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2013.12.07
書くのに必要なすべてのものー野田のフロー(流れ)図と創作系記事まとめ
およそある程度以上の長さをもつ文章であるならば、次の3つの成分からできている。
A.書きたいもの/書く動機
B.書かなくてはならないもの(具)
C.従うべきもの(枠や構成)
A.書きたいもの/書く動機
文章の核には、書き手が書きたいものや書く動機がある。
これなしには、文章書きは途中で放棄されてしまうだろうし、そもそも書きはじめようとはしないだろう。
それは「これ(この発見/この場面)を書きたいだ!」といった直接的なものだったり、「認められたい」や「復讐してやる」や「単位がほしい」といった間接的な何かかもしれない。
実をいえば、これらの文章の核となる〈書きたいもの〉や〈書く動機〉は、最終稿に残らないことも多い。また書かれたとしても、分量的には全体のほんの一部分であることも少なくない。
逆に言えば、文章の多くは〈書きたいもの〉以外の要素で埋められる。
しかし分量的にわずかだとしても、核となるものは不可欠であり重要である。
文章が成り立つのに必要な要素は、後述するように、よそから集めてくることができる。我々が使うことができる言葉は、何らかの形ですでに誰かが使ったものである(でなければ、言葉を受け取る誰かは、あなたの発した言葉を理解できないだろう)。
しかし、あなたが文章を書く理由、書きたいという欲望は、外から調達してくる訳にはいかない。
かき集められたよそ者が一つのまとまりをつくるのは、この核があるからである。
B.書かなくてはならないもの(具)
書きたいものを書くだけでは、文章は成り立たない。
文章は成り立たせるために、書くべきものがある。論文ならデータやデータの集め方(方法)といったパートが求められるし、小説なら登場人物のイカす会話だけでなく、連中がどこで何をしながら喋っているかを説明ないし描写する必要がある。
この書かなくてはならないものを〈具〉と呼ぼう。「餃子の具」と同じ用法だ。
普通、文章の大部分はこの〈具〉から構成される。
書き方を学ぶことの大半は、この〈具〉というリソースを蓄積することに費やされる。
C.従うべきもの(枠や構成)
必要なものはまだある。必要な要素がそろっていても、それが乱雑に積み上げられているだけでは文章にならない。
逆に、それぞれの要素が、適切な分量・順序で並べられ配された場合には、文章のパワーつまり説得力や魅力は倍増する。
文章は構成されなくてはならない。構成や構造を成り立たせる骨組みや枠のようなものも、また必要だ。
野田のフロー(流れ)図
ここまではおそらく誰もが知っていることだろう。
しかし、あえて3つに分けて考えるのには理由がある。
長めの文章を書くプロセスを整理するためだ。
長めの文章を書く場合、たくさんの構成要素を取り扱うことが必要だが、人間というものはたくさんの処理を一度にやるのは苦手である。
文章の構成要素を3つに分けて考えることで、複雑な文章執筆の作業を分割し、いくらか見通しのよいものにすることができる。
直線的に進む訳には行かないにしろ、自分が今どの段階に取り組んでいるかが分かりやすくなれば、文章書きのストレスはいくらか軽減する。
文章を構成する3つの成分を、どんな風に(どんな順で、どんなタイミングで)用意すればいいかという点から、文章を書くプロセスを図にしたのが次のものである。

中央を上から下へと進む文章執筆のメインの流れに対して、
A.書きたいもの/書く動機
B.書かなくてはならないもの(具)
C.従うべきもの(枠や構成)
はこんな風にからんでくる。
実はこの図は、SFの翻訳家、作家、コレクターとして知られる野田昌宏の
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という好篇が元ネタである。
ガチャピンのモデルともなった野田のゆるキャラ的容貌やユーモラスな語り口、それに題材のスペース・オペラに付着する荒唐無稽なイメージのせいで、楽しげだが中身薄そうだなという先入観を持っていた自分を殴りつけたくなるほどの、梅棹忠夫以来の知的生産技術の流れをエンターテイメント製作の分野に高い次元で結びつけた完成度の高いマニュアルである。
元の図を示そう。

