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2014.02.11
一冊の書物にできなくても、図書館にはまだやれることがあるー図書館ビギナーズ・マニュアル
あることを調べようと図書館にやって来た人の多くは、そのテーマを扱った書物を探そうとする。
そして、そうした本を見つけられなければ探しものは失敗したと思う。
では、そのテーマについての書物を所蔵しない図書館はもう何もできないのか?
否、否、三たび否。
あなたが知りたいことに一冊をささげた書物はなくても、図書館にはまだできることがある。
(関連記事)
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・辞書を引くこと、図書館を使うことは「読み書き」の一部である 読書猿Classic: between / beyond readers

一般向け百科事典 general encyclopedia
まず図書館には事典がある。
事典には一般向けの百科事典(英語でgeneral encyclopediaとよぶもの)と専門事典(英語でspecial encyclopedia)がある。
ブリタニカ百科事典や世界大百科事典(平凡社)や大日本百科全書(小学館)などが、よく知られた一般向けの百科事典である。
人によって様々なスタイルがあるが、一般向けの百科事典は探し物の際にまず最初に引くべきものである。
理由は、ほとんどあらゆる分野について、その道の専門家がそこそこの分量を使ってかなりまともな説明してくれているからである。
専門的な知識が必要らしいのだが、自分が知りたい事柄がいったいどの分野に該当するのかが分からないと、どの専門事典、どの専門書、どの専門家に当たればよいかがわからない。
しかし一般向けの百科事典はオールラウンダーである。どの分野かどの専門か考えなくても、とりあえず引くことができる。
複数冊からなる大部な専門事典が多くない日本語では、その手薄なところを一般向けの百科事典がカバーしているところがある。場合によっては専門の事典よりも充実した記述があったり、ほかの邦語文献では扱っていない項目が載っていることもある。いろんな文献を探し回ったがこれといった成果があがらなかったのが、ダメもとで百科事典を引いて解決することだって珍しくない。
また百科事典の記述は、一冊の書物と比べればずっと短い。これは本格的な探索を始める前の予備調査に合った特性である。後ほどもっと大部なもっと専門的な文献に当たるとしても、手短に概要を知っておくことは、理解の深さも速さも改善する。何より関連ワード(専門用語)や固有名詞(人物、文献名)など知っておくことは、探索をうまく運ぶための前提となる。
だからまず手始めに(過度の期待は持たずに)一般向けの百科事典を引くべきである。
◯百科事典の短所
一般向けの百科事典は、ある意味で公共図書館のミニチュアである。
専門図書館や専門事典とは違い、どちらもどんなニーズがあるかあらかじめ決め付けることができないから、限りあるスペースや予算の中で、できるだけ抜けたエリアが出ないよう努めている。
その結果、かなり広い分野をカバーすることになるのだが、一個人の特殊なニーズから見ると物足りないものになる。
図書館で言えば「いろんな本があるが(あるのに)、自分の読みたい本はない」、百科事典でいえば「さまざまな分野の項目があるが(あるのに)、自分が知りたいことが書いていない」とがっかりした体験がある人も少なくないだろう。
図書館も百科事典も、調べ物をクエストと考えれば、最初に立ち寄る街にすぎない。そこでは良くて最低限の装備と手がかりが手に入るだけだ。
そこでの「がっかり感」は、旅がまだはじまったばかりであることを教えている。
◯百科事典の必要
百科事典はかなり広い分野をカバーしている。
前に書いたことがあるが、百科事典はあなたが知りたいようなこと(たとえば先ごろ見知った最新の知識)は書いていない。むしろ、あなたが知っているべきことが書いてある。
一般向けの百科事典は特殊なトレーニングを積んでいなくても、基本的には誰でも引いて調べることができるものである。つまりそこに書いてある知識は、原則的には誰でもアクセス可能な知識であると見なすことができる。
したがって物を書く人は、百科事典に書いてあるようなことは前提にして、それ以上・それ以外のことを書くことに集中することができる。
百科事典に載っているのは、あなたが今実際には知っていなくても、知ることができる知識、すなわち《可能性としての知識》である。
これを読み手の立場に置きなおせば、百科事典に書いてあるようなことはすでに知っているか、でなければすぐに引くことができるか、いずれかでないと、まともな人が書いたまともな文献を読むことができない、ということでもある。
百科事典には何が書いてあるのか? 読書猿Classic: between / beyond readers

◯百科事典が力を発揮するのは
実用的な観点から、さらに一言付け加えると、辞典・事典が力を発揮するのは、あなたが知らない事柄を引くときではなく、あなたがすでに知っている(と思っている)事柄を調べる場面で、である。
知らない事項を辞書を調べて、運よくそれが載っていたとしよう。あなたはそれを読み、分からないという不愉快な状態を脱して安心する。しかし、これは知識を身につけるのには悪い状況である。あなたの精神はすでに臨戦態勢を解いており、不愉快は解消され、あなたは新しい事柄を身につける必要から既に脱している。
逆にすでに知っている(と思っている)事柄を調べたとしよう。相当な人でないかぎり、辞典・事典には、その事柄についてだけでも、あなたが知っていた以上の知識が登載されている。一部分はあなたが既に知っていたことだが、一部分は知らなかったことであり、また一部分は自分の知識とは異なることである。今、あなたは驚きと好奇心の中にある。世界は(ほんの一部分であれ)あなたが思っていたようではなかったのだ。今やあなたには学ぶべき必要があり動機付けがある。加えてあなたの中には、その事項について既に知っている知識がある。これは新しい知識を結わい付けるフックになる。これだけの好条件が揃って何も学ばない人はいない。
辞書をうまく使えない人は、わからない言葉だけを引いている 読書猿Classic: between / beyond readers

