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2013.10.01
問題解決のデッドロックを叩き壊す、とにかく考えを前に進めるための方法
「とにかく書け」とか「とにかく読め」という話を何回か書いてきた。
(「とにかく書け」という記事)
・「自分の書く文章は価値がない」を抜け出すライティング・マラソンという方法←自己検閲を振り切って書きなぐるために 読書猿Classic: between / beyond readers

・心理学者が教える少しの努力で大作を書く/多作になるためのウサギに勝つカメの方法 読書猿Classic: between / beyond readers

(「とにかく読め」という記事)
・聞けば身も蓋もない1冊を30分で読む方法と習慣 読書猿Classic: between / beyond readers

どんなやり方がよいか考えあぐねて、ぐるぐる逡巡しているくらいなら、とにかく取り掛かった方が早いし速い。
やり方を改善するにしても、試行錯誤の中で行わないと結局うまくいかない。
書くこと・読むこと以上に、どういうアプローチが良いのか逡巡してしまうものに問題解決がある。
アプローチを決めることが問題解決のほとんどすべてであるように思われるので、あれこれ迷うのはむしろ本筋なのだが、それに甘んじていると、これまたいつまでもぐるぐる逡巡して時が過ぎる。
取り組んだことがないような初見の問題だとなおさらだが、既存の手続でうまくいかないからこそ問題解決の出番なのだから、こじらせると、ぐるぐる逡巡することが〈標準化〉してしまいかねない。
いろんな場合に使える汎用の問題解決の手順は存在する(たとえばIDEAL法=Identify problems 問題と機会をとらえる→Define problems 問題を定義する→Explore possible strategies 解決策を探る→Anticipate outcomes and Act 結果を期待し実行する→Look back and Learn 振り返り、そこから学ぶ)。
・問題解決を導く50といくつかの言葉/IDEAL(理想)の問題解決5ステップ 読書猿Classic: between / beyond readers

けれど、ぐるぐる逡巡を抜けるという目的からすれば、これも悪い意味で、まだ一般的過ぎる。
とくに「解決策の評価と選択」のところは、解決策を複数(それもなるべくたくさん)考え出すことが含まれているのだが、どうやって考え出すかは、よく言えばオープン、悪く言えばユーザーに丸投げである。
「どんなやり方でもいいから考えてね、それもなるべくたくさん」という要求だけがあるので、どんなやり方で解決策を考え出すのが一番良いだろうかとやっていると、やっぱりぐるぐる逡巡する。
逡巡するうちに時間が経って、あせって神経をすり減らし、最後には選ばないよりはマシと愚策を選ぶ、という繰り返し。
これでは「心理学者が教える少しの努力で大作を書く/多作になるためのウサギに勝つカメの方法 読書猿Classic: between / beyond readers」で書いたBinge WritingならぬBinge Creating ideasである。
対策としては、より具体的な手続を「迷ったときはこれで行く」とデフォルトにしておくことだ。
そして、ぐるぐるしそうになったら、とにかくデフォルトのやり方で進むのである。
ここで「デフォルトのやり方」候補にはいろいろあるが……とやると、話が元に戻ってしまうので、中の人が普段、アプローチが思いつかない場合のデフォルトにしているNM法を紹介する。
NM法のメリット
今回の「とにかく問題解決にとりかかる」というテーマから見た、NM法のメリットは、
・手順がほどよく具体化されており、次に何をすればいいのかが各ステップで明確である
・各ステップでの作業時間も短く(ヤングみたいに寝かさない、KJ法みたいに渾沌をして語るのを待たない)、ぐるぐる逡巡に入る暇がない
・すばやくできるので、他の手法の中に取り入れて使うのも簡単
・用途は限定されておらず、どんな問題にも使える
・既知を未知の問題に適用するアナロギー(類比)を基本にした手法で、初めて直面するの問題にも使える
・自由度を上げて発想を広げるのにも、手堅いアイデアを得るのにも使える
時間がない人のためのまとめ
まとめると次の4つの質問に順に答えていく。
1.QK(Question of Keyword)「要するにどうなればいいか」
2.QA(Question of Analogy)「~するもの/~なものといえば、例えば何があるか?」
3.QB(Question of Background)「そこでは何が起きているか?」
4.QC(Question of Concept)「それを何かに活かせないか?」
