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2013.11.17
いきなり結果を出す→今日書き終えるためのショートショートの書き方マニュアル
生まれてはじめて書く人のための、小学生向け小説執筆マニュアル(手順書)
で紹介した

http://ywp.nanowrimo.org/workbooks
は、いかにもアメリカ的なテキストで、参加した誰もが完走できることを目標にし、できる人はさらに先へ進める足掛かりとなるようにできている。
正直、日本語のものでこの域に達しているものは見つけることができなかったが、迫っているものとしては、星新一の弟子だというショートショート専業作家 江坂遊のこの本が、頭一つ抜け出た感がある。
ショートショートであることももちろん利いているけれど、(狭い意味での)文学的なるものとは程遠いアプローチをとっていることも大きい。なんというか工作っぽいのだ。
とにかく駄作だろうとなんだろうと完成させることに徹している。未完の傑作には何の価値もない。
そして「おもしろい」や「出来が良い」は、数をこなすことで実現するというスタンスに立っている。
ショートショートは短い。完成させやすい。短い時間で書ける。たくさん書ける。手直しも楽。トレーニングにもってこいだ(商業的には厳しくとも)。
この本はマニュアルとしてかなり丁寧な出来だと思うが、ブログ記事ですべてを伝えるには分量が多い。
なので、最短のステップで最後まで行けるようにかいつまんで紹介し、Step2のところは「機能・歴史・比較」を考えて展開する代わりに別の方法(拡張版テヅカ・チャート)に差し替えた。
元のやり方は上の本を参照されたし。
Step1 奇想は組合せでつくる
「落ちから考え付くのかと聞きますけど、それは逆なんですね。僕の場合は、異常なシチュエーションができれば、それにふさわしいストーリーというのは、わりに簡単に考え付く」(星新一、不詳)
ショートショートはアイデアが命。
しかし何のアイデアが核となるかといえば、星新一はシチュエーションのそれだという。
では誰も考えてないようなシチュエーションはどうやったら思いつくのか?
「そもそも、アイデア捻出の原則はひとつしかない。異質なものを結びつけよ、である。常識の殻を破りたいとは、だれでも考えていることだ。しかし、この殻は非常に強固なもので、いかに待っても自然には割れてくれない。異質なものとの結びつきによってのみ可能なようである」(星新一「死刑をたのしく」『進化した猿たち』収録)
弟子の江坂遊によれば、星新一は膨大な知識を前提に、この組合せ作業を頭のなかで繰り返し、ただ成果だけをどんどんメモ帳に書き出していったという。
しかし物書きには幅広い知識が必要だ、で終わっては、どうしようもない。
江坂本では、実にアッケラカンとした作業でこのプロセスを代替する。
まずは意識を介在させずにランダムで組み合わせて、あとで評価するのである。具体的には、
(1)小説(短篇集だと効率がいい)や雑誌の記事のタイトルを集めて抜き出す。
(2)集めたタイトルを分解する。たとえばタイトルを修飾語と名詞に分ける。
(3)バラしたぞれぞれを(上の例なら修飾語と名詞のリストからひとつずつ取り出して)組み合わせる。
(4)組み合わせの中に〈光るもの〉が見つかるまで(3)を繰り返す。
これだけである。
修飾語と名詞のリストから、1つずつずらして総当りでもいいし(江坂本ではExcelでやっている)、簡単なランダム組合せの仕掛けをつくっておいてもいい(いろいろ使えるので)。
Excelでつくったのをここ(ファイル名text-randomizer.xlsx 266KB)に置いた。

C行とD行に修飾語と名詞のリストを入力して再計算する(F9キーを押せばいい)と、新しい組合せをランダムで作ってくれる(元々は古今集のフレーズをシャッフルして和歌をつくるのに使った仕掛け)。
こちらは国会図書館にあった短編集からタイトルを集めてJavaScriptで仕掛けてみたもの。
ランダムな組合せは、当然99%がクズである。
しかし自分の考えが及ばない/あり得ない組合せの中に、わずかだが見るべきものが見つかる。
たとえば下のような修飾語と名詞のリストから始めたとする。
同じ行の修飾語と名詞は、常識的につながるペアとなっている。
1つずつずらして/ランダムに組み合わせた結果を検討していこう。例えば、