食わず嫌いの人へ→頭が冴え物知りになる事典の4つの習慣 読書猿Classic: between / beyond readers

かなり広い分野をカバーしている百科事典は、あなたが知りたい新奇な項目よりも、あなたがすでに知っている(と思っている)事柄をより多く登載している(これが人が「百科事典に知りたいことが載っていない」と思う理由のひとつである)。
たとえば自転車を知らない人はほとんどいないだろう。しかし自転車について百科事典に書いてあることをすべて知る人は少ない(知っている人はきっと自転車の専門家だろう)。
すでに知っている(と思っている)事柄については、人はわざわざ調べようとしない。たとえそれが調べものに関わっていても、である。
具体例を出した方が分かりやすいだろう。
イギリスの住宅政策の変遷を調べていて、背景知識として当然必要であるイギリス近現代の政治史についてほとんどまったく無知のまま悪戦苦闘していたことがある。何しろ普通選挙権の拡大がいつだったかも知らないほどだった。まったく言い訳だが、調べもののテーマを絞り込むこと(これはまともな調査には不可欠である)に努めていると、それとは逆方向の行為に時間も意識も割かなくなる。まずいことになったと気付いて、イギリス政治史の文献を集めだしたのだが、実は知るべき最低限度のことは百科事典の「イギリス」の項目の中の「政治」の項にほとんどすべて書いてあった。《可能性としての知識》としての常識的知識を提供する百科事典の役割からいって当たり前である。しかしその時は当たり前過ぎて盲点だった。
◯紙の事典かデータベースか
実は、最有名どころの一般向け百科事典はデータベース化されており、CDROMなり有料データベースでなり提供されている。現在の図書館では、これらを利用できるところが多い。
百科事典は大部であり、必要な事柄はあちこちに分散していることが多いから、何冊もの大型書籍を取り回すことになる。
さらに事典は必ず間違っているものだから(あれだけの分量のデータを人間が誤りなく扱えるとは考えられない)、実用には必ず複数の事典を引き比べないといけない(引き比べると有名人の生没年ですら複数の事典で一致しないことが分かるだろう)。そうなれば物理的な取り回しの苦労は倍増する。
電子化された百科事典なら、そうした物理的・肉体的努力が軽減される。
しかしデータベース化されているのは、わずか数種類の一般向け百科事典に過ぎない。専門事典の中ではわずかに『国史大辞典』等がジャパンナレッジで提供されているだけである。
専門事典(special encyclopedia)を使うには、今後も当分の間、紙の事典と付き合う必要がある。
専門事典 special encyclopedia
専門(用語)辞典は専門用語の定義を与えるが、専門(百科)事典はその分野の事項について概説する。
両者の区別は必ずしも明確ではなく、辞典dictonaryと名のついた実質的には事典encyclopediaであるものも少なくない。
たとえば『国史大辞典』は日本史についての代表的な百科事典である。Easton's Bible Dictionaryは聖書用語に関する百科事典であり語義のみの項目も多いものの、多くの見出し語に詳細な解説がなされている。『岩波数学辞典』は数学についての辞典であるが事典的側面も強く、各項目の末尾には参考文献が挙げられている。その英訳タイトルはEncyclopedic Dictionary of Mathematicsという。
専門事典は、一般向け百科事典より専門的な知識・情報を提供してくれるはずである。
しかし複数巻ものの大部な専門事典は買ってくれる相手が限られ出版企画として成立しにくい。
日本ではむしろ百科事典が専門事典的な作り方を部分的に取り入れていて、専門事典の不足を補っている。
たとえば『世界大百科事典』(平凡社)はエリア制という方式を採用し、分野ごとに専門家チームがあたり、チームリーダー(学会の重鎮があたる)が当該分野の項目を誰が書くかを割り振りし、リーダー自身は分野全体を扱う総括的な項目を執筆した。
英語圏では専門事典の数も多く、一般向け百科事典との間に分業が成り立っている。英語の一般向け百科事典の新しい版は、日本語の百科事典よりずっと平易な言葉で記述されている。これらは基本的にホームユースであり、専門知識を学ぶ学生は専門事典(special encyclopedia)を使うことが勧められる。
専門事典を使う場合、自分が知りたい事項がどの分野に属し、どの専門事典を引けばよいのかをどうやって知るかが最初の関門になる。専門事典の種類が増え、いずれも周辺領域をカバーするため担当分野は一部分ずつ重なり合うとなると、この困難は深まるが、英語では何百という専門事典を横断検索できるMaster Indexが存在する(情報ニーズあるところにツールあり)。ユーザーはまずMaster Indexを引き、自分が知りたい事項がどの専門事典のどこに載っているか(これはどの専門分野で扱われているか、ということでもある)を知る。多くの場合、自分の知りたい事項は、複数の専門事典に載っていることが分かる。
専門事典は専門知識の入口であることを目的にしており、さらに詳しく知りたい場合は次に何を読めばよいかを示すために各項目ごとに参考文献リストがついている。Master Indexを引くことで分かった複数の専門事典の複数の項目を巡り、参考文献リストを拾い集めると、複数の専門事典で共通して挙げられている文献が分かる。複数の専門事典の項目で何回出てきたかを数えて並べなおせば、知りたい事項についての基本文献が優先順位つきでリストアップされることになる。
レファレンス、この一冊/事典の横断検索ならFirst stop : the master index to subject encyclopedias 読書猿Classic: between / beyond readers