少し詳しいNM法のやり方
NM法にはいくつかのタイプ(型)がある。詳しいことは、創案者によるNM法のことならなんでも載ってる次の本を参照。
ものづくり・発明を志向したH(ardware)型がその原型であるが、普及しているのは、その前半を取り出して簡略化したT型である。拡散的思考を担当するもので、ブレインストーミングを使うような場面では、これで代替できる。
今回の目的にはぴったりなので、これについて手順を説明しよう。
1.まずお題を決める。つまり何を解決したいのかをお題にする。
2.QK(Question of Keyword)「要するにどうなればいいか」という問いに答えてキーワードを決める。
キーワードは、問題解決の要を一言で言い表したものだが、一旦問題のおかれたコンテキスト(文脈・状況)から離れて思考を広げるために、問題解決を抽象化したものである。
抽象化というのが難しいなら、「要するにどうなればいいか」に文章で答えて、その答えの文章から最重要な動詞(ときに形容詞)をひとつ選ぶとよい。
3.QA(Question of Analogy)「~するもの/~なものといえば、例えば何があるか?」というアナロギーを導く問いにに、具体的な事物をあげて答える。せっかくコンテキスト(文脈・状況)から離れるのだから、取り組んでいる問題とは異分野の事物がよい。たとえば自然現象からアナロギーを選べば、自然が行ってる問題解決から学ぶことになる。
4.QB(Question of Background)「そこでは何が起きているか?」に答えて、アナロギーとして出た事物とそれが活動している状況をイメージする。絵を描くのもいい。絵をいうとおののく人もいるかもしれないが、6歳児が描くような絵がいい。
5.QC(Question of Concept)「それを何かに活かせないか?」という質問に答えて、これまでアナロギーとイメージで広げてきたものを、アイデアとして着地させる。頭の使い方としては、「お題(問題解決のテーマ)とかけまして、(QBで出たイメージ)と解きます、その意(こころ)は?」という謎かけを(ときに無理やりに)とくような感じである。
6.答えるべき4つの質問(QK,QA,QB,QC)には、それぞれ複数の答えがあり得る。これを繰り返して複数のアイデアを得ていく。
7.やり方としてはQAから一つのアナロギーを思いついたら、そいつが温かいうちに、→QB→QCとステップを先に進めていって、アイデアが得られるまでやり切る方がよい。
そしてそこでアイデアが出なくなったら、行き詰ったら一つ前のステップに戻って、次の答えへ進む。いわゆる深さ優先探索/縦型探索と呼ばれるやり方に似ている。
これに対して、まずはQAに答えていってアナロギーをたくさん集めて終えてからQBへ進む、幅優先探索/横型探索風のやり方だと、また元のアナロギーを考える頭に戻らなくてはならず、やりにくい。たくさんのアナロギーやバックグラウンドが一種の〈未解決案件〉として残ったままになるのも、やる気を損ないやすいようだ。
出来はどうあれ先にQCに答えて、どんどんアイデアという成果物を得たほうが、やる気もスピードも上がりやすい。
NM法T型の例
試しに一つやってみよう。
・Theme(お題):「すらすらブログを書く」
↓
QK(Question of Keyword)「要するにどうなればいいか」
・「ページが埋まればいい」→「埋める」
・「何でもいいから記事を出せればいい」→「出す」
Keyword「埋める」から
QA「埋める/埋まる」ものにはどんなものがあるか?
A.ゴミピット
QB「ゴミピットでは何が起きているか?」
B.コンテナが傾けられ溜め込まれたゴミがピットへとすべり落ちていく
QC(Question of Concept)「それを何かに活かせないか?」
C.貯め込んでいたものを一気に投下する→書物をリストを貯めておいて、たまったらブックリスト記事にして一挙放出
B.クレーンで持ち上げられたゴミが水平移動してピットの真上まで来てパカッと開く
QC(Question of Concept)「それを何かに活かせないか?」
C.違うところから持ってきて投下→自分の他のページや過去に書いたものからコピペ
・・・
Keyword「出す」から
QA「出す」ものにはどんなものがあるか?
A.宿題
QB「宿題では何が起きているか?」
B.締切があるので不完全でもとにかく出す
QC(Question of Concept)「それを何かに活かせないか?」
C.締切を設定して完成/未完成を問わずに投下する
C.「未完成である」ことを記事のネタにする
A.名刺
QB「名刺では何が起きているか?」
B.お互いに差し出した名刺を相手から受け取る
QC(Question of Concept)「それを何かに活かせないか?」
C.双方向なブログ記事→非難の応酬?誉め合い?他ブログとの相互投稿?