比較すれば分かるように、先に示した図は、野田の「スペースオペラのストーリーを作る作業の流れ」から、スペースオペラ特有の要素を抜いて簡約化したものである。
簡約化することでこのダイアグラムは汎用となる。つまり、文章の種類に合わせて、文章を構成する3つの要素(リソース)を用意すれば、そのまま適用できるものとなる。
たとえば論文を書く場合なら(簡単に書けば)、
A.書きたいもの/書く動機 → あなたの研究(その発見、成果)
B.書かなくてはならないもの(具) → データ、データ採集の方法、先行研究など
C.従うべきもの(枠や構成) →IMRAD(Introduction, Methods, Results And Discussion)
となる。
書くためにいかに読むか-3つの読み方
簡約化された野田のフロー図は、文章の種類/ジャンルに合わせて文章を構成する3つの要素(リソース)を用意すれば、様々なものに使える。
では、書きたい文章に合わせるために、
A.書きたいもの/書く動機
B.書かなくてはならないもの(具)
C.従うべきもの(枠や構成)
のそれぞれについて、どのように用意すれば/仕込めばよいか?
まずは読書に限って、野田の読書に関する指摘をヒントに考えてみよう。
おそらく野田は、1つの文章(作品)を生み出すことにとどまらず、生み出せる人間になるための中長期的な修行トレーニングを踏まえて、以下のような3つの読書を想定している(仰々しいネーミングはこのブログ用に勝手に考えたもので、野田の流儀ではない)。
a.コモンセンスを獲得する全方位読書
b.コモンファクターを抽出する特定分野読書
c.ストラクチャーを解析する一作限定読書
そしてこれら3種類の読書は、文章を構成する先の3つの要素に、それぞれ対応づけることができる。
a.コモンセンスを獲得する全方位読書〜A.書きたいもの/書く動機
すでに書きたいもの/書くべきものが決まっている場合には、b.の分野特定的な読書へ進むことができるが、まずその手前の段階を考えよう。
何が書きたいのか、自分でもまだ分からないような段階だ。
このような場合、ひとかけらの思いつきが、様々なものを結びつけ、大きな結晶に育っていくことがある。この、ひとかけらの思いつきをとりあえずアイデアと呼ぼう。
アイデアはどこから来るか分からない。だからアイデアを仕込むための読書は全方位的になる。
また常識を超えるためには常識を知ることが必要だ。
無勝手流の独創性は、大抵は、とっくの昔にやり尽くされたものの二番煎じにおわる。
常識を得るための読書は広い範囲に渡る。
大まかには「手当たり次第いろいろ読め」といった指針ぐらいしかないが、それでもいくらか具体的なことを考えるなら、次のような行動方針が出てくる。
・自分がいつもは逍遥(うろうろ)しない領域・分野をあえて訪ねてみる
・読むものの選択にランダムネスを取り入れる(図書館の返却書棚から選ぶ/ランダムに辞書のページを選び芋づる式に調べる、等)
・精神に逆目を立ててくれるような、苦手な分野、嫌いな作家の本を手に取る
とくに好きでもない書物、どうしても好きになれない作品は、あなたが何を書きたいのかを教えてくれる可能性が高い。
「いやいやいや、そうじゃないだろ!」と思わず叫んだ箇所、どうしても納得できない部分に突き当たったなら、それこそがあなたが書きたいと思う何かであり、少なくともその方向を示す断片である。
自分を広げる読書の中で、とくに自分が「否」と叫びたくなるものを読む中で、自分が本当は何を書きたいのかを発見する。
b.コモンファクターを抽出する特定分野読書〜書かなくてはならないもの(具)
書くために読む次のフェイズは、自分が書こうとしているジャンルや自分が書こうとするものの手本となる文章たちを読む中に開かれる。
導きの問いは次のものである。
「これらの文章に共通しているものは何か?」
そうして発見された共通点は、あなたが書こうとする文章が備えているべきもののはずである。
目に付きやすい形式的な要素(たとえば、およそ論文であれば、Introductionを Methodsを Resultsを Discussionを備えている)からさらに踏み込んで、
「どうして私はこれらの作品をこんなにおもしろく感じるのか/感動させるのか」
「これらの文章のどこが素晴らしいのか?それはどこから来ているのか?」
と問うこともできる。
こうした問いの答えを探す中で、人は何を書くべきかを知る。
c.ストラクチャーを解析する一作限定読書〜従うべきもの(枠や構成)
我々は前項で、どんな要素を盛り込めばよいかを探った。
次は、それら要素をどのように並べればよいかを、読む中に探していく。
野田はさらに、これといった一作を徹底的に解析することを勧めている。
つまり特定の文章(ひとつの論文や著作、一つの作品)をリバースエンジニアリングすることで「どんな構成になっているのか」等の問いの答えが得ていくのである。
こうしてC.従うべきもの(枠や構成)についての知識が得られる。
新しい文章を書くたびに必要な作業ではないが、〈書ける人〉になるためのトレーニングとして有用である。新しいジャンルの文章に手を出す場合になど役立つ。
このためのツールとして、野田は、作品全体のプロットを一望できるフォーマットを自作している。
A4大の5mm方眼紙を3枚縦につないだもので、A4版は幅210ミリ、高さ297ミリあるから、3枚分をつなげるとおよそ87センチ。方眼の2マス分の高さを5ページ分に対応させると87cm×5ページ=435ページ分となり、長編小説1冊分のプロットを一望できることになる。
これも野田の本から作例を示しておこう。下記の図は、
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のプロットを抽出したもの。