・呼びかける こだま → あたりまえ
・呼びかける 患者 → ちょっとホラー系
・呼びかける ゴミ → 「ちょっと、おじさん。あたしを捨てたわね!」
筒井康隆のはではでしい失敗のせいか、大抵の小説指南書には「擬人化はやめとけ」とあるが、絶滅危惧種のショートショートの中では顕在である。
地雷臭がぷんぷんするが、ショートショートだから駄作に終わっても次のを書けばよい。
少しでも書けそうな奇想が見つかれば、とにかく書けというから、手順を進めるために先へ進もう。
Step2 因果展開で奇想を世界観に
ひとつの出来事であれ行動であれ、それが蔵している可能性を展開していくのには、手塚治虫がやってたプロットの筋トレ 読書猿Classic: between / beyond readers
で紹介したテヅカ・チャートが便利だ。
ランダム組合せで見つけた奇想を、テヅカ・チャートに接続するには、P.K.ディックが繰り返し問うたあの質問「◯◯は本当はなにものなのか?」※を使おう。
※フォーカシングで知られる哲学者・臨床心理学者ジェンドリンが開発したTAE(Thinking At the Edge(辺縁で考える): 言葉にしがたい思いやアイデアを明確な言葉に展開していく思考法/ドイツ語ではWo Noch Worte Fehlen(未だ言葉に成らざるところ)という)でも、この問いが重要な鍵となるのは興味深い。
拡張版テヅカチャート(因果展開チャート)では、ひとつの項目から次の4種類の派生のさせ方で奇想が蔵している可能性を展開し、世界観へまで持っていく。

つまりひとつのアイデア(以下の図では「呼びかけるゴミ」)について
「それは本当は何?」(黒い二重線)
「それからどうなった?」(青色の→)
「その前はどうだった?」(赤色の→)
「その反対は?/似ているのは?」(オレンジの⇔/=)
という質問の答えをつないでいく。
そして、考えて出たアイデアについても、同じことを繰り返す。
過去/原因の関係をあらわす赤色の→は上方向に、未来/結果の関係をあらわす青色の→は下方向に伸ばすことにしておけば、因果関係を展開していってできあがるチャートは、上から下へと時間が流れるものになっていく。
このチャートは、ひとつのアイデアから派生した世界の因果関係を記述したものになり、またあり得べき出来事の連鎖を包括したものでもある。
簡単に言い直せば、バラバラのおもいつきを原因ー結果の関係や、本質ー代理の関係、類似や対称の関係で結び合わせて1枚にまとめるわけだ。こうすると最初の思いつきから広がる可能性が、世界はどのようであり、どんなことが起こりそうかへとつながっていく。
たとえば
・「呼びかけるゴミ」って何よ?
・ゴミが喋るんじゃない?
・つまり意識というか自我をもっているゴミ
・自我があったらゴミはどうする?
・文句の一つも言うんじゃないの?「よくもあたしを捨てたわね」とか
・訴えられるかもね、ゴミに
・ゴミはいっぱいだから多勢に無勢だな、人の味方につくゴミはいないのか?
・ゴミが喋るくらいだから、他の物も喋るんじゃ?
・じゃあゴミの敵であるゴミ箱は人間側について「ゴミはゴミらしくゴミ箱はいっとれ」とか
・部屋をゴミ屋敷にしてたら、自我を持った部屋に訴えられて立退きせまられるとか
……
とつらつら考えを伸ばして(飛ばして)行って、それをチャートにしていく。

すると、このようなチャートができてくる(まだまだ広げる事ができるだろう)。
こうして、最初はダジャレのようなものにすぎなかった「呼びかけるゴミ」という奇想から、それが存在する世界はどのようであり、どんなことが起こりそうかが広がっていく。
この後は、
(1)できあがったチャートの中で一番光る部分を取り出す
(2)語りの視点を決める
(3)どこからはじめてどこで終えるかを考える
(4)納得行くまで(1)(2)(3)のいずれかに戻って繰り返す
ことでショートショートならば、あらすじや下書きに近いものが出来上がる。
(因果展開チャートを考える導きの問い)
(1)本質の派生(黒い二重線)
(導きの質問)
・それは本当は何なのか?
・いったいなんなの?
・それは何だったの?
・それは何の代わりなのか?
・それは何の現れなのか?
(2)過去/原因の派生(赤い上向きの矢印)
(導きの質問)
・その前は?
・その原因は?
・なぜそうなるの?
・どうしてそうなった?
(3)未来/結果の派生(青い下向きの矢印)
(導きの質問)
・その後は?