もうひとつ、たくさん作れる例として、
お題を「アイデアの生産法」とし、キーワード「集める」だけから広げてみた。
なお質問(QA,QB,QC)は省略している。
A:掃除機
B:速い空気の流れとともに細い口から吸い込む
C:高速で大量に集める
→強制連想法,ブレインライティング法
A:掃除機
B:流れを作りフィルターで濾しとる
C:大量のインプットから少数のよいものだけを残す
→要素分解×機械的組合せで数を作ってから、選択する
A:ピンセント
B:細かいものを拡大鏡で見ながら一つ一つを摘み上げる
C:中に含まれる必要だが小さなものを拾い上げる
→既存のアイデアをもう一度詳しく見て,使えるコンポーネントだけピックアップ
A:雨樋
B:予め設置された樋を重力にしたがって雨が流れ落ちていき自然に一箇所に集められる
C:自然にネタがたまる仕組み
→キーワード→アラートでネットから情報を集め、結果を専用メアドへ送付。
A:図書館
B:まとめて買入れ,ひとつひとつにナンバーを割当て,予めすべての本を分類できる体系に従って仕分され,それぞれの位置へ配架される
C:記事の分類を予め決めておき,入ってきたネタをその場で分類する(時間はかかるが,時間が経るごとにライブラリーは自己組織化され充実する)。
A:ラジオ体操のスタンプ
B:一回に付きひとつずつもらえる,これを毎日繰り返す
C:1日1個のアプローチ
→アイデア日記。アイデアだけでなく、アイデア作りに貢献する行動をなんでもいいので記録する。
A:観光地のスタンプ
B:一箇所に付きひとつずつ押せる,これを各箇所で繰り返す
C:定点観測系のネタあつめ
→一定の基準で,いろんな箇所からデータを集める
→(主客を逆転して)他人にいくつかのサイトを回ってもらう仕掛
A:ベルマーク
B:学校などに設置された箱の中に,子供たちがめいめいそれぞれの家出集めたマークを入れにやって来る
C:ソーシャルな手法,ネタを投稿してもらう場所を設ける
C:投稿サイトから掬い取る
→投稿サイト×ピンセットの手法
A:磁石で砂鉄
B:砂の上に磁石を這わせてくっついて来た砂鉄を一箇所で落とす,これを繰り返す
C:選別アプローチ→例えば、玉石混交のソース(資源)から,一定の条件にかかるものだけを引っ張り挙げる(フィルター)
→たとえばランダムネスなソース=辞書のコトバをランダムに拾う
NM法T型がもたらすもの
実は、普通にNM法T型を用いると、最後のQCから出てくる答えは「既存の名案」となりやすい。とくにその分野の問題解決に精通した玄人はそうなりやすい。
原因は、広がったイメージを今解こうとしている問題解決に着地させるQCのステップにある。QKで問題のおかれたコンテキスト(文脈・状況)を離脱し、QA→QBでアナロギーを梃子にして広がった発想が、お題の問題解決に役立てようとすることで引っ張り戻されるのだ。QCという質問が、脳裏から当てはまりそうな解決策をサルベージしてくるのだ、ともいえる。ときどき、うんうん考えるだけでは意識にのぼってこない「既存の解決策」が、QCという質問に促されて出てくることがある。
また、とてもじゃないが活かしようがない(QCに答えようがない)と思える、問題解決からかけ離れたアナロジーやイメージを無理やり引っ張り降ろす場合にこそ、既存のアイデアを超えたものが出る可能性がある。脳裏にある既存の解決策に結びつくものがないからこそ「かけ離れた」「活かしようがない」感じがするのである。そこで感じる抵抗は、つまるところ、頭をいつもとは違う方向に動かすことについての抵抗である。
NM法のプロトタイプであるH型では、QCで出てきた多数の実用的な解決策を、さらに掛け合わせるステップが後続する。ものづくり・発明を志向する以上、パテントが取れない「既存の名案」では困るからだ。
NM法としてはこの後半が重要で、QCまでの前半はむしろ、一つの視点にこだわらず問題を様々な面から眺めるための準備的意味合いが強い。
もっとも日常の問題解決では、「既存の名案」で間に合うことが多い。誰かに売りつけることを考えなければ、新奇で実績のないアイデアよりも、使い古された実績のある「既存の名案」の方がうまくいくことすら少なくない。
そして「とにかく問題解決にとりかかる」というテーマからすれば、ここまでで目標は一応達成されている。
「新しい」と「すぐれた」の両方を満足するアイデアだけを求めていると、頭の働きはギクシャクする。凡庸なアイデアをとにかく数出していけば、次第にどうでもよくなって、頭も随分スムーズに動くようになるのだが、アイデアを求める人や求められる状況は、多くの場合、そうした余裕を欠いている。
NM法は、そこに効く。
Binge Creat ideasのデッドロックを解き、頭をふたたび回転させる。
ありきたり過ぎて見逃しがちなアイデアも含めて、とにかく手順よく数多く生み出す。