(クリックで拡大)
基本のフォーマットは、左端に〈ページ〉〈章タイトル/見出し〉の欄をつくり、文章(作品)の全体が収まるよう、方眼の高さを何ページ分を割り当てるか決める。
長編小説ならば、〈場所〉の欄を加えて、残りのスペースを使って出来事=「誰が何をする」を書いていけばよいだろう。
このフォーマットは、野田によって「右往左往シート」と名づけられており、構成・プロットを(右往左往しながら)考え出すために作られたものである。
既存の文章(作品)から構成やプロットを抽出することに用いるのは、むしろ転用なのだが、同じフォーマットを使うことで解析の経験が創作に直結する。
文章(作品)全体を一望できることは極めて重要である。
人間のワーキングメモリは存外に小さい。あることを頭に置きながら別のことを注意を払うことは思った以上に難しい。
別ページに書かれた項目を頭に置く必要があれば、その分自由に使える記憶領域や注意力が減ってしまう。
特に構成がまだ形をとっていない状態では、些細なことが事の成否を左右する。
できるだけ頭に何も置かないために、ページめくりを要しないで文章(作品)全体をながめることができる外部記憶装置が必要である。
3つのリソース領域に対応させたツール群
簡約化された野田のフロー図は汎用であり、あらゆる文章の執筆に適用できる。
知的生産は、執筆というアウトプットを目標とするから、野田のフロー図は知的生産のプロセスを簡単に示したものとも言える。
野田のフロー図が示す3つのリソース領域、
A.書きたいもの/書く動機
B.書かなくてはならないもの(具)
C.従うべきもの(枠や構成)
のそれぞれについて、このブログで紹介してきた主だったツールを以下のように分類することができる。
自分が「A.書きたいもの/書く動機」を見つける段階でとまっているならば、このリソース領域に対応したツールを使ってみるといい。
また「B.書かなくてはならないもの(具)」について不足を感じるならば、このリソース領域に対応したツールを検討する。
「C.従うべきもの(枠や構成)」については、論文や物語については分析した結果をフォーマットにしたものをいくつか提供している。
A.書きたいもの/書く動機に関わるツール
書きたいもの/書く動機を探す段階での探索は、全方位的で手当たり次第なものになる。
「手当たり次第」をサポートするものに、ランダムネスを取り入れたツールがある。
このブログで紹介したものについては、物書きが悪魔と契約する前に試すべき7つの魔道具 読書猿Classic: between / beyond readers

ルルスのアルス・マキナやCrovitzの関係アルゴリズム、グレマスの行為者モデル(民話に共通する構造を取りだしたもの)にタロットカードを適用する

http://www12.atpages.jp/storytools/tarrot_no.php
や、ラファエロの『アテネの学堂』をぶちこんだ

http://www12.atpages.jp/storytools/Scuola_di_Atene.php
は、いずれもリロードすれば違った組合せを示してくれる。
他にはアイデアが降りてこないあなたを神様に助けさせる7つの道具 読書猿Classic: between / beyond readers