・その結果は?
・それで何が可能になる?
・それでどうなるの?
・どんな間違いが起こるの?
・どんな驚きが待っているの?
(4)その他の派生(オレンジ色の線)
・これと反対のものは?
・これと似ているものは?
Step3 表現は凝らずにググる/ストックを使う
ショートショートはとにかく速く書き上げるのが肝要。
江坂遊は、ショートショート書きの過程で、つまって時間を取られる表現を凝る部分を、よく出てくる描写のストック集を作っておくことで作業の効率化を図っている。
つまり「男性」「女性」「子ども」「老人」「所作」「喜怒哀楽」「場所」などを表現する短文フレーズを作り置きしておくのである。
表現ストック集をつくるのは、たとえばストーリーが浮かばないときなどにやるとよい。
やり方は何かをスケッチの場合にように目の前においてを描写する、誰かにモデルになってもらう、鏡に自分を写してやるなどがある。
メリットとしては、作業時間の短縮の他にも、
1.文章というレンズを通した観察力がつく
2.描写の断片を書いている間にアイデアが浮かびやすい
3.(自分を描写)鏡を通して自分を長い時間眺めることで、他人に見えている自分を知り、見かけがましになる(かもしれない)
などがある。
書き始めたばかりの我々は まだストックの用意がないから、ここではより簡易に、検索することで対応する。
無料でここまでできる→日本語を書くのに役立つサイト20選まとめ 読書猿Classic: between / beyond readers
で紹介したサイトが利用できる。
なかでも
◯日本語表現インフォ(小説の言葉集):ピンとくる描写が見つかる辞典
hyogen.info/
は、自分で表現ストック集をつくるときにも参考になるだろう。
他に、
◯日本語用例検索(青空文庫を対象に)
www.let.osaka-u.ac.jp/~tanomura/kwic/aozora/
◯小説投稿サイト横断検索
https://www.google.com/cse/publicurl?....
も利用できるだろう。
Step4 落語5大オチでしめる
何事をも終わらせることが難しい。
最高のラストが書ければもちろん一番いいのだが、そこで迷って途中で投げ出してはせっかく短いものにとりかかった甲斐がない。
日本には、落語というショートストーリー・テリングの伝統があって、物語を終わらせる手練手管をストックしている。それらを借用することで、ともかくも終わらせることができる。うまくいけば、なんとも言えない不思議な余韻を残すことも可能だ。
ショートショートを終わらせるのに使える5大ストックは以下のとおりである。
概ね(1)→(5)へと番号が進むほど難しくなる感じがある。
(1)地口落ち
だじゃれで慣用句などに結びつけ、けりをつける。
ストーリーの展開が手に負えなくなっても、地口落ちがあれば何とかなる。
それまでの展開と何の関係もなくても、よく知られているフレーズ、ことわざ、慣用句にダジャレで結びつけて、「終わり」と書けば、なんとなく終わった感じがしてしまうのだから不思議である。
しかし好事魔多し。万能故に、強引かつ安易に見えるのは仕方がない。
強引さ安易さを薄めるには、たとえば本体の話をくだらない話にする。思いっきりくだらない話だと、むしろ地口落ちが比較的ましに見えてしまう。
あるいはショートショートの核に何かの慣用句を採用して(つまり仕込んでおいて)、最後はその慣用句か、ひとつずらして関連した別の言葉の地口で終える手もある。
たとえば「思う壺」という慣用表現を、因果展開チャートに放り込んで、ディックの質問「これは本当は何のことか?」を適用し、慣用表現をあえて字句どおりに理解して「自我を持った壺」→「精神を壺に移し替え、木偶に壺を被せると人間になる」のような設定に発展させ、そこから派生する世界観をチャートでつくり、その一部を切り取って物語にする。で、ラストに「思う壺」の地口落ちでしめる、など。
(2)見立て落ち
似ているところはあるがとんでもないものを見立てて想起させ、その異様さで煙に巻く。
地口落ちが音声の類似をテコにしたものだとすると、見立ては視覚的類似をテコとする。しかし本当に似ているというより、本来あるべきものの代わりにとんでもないものが、という趣向で落ちとする。