レファレンス、この一冊/複数の領域を渡り歩くならFirst Stopふたたび 読書猿Classic: between / beyond readers

残念ながら日本語には、このような専門事典の横断検索ツールは存在しない。
ただし人名や地名、作品名については、各種の百科事典・人名事典や作品集などを横断検索できる各分野の『人物レファレンス事典 』『作品レファレンス事典』がいくつか日外アソシエーツから出ている。同様に図鑑や統計資料を横断検索できる『動物レファレンス事典』(外に植物、昆虫など)、『統計図表レファレンス事典』などもある。
被引用索引 Citation Index
専門事典の信頼度は相対的に高く、当該分野についての事項をまとめていることで利用価値は高い。
しかし事典には致命的な欠点がある。
事典は遅い。そこに掲載された知識は古い。
事典は学術情報の流れでいえば最下流に位置する。知識が事典に流れ着くまでには、多くの時間が経過している。
学術情報のライフスパンを概略すれば、研究は学会での口頭や論文として発表されたのち、関連の研究が増え重要性を認められればトピックごとに近年の研究状況をまとめた展望論文に取り上げられ、さらに研究テーマとして発展すればテーマ別の編集本が編まれそこに登載される。そこから多くの研究が派生し学問の中での評価が定まると、教科書に取り入れられ、さらに事典の項目となる。これに辞書が企画されるまでの期間と編集に要する数年が加わる。このように書物は論文よりも、事典はさらにそれ以上に学術情報の流れの下流に位置する。加えて教科書のように改訂版が出ることは少なく、出たとしても数年というスパンではない。このために、先端からの遅れは十数年(時には数十年)を越えてしまう。
◯学術情報のライフスパン

より新しい情報を得るためには、この学術情報の流れを遡ることになる。
幸いにして教科書や専門事典は、それらを書くために参照した研究論文を、それぞれの記述ごとにいちいち明示している。
教科書や専門事典で参照された研究論文は、当然それらの教科書や専門事典がまとめられる以前に発表されたものである。では、その後、その論文を受けてどのように研究が発展したか、具体的にはどのような論文がその後発表されたかを知るためにはどうすればよいか?
Aという論文の後に発表された研究がもし、A論文の研究を発展させ、あるいは否定しているものならば、必ずやA論文を引用しているはずである。
これをA論文の方から見れば《引用されている》ことになるが、世の中にはこうした引用関係を汲み上げて論文ごとに被引用情報としてまとめなおしたCitation Indexというものが存在する。これを使えば、ある論文から見て未来の研究を見つけることができる。
未来をつくる索引-ガーフィールドとCitation Indexの挑戦 読書猿Classic: between / beyond readers

Citation Indexは、ユージン・ガーフィールドが設立したInstitute for Scientific Information (ISI)により1960年代以降紙ベースで提供されていたが、現在はWeb of Scienceで提供されている。大学図書館の契約データベースに入っていることが多い。
他にGoogle ScholarやPubMedでも被引用・被参照文献を見ることができる。
この方法にも欠点がある。個々の論文から被引用・被参照関係をいちいち抽出することは非常に手間がかかる作業であり、すべての文献について行うことは事実上不可能である。そのためCitation Indexは、より多く引用・参照されている文献を掲載している主要な学術誌に対象を限定している。言い換えれば対象雑誌を広げるコストと得られる便益が折り合うところで手を打っているといえる(引用されることの少ないマイナーな学術誌に対象を広げても被引用・被参照関係データは豊かにならない)。
しかし、このことを裏返していえば「主要な」ところから外れた文献を見つけるのには役に立たない。
たとえば日本語文献については対象にならない。日本語文献を対象としている論文データベース、たとえばCiNiiでも被引用・被参照関係を一応見ることができるが、現在のところ「見ることができる場合もある」程度に留まっている。
被引用・被参照関係がデータベースに拾い上げられていない文献について、より新しいものを「たぐり寄せる」には、次の古い方法が役に立つ。すなわち、今、手にしている文献の著者名で検索し、同じ著者のより新しい文献を入手する方法である。
専門分化が進んだ現在のアカデミズムでは、ある研究者は同じテーマを研究し続けている可能性が高い。
したがって、同じ著者のより新しい文献には、より新しい知見とともに、より新しい参考文献が載っている可能性が高い。
著者名を手がかりに、時間をすすめ、そこから振り返って参考文献を拾い上げることは、より新しい文献を手に入れる古典的な方法である。
文献をたぐり寄せる技術/そのイモズルは「巨人の肩」につながっている 読書猿Classic: between / beyond readers