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いきなり結果を出す→今日書き終えるためのショートショートの書き方マニュアル 読書猿Classic: between / beyond readers

またウィキペディアのおまかせ表示も意外に役立つ。
しかし、このリソースは日頃の積み上げがものをいう。
食わず嫌いの人へ→頭が冴え物知りになる事典の4つの習慣 読書猿Classic: between / beyond readers

全方位的で手当たり次第の彷徨(うろうろ)の中で出会った/閃いたカケラを展開し、それが持つ可能性を拾い上げるのには、手塚治虫がやってたプロットの筋トレ 読書猿Classic: between / beyond readers


〈拡張テヅカチャート〉が役立つ。
B.書かなくてはならないもの(具)に関わるツール
書きたい方向やテーマやジャンルが決まれば、関連ある文献を集めるのにレファレンスワークに関連するツールが使える。
・ビギナーのための図書館で調べものチートシート 読書猿Classic: between / beyond readers

・ビギナーのための図書館サバイバル・ガイド、他ではあまり書いてないけど大切なこと 読書猿Classic: between / beyond readers

・すべての学問分野をネットで無料で探すための210個のリソースまとめ

・web上のレファレンスツールを1枚にまとめてみた 読書猿Classic: between / beyond readers

・自宅でできるやり方で論文をさがす・あつめる・手に入れる 読書猿Classic: between / beyond readers

などが役に立つだろう。
そして、これら文献検索のプロセスと成果を統合するものとして、次のツールが資料集め・資料同士の比較・資料貫通的読書などに使える
・集めた文献をどう整理すべきか?→知のフロント(前線)を浮かび上がらせるレビュー・マトリクスという方法 読書猿Classic: between / beyond readers

・複数の文献を一望化し横断的読みを実装するコンテンツ・マトリクスという方法 読書猿Classic: between / beyond readers

(物語)
物語づくりに必要な〈具〉、プロットや登場人物、舞台設定などを埋めるために次の記事で紹介したツールがつかえるだろう。
・物書きがネットを使い倒すための7つの検索 読書猿Classic: between / beyond readers

・生まれてはじめて書く人のための、小学生向け小説執筆マニュアル(手順書) 読書猿Classic: between / beyond readers

・物語作者がチラシの裏に書くべき7つの表/もうキャラクター設定表はいらない 読書猿Classic: between / beyond readers

(論文)
論文やレポートについては、次の記事のツール(穴埋め表)が、必要な〈具〉を揃える/足りないところを明らかにするのに役立つ。
・論文に何を書くべきか→これだけは埋めろ→論文作成穴埋めシート 読書猿Classic: between / beyond readers

・論文は何からできているのか?それは何故か?から論文の書き方を説明する 読書猿Classic: between / beyond readers

・何から手をつけていいか分からない人のためのレポート作成の穴埋め表:深く再利用できる読みのために 読書猿Classic: between / beyond readers

・文章の型稽古→穴埋めすれば誰でも書ける魔法の文章テンプレート 読書猿Classic: between / beyond readers

また次の記事に決まり手的な〈具〉のリストがある。
・卒論に今から使える論文表現例文集(日本語版) 読書猿Classic: between / beyond readers

・論文はどんな日本語で書かれているか?アタマとシッポでおさえる論文らしい文の書き方 読書猿Classic: between / beyond readers

・こう言い換えろ→論文に死んでも書いてはいけない言葉30 読書猿Classic: between / beyond readers

C.従うべきもの(枠や構成)に関わるフォーマット
文章の構成要素の並べ方に関する記事には次のものがある。
(物語)
・・これはストーリーをつくるのが苦手な人のために書いた文章です 読書猿Classic: between / beyond readers

(論文)
論文をリバース・エンジニアリングして構造を抽出することについては次の記事が参考になるだろう。
・100冊読む時間があったら論文を100本「解剖」した方が良い 読書猿Classic: between / beyond readers

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