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ものを書く人は自由人である(少なくともそうありたいと思っている)から、
これは書くことがとことん苦手な人のために書いた文章です→小学生から大人まで使える素敵な方法 読書猿Classic: between / beyond readers

のような型(かた)の話をすると結構反発を食らう。
すでに書いている人たち向けに書かれたものでは、たとえば
書きなぐれ、そのあとレヴィ=ストロースのように推敲しよう/書き物をしていて煮詰まっている人へ 読書猿Classic: between / beyond readers

のような記事がある。
しかしレヴィ・ストロースのようにはできないという声も寄せられる。
何より、立ち止まらず振り返らず、ただ書きなぐっていくのが難しい。
心の隅から湧き上がる自己検閲の声はしばしば、書きなぐる速度よりも速く、我々をつかまえてしまう。
「本当にそうなのか?」
「そう言い切れる?」
「なんて凡庸なの!」
「もっといい言葉があるはず!思いつかないけど」
「いったい何が書きたいの?」
「@@が見たら、なんというだろう?」
「なんというマスターベイション!」
「これ以上、世界に駄文を増やしてどうする?」
先の記事にも出した〈「作文のつまずき」の現れ方〉という図

(クリックで拡大)
(出典:『国語科授業の常識を疑う〈3〉作文 (市毛勝雄模擬授業の記録と分析)』p.60)
でいえば「自分の書く文章は無価値」というつまづきだ。
どれほどスキルやテクニックが身についても、他人から達意の書き手と目されても、呪いのように付き従ってくる。
世に流布する「文章の書き方」は、ほとんどすべてが「やってはいけない」というネガティブ・リストの類で、一緒になって責め立てこそすれ、酸のように我々を苦しめる自己検閲から守ってはくれない。
書くことは、ほとんど必ず落胆を伴う(仕様だと思っていいくらいだ)。
どれだけ書き手として長いキャリアを積んでも、どこまでも付き合っていくしかない宿痾のようなものだ。
とりわけ書き始めてまだ日が浅い人たちが(いつかスラスラとすばらしい文章が書けるかもしれないと信じたい人たちが)、打ちのめされるとしても不思議ではない。
しかし戦い方がないわけではない。
これは魔法でもトリックでも、ましてやライフハックでもない。
むしろ正面突破だ。
(1)このワークに取り組む時間を決める
(2)タイマーをセット
(3)タイマーが鳴るまでとにかく書き続ける
以上である。しかしもう少し詳しくやり方を書こう。
(1)このワークに取り組む時間を決める
1セット15分とか20分でやってみる。
もっとやりたくなったら、もう1セット繰り返せばいい。
(2)タイマーをセット
紙(ノート)と筆記具、あるいはパソコンとテキストエディタなど書くために必要なものを準備する。それからタイマーを自分で決めた時間でセットする。
(3)タイマーが鳴るまで書き続ける
スタート。自分が決めた時間が過ぎるまで、何でもいいから、とにかく書き続ける。
手を止めてはならない。読み返してはならない。消すなんてもってのほか。
言うまでもないが、書き誤りや句読点や文法、改行や段落なんて気にしない。漢字が出てこないならひらがなでもカタカナでいい。レイアウトなんか犬に食わせてしまえ。
しつこく言うが、文章を評価するあらゆる基準を無視すること。
パクリ、月並み(クリシュ)でどこが悪い。
筋道立てる必要だってない。さっき書いたことと、今加工としていることが、いやそれどころか主語と述語がチグハグだって、単語の繰り返しだって構わない。
〈自己満足〉なんて僥倖(すごいラッキー)は期待するな。不満足のまま進め。
っていうか考えるな。ひたすら言葉を吐き出すのだ。
(4)もうだめだ、書くことがない、となったら
「もうだめだ、もう書くことがない」と書け。なんでこんなことしなきゃならないんだ、と思ったら、そう書け。とにかくタイマーが鳴るまで手を動かせ。
(5)ヤバイところに突き当たったら
怖い考えやヤバイ感情に突き当たったら(高い確率でそうなる)、「ようやくおいでなすった」と思って、まっすぐ飛びつけ。少なくとも書こうとせよ。
おそらくは、それが書くことを邪魔してるメンタル・ブロック(か、それにつながるもの)である。
同時にそれは、どこかで聞いてきたようなお行儀のいいコトバ以上(以外)を書くためのエネルギーの源泉になる。

書くことは独りでおこなう行為だから、こうして殴り書いたものは誰にも見せる必要はない。
けれども、もしも腹を割って話せる文章仲間がいるなら、グループワークとして取り組むこともできる。
15分間の〈書く時間〉で参加者各自が書いたものを、つづく〈朗読の時間〉で各自が朗読する。
感想、批評、その他コメントは一切なし。
このワーク中は、自分が書いたものを読み上げる以外、言葉を声を出してはならない。
誰かが真摯に発した言葉を受ければ、自分も何事か言葉を返したくなる。
口頭でのそれは禁止されているから、言葉への欲求は、また書くことにぶつけられることになる。
どんなテーマで書いてもいいが、お題が必要な参加者のために、〈お題箱〉を用意してもいい。
参加者が各自、匿名で書いたテーマのメモを箱に入れておいて、必要な人にはそこからクジのように引いてもらうのだ。
この〈書く時間〉+〈朗読の時間〉を1セットにして数セット、時間にして4時間ほど行う。
参加者が多くて朗読に時間をとられるなら、〈朗読の時間〉で朗読した人は、次回の〈朗読の時間〉では1回休みにしてもいい。
この〈書く〉ー〈読む〉ー〈書く〉…のサイクルを続けていくと、ライターズ・ハイとでもいう状態に入る。あんなにしつこく付き従ってきた〈自己検閲〉は置き去りにされ、ほとんどどんなことでも書けるようになっている。
だが心配はご無用、時間をおけば、また防具で身を固めた意地っ張りのあなたが戻ってくる。
このライティング・マラソンの後は、誰かと語り合うのは少し後にして、一人っきりでしばらく過ごすこと。できれば体を使った作業をするといい。
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(参考文献)
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……アメリカの大学でCreative Writingコースのテキストに使われたりするもの
(その翻訳)
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