視覚的類似とともに、置き換えの落差が肝になる。
落語の『首提灯』では、あんまり鮮やかに切られたので首を切られた当人が気付かないまま、切られた生首を提灯のように差し上げるところで終わる。
(3)まぬけ落ち
おとぼけ、ズレ、ナンセンスで幕を引く。
落語だと『粗忽長屋』では、行き倒れを自分の死骸と錯覚して抱えあげた粗忽者が「この死人はおれに違えねえが,抱いてるおれは誰だろう」と、自分が死んでいるのも気づかぬくらいの粗忽さで笑わせて終わる(先の『首提灯』にもこの要素がある)。
ショートショートは短いので、そもそも異様なシチュエーションで勝負するものが多いが、見立て落ちが異様さのアクセルを最後に踏み込んで終わるのに対して、まぬけ落ちは間抜け方向の異様さのアクセルを同じく踏み込んで加速し終わらせるもの。
(4)考え落ち
パッと聞いたところではよく分からないが、よく考えるとつながり、読み手の思考が補完することによって完成する落ち。落語の逆さ落ちや回り落ちも、ここではこの分類に含んでいる。
ショートショートの短さを逆手にとり、物語が終わった後をおのずから想起させて、長い印象を残すやり方。そのせいかショートショートで、この終わり方をするものは少なくない。
皮肉な逆転敗北や、入れ子構造や悲劇循環の暗示で、異常さを印象づけて終わらせる。後に引く印象を残す。
皮肉な逆転敗北は、たとえば物語中の被害者ー加害者の関係が最後に入れ替わって「このあとどうなるの?」という余韻を残して終わるもの。
入れ子構造の暗示は、物語中物語などストーリー世界の階層を最後で一つ追加することで、無限に入れ子が続くような余韻を残す。
悲劇循環の暗示は、ひどい結末が物語の冒頭につながっており、いつまでも悲劇が続くような余韻を残す。
(5)離れ落ち
さっと場面転換して潔い終わり方にする。
落語では、いくつかの小噺をつないで、最初にやった小噺から遠く離れた状態で一貫性が無く終わるものをいうが、ここでは上記のような技巧的な落ちを取らず、さっと終わって物語をまとめるもの。
特徴的な部分がないので摸倣は難しいが、ショートショートの名手はこれを使いこなす。
(その他の参考文献)
◯ジェンドリンのTAEについての邦語文献
◯ショートショートの名手たち




http://ywp.nanowrimo.org/workbooks
は、いかにもアメリカ的なテキストで、参加した誰もが完走できることを目標にし、できる人はさらに先へ進める足掛かりとなるようにできている。
正直、日本語のものでこの域に達しているものは見つけることができなかったが、迫っているものとしては、星新一の弟子だというショートショート専業作家 江坂遊のこの本が、頭一つ抜け出た感がある。
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ショートショートであることももちろん利いているけれど、(狭い意味での)文学的なるものとは程遠いアプローチをとっていることも大きい。なんというか工作っぽいのだ。
とにかく駄作だろうとなんだろうと完成させることに徹している。未完の傑作には何の価値もない。
そして「おもしろい」や「出来が良い」は、数をこなすことで実現するというスタンスに立っている。
ショートショートは短い。完成させやすい。短い時間で書ける。たくさん書ける。手直しも楽。トレーニングにもってこいだ(商業的には厳しくとも)。
この本はマニュアルとしてかなり丁寧な出来だと思うが、ブログ記事ですべてを伝えるには分量が多い。
なので、最短のステップで最後まで行けるようにかいつまんで紹介し、Step2のところは「機能・歴史・比較」を考えて展開する代わりに別の方法(拡張版テヅカ・チャート)に差し替えた。
元のやり方は上の本を参照されたし。
Step1 奇想は組合せでつくる
「落ちから考え付くのかと聞きますけど、それは逆なんですね。僕の場合は、異常なシチュエーションができれば、それにふさわしいストーリーというのは、わりに簡単に考え付く」(星新一、不詳)
ショートショートはアイデアが命。
しかし何のアイデアが核となるかといえば、星新一はシチュエーションのそれだという。
では誰も考えてないようなシチュエーションはどうやったら思いつくのか?
