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レビュー・マトリクスをつくる手順

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(1)文献を集めて年代順に並べる
文献を集めないことには、レビュー・マトリクスは作れない(また作る必要もない)。
『看護研究のための文献レビュー: マトリックス方式』では、文献レビューをつくるのワークフローに沿って、次の4つのフォルダを物理的に、またはコンピュータ上につくることが推奨されている。
(a)ペーパー・トレイル・フォルダー……文献探しの手がかりと記録(ログ)、文献探索のスタートや参考にしたキーソース、検索に用いたキーワードとデータベースごとのヒット数、作業中の振り返りのメモなど……を置く
(b)文書フォルダー……集めた文献(抜き刷りやファイル)を置く
(c)レビュー・マトリクス・フォルダー……つくったレビュー・マトリクスを置く
(d)総括フォルダー……レビュー・マトリクスを元にまとめた文献レビュー(というアウトプット)の下書きから完成品までの各バージョンを置く
文献を集めることはスノーボール的に行わざるを得ない。
見つけた文献を手がかりに、そこに含まれる情報(著者名、参考文献リスト、登場するテクニカル・タームなど)を活用して、さらに文献を探していく。
調査の成果(ここでは集めた文献そのもの)とは別に、調査の過程を残していくことが重要である。
調査過程の記録は、今回の調査の中ではもちろん、調査が一段落した後にも、繰り返し役に立つ。
(2)レビュー・マトリクスに取り出すトピックを決める
およそ文献に書き込まれる要素はすべて、トピックとしてマトリクスに取り込むことができる。
実際的には、自分(が行う文献調査)の目的と集まった文献とに合わせて、レビュー・マトリクスを構成するトピックを決めることが推奨される。
つまり、作り手とその目的次第、そして集まった文献次第でどんなトピックでマトリクスを作るかは様々だということである。
しかし作業の手がかりのために、ほとんどすべての場合に登場するトピックとよく使われるトピックを挙げておこう。
以下の3つはほぼ必須のトピックであり、レビュー・マトリクスの最左の3列を占める。
(a)著者、題名、掲載誌などの書誌情報
(b)発行年など ……年代順にソートするため
(c)文献の(研究)目的……目的として明示されるか、仮説やリサーチ・クエスチョンとして示される
次のものは研究論文を対象としたレビュー・マトリクスに頻出のものである。
(d)独立変数と従属変数
「喫煙が肺がんに与える影響」についての研究ならば〈喫煙の量(頻度)〉が独立変数、〈肺がんの発生率〉が従属変数となる
(e)研究デザイン
(f)対象(数、単位、属性)
(g)データセット、データソース
(h)データの収集方法と収集時
(i)用いられた指標や尺度
(j)統計分析の手法と前提条件
(k)当研究の著者によって書かれた意義・長所
(l)当研究の著者によって書かれた短所
(m)引用文献
(n)資金提供者
・
・
(z)上記項目についてのマトリクス作成者の判断やコメント
(3)文献から情報を摘出してレビュー・マトリクスを埋めていく
上記で決めたトピックについて、文献を読みながら情報を摘出してレビュー・マトリクスを埋めていく。
抽出する項目とまとめる様式がレビュー・マトリクスとして定められているので、この作業はチームで複数人によって行うこともできる。
この場合、一人がひとつの文献についてすべてのトピックを埋めるやり方と、特定のトピックについて一人がすべての文献を担当するやり方がある。
レビュー・マトリクスを越えて
マトリクスを作りながら気付いたことはメモして置く。完成後、見返して気付いたこと分かったことは言語化する。そして、まとめて一つの文章としてアウトプットする。
つまりレビュー・マトリクスを見直し文献レビューとして文章化することが望ましい(先に示したワークフロー・フォルダーの構成もそうなっていた)。
理由の一つは、そうすることが必要になるからである。
レビュー・マトリクスは何度も再利用可能な知的生産物だが、フォーマルな知識の伝達手段ではない。
例えばある分野やテーマについてレポートを提出しなければならないとき、文章化したものが要求される(こうしたタスクにもレビュー・マトリクスは直接役立つ)。
研究費を申し込む時にも、既存研究を整理し要約した文章を添付することが求められる。
自身の研究を取り組む場合、論文として発表する場合はいうまでもない。
もう一つの理由は、文章化する作業を通じて、より深い洞察を得ることができるからである。
文章化するためには、情報を選択的に抜取り、それらを整合的に結び合わせ、論理的に関係付けることが必要になる。そのためには、レビュー・マトリクスが示している様々なものを再認し、組合せ、突き合わせることになるだろう。こうした過程を通じて、自身の認識は深化し、ただ眺めていただけでは得られなかったような発見をレビュー・マトリクスから得ることができる(少なくともその可能性は高まる)。
またレビュー・マトリクスは、見る者によって、また切り口によって示す姿を変える、多様な可能性を抱えた二次的資料である。一通りの見直しでは、その可能性のすべてを開示することはできない。このことは時間をおいてレビュー・マトリクスを見直した時や、自分以外の者がどのように読み解くかを知ったときに痛感するだろう。
それ故、現時点で自分がレビュー・マトリクスから受け取ることができるものを、スナップショットの形で残すことに意味がある。
現時点では、レビュー・マトリクスから何を受け取ったかを記録することで、自分の認識の変化を反省的に確認することができる。
ひとつのレビュー・マトリクスから何度も異なる発見を汲み上げること、そして同じ文献群のセットから別のレビュー・マトリクスを作り上げることは、多数の文献が織り成す知のフロントを、様々な角度で切り出し取り回す足場となる。
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