「問題をさまざまな観点から見る」「まず多様な解決策を複数作り出す」という、問題解決に不可欠だが、小目標にはなっていても作業手順についてはユーザーに丸投げだった部分(ブレインストーミングにせよ「批判はするな自由にやれ」というだけだった)が、具体化されているところがミソである。
先に書いたが、NM法は自分の頭のなかをサルベージする方法である。
問題の中には、今の自分が知らないだけで、世の中に解き方/取り組み方が既に存在するものも少なくない。そうした場合は、自分の中をごそごそ探るよりも、調べ物をした方が速いことも多い。
また理詰めで一歩一歩分析していけばちゃんと解けるものもある。これらの正攻法はおろそかにすべきではない。
しか調べ物するのを待ってはくれず、正攻法では歯がたたない問題だってある。
NM法は頭の中にあるリソースを使う方法だが、それが役立つのは、リソースをいつもとは(そして蓄えた時予想していたのとは)異なる仕方で呼び出す/異なる角度で読み出すからだ。
このやり方から生まれた多数のアイデアを整理したり、掛け合わせたりするやり方(NM法のA型やS型やD型)や、他のメソッドと組み合わせ方(たとえば手塚治虫がストーリーをつくるのに使ったチャートで、分岐が思いつかない場合にNM法を使うとか)は、また別の機会に。
(「とにかく書け」という記事)
・「自分の書く文章は価値がない」を抜け出すライティング・マラソンという方法←自己検閲を振り切って書きなぐるために 読書猿Classic: between / beyond readers

・心理学者が教える少しの努力で大作を書く/多作になるためのウサギに勝つカメの方法 読書猿Classic: between / beyond readers

(「とにかく読め」という記事)
・聞けば身も蓋もない1冊を30分で読む方法と習慣 読書猿Classic: between / beyond readers

どんなやり方がよいか考えあぐねて、ぐるぐる逡巡しているくらいなら、とにかく取り掛かった方が早いし速い。
やり方を改善するにしても、試行錯誤の中で行わないと結局うまくいかない。
書くこと・読むこと以上に、どういうアプローチが良いのか逡巡してしまうものに問題解決がある。
アプローチを決めることが問題解決のほとんどすべてであるように思われるので、あれこれ迷うのはむしろ本筋なのだが、それに甘んじていると、これまたいつまでもぐるぐる逡巡して時が過ぎる。
取り組んだことがないような初見の問題だとなおさらだが、既存の手続でうまくいかないからこそ問題解決の出番なのだから、こじらせると、ぐるぐる逡巡することが〈標準化〉してしまいかねない。
いろんな場合に使える汎用の問題解決の手順は存在する(たとえばIDEAL法=Identify problems 問題と機会をとらえる→Define problems 問題を定義する→Explore possible strategies 解決策を探る→Anticipate outcomes and Act 結果を期待し実行する→Look back and Learn 振り返り、そこから学ぶ)。
・問題解決を導く50といくつかの言葉/IDEAL(理想)の問題解決5ステップ 読書猿Classic: between / beyond readers

けれど、ぐるぐる逡巡を抜けるという目的からすれば、これも悪い意味で、まだ一般的過ぎる。
とくに「解決策の評価と選択」のところは、解決策を複数(それもなるべくたくさん)考え出すことが含まれているのだが、どうやって考え出すかは、よく言えばオープン、悪く言えばユーザーに丸投げである。
「どんなやり方でもいいから考えてね、それもなるべくたくさん」という要求だけがあるので、どんなやり方で解決策を考え出すのが一番良いだろうかとやっていると、やっぱりぐるぐる逡巡する。
逡巡するうちに時間が経って、あせって神経をすり減らし、最後には選ばないよりはマシと愚策を選ぶ、という繰り返し。
これでは「心理学者が教える少しの努力で大作を書く/多作になるためのウサギに勝つカメの方法 読書猿Classic: between / beyond readers」で書いたBinge WritingならぬBinge Creating ideasである。
対策としては、より具体的な手続を「迷ったときはこれで行く」とデフォルトにしておくことだ。
そして、ぐるぐるしそうになったら、とにかくデフォルトのやり方で進むのである。
ここで「デフォルトのやり方」候補にはいろいろあるが……とやると、話が元に戻ってしまうので、中の人が普段、アプローチが思いつかない場合のデフォルトにしているNM法を紹介する。
NM法のメリット
今回の「とにかく問題解決にとりかかる」というテーマから見た、NM法のメリットは、