「そもそも、アイデア捻出の原則はひとつしかない。異質なものを結びつけよ、である。常識の殻を破りたいとは、だれでも考えていることだ。しかし、この殻は非常に強固なもので、いかに待っても自然には割れてくれない。異質なものとの結びつきによってのみ可能なようである」(星新一「死刑をたのしく」『進化した猿たち』収録)
弟子の江坂遊によれば、星新一は膨大な知識を前提に、この組合せ作業を頭のなかで繰り返し、ただ成果だけをどんどんメモ帳に書き出していったという。
しかし物書きには幅広い知識が必要だ、で終わっては、どうしようもない。
江坂本では、実にアッケラカンとした作業でこのプロセスを代替する。
まずは意識を介在させずにランダムで組み合わせて、あとで評価するのである。具体的には、
(1)小説(短篇集だと効率がいい)や雑誌の記事のタイトルを集めて抜き出す。
(2)集めたタイトルを分解する。たとえばタイトルを修飾語と名詞に分ける。
(3)バラしたぞれぞれを(上の例なら修飾語と名詞のリストからひとつずつ取り出して)組み合わせる。
(4)組み合わせの中に〈光るもの〉が見つかるまで(3)を繰り返す。
これだけである。
修飾語と名詞のリストから、1つずつずらして総当りでもいいし(江坂本ではExcelでやっている)、簡単なランダム組合せの仕掛けをつくっておいてもいい(いろいろ使えるので)。
Excelでつくったのをここ(ファイル名text-randomizer.xlsx 266KB)に置いた。

C行とD行に修飾語と名詞のリストを入力して再計算する(F9キーを押せばいい)と、新しい組合せをランダムで作ってくれる(元々は古今集のフレーズをシャッフルして和歌をつくるのに使った仕掛け)。
こちらは国会図書館にあった短編集からタイトルを集めてJavaScriptで仕掛けてみたもの。
ランダムな組合せは、当然99%がクズである。
しかし自分の考えが及ばない/あり得ない組合せの中に、わずかだが見るべきものが見つかる。
たとえば下のような修飾語と名詞のリストから始めたとする。
修飾語 | 名詞 |
呼びかける | こだま |
蘇生する | 患者 |
吸引する | ゴミ |
若返る | クリーム |
女だけの | パーティ |
ギザギザの | ふた |
海鳴りが聞こえる | 岬 |
鼓動の音が聞こえる | 二人 |
不治の | 病 |
そぼふる | 雨 |
同じ行の修飾語と名詞は、常識的につながるペアとなっている。
1つずつずらして/ランダムに組み合わせた結果を検討していこう。例えば、
・呼びかける こだま → あたりまえ
・呼びかける 患者 → ちょっとホラー系
・呼びかける ゴミ → 「ちょっと、おじさん。あたしを捨てたわね!」
筒井康隆のはではでしい失敗のせいか、大抵の小説指南書には「擬人化はやめとけ」とあるが、絶滅危惧種のショートショートの中では顕在である。
地雷臭がぷんぷんするが、ショートショートだから駄作に終わっても次のを書けばよい。
少しでも書けそうな奇想が見つかれば、とにかく書けというから、手順を進めるために先へ進もう。
Step2 因果展開で奇想を世界観に
ひとつの出来事であれ行動であれ、それが蔵している可能性を展開していくのには、手塚治虫がやってたプロットの筋トレ 読書猿Classic: between / beyond readers

ランダム組合せで見つけた奇想を、テヅカ・チャートに接続するには、P.K.ディックが繰り返し問うたあの質問「◯◯は本当はなにものなのか?」※を使おう。
※フォーカシングで知られる哲学者・臨床心理学者ジェンドリンが開発したTAE(Thinking At the Edge(辺縁で考える): 言葉にしがたい思いやアイデアを明確な言葉に展開していく思考法/ドイツ語ではWo Noch Worte Fehlen(未だ言葉に成らざるところ)という)でも、この問いが重要な鍵となるのは興味深い。
拡張版テヅカチャート(因果展開チャート)では、ひとつの項目から次の4種類の派生のさせ方で奇想が蔵している可能性を展開し、世界観へまで持っていく。

つまりひとつのアイデア(以下の図では「呼びかけるゴミ」)について
「それは本当は何?」(黒い二重線)
「それからどうなった?」(青色の→)
「その前はどうだった?」(赤色の→)
「その反対は?/似ているのは?」(オレンジの⇔/=)
という質問の答えをつないでいく。
そして、考えて出たアイデアについても、同じことを繰り返す。
過去/原因の関係をあらわす赤色の→は上方向に、未来/結果の関係をあらわす青色の→は下方向に伸ばすことにしておけば、因果関係を展開していってできあがるチャートは、上から下へと時間が流れるものになっていく。
このチャートは、ひとつのアイデアから派生した世界の因果関係を記述したものになり、またあり得べき出来事の連鎖を包括したものでもある。
簡単に言い直せば、バラバラのおもいつきを原因ー結果の関係や、本質ー代理の関係、類似や対称の関係で結び合わせて1枚にまとめるわけだ。こうすると最初の思いつきから広がる可能性が、世界はどのようであり、どんなことが起こりそうかへとつながっていく。
たとえば
・「呼びかけるゴミ」って何よ?