自宅でできるやり方で論文をさがす・あつめる・手に入れる 読書猿Classic: between / beyond readers

雑誌記事検索 Periodical Index
参照関係を明示することは、学術情報の外ではいつも行われる訳ではない。
しかし先ほど学術情報を探すところで触れた上流~下流の教訓は活かすことができる。
出版されている書籍のうち、書き下ろしのものは存外少ない。多くは雑誌その他にすでに発表されたものが書籍化である。書き下ろしの場合でも、著者は同種の書き物をすでに発表していることが多い。というのは、ある著者の書き下ろし作品を出版する企画が成り立つためには、その著者に該当分野ですでに何らかのものを発表してきた実績が必要であるからだ。やはり書籍化は遅れてやってくるのである。
時間的な遅れに加えて、雑誌記事のうち改めて書籍化されるのは(雑誌やその記事によるが全体としては)その一部でしかない。書籍は、文献情報のライフスパンから見れば下流に位置し、時間的には遅れ、多くは下流までたどり着かない。
すべての書籍は「中古品」である/図書館で本より雑誌を見るべき5つの理由 読書猿Classic: between / beyond readers

このことを調べものの観点から見れば、雑誌記事の情報は、書籍よりも新しく、また多様性も大きいということになる。つまり当たり外れは大きいが、書籍で得られない情報に出会える可能性がある。また雑誌記事は一般に書籍よりも短く、同じ時間当たりより多くのものに触れることができる。
いずれも調べものをする者からすれば長所か長所に転じる特徴である。
これは英語でだが、ビジネス雑誌から業界雑誌までの雑誌記事情報を収録するBusiness Periodicals Indexは、(a)まだ扱う書籍がないような新しいトピックについて、(b)ポピュラー雑誌に載るよりも専門的で詳しい情報が欲しいが、(c)学術論文を直接読むのは難しすぎるといった情報ニーズに対して、〈専門家が一般向けに書いた解説記事〉を探すのに有益なツールだった。
学術研究が行われているのは(普通に想像するよりはずっと広いのだがそれでも)この世の中で限られた領域に過ぎない。あるのかないのかわからない〈うわさ〉のような、通常の学術雑誌のデータベースには掲載されないような、世相・風俗・事件について調べる場合には、一般雑誌の記事や、後述する新聞記事が役に立つ。
まさにこうした目的のために、週刊誌、総合月刊誌、女性誌、スポーツ誌、芸能誌などの記事を収集/整理しているのが大宅壮一文庫である。
紙の本として『大宅壮一文庫雑誌記事索引総目録』が、データベースとしてWeb OYA-bunkoがある。
新聞記事検索 Newspaper Index
ネット上では新聞を馬鹿にする人も多いが、図書館では新聞は事典の一種である。
今では想像しにくいが、インターネットの普及以前には、書籍や論文に取り上げられていないような〈小さな〉事項また〈新しい〉事項を探す事典として使うことができるほとんど唯一のツールだった。
新聞は、百何十年間、ほとんど毎日データを追加し続けてきたデータベースであり、蓄積と検索のためのツールが早くから整備されている。
たとえば索引つきの縮刷版が長年出され、また多くの図書館で新聞記事から独自の切り抜きや記事索引づくりが行われ、またマイクロフィルム等で過去の紙面が蓄積されてきた。古い雑誌は図書館でも廃棄されることが少なくないが、古い新聞は何らかの形で残っていることが多い。
新聞記事をデータソースに、歴史的出来事についてまとめなおした『新聞集成(明治/大正/昭和編年史)』や最近の主要記事をまとめた『新聞ダイジェスト』などツールも多い。
日本では登場するのが遅く、すぐにデータベース時代が来てしまってあまり定着しなかったものに新聞記事索引がある。『毎日ニュース事典』が1973年から1980年 (収録対象年代は1972年〜1979年)、 『読売ニュース総覧』が1981年から1995年 (収録対象年代は1980年〜1994年)。それぞれ、毎日新聞、読売新聞の記事に対して短い解説・抄録つきの50音順索引である。
英語ではイギリスのTimes紙について、索引誌のタイトルはThe Annual Index→The Official Index→Index to the Time→Times Indexと変遷しているが1906年以来の記事について、別系統のPalmer's Index to Times Newspaperを併用すれば1790年以来の記事について検索できる。アメリカのNew York TImes紙についてはNew York TImes Indexが1913年以来の記事について記事索引を提供している。
新聞記事索引は50音順ないしアルファベット順であり、時間を隔てた同名の事項をまとめて見るのに適している。たとえば繰り返し報じられた大事件について、それぞれ日々の紙面にばらまかれたものをひとまとめになっている。何年もの間をあけて、同様の出来事が繰り返されているのを発見することもできる。
現在では新聞記事データベースを使うのが簡便かつ一般的だろう。一覧性は紙の冊子本に劣るものの、他の資料では望めないほど長い期間を対象に検索ができる。たとえば、
『聞蔵IIビジュアル』では1879年(創刊)から現在までの朝日新聞について、
『ヨミダス歴史館』では1874年(創刊)から現在までの読売新聞について、
『毎索(毎日新聞オンライン)』では1872年(創刊号)から現在までの毎日新聞について、それぞれ検索できる。
これらを使えば、たとえば、ある用語の使用頻度の時間的変遷を検索結果数から知ることなどもできる。
英語では、LexisNexisやProQuest(NewspaperDirectやFactiva.comやProQuest Newspapers)などのデータベースで提供される他に、大英図書館 TheBritish Libraryが300年分の新聞データを検索・購入可能な形で公開している(British Newspaper Archive)。
New York Timesは1851年以来の記事が検索できる。
そして、そうした本を見つけられなければ探しものは失敗したと思う。
では、そのテーマについての書物を所蔵しない図書館はもう何もできないのか?
否、否、三たび否。
あなたが知りたいことに一冊をささげた書物はなくても、図書館にはまだできることがある。
(関連記事)
・ビギナーのための図書館サバイバル・ガイド、他ではあまり書いてないけど大切なこと 読書猿Classic: between / beyond readers