・手順がほどよく具体化されており、次に何をすればいいのかが各ステップで明確である
・各ステップでの作業時間も短く(ヤングみたいに寝かさない、KJ法みたいに渾沌をして語るのを待たない)、ぐるぐる逡巡に入る暇がない
・すばやくできるので、他の手法の中に取り入れて使うのも簡単
・用途は限定されておらず、どんな問題にも使える
・既知を未知の問題に適用するアナロギー(類比)を基本にした手法で、初めて直面するの問題にも使える
・自由度を上げて発想を広げるのにも、手堅いアイデアを得るのにも使える
時間がない人のためのまとめ
まとめると次の4つの質問に順に答えていく。
1.QK(Question of Keyword)「要するにどうなればいいか」
2.QA(Question of Analogy)「~するもの/~なものといえば、例えば何があるか?」
3.QB(Question of Background)「そこでは何が起きているか?」
4.QC(Question of Concept)「それを何かに活かせないか?」
少し詳しいNM法のやり方
NM法にはいくつかのタイプ(型)がある。詳しいことは、創案者によるNM法のことならなんでも載ってる次の本を参照。
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ものづくり・発明を志向したH(ardware)型がその原型であるが、普及しているのは、その前半を取り出して簡略化したT型である。拡散的思考を担当するもので、ブレインストーミングを使うような場面では、これで代替できる。
今回の目的にはぴったりなので、これについて手順を説明しよう。
1.まずお題を決める。つまり何を解決したいのかをお題にする。
2.QK(Question of Keyword)「要するにどうなればいいか」という問いに答えてキーワードを決める。
キーワードは、問題解決の要を一言で言い表したものだが、一旦問題のおかれたコンテキスト(文脈・状況)から離れて思考を広げるために、問題解決を抽象化したものである。
抽象化というのが難しいなら、「要するにどうなればいいか」に文章で答えて、その答えの文章から最重要な動詞(ときに形容詞)をひとつ選ぶとよい。
3.QA(Question of Analogy)「~するもの/~なものといえば、例えば何があるか?」というアナロギーを導く問いにに、具体的な事物をあげて答える。せっかくコンテキスト(文脈・状況)から離れるのだから、取り組んでいる問題とは異分野の事物がよい。たとえば自然現象からアナロギーを選べば、自然が行ってる問題解決から学ぶことになる。
4.QB(Question of Background)「そこでは何が起きているか?」に答えて、アナロギーとして出た事物とそれが活動している状況をイメージする。絵を描くのもいい。絵をいうとおののく人もいるかもしれないが、6歳児が描くような絵がいい。
5.QC(Question of Concept)「それを何かに活かせないか?」という質問に答えて、これまでアナロギーとイメージで広げてきたものを、アイデアとして着地させる。頭の使い方としては、「お題(問題解決のテーマ)とかけまして、(QBで出たイメージ)と解きます、その意(こころ)は?」という謎かけを(ときに無理やりに)とくような感じである。
6.答えるべき4つの質問(QK,QA,QB,QC)には、それぞれ複数の答えがあり得る。これを繰り返して複数のアイデアを得ていく。
7.やり方としてはQAから一つのアナロギーを思いついたら、そいつが温かいうちに、→QB→QCとステップを先に進めていって、アイデアが得られるまでやり切る方がよい。
そしてそこでアイデアが出なくなったら、行き詰ったら一つ前のステップに戻って、次の答えへ進む。いわゆる深さ優先探索/縦型探索と呼ばれるやり方に似ている。
これに対して、まずはQAに答えていってアナロギーをたくさん集めて終えてからQBへ進む、幅優先探索/横型探索風のやり方だと、また元のアナロギーを考える頭に戻らなくてはならず、やりにくい。たくさんのアナロギーやバックグラウンドが一種の〈未解決案件〉として残ったままになるのも、やる気を損ないやすいようだ。
出来はどうあれ先にQCに答えて、どんどんアイデアという成果物を得たほうが、やる気もスピードも上がりやすい。
NM法T型の例
試しに一つやってみよう。
・Theme(お題):「すらすらブログを書く」
↓
QK(Question of Keyword)「要するにどうなればいいか」
・「ページが埋まればいい」→「埋める」
・「何でもいいから記事を出せればいい」→「出す」
Keyword「埋める」から
QA「埋める/埋まる」ものにはどんなものがあるか?