・ゴミが喋るんじゃない?
・つまり意識というか自我をもっているゴミ
・自我があったらゴミはどうする?
・文句の一つも言うんじゃないの?「よくもあたしを捨てたわね」とか
・訴えられるかもね、ゴミに
・ゴミはいっぱいだから多勢に無勢だな、人の味方につくゴミはいないのか?
・ゴミが喋るくらいだから、他の物も喋るんじゃ?
・じゃあゴミの敵であるゴミ箱は人間側について「ゴミはゴミらしくゴミ箱はいっとれ」とか
・部屋をゴミ屋敷にしてたら、自我を持った部屋に訴えられて立退きせまられるとか
……
とつらつら考えを伸ばして(飛ばして)行って、それをチャートにしていく。

すると、このようなチャートができてくる(まだまだ広げる事ができるだろう)。
こうして、最初はダジャレのようなものにすぎなかった「呼びかけるゴミ」という奇想から、それが存在する世界はどのようであり、どんなことが起こりそうかが広がっていく。
この後は、
(1)できあがったチャートの中で一番光る部分を取り出す
(2)語りの視点を決める
(3)どこからはじめてどこで終えるかを考える
(4)納得行くまで(1)(2)(3)のいずれかに戻って繰り返す
ことでショートショートならば、あらすじや下書きに近いものが出来上がる。
(因果展開チャートを考える導きの問い)
(1)本質の派生(黒い二重線)
(導きの質問)
・それは本当は何なのか?
・いったいなんなの?
・それは何だったの?
・それは何の代わりなのか?
・それは何の現れなのか?
(2)過去/原因の派生(赤い上向きの矢印)
(導きの質問)
・その前は?
・その原因は?
・なぜそうなるの?
・どうしてそうなった?
(3)未来/結果の派生(青い下向きの矢印)
(導きの質問)
・その後は?
・その結果は?
・それで何が可能になる?
・それでどうなるの?
・どんな間違いが起こるの?
・どんな驚きが待っているの?
(4)その他の派生(オレンジ色の線)
・これと反対のものは?
・これと似ているものは?
Step3 表現は凝らずにググる/ストックを使う
ショートショートはとにかく速く書き上げるのが肝要。
江坂遊は、ショートショート書きの過程で、つまって時間を取られる表現を凝る部分を、よく出てくる描写のストック集を作っておくことで作業の効率化を図っている。
つまり「男性」「女性」「子ども」「老人」「所作」「喜怒哀楽」「場所」などを表現する短文フレーズを作り置きしておくのである。
表現ストック集をつくるのは、たとえばストーリーが浮かばないときなどにやるとよい。
やり方は何かをスケッチの場合にように目の前においてを描写する、誰かにモデルになってもらう、鏡に自分を写してやるなどがある。
メリットとしては、作業時間の短縮の他にも、
1.文章というレンズを通した観察力がつく
2.描写の断片を書いている間にアイデアが浮かびやすい
3.(自分を描写)鏡を通して自分を長い時間眺めることで、他人に見えている自分を知り、見かけがましになる(かもしれない)
などがある。
書き始めたばかりの我々は まだストックの用意がないから、ここではより簡易に、検索することで対応する。
無料でここまでできる→日本語を書くのに役立つサイト20選まとめ 読書猿Classic: between / beyond readers

なかでも
◯日本語表現インフォ(小説の言葉集):ピンとくる描写が見つかる辞典
hyogen.info/
は、自分で表現ストック集をつくるときにも参考になるだろう。
他に、
◯日本語用例検索(青空文庫を対象に)
www.let.osaka-u.ac.jp/~tanomura/kwic/aozora/
◯小説投稿サイト横断検索
https://www.google.com/cse/publicurl?....