・ネットでは逢えない書物に会いに行くー新入生におくるリアルワールドでの本の探し方 読書猿Classic: between / beyond readers

・辞書を引くこと、図書館を使うことは「読み書き」の一部である 読書猿Classic: between / beyond readers

一般向け百科事典 general encyclopedia
まず図書館には事典がある。
事典には一般向けの百科事典(英語でgeneral encyclopediaとよぶもの)と専門事典(英語でspecial encyclopedia)がある。
ブリタニカ百科事典や世界大百科事典(平凡社)や大日本百科全書(小学館)などが、よく知られた一般向けの百科事典である。
人によって様々なスタイルがあるが、一般向けの百科事典は探し物の際にまず最初に引くべきものである。
理由は、ほとんどあらゆる分野について、その道の専門家がそこそこの分量を使ってかなりまともな説明してくれているからである。
専門的な知識が必要らしいのだが、自分が知りたい事柄がいったいどの分野に該当するのかが分からないと、どの専門事典、どの専門書、どの専門家に当たればよいかがわからない。
しかし一般向けの百科事典はオールラウンダーである。どの分野かどの専門か考えなくても、とりあえず引くことができる。
複数冊からなる大部な専門事典が多くない日本語では、その手薄なところを一般向けの百科事典がカバーしているところがある。場合によっては専門の事典よりも充実した記述があったり、ほかの邦語文献では扱っていない項目が載っていることもある。いろんな文献を探し回ったがこれといった成果があがらなかったのが、ダメもとで百科事典を引いて解決することだって珍しくない。
また百科事典の記述は、一冊の書物と比べればずっと短い。これは本格的な探索を始める前の予備調査に合った特性である。後ほどもっと大部なもっと専門的な文献に当たるとしても、手短に概要を知っておくことは、理解の深さも速さも改善する。何より関連ワード(専門用語)や固有名詞(人物、文献名)など知っておくことは、探索をうまく運ぶための前提となる。
だからまず手始めに(過度の期待は持たずに)一般向けの百科事典を引くべきである。
◯百科事典の短所
一般向けの百科事典は、ある意味で公共図書館のミニチュアである。
専門図書館や専門事典とは違い、どちらもどんなニーズがあるかあらかじめ決め付けることができないから、限りあるスペースや予算の中で、できるだけ抜けたエリアが出ないよう努めている。
その結果、かなり広い分野をカバーすることになるのだが、一個人の特殊なニーズから見ると物足りないものになる。
図書館で言えば「いろんな本があるが(あるのに)、自分の読みたい本はない」、百科事典でいえば「さまざまな分野の項目があるが(あるのに)、自分が知りたいことが書いていない」とがっかりした体験がある人も少なくないだろう。
図書館も百科事典も、調べ物をクエストと考えれば、最初に立ち寄る街にすぎない。そこでは良くて最低限の装備と手がかりが手に入るだけだ。
そこでの「がっかり感」は、旅がまだはじまったばかりであることを教えている。
◯百科事典の必要
百科事典はかなり広い分野をカバーしている。
前に書いたことがあるが、百科事典はあなたが知りたいようなこと(たとえば先ごろ見知った最新の知識)は書いていない。むしろ、あなたが知っているべきことが書いてある。
一般向けの百科事典は特殊なトレーニングを積んでいなくても、基本的には誰でも引いて調べることができるものである。つまりそこに書いてある知識は、原則的には誰でもアクセス可能な知識であると見なすことができる。
したがって物を書く人は、百科事典に書いてあるようなことは前提にして、それ以上・それ以外のことを書くことに集中することができる。
百科事典に載っているのは、あなたが今実際には知っていなくても、知ることができる知識、すなわち《可能性としての知識》である。
これを読み手の立場に置きなおせば、百科事典に書いてあるようなことはすでに知っているか、でなければすぐに引くことができるか、いずれかでないと、まともな人が書いたまともな文献を読むことができない、ということでもある。
百科事典には何が書いてあるのか? 読書猿Classic: between / beyond readers

◯百科事典が力を発揮するのは
実用的な観点から、さらに一言付け加えると、辞典・事典が力を発揮するのは、あなたが知らない事柄を引くときではなく、あなたがすでに知っている(と思っている)事柄を調べる場面で、である。
知らない事項を辞書を調べて、運よくそれが載っていたとしよう。あなたはそれを読み、分からないという不愉快な状態を脱して安心する。しかし、これは知識を身につけるのには悪い状況である。あなたの精神はすでに臨戦態勢を解いており、不愉快は解消され、あなたは新しい事柄を身につける必要から既に脱している。
逆にすでに知っている(と思っている)事柄を調べたとしよう。相当な人でないかぎり、辞典・事典には、その事柄についてだけでも、あなたが知っていた以上の知識が登載されている。一部分はあなたが既に知っていたことだが、一部分は知らなかったことであり、また一部分は自分の知識とは異なることである。今、あなたは驚きと好奇心の中にある。世界は(ほんの一部分であれ)あなたが思っていたようではなかったのだ。今やあなたには学ぶべき必要があり動機付けがある。加えてあなたの中には、その事項について既に知っている知識がある。これは新しい知識を結わい付けるフックになる。これだけの好条件が揃って何も学ばない人はいない。
辞書をうまく使えない人は、わからない言葉だけを引いている 読書猿Classic: between / beyond readers