A.ゴミピット
QB「ゴミピットでは何が起きているか?」
B.コンテナが傾けられ溜め込まれたゴミがピットへとすべり落ちていく
QC(Question of Concept)「それを何かに活かせないか?」
C.貯め込んでいたものを一気に投下する→書物をリストを貯めておいて、たまったらブックリスト記事にして一挙放出
B.クレーンで持ち上げられたゴミが水平移動してピットの真上まで来てパカッと開く
QC(Question of Concept)「それを何かに活かせないか?」
C.違うところから持ってきて投下→自分の他のページや過去に書いたものからコピペ
・・・
Keyword「出す」から
QA「出す」ものにはどんなものがあるか?
A.宿題
QB「宿題では何が起きているか?」
B.締切があるので不完全でもとにかく出す
QC(Question of Concept)「それを何かに活かせないか?」
C.締切を設定して完成/未完成を問わずに投下する
C.「未完成である」ことを記事のネタにする
A.名刺
QB「名刺では何が起きているか?」
B.お互いに差し出した名刺を相手から受け取る
QC(Question of Concept)「それを何かに活かせないか?」
C.双方向なブログ記事→非難の応酬?誉め合い?他ブログとの相互投稿?
もうひとつ、たくさん作れる例として、
お題を「アイデアの生産法」とし、キーワード「集める」だけから広げてみた。
なお質問(QA,QB,QC)は省略している。
A:掃除機
B:速い空気の流れとともに細い口から吸い込む
C:高速で大量に集める
→強制連想法,ブレインライティング法
A:掃除機
B:流れを作りフィルターで濾しとる
C:大量のインプットから少数のよいものだけを残す
→要素分解×機械的組合せで数を作ってから、選択する
A:ピンセント
B:細かいものを拡大鏡で見ながら一つ一つを摘み上げる
C:中に含まれる必要だが小さなものを拾い上げる
→既存のアイデアをもう一度詳しく見て,使えるコンポーネントだけピックアップ
A:雨樋
B:予め設置された樋を重力にしたがって雨が流れ落ちていき自然に一箇所に集められる
C:自然にネタがたまる仕組み
→キーワード→アラートでネットから情報を集め、結果を専用メアドへ送付。
A:図書館
B:まとめて買入れ,ひとつひとつにナンバーを割当て,予めすべての本を分類できる体系に従って仕分され,それぞれの位置へ配架される
C:記事の分類を予め決めておき,入ってきたネタをその場で分類する(時間はかかるが,時間が経るごとにライブラリーは自己組織化され充実する)。
A:ラジオ体操のスタンプ
B:一回に付きひとつずつもらえる,これを毎日繰り返す
C:1日1個のアプローチ
→アイデア日記。アイデアだけでなく、アイデア作りに貢献する行動をなんでもいいので記録する。
A:観光地のスタンプ
B:一箇所に付きひとつずつ押せる,これを各箇所で繰り返す
C:定点観測系のネタあつめ
→一定の基準で,いろんな箇所からデータを集める
→(主客を逆転して)他人にいくつかのサイトを回ってもらう仕掛
A:ベルマーク
B:学校などに設置された箱の中に,子供たちがめいめいそれぞれの家出集めたマークを入れにやって来る
C:ソーシャルな手法,ネタを投稿してもらう場所を設ける
C:投稿サイトから掬い取る
→投稿サイト×ピンセットの手法
A:磁石で砂鉄
B:砂の上に磁石を這わせてくっついて来た砂鉄を一箇所で落とす,これを繰り返す
C:選別アプローチ→例えば、玉石混交のソース(資源)から,一定の条件にかかるものだけを引っ張り挙げる(フィルター)
→たとえばランダムネスなソース=辞書のコトバをランダムに拾う
NM法T型がもたらすもの
実は、普通にNM法T型を用いると、最後のQCから出てくる答えは「既存の名案」となりやすい。とくにその分野の問題解決に精通した玄人はそうなりやすい。