も利用できるだろう。
Step4 落語5大オチでしめる
何事をも終わらせることが難しい。
最高のラストが書ければもちろん一番いいのだが、そこで迷って途中で投げ出してはせっかく短いものにとりかかった甲斐がない。
日本には、落語というショートストーリー・テリングの伝統があって、物語を終わらせる手練手管をストックしている。それらを借用することで、ともかくも終わらせることができる。うまくいけば、なんとも言えない不思議な余韻を残すことも可能だ。
ショートショートを終わらせるのに使える5大ストックは以下のとおりである。
概ね(1)→(5)へと番号が進むほど難しくなる感じがある。
(1)地口落ち
だじゃれで慣用句などに結びつけ、けりをつける。
ストーリーの展開が手に負えなくなっても、地口落ちがあれば何とかなる。
それまでの展開と何の関係もなくても、よく知られているフレーズ、ことわざ、慣用句にダジャレで結びつけて、「終わり」と書けば、なんとなく終わった感じがしてしまうのだから不思議である。
しかし好事魔多し。万能故に、強引かつ安易に見えるのは仕方がない。
強引さ安易さを薄めるには、たとえば本体の話をくだらない話にする。思いっきりくだらない話だと、むしろ地口落ちが比較的ましに見えてしまう。
あるいはショートショートの核に何かの慣用句を採用して(つまり仕込んでおいて)、最後はその慣用句か、ひとつずらして関連した別の言葉の地口で終える手もある。
たとえば「思う壺」という慣用表現を、因果展開チャートに放り込んで、ディックの質問「これは本当は何のことか?」を適用し、慣用表現をあえて字句どおりに理解して「自我を持った壺」→「精神を壺に移し替え、木偶に壺を被せると人間になる」のような設定に発展させ、そこから派生する世界観をチャートでつくり、その一部を切り取って物語にする。で、ラストに「思う壺」の地口落ちでしめる、など。
(2)見立て落ち
似ているところはあるがとんでもないものを見立てて想起させ、その異様さで煙に巻く。
地口落ちが音声の類似をテコにしたものだとすると、見立ては視覚的類似をテコとする。しかし本当に似ているというより、本来あるべきものの代わりにとんでもないものが、という趣向で落ちとする。
視覚的類似とともに、置き換えの落差が肝になる。
落語の『首提灯』では、あんまり鮮やかに切られたので首を切られた当人が気付かないまま、切られた生首を提灯のように差し上げるところで終わる。
(3)まぬけ落ち
おとぼけ、ズレ、ナンセンスで幕を引く。
落語だと『粗忽長屋』では、行き倒れを自分の死骸と錯覚して抱えあげた粗忽者が「この死人はおれに違えねえが,抱いてるおれは誰だろう」と、自分が死んでいるのも気づかぬくらいの粗忽さで笑わせて終わる(先の『首提灯』にもこの要素がある)。
ショートショートは短いので、そもそも異様なシチュエーションで勝負するものが多いが、見立て落ちが異様さのアクセルを最後に踏み込んで終わるのに対して、まぬけ落ちは間抜け方向の異様さのアクセルを同じく踏み込んで加速し終わらせるもの。
(4)考え落ち
パッと聞いたところではよく分からないが、よく考えるとつながり、読み手の思考が補完することによって完成する落ち。落語の逆さ落ちや回り落ちも、ここではこの分類に含んでいる。
ショートショートの短さを逆手にとり、物語が終わった後をおのずから想起させて、長い印象を残すやり方。そのせいかショートショートで、この終わり方をするものは少なくない。
皮肉な逆転敗北や、入れ子構造や悲劇循環の暗示で、異常さを印象づけて終わらせる。後に引く印象を残す。
皮肉な逆転敗北は、たとえば物語中の被害者ー加害者の関係が最後に入れ替わって「このあとどうなるの?」という余韻を残して終わるもの。
入れ子構造の暗示は、物語中物語などストーリー世界の階層を最後で一つ追加することで、無限に入れ子が続くような余韻を残す。
悲劇循環の暗示は、ひどい結末が物語の冒頭につながっており、いつまでも悲劇が続くような余韻を残す。
(5)離れ落ち
さっと場面転換して潔い終わり方にする。
落語では、いくつかの小噺をつないで、最初にやった小噺から遠く離れた状態で一貫性が無く終わるものをいうが、ここでは上記のような技巧的な落ちを取らず、さっと終わって物語をまとめるもの。
特徴的な部分がないので摸倣は難しいが、ショートショートの名手はこれを使いこなす。
(その他の参考文献)
◯ジェンドリンのTAEについての邦語文献
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◯ショートショートの名手たち
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