食わず嫌いの人へ→頭が冴え物知りになる事典の4つの習慣 読書猿Classic: between / beyond readers

かなり広い分野をカバーしている百科事典は、あなたが知りたい新奇な項目よりも、あなたがすでに知っている(と思っている)事柄をより多く登載している(これが人が「百科事典に知りたいことが載っていない」と思う理由のひとつである)。
たとえば自転車を知らない人はほとんどいないだろう。しかし自転車について百科事典に書いてあることをすべて知る人は少ない(知っている人はきっと自転車の専門家だろう)。
すでに知っている(と思っている)事柄については、人はわざわざ調べようとしない。たとえそれが調べものに関わっていても、である。
具体例を出した方が分かりやすいだろう。
イギリスの住宅政策の変遷を調べていて、背景知識として当然必要であるイギリス近現代の政治史についてほとんどまったく無知のまま悪戦苦闘していたことがある。何しろ普通選挙権の拡大がいつだったかも知らないほどだった。まったく言い訳だが、調べもののテーマを絞り込むこと(これはまともな調査には不可欠である)に努めていると、それとは逆方向の行為に時間も意識も割かなくなる。まずいことになったと気付いて、イギリス政治史の文献を集めだしたのだが、実は知るべき最低限度のことは百科事典の「イギリス」の項目の中の「政治」の項にほとんどすべて書いてあった。《可能性としての知識》としての常識的知識を提供する百科事典の役割からいって当たり前である。しかしその時は当たり前過ぎて盲点だった。
◯紙の事典かデータベースか
実は、最有名どころの一般向け百科事典はデータベース化されており、CDROMなり有料データベースでなり提供されている。現在の図書館では、これらを利用できるところが多い。
百科事典は大部であり、必要な事柄はあちこちに分散していることが多いから、何冊もの大型書籍を取り回すことになる。
さらに事典は必ず間違っているものだから(あれだけの分量のデータを人間が誤りなく扱えるとは考えられない)、実用には必ず複数の事典を引き比べないといけない(引き比べると有名人の生没年ですら複数の事典で一致しないことが分かるだろう)。そうなれば物理的な取り回しの苦労は倍増する。
電子化された百科事典なら、そうした物理的・肉体的努力が軽減される。
しかしデータベース化されているのは、わずか数種類の一般向け百科事典に過ぎない。専門事典の中ではわずかに『国史大辞典』等がジャパンナレッジで提供されているだけである。
専門事典(special encyclopedia)を使うには、今後も当分の間、紙の事典と付き合う必要がある。
専門事典 special encyclopedia
専門(用語)辞典は専門用語の定義を与えるが、専門(百科)事典はその分野の事項について概説する。
両者の区別は必ずしも明確ではなく、辞典dictonaryと名のついた実質的には事典encyclopediaであるものも少なくない。
たとえば『国史大辞典』は日本史についての代表的な百科事典である。Easton's Bible Dictionaryは聖書用語に関する百科事典であり語義のみの項目も多いものの、多くの見出し語に詳細な解説がなされている。『岩波数学辞典』は数学についての辞典であるが事典的側面も強く、各項目の末尾には参考文献が挙げられている。その英訳タイトルはEncyclopedic Dictionary of Mathematicsという。
専門事典は、一般向け百科事典より専門的な知識・情報を提供してくれるはずである。
しかし複数巻ものの大部な専門事典は買ってくれる相手が限られ出版企画として成立しにくい。
日本ではむしろ百科事典が専門事典的な作り方を部分的に取り入れていて、専門事典の不足を補っている。
たとえば『世界大百科事典』(平凡社)はエリア制という方式を採用し、分野ごとに専門家チームがあたり、チームリーダー(学会の重鎮があたる)が当該分野の項目を誰が書くかを割り振りし、リーダー自身は分野全体を扱う総括的な項目を執筆した。
英語圏では専門事典の数も多く、一般向け百科事典との間に分業が成り立っている。英語の一般向け百科事典の新しい版は、日本語の百科事典よりずっと平易な言葉で記述されている。これらは基本的にホームユースであり、専門知識を学ぶ学生は専門事典(special encyclopedia)を使うことが勧められる。
専門事典を使う場合、自分が知りたい事項がどの分野に属し、どの専門事典を引けばよいのかをどうやって知るかが最初の関門になる。専門事典の種類が増え、いずれも周辺領域をカバーするため担当分野は一部分ずつ重なり合うとなると、この困難は深まるが、英語では何百という専門事典を横断検索できるMaster Indexが存在する(情報ニーズあるところにツールあり)。ユーザーはまずMaster Indexを引き、自分が知りたい事項がどの専門事典のどこに載っているか(これはどの専門分野で扱われているか、ということでもある)を知る。多くの場合、自分の知りたい事項は、複数の専門事典に載っていることが分かる。
専門事典は専門知識の入口であることを目的にしており、さらに詳しく知りたい場合は次に何を読めばよいかを示すために各項目ごとに参考文献リストがついている。Master Indexを引くことで分かった複数の専門事典の複数の項目を巡り、参考文献リストを拾い集めると、複数の専門事典で共通して挙げられている文献が分かる。複数の専門事典の項目で何回出てきたかを数えて並べなおせば、知りたい事項についての基本文献が優先順位つきでリストアップされることになる。
レファレンス、この一冊/事典の横断検索ならFirst stop : the master index to subject encyclopedias 読書猿Classic: between / beyond readers