原因は、広がったイメージを今解こうとしている問題解決に着地させるQCのステップにある。QKで問題のおかれたコンテキスト(文脈・状況)を離脱し、QA→QBでアナロギーを梃子にして広がった発想が、お題の問題解決に役立てようとすることで引っ張り戻されるのだ。QCという質問が、脳裏から当てはまりそうな解決策をサルベージしてくるのだ、ともいえる。ときどき、うんうん考えるだけでは意識にのぼってこない「既存の解決策」が、QCという質問に促されて出てくることがある。
また、とてもじゃないが活かしようがない(QCに答えようがない)と思える、問題解決からかけ離れたアナロジーやイメージを無理やり引っ張り降ろす場合にこそ、既存のアイデアを超えたものが出る可能性がある。脳裏にある既存の解決策に結びつくものがないからこそ「かけ離れた」「活かしようがない」感じがするのである。そこで感じる抵抗は、つまるところ、頭をいつもとは違う方向に動かすことについての抵抗である。
NM法のプロトタイプであるH型では、QCで出てきた多数の実用的な解決策を、さらに掛け合わせるステップが後続する。ものづくり・発明を志向する以上、パテントが取れない「既存の名案」では困るからだ。
NM法としてはこの後半が重要で、QCまでの前半はむしろ、一つの視点にこだわらず問題を様々な面から眺めるための準備的意味合いが強い。
もっとも日常の問題解決では、「既存の名案」で間に合うことが多い。誰かに売りつけることを考えなければ、新奇で実績のないアイデアよりも、使い古された実績のある「既存の名案」の方がうまくいくことすら少なくない。
そして「とにかく問題解決にとりかかる」というテーマからすれば、ここまでで目標は一応達成されている。
「新しい」と「すぐれた」の両方を満足するアイデアだけを求めていると、頭の働きはギクシャクする。凡庸なアイデアをとにかく数出していけば、次第にどうでもよくなって、頭も随分スムーズに動くようになるのだが、アイデアを求める人や求められる状況は、多くの場合、そうした余裕を欠いている。
NM法は、そこに効く。
Binge Creat ideasのデッドロックを解き、頭をふたたび回転させる。
ありきたり過ぎて見逃しがちなアイデアも含めて、とにかく手順よく数多く生み出す。
「問題をさまざまな観点から見る」「まず多様な解決策を複数作り出す」という、問題解決に不可欠だが、小目標にはなっていても作業手順についてはユーザーに丸投げだった部分(ブレインストーミングにせよ「批判はするな自由にやれ」というだけだった)が、具体化されているところがミソである。
先に書いたが、NM法は自分の頭のなかをサルベージする方法である。
問題の中には、今の自分が知らないだけで、世の中に解き方/取り組み方が既に存在するものも少なくない。そうした場合は、自分の中をごそごそ探るよりも、調べ物をした方が速いことも多い。
また理詰めで一歩一歩分析していけばちゃんと解けるものもある。これらの正攻法はおろそかにすべきではない。
しか調べ物するのを待ってはくれず、正攻法では歯がたたない問題だってある。
NM法は頭の中にあるリソースを使う方法だが、それが役立つのは、リソースをいつもとは(そして蓄えた時予想していたのとは)異なる仕方で呼び出す/異なる角度で読み出すからだ。
このやり方から生まれた多数のアイデアを整理したり、掛け合わせたりするやり方(NM法のA型やS型やD型)や、他のメソッドと組み合わせ方(たとえば手塚治虫がストーリーをつくるのに使ったチャートで、分岐が思いつかない場合にNM法を使うとか)は、また別の機会に。
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