レファレンス、この一冊/複数の領域を渡り歩くならFirst Stopふたたび 読書猿Classic: between / beyond readers

残念ながら日本語には、このような専門事典の横断検索ツールは存在しない。
ただし人名や地名、作品名については、各種の百科事典・人名事典や作品集などを横断検索できる各分野の『人物レファレンス事典 』『作品レファレンス事典』がいくつか日外アソシエーツから出ている。同様に図鑑や統計資料を横断検索できる『動物レファレンス事典』(外に植物、昆虫など)、『統計図表レファレンス事典』などもある。
被引用索引 Citation Index
専門事典の信頼度は相対的に高く、当該分野についての事項をまとめていることで利用価値は高い。
しかし事典には致命的な欠点がある。
事典は遅い。そこに掲載された知識は古い。
事典は学術情報の流れでいえば最下流に位置する。知識が事典に流れ着くまでには、多くの時間が経過している。
学術情報のライフスパンを概略すれば、研究は学会での口頭や論文として発表されたのち、関連の研究が増え重要性を認められればトピックごとに近年の研究状況をまとめた展望論文に取り上げられ、さらに研究テーマとして発展すればテーマ別の編集本が編まれそこに登載される。そこから多くの研究が派生し学問の中での評価が定まると、教科書に取り入れられ、さらに事典の項目となる。これに辞書が企画されるまでの期間と編集に要する数年が加わる。このように書物は論文よりも、事典はさらにそれ以上に学術情報の流れの下流に位置する。加えて教科書のように改訂版が出ることは少なく、出たとしても数年というスパンではない。このために、先端からの遅れは十数年(時には数十年)を越えてしまう。
◯学術情報のライフスパン

より新しい情報を得るためには、この学術情報の流れを遡ることになる。
幸いにして教科書や専門事典は、それらを書くために参照した研究論文を、それぞれの記述ごとにいちいち明示している。
教科書や専門事典で参照された研究論文は、当然それらの教科書や専門事典がまとめられる以前に発表されたものである。では、その後、その論文を受けてどのように研究が発展したか、具体的にはどのような論文がその後発表されたかを知るためにはどうすればよいか?
Aという論文の後に発表された研究がもし、A論文の研究を発展させ、あるいは否定しているものならば、必ずやA論文を引用しているはずである。
これをA論文の方から見れば《引用されている》ことになるが、世の中にはこうした引用関係を汲み上げて論文ごとに被引用情報としてまとめなおしたCitation Indexというものが存在する。これを使えば、ある論文から見て未来の研究を見つけることができる。
未来をつくる索引-ガーフィールドとCitation Indexの挑戦 読書猿Classic: between / beyond readers

Citation Indexは、ユージン・ガーフィールドが設立したInstitute for Scientific Information (ISI)により1960年代以降紙ベースで提供されていたが、現在はWeb of Scienceで提供されている。大学図書館の契約データベースに入っていることが多い。
他にGoogle ScholarやPubMedでも被引用・被参照文献を見ることができる。
この方法にも欠点がある。個々の論文から被引用・被参照関係をいちいち抽出することは非常に手間がかかる作業であり、すべての文献について行うことは事実上不可能である。そのためCitation Indexは、より多く引用・参照されている文献を掲載している主要な学術誌に対象を限定している。言い換えれば対象雑誌を広げるコストと得られる便益が折り合うところで手を打っているといえる(引用されることの少ないマイナーな学術誌に対象を広げても被引用・被参照関係データは豊かにならない)。
しかし、このことを裏返していえば「主要な」ところから外れた文献を見つけるのには役に立たない。
たとえば日本語文献については対象にならない。日本語文献を対象としている論文データベース、たとえばCiNiiでも被引用・被参照関係を一応見ることができるが、現在のところ「見ることができる場合もある」程度に留まっている。
被引用・被参照関係がデータベースに拾い上げられていない文献について、より新しいものを「たぐり寄せる」には、次の古い方法が役に立つ。すなわち、今、手にしている文献の著者名で検索し、同じ著者のより新しい文献を入手する方法である。
専門分化が進んだ現在のアカデミズムでは、ある研究者は同じテーマを研究し続けている可能性が高い。
したがって、同じ著者のより新しい文献には、より新しい知見とともに、より新しい参考文献が載っている可能性が高い。
著者名を手がかりに、時間をすすめ、そこから振り返って参考文献を拾い上げることは、より新しい文献を手に入れる古典的な方法である。
文献をたぐり寄せる技術/そのイモズルは「巨人の肩」につながっている 読書猿Classic: between / beyond readers

自宅でできるやり方で論文をさがす・あつめる・手に入れる 読書猿Classic: between / beyond readers

雑誌記事検索 Periodical Index
参照関係を明示することは、学術情報の外ではいつも行われる訳ではない。
しかし先ほど学術情報を探すところで触れた上流~下流の教訓は活かすことができる。
出版されている書籍のうち、書き下ろしのものは存外少ない。多くは雑誌その他にすでに発表されたものが書籍化である。書き下ろしの場合でも、著者は同種の書き物をすでに発表していることが多い。というのは、ある著者の書き下ろし作品を出版する企画が成り立つためには、その著者に該当分野ですでに何らかのものを発表してきた実績が必要であるからだ。やはり書籍化は遅れてやってくるのである。
時間的な遅れに加えて、雑誌記事のうち改めて書籍化されるのは(雑誌やその記事によるが全体としては)その一部でしかない。書籍は、文献情報のライフスパンから見れば下流に位置し、時間的には遅れ、多くは下流までたどり着かない。
すべての書籍は「中古品」である/図書館で本より雑誌を見るべき5つの理由 読書猿Classic: between / beyond readers

このことを調べものの観点から見れば、雑誌記事の情報は、書籍よりも新しく、また多様性も大きいということになる。つまり当たり外れは大きいが、書籍で得られない情報に出会える可能性がある。また雑誌記事は一般に書籍よりも短く、同じ時間当たりより多くのものに触れることができる。
いずれも調べものをする者からすれば長所か長所に転じる特徴である。
これは英語でだが、ビジネス雑誌から業界雑誌までの雑誌記事情報を収録するBusiness Periodicals Indexは、(a)まだ扱う書籍がないような新しいトピックについて、(b)ポピュラー雑誌に載るよりも専門的で詳しい情報が欲しいが、(c)学術論文を直接読むのは難しすぎるといった情報ニーズに対して、〈専門家が一般向けに書いた解説記事〉を探すのに有益なツールだった。
学術研究が行われているのは(普通に想像するよりはずっと広いのだがそれでも)この世の中で限られた領域に過ぎない。あるのかないのかわからない〈うわさ〉のような、通常の学術雑誌のデータベースには掲載されないような、世相・風俗・事件について調べる場合には、一般雑誌の記事や、後述する新聞記事が役に立つ。
まさにこうした目的のために、週刊誌、総合月刊誌、女性誌、スポーツ誌、芸能誌などの記事を収集/整理しているのが大宅壮一文庫である。
紙の本として『大宅壮一文庫雑誌記事索引総目録』が、データベースとしてWeb OYA-bunkoがある。
新聞記事検索 Newspaper Index
ネット上では新聞を馬鹿にする人も多いが、図書館では新聞は事典の一種である。
今では想像しにくいが、インターネットの普及以前には、書籍や論文に取り上げられていないような〈小さな〉事項また〈新しい〉事項を探す事典として使うことができるほとんど唯一のツールだった。
新聞は、百何十年間、ほとんど毎日データを追加し続けてきたデータベースであり、蓄積と検索のためのツールが早くから整備されている。
たとえば索引つきの縮刷版が長年出され、また多くの図書館で新聞記事から独自の切り抜きや記事索引づくりが行われ、またマイクロフィルム等で過去の紙面が蓄積されてきた。古い雑誌は図書館でも廃棄されることが少なくないが、古い新聞は何らかの形で残っていることが多い。
新聞記事をデータソースに、歴史的出来事についてまとめなおした『新聞集成(明治/大正/昭和編年史)』や最近の主要記事をまとめた『新聞ダイジェスト』などツールも多い。
日本では登場するのが遅く、すぐにデータベース時代が来てしまってあまり定着しなかったものに新聞記事索引がある。『毎日ニュース事典』が1973年から1980年 (収録対象年代は1972年〜1979年)、 『読売ニュース総覧』が1981年から1995年 (収録対象年代は1980年〜1994年)。それぞれ、毎日新聞、読売新聞の記事に対して短い解説・抄録つきの50音順索引である。
英語ではイギリスのTimes紙について、索引誌のタイトルはThe Annual Index→The Official Index→Index to the Time→Times Indexと変遷しているが1906年以来の記事について、別系統のPalmer's Index to Times Newspaperを併用すれば1790年以来の記事について検索できる。アメリカのNew York TImes紙についてはNew York TImes Indexが1913年以来の記事について記事索引を提供している。
新聞記事索引は50音順ないしアルファベット順であり、時間を隔てた同名の事項をまとめて見るのに適している。たとえば繰り返し報じられた大事件について、それぞれ日々の紙面にばらまかれたものをひとまとめになっている。何年もの間をあけて、同様の出来事が繰り返されているのを発見することもできる。
現在では新聞記事データベースを使うのが簡便かつ一般的だろう。一覧性は紙の冊子本に劣るものの、他の資料では望めないほど長い期間を対象に検索ができる。たとえば、
『聞蔵IIビジュアル』では1879年(創刊)から現在までの朝日新聞について、
『ヨミダス歴史館』では1874年(創刊)から現在までの読売新聞について、
『毎索(毎日新聞オンライン)』では1872年(創刊号)から現在までの毎日新聞について、それぞれ検索できる。
これらを使えば、たとえば、ある用語の使用頻度の時間的変遷を検索結果数から知ることなどもできる。
英語では、LexisNexisやProQuest(NewspaperDirectやFactiva.comやProQuest Newspapers)などのデータベースで提供される他に、大英図書館 TheBritish Libraryが300年分の新聞データを検索・購入可能な形で公開している(British Newspaper Archive)。
New York Timesは1851年以来の記事が検索できる。
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